ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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堕ちた聖獣①

 

 

(おかしい……森の中では何が起こってるん

だ……?)

 

タツカの治療に余裕が出てきたシンラは、森の方を見やった。

 

先程から、やけに騒々しいのだ。

 

爆発が木々を薙ぎ倒す音に、ビームが空を切る音。戦闘音と言えばそれで済むのかもしれないが、シンラは何か良くないことが起こっているのではないかと、根拠のない不安に駆られていた。

 

『ぬ……』

 

「どうした、聖獣さん?」

 

不意に、クアドルンが形容しがたい声を発した。

唸り声にも威嚇にもとれる、その荘厳な低い声はシンラの不安を更に強めた。

 

クアドルンが、目下のタツカの体に目を向ける。

 

人間かどうか怪しいほどに破損していた彼女の体は、少しばかりの出血箇所を残しているものの、もうほとんど元に戻っていた。

 

『ガンプラが一機、森からこちらに向かってきている。おそらく……味方ではないだろう』

 

味方ではない。やけに遠回しな表現だ。

 

それはクアドルンが、向かってくるガンプラが味方である可能性を少しでも信じていたいのだろう。

 

そのことをシンラが察し、口を開く。

 

「行ってくれ、聖獣さん。もうここは僕一人で大丈夫だ」

 

『……すまんな』

 

手短に感謝を伝えたクアドルンは、双翼を羽ばたかせ、森の方へと駆け抜けていく。

 

「う……」

 

横たわる少女の呻き声が、シンラの耳に届いたのはそれからすぐのことだった。

 

* * *

 

クアドルンが飛行してから数分後、彼は空に浮遊する黒点を見つけた。

黒点は、近づくにつれ人の形を成していく。

 

「どうも、聖獣さん」

 

クアドルンの接近を感じたスルトは、搭乗機であるアースリィの拡声器機能を使って話しかけてきた。

 

『貴様……!ムラン達はどうした!!』

 

「無事ですよ、まだ……ね」

 

クアドルンの問いを、はぐらかすスルト。

それが脅迫めいていることにクアドルンは言いようのない苛立ちを感じていた。

 

『……目的はなんだ』

 

スルトの要求がなんであれ、クアドルンはそれを受諾するつもりは全くない。

が、彼は純粋にスルトに対して疑問を抱いていた。

 

シンラから聞いた、今までのスルトの行動は大きく分けて三つ。

 

GBNとエルドラ間の移動、フレディの処刑、そして……今行われている遠征隊襲撃。

 

仮にスルトが、権利欲に溺れただけなら、フレディの処刑も遠征隊襲撃も、納得はできないが理解はできる行動だ。

 

だが、どうしてGBNにスルトが現れたのか。

 

元ガンプラの民だと見抜けなかったのは、クアドルン含めレジスタンス側の落ち度だ。

 

しかし、GBNとエルドラ間の移動が出来るのは、今は亡きアルスだけ。気づけというのは少々無理があるようにも感じる。

 

鏡砂を使う方法もあるが、それはありえない。

何故ならスルトがレジスタンスに拾われたのは白銀の塔付近の氷上だったからだ。

歩いて行ける付近に、鏡砂のある遺跡はない。

 

「目的……ですか……それは……」

 

クアドルンの一瞬の思案は、スルトの言葉によって遮られた。

スルトは、聖獣の問いを改めて確認するかのような語尾を発した後、小さいながらも確かな声で呟いた。

 

「"貴方の目が、気に入らない"」

 

言葉と同時に、アースリィがビームを放つ。

 

『…………!!』

 

無言の気合いと共に、クアドルンが雷でビームを防ぐ。

脅迫の要求はわからずじまいだったが、もうなりふりは構っていられない。

 

クアドルンは、アースリィの片腕を引き裂いてやろうと、低く唸りながら雷を放つ為に黒雲を呼び寄せた。

 

「させません」

 

どこか聞き覚えのあるトーンで、スルトが淡々と呟く。

それと同時に、森の木々の合間から一線の粒子砲が放たれた。

 

突如現れた一筋のビームは、クアドルンのガンプラによって形成されている羽を、ほんの少しだけ掠めた。

 

『っ…………!』

 

━━伏兵か。

 

クアドルンは、羽にかすり傷にも満たないほどの小さな傷を負ったのを感じた。

だがいくら傷が浅くとも、この戦闘において一歩出遅れたことに変わりはない。

 

クアドルンは顔を顰めながら、スルトに向けて放とうとしていた雷を、ビームの飛んできた方向へ放つ。

 

雷による轟音が森の中で炸裂し、薙ぎ倒された木々達と黒焦げになった地表が顕になった。

 

空き地のようにぽっかりと空いたその空間のど真ん中でビームを撃った張本人が、雷によって受けたダメージで、もがき苦しんでいた。

 

『な……に……?!』

 

伏兵の正体を認識したクアドルンが、全能の聖獣らしからぬ、驚きに満ちた声を発する。

 

「ギ……ギィ……」

 

恨めしそうな掠れた声を上げるのは、雷によって破壊された、"ヒトツメ"だ。

 

エルドラドートレス。

 

機体自体は半壊しているが、足元に落ちている専用マルチプルバレルライフルが、この機体の正体を鮮明に物語っていた。

 

『スルト……!!貴様は……!!』

 

「圧倒的な量での制圧。それが貴方の弱点です。クアドルン」

 

クアドルンはアースリィに攻撃を仕掛けようとするが、またもビームが木々の中から飛び出してくる。

 

ひとつふたつみっつ……ビームの数は加速度的に増えていき、瞬く間に光の嵐を思わせるほどの弾幕になった。

 

『ぬぅ………くっ……!』

 

クアドルンはビーム同士の僅かな隙間を縫うように回避し続けた。

あの巨体を自由自在に操り、ダメージを最小限に抑えている。

 

まさに神業といってもいいだろう。

 

だが、攻撃に移ることができない。

 

エルドラドートレスの生み出した嵐は、聖獣を予想以上に追い詰めていた。

ほんの一瞬でも、意識を逸らしたら負ける。そう確信できるほどに。

 

クアドルンは今までの経験から、起死回生の策を練り出そうとしていた。

 

「ハハハッ!いくら聖獣といえど、ひとたまりも無いでしょう!!」

 

遥か彼方でスルトの高笑いが聞こえた。

あからさまに余裕綽々といった様子で、攻撃に加わる気配はない。

 

『……舐めるなよ』

 

クアドルンが、小さく呟くのと同時に首を落とし、体勢を変えた。

 

ただ姿勢を変えたわけではない。

それはクアドルンが有する飛行能力を最大限に活かす為の、あえていうならば『変形』だ。

 

「……何をしている?」

 

スルトが高笑いを消し、クアドルンの体勢の変化を認識した。

スルトが唯一理解できなかったのは、クアドルンがその体勢を作りながら、体を地面へと向け加速し始めたことだ。

 

「……まさか!」

 

スルトが狼狽えるのと同時に、クアドルンの鼻先が木の葉を抜け、地面にあわや衝突……

 

するかと思ったその瞬間、聖獣の体はほぼ直角に向きを変えた。

 

勢いを落とすことなく、雷を体に纏い鬱蒼と茂った木々達を薙ぎ倒し始める。

 

「まずいっ……!ドートレスッ!!」

 

スルトの叫んだ命令がドートレス全12機に届くよりも前に、クアドルンはその半分を既に消し飛ばしていた。

 

クアドルンは、ビームを撃ったドートレス全機の場所を覚えていたわけではない。

 

そもそもガンプラ及びMSは機動兵器だ。固定砲台として運用しようなどと考えるのは愚の骨頂。

それにスルトは抜け目なく、射撃の後すぐ移動するようにと、ドートレス達に命令している。

 

だが恐るべきは、クアドルンの持つその攻撃力。

限界まで加速した聖獣の突進の威力は、スルトの予想を遥かに上回っていた。

 

輪を描くように、森の中を駆け回るクアドルン。彼の描く軌跡は、やがて渦のように形を成していった。

 

「ま、まさか……そんな……」

 

スルトは眼前に広がる光景が信じられず、無意識のつぶやきを漏らす。

 

クアドルンが形成した突風━━否、文字通りの竜巻は、森の中に半径500メートルほどの円状になった更地を生み出した。

 

木々どころか、草の根一本たりとも残されていない不毛の大地の中心でクアドルンが動きを止める。

 

『2機……逃したか』

 

アースリィの両脇には、攻撃から辛くも逃れた2機のエルドラドートレスが佇んでいる。

 

「……ちっ」

 

だがスルトの内心は穏やかなものではなかった。

無理もない。潜伏させていたエルドラドートレス全12機のうち僅か2機しか手元に残らなかったのだ。

 

その2機ですら、クアドルンが突進を始めた時点で偶然距離が離れていただけに過ぎない。

 

決定的なまでの敗北感が、スルトの内に湧きあがり、それによって唇がひどく歪む。

 

脳天を貫く屈辱に耐えきれず、スルトは何の策も無しにドートレスへ命令を飛ばした。

 

「ドートレスッ!!砲撃用━━」

 

『させん!!』

 

一瞬にして距離を詰めたクアドルンが、アースリィの胸部に尾を叩きつけた。

アースリィが、引き絞った弓から放たれる矢のように、凄まじい速度で遥か後方へ飛ばされる。

 

「がはっ………」

 

生い茂る木々をクッションにしながら、アースリィが地面に墜落した。

何とか上体を起こすと、そこには追撃を仕掛けようと迫る聖獣がいる。

 

「抑えろ!ドートレス!!」

 

今度ばかりは命令が間に合い、ドートレスが跳ねるように顔を上げた。専用ライフルの銃口をクアドルンに向け、引き金を絞る。

 

『邪魔を……するな!!』

 

先ほどよりも何倍に薄められた弾幕は、当然だがクアドルンにかすりもしなかった。

 

大きく鳴る反撃の雷が、2機のエルドラドートレスを消し炭にする。

スルトはそれに目もくれず、操縦桿を森の中へと傾けた。

 

『……逃さん!』

 

一瞬で姿を消したアースリィを追うため、クアドルンが大地に降り立つ。

地面に残った足跡で、どこへ逃げたかはすぐにわかった。

 

西だ。スルトは西に向かっている。

 

『…………』

 

クアドルンは、雷撃で西一体の木々を焼き払うことも考えたが、スルトを生け取りにしたいという思惑があった。

 

いや、違う。クアドルンにはそれよりも優先すべきことがあった。

聖獣の脳裏に浮かんだのは、数年前の戦いの記憶。

 

「俺と同じ後悔を、あなたにはさせない!!」

 

あの若者達は身を削り、道を踏み外そうとした自分と、何よりも尊い戦友の命を救ってくれた。

 

ここでスルトを殺し、それで終わりにするのは簡単だろう。だがそれは、アルスすら救おうと努力した彼らの意志を足蹴にすることではないのか。

 

そう思い始めたクアドルンは、西に向けて飛翔しはじめていた。

 

「く、くるな!!来るなぁ!!」

 

西に飛んで数秒後、スルトの情けない声と僅かなビームライフルによる抵抗が、森の中から飛び出してきた。

 

少し拍子抜けしながら、威力を調整した雷でスルトの進行方向を塞ぎ、ギリギリ着地できる程度に木々を焼く。

 

『安心しろ。命を取ることはせん』

 

クアドルンが舞い上がった土煙を、翼で作った突風で散らした。

 

「く、くるな!!来るなぁ!!」

 

再度の涙ぐんだ弱腰の声が煙の晴れた空き地にこだました。

 

『なんだ……コレは……?!』

 

だが、声を発していたのは、アースリィではなかった。

飛行機のような形をした、小ぶりなユニット。

ユニットの各所には、先ほどまで戦闘していたアースリィの装甲が貼り付けられている。

 

「く、くるな!来るなぁ!!」

 

一度目、二度目と全く同じトーン、全く同じイントネーションの命乞い。

それかまユニットを中心にして周囲に響いていた。

 

録音だ。

 

それに気付いたのと同時に、首筋に何か熱いものを押し付けられたような感覚がクアドルンを襲った。

 

コレは先の戦いで、幾度となく経験した感覚。

すなわち、殺気。

 

『っ……!!』

 

クアドルンは、すぐさま雷撃による防御壁を全方向に広げた。

展開が終わるのとほぼ同時に、迫ってきたビームを間一髪で防ぐことに成功する。

 

灼けた地面が、白い煙となって空に登った。

クアドルンは視界を確保する為に翼でそれを払う。

 

『スルト!!』

 

最後まで醜く争うスルトへの嫌悪感と、それに出し抜かれた焦りがクアドルンの思考を蝕む。

 

冷静さをギリギリで保ち、威力を絞った雷撃をビームが放たれた方向へ放とうと身構えた。

 

だが。

 

白い煙が少しずつ晴れ、まず目に入ったのは、姿を変えたコアガンダムの左半身。

特有の機能であるコアチェンジをしたのだろう。

だが、その姿は予測の信頼性が損なわれるほどに、アースリィとはかけ離れていた。

 

深い紺色を主体としたカラーリングはアースリィと似通っているものの、装甲は上下ともに一回り堅牢になっている。

 

特に、下半身が顕著だ。どこか見覚えのある形をした脚部。クアドルンは何故か、それに仕込み武器があることに気づいていた。

 

━━何故。どうして。

 

クアドルンの狼狽が決定的になったその瞬間、スルトは勝利を確信した。

 

「クアドルン!俺だ!!」

 

『マサ……キ?』

 

クアドルンは、目の前の機体の正体に気づいた。

 

ガンダムテルティウム。シドーマサキの愛機。

 

そして、その機体から発せられた声は、確実にシドーマサキその人だった。

 

刹那、クアドルンの脳裏にまたも数年前の情景が浮かぶ。

 

「クアドルンッ……頼むっ……!!俺を……!!」

 

あの時は、躊躇いを抱きながら撃った。

それを、止めてくれた者たちがいた。

 

だが、今は。

 

コンマ1秒にも満たない躊躇と同時に、白い煙が完全に晴れ、テルティウムを思わせるコアガンダムの右半身が顕になり、その全貌が明かされる。

 

肥大化し、血のような紅色をした異形の右腕。

 

悪魔の角を思わせる歪なアンテナ。

 

テルティウム?

 

いや違う。

 

正確には、テルティウムであった機体。

 

ガンダムゼルトザーム。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「終わりだ。聖獣」

 

スルトの声と同時に、ゼルトザームが展開していたフォールディングデストランチャーの銃口を聖獣に向けた。

 

『っ………!』

 

クアドルンは、一歩遅れて雷を放つ。

 

クアドルンの雷は、ゼルトザームの右腕を。

 

ゼルトザームの一撃は、クアドルンの片翼を。

 

空間が軋むほどのエネルギーを持った両者の衝突は、焦土と化した森の中で、白い閃光となって収束した。

 

 




陰鬱な展開続きですので、改めて宣言させていただきます。

私は、ビルドダイバーズ及びリライズが大好きです。
その思いのもと作ったこの作品でリライズのあの終わり方を愚弄するような結末には絶対にしません。

今はタメの期間です。もう少し、もう少しだけ、私を信じてください。
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