ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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コアチェンジ④

「う……がはっ……」

 

僅か一機のエルドラGMでアースリィに立ち向かった兵士が、たった今沈黙した。

 

アースリィは、機能停止した機体を容赦なく殴り飛ばす。

 

無残に変形したエルドラGMは、ゆっくりと地面に倒れ込み、土煙とともに短い震動を響かせた。

 

「あ、あぁ……」

 

ムランが半ば無意識に発した諦念の音は、静寂に包まれた森の中へと消えていった。

かつての英雄を思わせる醜悪な悪魔が、一歩また一歩とこちらへ歩き始める。

 

撤退の命令をなんとか喉から捻り出そうとするがそれよりも一瞬早く、ビームが空を切る音がレジスタンス達の耳に入る。

 

後方を見やると、片腕をなくしたアースリィが浮遊していた。

 

挟み撃ちだ。

 

攻撃手段を失ったムラン達には、ささやかな抵抗か白旗を振っての降伏、そのどちらかしかなかった。

 

だが、後者を選択した場合は、否応なしにフレディの命が代償となるだろう。

 

ムランはそれだけは避けなくてはならないと、自らの命を投げ出す覚悟を決めた。

 

「ハッ……!ハハハ!」

 

その決意を嘲笑ったのか、金属を擦り合わせたような不快な高笑いが通信に乗った。

 

錯乱した仲間のものではない。通信を発しているのは、目の前にいるアースリィだ。

 

「ふざけんな……!何笑ってんだよテメェ!!ノザトを……ノザトを返せよ!!」

 

ムランの後方にいる、ノザトと特に交流が深かった兵士が叫んだ。

 

ノザトは、誰とでも分け隔てなく仲良くなれる、そんな若者だった。

 

自分が堅苦しく、関わりにくいことを自覚しているムランですら、上司と部下という立場を弁えつつ、上下関係に臆することなく気安く接してくれるノザトのことは、強く印象に残っている。

 

そんな風に仲間として、同志として共に歩んできた彼の命が、こんな戦闘中に高笑いするような奴に奪われたという事実は、ムラン含め多くのレジスタンス達の神経を逆撫でした。

 

その時だった。

 

「僕は……無事……っすよ……皆さん……」

 

息遣いの荒い、途切れ途切れの通信がムラン達の耳に入る。紛れもないノザトの声だ。

 

「ノザト?!無事━━」

 

だったのか、そう続けようとしたムランの声は再度のノザトの声に遮られた。

 

「なーんちゃって!!」

 

苦しそうだった声とは打って変わって、ノザトの声が瞬時に声量を増した。

状況にそぐわない、おどけているとしか思えないその台詞はムラン達を凍りつかせた。

 

「ネタバラシっす、どうです?上手く出来てるでしょう?」

 

ノザトはコックピットに設置された変声機のスイッチをカチカチと切り替えながら喋る。

それによって、彼の声は金属室の不快な声へと変わった。

 

「ノザト……?まさか……それに乗っているのか?!」

 

「鈍いなぁ……乗ってるんじゃなくて、動かしてるんっすよ」

 

捕虜にさせられた、というムランの微かな願望はノザト本人によって否定される。

ムランは叫んでいた。

 

「何故……!何故だ!ノザト!!」

 

「言っておきますが、裏切ってなんかないっすよ、僕は皆んなの目を覚まさせようとしてるんっす」

 

「……何のことだ」

 

身に覚えのないおせっかいに、ムランの怒りは一時的になりをひそめ、その代わりに頭の中には疑問符が浮かんだ。

 

それに対するノザトの答えは、ムランの想像の斜め上をいっていた。

 

「クアドルンだよ!アンタらが聖獣だと勘違いしてるあの偽物!!」

 

ムランは、眉をひそめた。

 

ノザトはどんな確信を持って、クアドルンを偽物と決めつけているのだろうか。

仮にクアドルンが偽物の聖獣だとしてもあの姿は、獣とは似ても似つかない。

山の民だと言い張るのはもっと無理がある。

 

それに、ノザトは今回の遠征でクアドルンの雷を操る能力を目の当たりにしているはずなのだ。

どれだけ頭を捻っても、クアドルンを疑う根拠は見つからない。

 

━━まさか、洗脳されて……

 

この期に及んで都合のいい妄想をしてしまうムランは、すぐさま自身のその悪癖を恥じることになった。

 

「本当の聖獣様っていうのは、もっと恐ろしくて、強くて、それでいて神聖で……」

 

ノザトは、自身の思い描く聖獣について語り始めた。

 

聖獣信仰。

 

はるか昔から山の民に根付く、独自の宗教だ。地域によって差異はあるが、基本となる大筋は共通しており、宇宙渡しのような祭事、幼児向けの童話などはそれの派生にあたる。

 

そういった背景から、クアドルンと初めて会う山の民は、必ず尊敬と畏怖を抱きながら彼と接する。

あのフレディですら、最初は伝承にあった焼き尽くすだの、氷漬けにされるなどなどと、恐れ慄いていたほどだ。

 

詰まるところ、伝承と本来のクアドルンには多大なギャップがあるのだ。

だが、ノザトの抱く疑心が、それとは似て非なることに、この時のムランは気づかなかった。

 

「クアドルンは確かに、伝承にあるような聖獣ではないかもしれない……だが、我々を長く見守ってくれたのは事実だ!!」

 

「ならなんで月の雷は落ちたんすか?」

 

まるでムランのセリフを予知していたかのような、あまりにも早いノザトのレスポンス。

ムランの言葉を待たずに、ノザトはさらに捲し立てた。

 

「聖獣様は、古き民達と一緒に戦い抜いた。なら、ヒトツメの元凶だったアルスも元仲間のはずっす。なら説得するなり、不意打ちするなり出来たでしょ!そうすればあんな戦い、する必要なかったんすよ!!」

 

* * *

 

老人の多い地域で育ったノザトは、その世代で育った他の村の若者よりも、人一倍聖獣に対して原初的な信仰心を寄せていた。

 

ヒトツメが現れ、聖獣様がその身一つで民達を守っていることが耳に入ると、その信仰心はさらに増した。

 

直ぐにでもレジスタンスに入りたがったが、高齢化した村の状況がそれを許さなかった。

せめていつ徴兵されてもいいようにと、日々鍛錬を積み、体だけは鍛え上げた。

 

招集が来るよりも先に、ヒトツメ達がノザトの村を襲った。シドー•マサキがアルスの手に落ちる前のことだ。

当時のヒトツメは戦争終盤では斥候として活躍したガードアイのみであり、単純な火力はガンプラに遠く及ばない。

 

しかし、ノザトの村は壊滅した。

 

村の老人達は、数少ない若者を逃すことだけを考え、自分達の命を後回しにした。

 

合理的な判断だ。それでいて、未来を若者に託すという誇らしさもある。

 

だが、ノザトと数人の幼馴染、そして彼らの両親達の手に残されたのは、救えなかったという無力感だけだった。

 

故郷を捨て、避難を繰り返し、難民に近い状態になったノザト達。

 

両親達がレジスタンスに入ったことで、なんとか食うに困ることは無くなった。

 

貧しい状況ながらも、戦場から時たまに帰ってくる両親の武勇伝は、暗く沈んだノザトの心を癒した。

 

特に、聖獣様の活躍を聞いたノザトは、年甲斐もなく毎回のように目を輝かせていた。

 

それも長くは続かなかった。

 

ガンプラを手に入れたことで力を増すヒトツメに対し、レジスタンス側は、シドー•マサキとクアドルンという最高戦力を失った。

 

両親の帰宅の頻度は目に見えて減り、活躍の話は聞かなくなった。

 

「聖獣様は……?」

 

ノザトは耐えきれなくなって、久しぶりに帰ってきた父親に質問した。

 

父親は困った。

 

聖獣を心の支えにしている息子に、クアドルンが負けた、それも仲間の裏切りによって……という残酷な真実を告げることなど、父親である彼には出来なかった。

 

「大丈夫だ。ノザト。聖獣様は……クアドルン様は絶対に私たちを救ってくださる」

 

それは、心優しい嘘だった。

父親はクアドルンの負傷が、軽いものではないことを知っていた。

それでも、嘘をつくことしか父親には出来なかった。

 

幸いなことに、救いの手は思ったよりも早く現れた。それは聖獣ではなく、フレディの呼び出した創造主様……否、ビルドダイバーズの四人だったが、父親はほっと胸を撫で下ろした。

 

これでまた、ノザトに希望を与えてやれる。

父親の思惑通り、ビルドダイバーズの快進撃を聞いたノザトは、久しぶりに心が軽くなった。

 

━━聖獣様はどうなったの。

 

そんな疑問もノザトは抱いていた。

 

が、ある程度成長したノザトは、レジスタンスなのだから守秘義務的なものがあるのだと、無理矢理自分を納得させた。

 

そして、"あの日"がきた。

 

ビルドダイバーズが、白銀の塔を登り、ヒトツメの本拠地に乗り込む日。

レジスタンスの全戦力が、セグリへと集まっていた日。

 

また今度、聖獣様の話をしよう。

 

父親とそう約束したノザトは、両親を笑顔で送り出した。

 

"また今度"は来なかった。

 

ノザトはまた、残されてしまった。

 

もう心の拠り所は無くなっていた。

 

ノザトは考えた。なぜ両親と村の皆んなは死んだのかと。

 

ビルドダイバーズがしくじったから?

 

いや、違う。

 

彼らは確かに、あの日敗北をしてしまったが、"次"で勝った。

ならば、責めることはできない。

 

ではやはり、ヒトツメのせいだろうか。

 

だが、戦後ヒトツメは保護されることになった。

ならば、責めることはできない。

 

ノザトの出した結論は、自身の力不足だった。

 

幸か不幸か、月の雷でレジスタンスが人材不足になったことで、まだ未成年だったノザトでも、レジスタンスに入ることができた。

 

自責の念。それだけがノザトを突き動かしていた。

 

入隊僅か半年という短い期間で、信用と実績を手に入れたノザトは、試作ガンプラの操縦という大役を任された。

 

寝食を忘れ、一心不乱に努力を続けるノザトの姿は、兵士達に好印象を与えた。

 

それも最初だけだった。

 

兵士達は段々とノザトの異常性に気づき始め、それと同じ頃、ノザトは倒れた。

身体的に、無茶をしていたのだ。

自責の念だけで動くには、限界が訪れていた。

 

兵士達の報告と、ノザトの状況を知ったムランは、ノザトを試作ガンプラのパイロット役から外し、戦史資料の編纂を命じた。

 

いわゆる左遷である。ノザトもこれには逆らえなかった。

 

自己管理ができていなかったのは紛れもない事実であり、それによって兵士達に不要な労力を割いてしまったのだから、罰を受けるのは至極当然だと言える。

 

この編纂作業が、ノザトの運命を大きく変えた。

 

それは作業に慣れつつあったある日のこと。

彼は膨大な資料の中から、ある記録を見つけた。

 

聖獣クアドルンは戦闘で深手を負わされ、ミラーグの山で療養していた……と書かれた、たったそれだけの記述。

 

だが、ノザトはこれを無視できなかった。聖獣クアドルンは、自分達の為にずっと戦い続けたと思い込んでいたからだ。

実際は違った。ノザトが聖獣を心の拠り所としている間、クアドルンは戦闘をしていなかったのだ。

 

事実を知ったノザトは、当時心身共にボロボロだったこともあり、聖獣に裏切られたと感じた。

 

そして、自分を責めることに疲れ切っていたノザトは聖獣に責任転嫁しようとした。

 

だがそれを、信仰心が邪魔をした。

 

祖父母に、近所の気のいいおじさん、おばさん。

 

彼らから聞く聖獣信仰の話は、ノザトの脳裏に確かな思い出として刻まれており、もう二度と帰ってくることのないその光景は、信仰心に深く根付いていた。

 

故郷、両親、信じていたもの。

 

ノザトの心はもう、とっくに壊れていた。

 

信仰心を保ちつつ、自身の精神を守る。

 

解釈は都合よくねじ曲げられ、結論は飛躍した。

 

聖獣クアドルンは、偽物であると。




VSクアドルン書こうと思ったのに、ノザトの首をゆっくり締めてしまいました……ごめんね、ノザト。思ったよりも筆がのっちゃって。

楽しみにして下さった方がいたら申し訳ない……次回こそ、絶対!多分!
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