ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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コアチェンジ③

「む……?」

 

足元から響く地響きのような振動を、ユナクは確かに感じ取った。

思わず照準モードで覗いていた砂場から目線が離れてしまう。

しかし、広がった視界のおかげで地響きの正体はすぐに分かった。

 

ガンプラの大群だ。

それらは、ユナクの射線を見事に二分していた。

 

スルトを追うレジスタンス達は、ちょうどシンラとユナクの間を通り抜ける形になったのだ。

 

これでは、あのガンプラにトドメを刺すことができない。

ユナクは心の中でそう毒づいた。

 

機体が鏡砂に変わったことから、あの一撃で撃墜していた可能性も無くはない。

だが、彼はそれを都合の良い解釈だと切り捨てた。

 

予想すべきは、都合の良い妄想ではなく、実現して欲しくない最悪の事態。

 

この思考回路こそが、ユナクを優秀な戦士たらしめていた。

セグリでただ一人、タツカの逃走に気づけたのもこの思考回路あってのもの。

 

ユナクは銃を下ろし、狙撃を中止した。

もう使わないであろうビームシュートライフルの銃身を破棄し、腰部に懸架していた通常のライフルのものと交換する。

 

ガンプラの大群の最先端に目をやると、暗めのカラーリングをした機体が、低空を滑るように飛行していた。

 

背後からの集中砲火を上に下に忙しなく躱すアースリィ。

それを動かしているのは、スルトのはずだ。

 

交渉は失敗したのだろう。聖獣様のお姿が見えないことが少々気になるが、そう思考を巡らしているうちに、スルトは荒野と森の境界線に入ってしまった。

 

このままでは見失ってしまう。

ユナクは、すぐさまスルトの援護に向かった。

 

* * *

 

ほぼ同時刻。

 

シンラは、逃走するスルトとそれを追いかけるレジスタンス達を認識していながら、行動を起こすことが出来ずにいた。

 

手元のタツカの出血が、収まる気配がないからである。

当然だ。彼女の体は今、横腹に穴が空き片腕が吹き飛んでいるのだから。

 

ならば、と狙撃手の存在を教えようにも、MS形態ではない為、通信機器がない。

 

「クソッ……!」

 

唯一、何者にも縛られずに動かせる口で、この状況ではなんら役に立たないその口で、悪態をつくことだけが彼に許された自由だった。

 

これまで揺るぐ事のなかった自信が、音を立てて崩れ落ちてゆく。

 

縋りたい。自分より優れた誰かに、縋り付いて助けを求めたい。

 

そのシンラの祈りが届いたのか、救いの手は思いの外早く現れた。

 

『無事……ではないな』

 

「聖獣……さ……ん?」

 

クアドルンの巨躯が、シンラの顔に影を落とす。

 

『手を貸そう。』

 

クアドルンが右足を鏡砂の上に乗せたのと同時に、タツカの体の周辺に光が満ちる。

 

鏡砂の取り扱いに関しては、クアドルンの右に出る者はいない。

シンラを石板の代わりとして、クアドルンがデータを受け取ると、タツカの体が目に見えて再生し始めた。

 

「よし……!!よしっ!!聖獣さん、助かったよ……!!」

 

声を上げて喜ぶシンラを、クアドルンは、静かな相貌で見つめていた。

 

ガンプラの民にエルドラの常識が通用しないことは、ビルドダイバーズ達の奇想天外な発想力で充分に味わった、とクアドルンは思っていた。

 

だが、それでも彼は驚かずにはいられなかった。

 

いにしえの民達の忘れ形見である鏡砂を使いこなすだけでなく、石板に刻まれた膨大な鏡砂変換コードをその身に宿すことが出来るなどと。

 

実際にタツカの治療を自身で始めるまで俄かには信じられなかった。

しかし、鏡砂の変換は何も問題なく行うことが出来た。

 

故に、彼は恐れた。

 

シンラというガンプラの民が、マサキ達と同一なのか……あるいは……

 

『……礼には及ばぬ。それよりも、何があった?説明を頼む』

 

無駄な思考を止め、現状を理解しなければとクアドルンが気持ちを切り替えた。

 

「あ、あぁ!」

 

シンラは治療を続けながら、状況を事細かに伝えた。

その声色には、先程までの絶望は含まれておらず、タツカを救えるのだという希望に満ちた確信を帯びていた。

 

しかし……

 

━━10分49秒後。

 

ムランが、聖獣クアドルンが、フレディが、 あるいはタツカやシンラが。

 

自身の無力さに打ちのめされるまでの時間が、すぐそこに迫っていた。

 

* * *

 

放心状態のフレディを輸送車の助手席に乗せたムランは、スルトを追った。

 

先行していた仲間達と合流し、隊列の中へと入る。

 

「全機……!突撃せよ!!」

 

ムランの号令で、Yの字になった隊列の先端を担当する兵士が、森の中へと突入する。

 

多対一のこの状況で、この隊列は最適と言っていいだろう。

 

Yの字の斜め部分には、エルドラGMと輸送車が、もう一方の斜めの隊列に重ならないよう、チェッカーパターンのような形で配置されている。

 

これにより、追跡対象であるスルトを二方向で挟みつつも、エルドラGM達は誤射の心配をする必要が無くなった。

 

Yの字の一本線に当たる部分は、ムラン含めた輸送車が走り、残りのガンプラ一機がしんがりを務める。

 

「注意しろ!伏兵がどこかに居るはずだ!!」

 

クアドルンと別れる際、彼に忠告された

「ガンプラの民を退けるなにか」にムランは最大限の注意を払っていた。

その甲斐あってか、ムラン達は隊列より斜め後方から現れたもう一機のアースリィ、ユナク機にいち早く気づくことが出来た。

 

「撃てっ!!当たらなくてもいい!近づけさせるな!」

 

ムランの真後ろ、しんがりを務めているガンプラが、その指示を忠実にこなす。

 

肩部ミサイルポッドに右腕ビームライフルを混ぜ合わせた弾幕が、ユナク機を遠ざけた。

 

高性能機のアースリィとは言え、パイロットが照準を合わせなければ、当たりはしない。

 

回避に精一杯だろうユナク機は、時たまにこちらに射撃してくるが、着弾点は隊列から大きくずれていた。

 

何度か、ラッキーパンチ的に輸送車に当たりそうにはなったが、先の戦いを生き延びた歴戦の兵士にとっては、輸送車のハンドルは、ガンプラの操縦桿以上に手に馴染んでおり、回避は容易い。

 

━━いける。

 

ムランの頭に、勝利の二文字が浮かんだ。

 

その瞬間だった。

 

耳をつんざくような爆発音と共に、森の木々達が大きく揺れたのは。

 

「なっ?!」

 

ムランの驚愕をよそに、前方に見える黒い煙の柱は、その全長を空へ空へと伸ばしていく。

 

「誰だ?!誰がやられた?!」

 

「ノザトの輸送車です!攻撃されたわけでもないのにっ……!!突然……!!」

 

━━トラップ?!馬鹿なっ!!

 

ムランは、焦りの混じった絶叫をなんとか心の底に押し留めた。

 

叫ぶよりも、やるべきことがある。

 

ムランは部隊を統べる長として、冷静に指示を飛ばすために、事実から推測できる敵の思惑を割り出そうと脳を働かせた。

 

そうして考え直してみると、トラップの可能性は限りなく低い。

 

スルトの突然の逃走が、ムラン達を罠に嵌めるためだというのなら、まだ筋が通っている。

 

だが、セグリから無茶な段取りを強いられてきたスルトには、罠を悠長に仕掛けられるほどの時間はなかったはずだ。

 

まさか、これが「聖獣すら上回る兵器」の力なのか。だとしたら、太刀打ちのしようがない。

 

「ムラン殿!指示を!!」

 

ノザトの撃墜を知らせた兵士が、切羽詰まる声を発した。

 

「っ……!輸送車各機、速度落とせ!!」

 

ムランはノザトの撃墜を、スルトが破れかぶれに仕掛けた罠にはまってしまった不運な事故だと捉えた。

 

地雷などをばら撒くだけなら、大した時間は必要ない。

 

強力な兵器だと仮定しても、戦力としては貧弱な輸送車を狙う意味がない。

 

ノザトの無念を晴らす為にも、一刻も早くスルトを倒さねばという憤りもあった。

 

これらの事実がムランの、ある意味逃避的な思考を確固たるものにしてしまった。

 

命令を受けた輸送車達が一斉にスピードを落とし、後退する。

 

だが、それを見計らったかのように、一筋の粒子砲が滞空中のエルドラGMを貫いた。

バックパックを損傷したエルドラGMは、重力に屈し、木々を薙ぎ倒しながら地上に落下する。

 

「………………っ!」

 

もう、声を出せる気力もなかった。

 

━━やめろ。頼む。やめてくれ。

 

ムランの儚い祈りは、ビームの視認とほぼ同時に入った仲間の通信によって、否定された。

 

「10時の方向……!!敵機確認!!」

 

三機目。

 

ノザトが撃墜された方向から現れたその機体、アースリィガンダムALS三号機は、烈風の如き速度で、瞬時にスルト機の援護に入った。

 

優勢だった盤面が、音を立てて崩れていく。

 

「ム、ムラン殿!」

 

しんがりを務めていた兵士が、動揺を隠さずに口を開いた。

 

「もう一機か!?」

 

「いえ……三機目が現れ、私が目を離した隙に……!後ろの機体が!!」

 

要領を得ない不明瞭な報告に苛立ちを覚えながらも、ムランは後方を見やった。

 

そこに、先程までいたアースリィの姿はなかった。

 

一瞬でワープした?

だが、それではノザトが撃墜されたことのと矛盾が生じる。

 

ならノザトの撃墜は、本当に不慮の事故なのか?

だとしたら、運が悪過ぎる。

 

「一体……どうなっているんだ!!」

 

情報が全く完結しない。

混沌と化した戦場に、ムランの声が響き渡った。

 

* * *

 

「なーんて、思ってんすかねぇ……」

 

ムラン達から見て、三機目のアースリィに乗るパイロットは、ムランの絶叫を脳内に思い描きながら、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「どうした?"ノザト"」

 

「独り言っす。気にせんでください」

 

スルトの質問を適当にあしらい、エルドラGM達の必死の攻撃をひらりと躱す。

 

ノザトは、アースリィが飛行スキルを持っていて良かったと、心の底から思った。

ジャンプでなんとか滞空しようとするエルドラGM達を地の底に叩き落とす。

こんなに簡単な戦闘━━いや、作業はない。

 

「まさか……こんなに上手くいくなんてねぇ」

 

誰にいうわけでもなく、ノザトが呟く。

 

この戦場で起こった事のからくりは、至極単純だ。

 

ノザトが裏切り者だった、その一言で全てが説明できる。

 

自作自演の爆発を起こした後、スルト達に運んできてもらったアースリィに乗り込み、数分前までの味方を撃った。

 

強力な兵器も、地雷も、伏兵もない。

 

「ついでに忠誠心も」と、ノザトが呟く。

 

「後はクアドルンだけっすね」

 

「あぁ、こんな戦闘、肩慣らしにもならん。ここからが鬼門だ」

 

ラスト一機、しぶとく生き残ったエルドラGMのバックパックに、ノザトがサーベルを突き刺す。

 

ここまで卑劣な行動をしておいて、「殺すな」などと命令してくるのだから、スルト側につくのもそれはそれで大変だ。

 

「そんじゃあ、ユナクさんから新品ピカピカのアースリィ、さっさと受け取ってください。ここは俺一人でなんとかなりますから」

 

「頼んだぞ、ノザト」

 

「はいはい」

 

ガタガタになった包囲網を抜け、スルトが今まで逃げていたルートを逆戻りした。

その先には、アースリィから降りたユナクがまっている。

 

ほぼ損耗のない状態で、背後にいるクアドルンに挑めるというわけだ。

それでも、無謀なことには変わりはないのだが、スルトは何故だか勝利を確信しているようだ。

 

「さぁて、と」

 

地面に降り、ほぼジャンクと化したエルドラGMを足蹴にしながら、ノザトはムランのいる車に一歩ずつ、ゆっくりと近づいた。




ムランは指揮官をするよりも、好き勝手動いた方がいいとは思う。原作でも行動力ハンパなかったし。

でも、指揮できるような人たちは、みんな旧セグリと一緒に消えちゃったから……
かませみたいな損な役回りさせてごめんね……(懺悔)
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