ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
焚き火の前で話し合った日の翌朝。
私たちはクアドルンの言う「アレ」のある場所に向かっていた。
例のブツは白銀の塔よりも北にあるらしいので、昨日ヒトツメやスルト達と戦いながら進んだ道を、まるで逆再生するかのように引き返すことになった。
しかし、全く同じと言うわけではない。
昨日までは隊列を成し、轟々と走行音を響かせていた輸送車達は、数を一台にまで減らしていた。
本来ガンプラを乗せる後ろの荷台には、エルドラGM一機分の鏡砂をクッションの様にしてクアドルンが乗っている。
私たちは、ムランの操縦するその車を、上空からガンプラに乗って追従していた。
「なんだか、寂しくなっちゃいましたね……」
私の背後で、フレディが呟いた。
「そうだね……単純な人数だけでも数十人から5人になっているし……」
昨日の夜、クアドルンの提案した秘策には、負傷した兵士達を長い移動に付き合わせられなという問題があった。
それに、兵士達の中に、もう内通者がいないとも限らない。
このままでは、敗北の二の足を踏むと判断したムランは、かなり強気の作戦を提案した。
ムラン、フレディ、クアドルン、そしてシンラと私の5人。そして、それ以外の兵士達の二つに遠征隊を分けたのだ。
襲撃前、既に遠征隊を二分していたのだから、これで四分割したことになる。
この判断には兵士達……特に軽傷、無傷の者を中心に少なからず反発が起きた。
突然現れた正体不明のガンプラ民が、自分達を差し置いてリーダーや聖獣と随伴する旨の命令は、彼らのプライドを深く傷つけ、不安を煽ったに違いない。
それでも最終的に引き下がってくれたのは、ノザトの裏切りが大きいだろう。
命令に強く引き下がる者は、職務に熱心な兵士か、裏切り者のどちらかだ。
こんな構図が完成してしまえば、自らを前者と言い張れる者は流石にいなかった。
結局、彼らは重症者を連れ付近の村々に散らばり、そのまま解散してもらう手筈になった。
彼らに行く先すらも伝えれないのは心苦しいが、アレもコレもノザトのせいだ、仕方があるまい。
不幸中の幸いとして、命に別状がある者は誰一人現れなかったことを喜ぶべきか。
だが、それすらも新たな不安材料になるらしい。
これは昨日の夜焚き火の前でシンラが話してくれたことだ。
* * *
「スルトはもう一度こちらに接触してくる」
シンラは、確信に満ちた声でそう言い切った。すかさずムランが質問を返す。
「……根拠は?」
「死者がゼロ人だった事だ。手加減されたとしか思えない」
「あの、私……死にかけたんですけど……」
状況把握が一番おざなりな私は、話し合いの殆どで沈黙を貫いていた。
が、これには口を挟まずにはいられない。
未だ疼く脇腹を抑えながら手を挙げると、シンラはそれを見越した様に言葉を続けた。
「そこがミソなんだ。レジスタンスと僕達……その差がね。そもそもこの襲撃自体、ずっと前から計画されていたはずなんだ。そうなると……手間暇が合わない」
「手間暇?」
「あぁ、確かに被害は甚大だけど、聖獣さんの翼をもぐため……それならもっとやり方があったはずだ。スパイまで仕立て上げた割には、どうにもまどろっこしい。そこで鍵になるのがフレディ。君だ」
「え?ぼ、僕ですか?」
突然の指名にフレディが素っ頓狂な声を上げた。
就寝している兵士の迷惑になると思ったのだろう。彼は慌てて口を塞ぎ、申し訳なさそうに頭を下げた。
同じくフレディに謝罪したシンラは、改めて口を開く。
「……あぁ。きっと、君や僕達の存在が、彼らにとってのイレギュラー……計画外だったんだ。だから、無理のある計画変更をした結果……こうなった」
詰まるところシンラの考えは、フレディ、もしかしたら私やシンラの存在がスルトの元の計画を破綻させかけたのではないか……そういうことだろう。
確かに、私たちは前もってセグリで起こった事件の顛末を遠征隊に伝えていた。
それが無かった場合、スルトはフレディを処刑した後、仲間のフリをして堂々と彼らの前に現れることも可能だったことになる。
幾らでも、不意打ちができる。それを躱されても、ノザトがいる。最終的には、ヒトツメを使う。
三本の矢とでも言いたげなこの作戦が、実際に行われたとしたら、被害は今回の比では無いのではない。スルトは一体、どれほど卑劣な行いを繰り返せば気が済むのか。
奴にはおそらく、いや絶対に恥や誇りの概念はない。
「待て。なら何故スルト達は撤退した?破綻しかけた計画とはいえ、私達を全滅させるには、これ以上無いチャンスだった筈だ」
ムランの疑問もまた、的を得ていた。
シンラは少しだけ俯きながら、それに答える。
「……それは、スルトのこだわりが関係してると思う。」
「こだわり?」
オウム返しをしたムランに、シンラが頷く。
「今のスルトの最優先事項は、おそらくレジスタンスの全権掌握。だからか、正義や正当性なんかに執着している……そんな気がするんだ。
最初の話に戻るけど、僕はスルトが交渉という形でフレディの身柄を要求してくると思う」
考えられなくは、ない。
面の皮の厚い為政者、独裁者ほど土壇場になって真っ当な手段を取りたがるのは、歴史が証明している。
後年の学者に否定されないため、罪悪感の埋め合わせ。原因は色々考えられるが、問題はそれがスルトに当てはまるのかどうかだ。
エルドラに学者、それに近い職種がいるのかは定かでは無いし、スルトが罪悪感を持ち合わせているとは到底思えない。
だがしかし、スルトの行動の幾つかが、この理論で説明出来るのも事実なのだ。
例えばシンラは、私がフレディ救出を果たしたのと同じ頃、彼はスルトと戦っていたそうだ。
シンラはあわや敗北というところまで追い詰められたが、セグリを擬似月の雷で狙い、強硬派の兵士を人質に取った。
スルトの非道さと同質な気もするこの策は、意外なことにシンラに勝利をもたらした。
セグリと兵士を人質にとった際、スルトはすんなりと撤退を受け入れた。
スルトがシンラに対して恨み、もしくは殺意を抱いているのは、GBNの初遭遇時の行動から伺える。にも関わらず、スルトは自分の利益より、他者を優先したのだ。
(そういえば……あの時………)
━━━━「黙れっ!今の私の使命は貴様に尽くすことではない……!!
"私の使命はあの星を守ること"…!!貴様に邪魔はさせない!!」
あの時のスルトは、Gラグナの手に掴まれて錯乱していた。
追い詰められた時にこそ人間の本性は出る……とまでは言わないが、あの窮地の場面で、本心には無い嘘を叫ぶ意味はない。
━━ならば、スルトの言うあの星を守ることとは……?その中に、フレディ達は入っていないのか……?
ムランの言葉が、思案の世界に沈んだ私を現実に引き戻す。
「なるほどな……目的は、全滅ではなく我々の弱体化。そしてあくまで交渉で……勝利を勝ち取るつもりか」
この場合は交渉ではなく脅迫といった方が正しい。
どちらにせよ、スルトの思い通りになった場合、フレディは今後こそ処刑され、ムランやクアドルンも無事では済まないだろう。
「仮にそれが正しいとするなら、私達があそこへ向かう理由が増えたな。クアドルン」
スルトが交渉にこだわるなら、その席を用意される前に逃げてしまえばいい。
ついでに、月に行きスルトの本性を暴く。
そんなこんなで、私達の目的地は決まったのだ。
* * *
「上手くなったな。フレディ」
「あ、ありがとうございます!」
模擬戦を終え、一汗かいた私達は、エルドラGMの鏡砂化やシンラの変身などの片付けをいつもの様にこなした。
昼食の準備をしてくれているムランに一声かけた後、一っ風呂、もとい水浴びをしに付近の川へ向かう。
最初は嫌々だったサバイバル生活も、慣れて仕舞えば案外楽しい。住めば都とはよく言ったものだ。
男所帯での入浴も、緊張したのは最初だけだった。彼らは覗きの様な低俗な行為に興味はないらしい。
━━もしかしたら興味がないのは私だからかもしれないが。
ともかく、紳士的な仲間を持てて私は嬉しい。
丁度いい岩場の影に行き、川に肩まで体を沈めていると、ひと足先に川から上がったフレディと、シンラの話し声が聞こえてきた。
そういえば、彼らは二人きりの時どんな会話をするのだろう。
それが無性に気になった私は、覗きだ何だと言っていたことを棚に上げ、岩陰に隠れながら、二人の会話に聞き耳を立てることにした。
「結局、実戦経験は積めなかったな……」
「ま、まぁ……ヒトツメと遭遇しないに越したことはありませんから!」
「……そうだな。ポジティブに捉えよう」
フレディがガンプラの操縦を覚えたいと言ったのは、旅が始まってすぐの事だ。
エルドラGMはムランが操縦出来るのだから、フレディが無理に覚える必要は無い。
しかし、スルト達に襲撃され一番大きな無力感に苛まれている彼を、無理に止めることは出来なかった。
しかし一方で、嬉しいことにフレディはパイロットの才能があった。
ビルドダイバーズと共に戦った経験が生きたのか、すぐにエルドラGMを自らの手足の様に動かせる様になったのだ。
この二週間の内に得た知識と技量だけで、フレディはファンネルを縛ったシンラとそこそこ打ち合えることが出来るまでに成長した。
今のフレディなら、量産型のヒトツメを倒すのに苦労はしないだろう。
「しかし穏健派の君は戦い嫌いだと勝手に思っていたけど……無理はしてないよな?」
シンラの言葉にフレディは首を横に動かして否定する。
「いえ、全然、全く!無理なんてしてません!」
「本当か?スルトに何か言われたとか……」
「……それは……」
フレディは、少し言い淀んだ後、消えてしまいそうなほど小さな声でポツポツと喋り始めた。
「僕が何をしたのかって聞いたら……スルトはこう返したんです。お前は何もしていないから……って」
「フレディ……それは……」
「ヒトツメを……アルスの行いを許す。ムランさんの反対を押し切ってまで、その選択をしたのは……紛れもない僕です。」
フレディの声に、しゃくりあげながらの呼吸の音がまじる。
感情の波に呑まれてしまいそうになるのを懸命にこらえているかの様なその声はさらに続く。
「でも、まだ戦いは続いてる……僕の選択の結果が、今の現状を作ったんです。それなのに、僕は、ガンプラに乗って戦えもしない……だから僕は、選択を……間違え……」
「フレディ」
シンラが、フレディの名を呼んだ。
「君が自責の念に駆られてしまうのは無理もないと思う。でも、今の現状を作ったのは、君だけの責任じゃない」
シンラは一呼吸置いてから、また話し始める。
「前にも言ったかもしれないけれど、スルトは僕の仲間だった。だから、彼が過ちを犯すのは僕が不甲斐なかったせいでもある。」
私は驚愕で息を呑んだ。
意外だったのだ。
シンラが責任感を感じていたことが。
「僕の人生は間違いだらけだった。人にどれだけ迷惑をかけたか……もうわからなくなってしまった。こうなってしまったら……自分一人で責任を取ろうにも、もう遅いんだ」
自分に言い聞かせる様に放った台詞を、私も、フレディも黙って聞いていた。
「でも、君は違う。君はそうなる前に、自分の選択に責任を持って行動してるじゃないか。そんな立派な君が誰かを許すことが間違いだったなんて、言うべきじゃない」
シンラの言葉を聞き終えたフレディが、目頭を抑えた。
漏れ出たわずかな嗚咽を、何とか口の中に戻そうと、蹲って手で口を塞いでいる。
数秒の沈黙ののち、フレディは静かに立ち上がった。
「僕、ムランさんの手伝いしてきます!シンラさん、ありがとうございました!」
早口でそう捲し立てると、彼は河川敷の砂利を踏み締め、ムラン達がいる方向とは反対側へ走っていった。
「………盗み聞きとは、感心しないな、タツカ」
私はうへぇ、という声を何とかのどの手前で押し留め、小さく呟く。
「気づいてたんですか」
「あんだけ顔を出して覗いてたら、誰だって気づく。用が済んだならさっさと服を着ろ」
「……はーい」
私が着替え終えても、シンラは背を向けフレディが走っていった先にある茂みを見つめていた。
私は何故か、その背に哀愁を感じていた。
「あの……」
私はすぐに自分の軽率さを恥じた。
何も考えずに、つい口にしてしまいそうになったその言葉。
あなたは何を間違ったんですか?
私は途端に、シンラのことを何一つ知らないのではないかと不安になったのだ。
これまで彼の隣にいられたのは、ただの偶然の積み重ねにすぎなくて、彼は私という存在に、何の興味もないんじゃないか━━そんな思いがふと頭をよぎった。
だからと言って、人の失敗を掘り返すことが、正当化される訳ではない。
「どうした?」
「……やっぱり何でもないです」
「……?」
この戦いが終わったら、シンラは私を置いて何処かへ行くだろう。
GBNでスルトと落ち合う前に、彼はそう言っていたからだ。
その時が来るまでに、私は彼が手放すのを惜しむぐらいの信頼を得られるだろうか。
彼は全てを打ち明けてくれるだろうか。
「今日の昼ご飯なんですかね?」
「さあな……どうせ僕は食べられないし」
もう少し、もう少しだけ、この旅が続けばいいのに。
この時ばかりは、叶うはずのない幻想を、私は無意識に思い描いていた。