ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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堕ちた聖獣②

セグリ周辺の青空を飛ぶ、2機のガンプラ。

姿形は両者同一だが、片方の機体は左腕をまるごと無くしている。

その隻腕の機体に乗るパイロット、ユナクは隣の機体にどこか独り言のような通信を飛ばした。

 

「コレで……良かったのだろうか」

 

「何がっすか?」

 

ユナクは数十分前の事を脳内で振り返りながら、ノザトに通信を返す。

 

「スルト殿の命令で遠征隊を襲撃したものの……私は何もせず、部隊としても何か得られた訳じゃない……」

 

遠征隊襲撃任務は、一応の成功として終了した。2人は今、スルトの帰投命令を受諾してセグリに向かっている。

 

本人の希望とは言え、命令を出した当人に戦後処理を丸投げしたせいか、ユナクは任務が成功したという実感が持てずにいた。

 

「考えすぎっすよ。ていうか、僕がこっちにきたのは得られた物判定じゃないんすか?」

 

「……まさか」

 

人を裏切った後とは思えないほどのノザトの軽快な口調が、ユナクを萎縮させた。

 

自分より一回りも二回りも年下の者に怯えるのは少々情け無い気もするが、彼の経歴を聞けば年齢差を理由に威張る気には到底なれない。

最も、たとえ同年代だとしてもユナクは無駄に威張るような人間ではないが。

 

襲撃前、スルトから聞いたユナクの経歴は凄まじい物だった。

 

入隊半年でテストパイロットに指名され、一度の左遷に燻る事なく励み、遠征隊に実力を買われ、強硬派のスパイとして潜り込んだ。

 

その後は遠征隊の任務をこなしながら、スルトに託された専用の回線で情報の受け渡しを遠征中ずっとしてきたという。

 

恐るべき手腕だ。ユナクはノザトへの畏れを、底の知れない人物への警戒だと思うことにした。

 

「まぁでも、俺もフレディぐらいは殺っても良かったと思いますけどね」

 

あまりにもスラリと言い切るノザトの言葉を、ユナクは正しく理解するのに数秒の時間を要した。

言葉の意味が分かった瞬間、体温が奪われたかのように寒気が全身に走る。

 

「そ、それは……」

 

「分かってますって……正義では無い。でしょ?リーダーに止められたんだから、流石に弁えますよ」

 

それは逆説的に言えば、止められなければやっていたということでは無いだろうか。

子供を殺すことが、そんなに簡単に割り切れるものなのか。

 

フレディの処刑を見て見ぬフリをしたユナクは

それを言葉にすることは出来なかった。

 

正義の殺し。悪の虐殺。

 

ユナクの迷いは、セグリに着いた安堵感を掻き消した後も、長く心の内に残り続けた。

 

* * *

 

━━負けた。何も、出来なかった。

 

まだ少し痛みの残る脇腹を抑えながら、私はレジスタンス達が用意してくれた布団に蹲っていた。

 

周囲には、同じ布団が均等に並んでおり、負傷した兵士達が横たわっている。

ランタンに照らされたテントの中は、野戦病院を思わせるおぞましい状態になっていた。

 

この悲惨な光景と、負傷者が時折あげる呻き声が、否応なしに敗北の二文字をを私の脳裏に浮かばせる。

目から溢れた水滴と、唇から垂れた赤い雫が、同時にタオルケットに沈む。私はそれを、親の仇のように眺めていた。

 

「タツカさん……?」

 

突然の呼びかけに肩をビクッと震わせながら、涙を膝でそれとなく拭い、口元を右手で抑えながら声の方を見る。

すると布団のすぐ横に、小ぶりな人影が映っていた。

 

「フレディ……」

 

少年は眠る兵士たちを起こさないよう、声量を抑え囁いた。

 

「まだ痛みますか……?」

 

「ううん、大丈夫」

 

脇腹を抑えていた左手をそっと離す。

お腹が減っていた。そう言い訳することも考えたが、茶化すことができる程、気分は安定していなかった。

フレディは少し不安そうな視線を私の脇腹に向けたが、すぐに被りを振って私に近寄り、耳打ちをした。

 

「今、これからの方針をムランさん達と決めてるんです。それでシンラさんが……」

 

「分かった、行くよ」

 

フレディの言葉をぶつ切りにして、私はタオルケットを布団の上に投げ出した。

なるべく布同士が擦れる音を出さないように、ゆっくりと膝を伸ばし、立ち上がる。

 

私がシンラに呼び出されたとの解釈は合っていたようで、フレディが無言でテントの外に出た。その後を追い、テントの幕をくぐると、夜の暗闇が私の体を包み込む。

 

テントの外は半径500メートルはありそうな同心円状の広大な空き地になっていた。

五つのテントに九つの輸送車を置いても、まだ余分なスペースがあるほどだ。

 

最初はこんな野営に都合の良い場所が何故森の中に?と思っていたが、所々焼けこげている地面や草の根が月の光に照らされていることから、戦闘の余波でできたのだろうと勝手に納得する。

 

テントから出て正面に進むと、ほのかな光を放つ焚き火があった。その周りに、影が三つ。

 

長身の影とフレディよりも小さな影は、丁度いい木の幹に座り、頭を揃え何やら議論を交わしている。これはおそらくムランとシンラだろう。

 

その奥に佇む三つ目の影は、横たわっているにも関わらず、2人とは比べ物にならないほど巨大だ。

 

フレディがその影を見て、息を呑む。

 

視線の先には、アシンメトリー状になった一対の翼があった。

美しくも強靭な鋼鉄を思わせるほどに輝いていた鈍色の羽は、もう影も形もない。聖獣クアドルンは、確実に衰弱していた。

 

「ムランさん、お連れしました!」

 

「お待たせしました。お二方」

 

声をかけると、議論に熱中していた2人が私達の方に向き直った。

 

「無事で何よりだ。タツカ。もう大丈夫か?」

 

「ええお陰様で。医者の腕が良かったんですかね」

 

シンラが、大怪我した私を懸命に治療してくれたことは聞いていた。

 

だからお礼の一つぐらいはした方がいいと思っていたのだが、実際に私の口から出てきたのはお礼と言うにはあまりにも無骨な、そっけない言葉だった。自分のあまりいいとは言えない性格に嫌気がさす。

 

幸い、シンラはそれを気に留めることもせず、私に隣に座る事を促した。それに黙って従うと、フレディもムランの横に座り中断していた議論が再開された。

 

* * *

 

現状は、予想以上に切迫していた。

 

ムランの説明では、兵士約20名のうち、

エルドラGMのパイロットである7名が重傷。その他8名が軽傷。

 

そして……1人の裏切り。

 

満足に動けるのは、ムラン含めて片手の指で数えるほどしかいない。

 

人的被害も甚だしいが、より深刻なのは物的被害だ。エルドラGM隊が全滅した事で戦力は大幅に減少した。

シンラが残骸をかき集め鏡砂に変換し、被害を賄おうとしたらしいが、それでも集まったのはたった一機分のみ。

 

だがその被害報告ですら、前座に過ぎない。

 

聖獣クアドルンの、戦闘不能。

 

淡々と、詰まる事なく説明していたムランが、その時ばかりは言葉を続ける事を躊躇していた。

 

絶大な力を持つクアドルンがどうやってやられたのか想像もできないが、スルトはどうやらヒトツメと手を組んでいたらしい。

確かに、私が狙撃される前の最後の記憶も、ヒトツメの行動妨害に狼狽えていた気がする。

 

つまり、今日の戦闘は相手にとって都合の良い展開が連続した訳ではなく、全てスルト達の手のひらの上で踊らされていたことになる。

 

そっちの方が不運続きなことよりも、よっぽど精神にくるが起きてしまった現実からは目を背けることは出来ない。

 

「シンラさん、翼は修復できないんですか?」

 

言葉を詰まらせたムランに助け舟を出すつもりで、私が隣のシンラに質問した。

だが、返ってきた言葉は無慈悲なほどに強い否定。

 

「残念だけど、不可能だ」

 

シンラは鏡砂の変換プロセスを、簡単に説明し始めた。

 

鏡砂による物体の形成には、基盤となるデータが要る。

それを保存しているのがあの石板であり、シンラは体そのものを石板の代替え品として使っているそうだ。

 

クアドルンの翼を直せないのは、単純にデータを持っていないかららしい。

 

ならどうしてエルドラGMは直せたのか。

 

データは何処にもないはず……と思ったが、あれはエルドラGM本体に保存されている完全体のデータを代わりに使っているらしい。その為新しく製造することは出来ず、修理までという制限があるらしい。

完璧なデータさえ持っていれば、スルト達に壊された機体も追加で2〜3機ほど直せたらしいが、無い物ねだりをしてもしょうがない。

 

ならば、保存されているデータを持ってくればいいのでは?

 

と新しい疑問が浮かんだが、これも起死回生の希望とはならなかった。

何故ならばクアドルンの翼のデータが保存されているのは旧ミラーグの山、現水上都市セグリ。

 

敵の本拠地にあるそれを、簡単に取り行けるとは思えない。先日のフレディ救出で警備は更に厳重になっているはずなのだから尚更だ。

 

結果的に、遠征隊に残されたのは武装のない輸送車8機と私達のガンプラ一機のみと結論が出た。

 

「……正直、絶望的と言っていいだろう」

 

説明の終わりを、ムランはその言葉で締めようとした、その時。

 

『待て……ムラン』

 

今まで沈黙を貫いていたクアドルンが口を開いた。

 

「クアドルン……!!大丈夫なのか……?」

 

『あぁ……問題ない』

 

ゆっくりと顔をあげるクアドルン。

どう見ても強がりであるそれを、指摘する者はいなかった。

クアドルンは、それでも姿勢を整え、威厳を感じる声で発言する。

 

『スルト……奴に迫る手掛かりがある。逆転のきっかけになるかも知れぬものが……な』

 

「それは……?」

 

声を発したのは私だけだったが、他の3人も三者三様にクアドルンを見つめた。

 

絶望していたところに転がり込んできた逆転という言葉に、皆救いを求めていたのだ。

クアドルンは一瞬苦しそうな吐息を漏らした後、口を開いた。

 

『宇宙だ。ゼルトザームのデータを手に入れられるのは……あの場所……あの衛星のみだ』

 

「現れたのは本当に……あのゼルトザームだったんだな?」

 

『……少し形を変えてはいたが……間違いないだろう』

 

ゼルトザーム。ムランの被害報告の際に、何度か出てきた名だ。

いや、それよりも前にフレディから聞いた、ビルドダイバーズの英雄譚にもその名はあったと記憶している。

 

最強最悪のヒトツメ。アルスに洗脳されたガンプラの民、シドー•マサキ。

 

そういえばノザトは、裏切る前にクアドルンの身の上話をしていた。

 

━━と言うのも、マサキさん、ヒトツメに洗脳されてたらしいんですよ。

〜〜長いこと戦友だったあの人は、それが寂しくてタツカさんに聞きたくなったんじゃないっすかね……。

 

今にして思えば、なんと白々しいのだろう。

擬似的とはいえ、戦友同士を戦わせるスルト達の卑劣さに腹が煮え繰り返る。

 

「なるほどな……だがどうやって宇宙に上がる?白銀の塔とやらを登るのか?」

 

私が怒りに燃えている間に話は進み、シンラがクアドルンの話を分析し、質問をした。

 

『いや……アレを使う』

 

全くピンと来ない私たちの中で唯一、ムランだけが立ち上がる。

 

「クアドルン……まさか……?!だが、アレは……!!」

 

いかにも訳ありと言った様子で必死にクアドルンの説得を試みるムラン。そんなに危険な物なのかと思ったその時。

クアドルンが視線をこちらに向けた。

 

『問題ない。出来るはずだ。そこの2人になら』

 

「……え?私?」

 

クアドルンの目と私、の目が合う。

そこには圧力など存在せず、ただ純粋に信頼されている様に思える。

 

そんな気がした。




現状把握回。タツカ治ってよかったね。

フレディ奪還編、遠征隊襲撃編が終わり、そろそろ折り返し地点となります。増えに増えた謎や伏線を、畳む作業の始まりです。

40話ぐらいに収まるといいなぁ………
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