ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「起きろ」
「う、うーん……デジャブ………」
「バカなこと言ってないで早く目を覚ませ」
シンラが私の頬を軽く叩いた。私は重い瞼を意志の力でなんとか持ち上げ、ゆっくりと目を覚ます。
「う……シンラさん?」
「記憶はあるみたいだな。よかったよ」
上半身を起き上がらせると、硬い岩の上で寝転んでいたからか、体が硬直していて、節々が軋む。体をポキポキと鳴らし少しずつ動きに慣らしてから周囲を見渡す。
目を覚ました場所は薄暗い場所だった。広さはそこそこあり、目覚めた場所から数メートル離れた先に外の光が見える。となるとここは洞窟のような所だろうか。
私は身の安全を確信すると、最後の記憶を辿った。
「えっと…確か急に穴に吸い込まれて……」
「やはりそこが最後の記憶か」
「はい……やはりってことは……?」
「僕も同じだ。君よりすこしだけ早く起きたこと以外は」
「じゃあ、此処が何処かも……」
不運続きな状況に私は肩を落とす。
だがシンラは意外にも情報を持っていた。
「推測はできる。此処はおそらく"エルドラ"だ。」
「える……?そう言う地名ですか?」
「いや、地名というより……まぁ、その認識でもいいか……何か変わったことがないか?」
「そういえば……なんか砂っぽいような……うわ、ばっちい……」
立ちあがろうと地面に手をつくと、掌には大粒の砂が大量に付着していた。ざらざらとした感触が鬱陶しい。
薄暗い視界の中でよく目を凝らしてみると、私の周囲は砂にまみれていた。
岩でできた丸い台のようなものが3つほど並んでいる。
私が寝転んでいたのもその板の上らしい。
光が差し込む場所の真反対には謎の石板があり、文字なのか絵なのかよくわからない何かが彫られている。
「さて……目覚めて早々で悪いけど……早くここから離れよう。」
外の光を浴びるため、私達は出口へと向かった。
日差しの強さに思わず顔をしかめ、目を細くする。
意外なことに出口の外は階段になっていた。
私達が出てきた場所を振り返って確認すると、どう見ても洞窟ではない。明らかに人の手が入った遺跡のようだ。
謎の遺跡で目覚めるなんて、ストーリーゲーム開始時みたいだなと思いながら、私は階段を下った。
が、そこにあったのはまたしても砂場。それも先程のものをそのまま巨大化させたような立地で、ご丁寧に私が寝そべっていた丸い台までもが巨大化し、佇んでいる。
「移動するなら、ガンプラの方がいいな。タツカ。呼び出してくれ」
私は言われるがままにウィンドウを開き、ガンプラ呼び出しのアイコンをタップした。
「あれ?」
「どうした?早くしてくれよ」
ガンプラに変身するために少し距離を置いていたシンラが急かす。
私はもう一度ウィンドウを開き直し、ガンプラを呼び出すためのアイコンを探した。
だが。
「……ない」
「なんだって?」
「できないんです!ガンプラの!呼び出しが!」
「ま、まさか!」
私は彼の前でもう一度ガンプラの呼び出しアイコンをタップし、ビーっという警報音と一緒に表示されるエラー表示を見せた。
こういう時にありがちなのはスペースの不足だが、ガンプラを呼び出す為の広さは充分に確保されている。
制限のあるミッションを受けたわけでもないし、機体の登録もそのままだ。
原因が全くわからない。シンラもそれを理解したのか、顔が青白く変色する。ペットになった彼の表情表現はは少し過剰だ。
「……終わった」
「………ど、どうするんです……?」
恐る恐る質問した私にシンラはぶっきらぼうになって答えた。
「歩く」
「……どこまで?」
「……僕だって知りたいよ」
そう言うと、彼は私を置いて歩き始めた。
「ちょ!待って下さいよ!」
私は彼の小さくて悲壮感の漂う背中を追った。
シンラのペットとしての姿は小さく、それほど大きな歩幅があるわけでもないので、私は数歩歩いただけですぐに追いつくことができた。
「もう……気持ちはわかりますけど、置いて行かないで下さい……よっと」
「や、やめろ、何をするっ離せ!」
私はジタバタと暴れる彼を無視して、バックパックをストレージから実体化。そのままの勢いで彼を押し込んだ。
「ぐむぅっ!」
「ほら、これで歩かなくて済みますよ!」
彼はバックパックから頭だけを突き出すと、
うざったそうに目を細めながら言った。
「タツカ……君はもう少し僕のことを人として……」
「さ、行きましょう!!」
「まっ、待て!揺らすな!」
* * *
結論から言うと、外に広がっていたのは何もない荒野だった。
所々大きな岩がある程度で草の一本も生えていない。
遥か彼方に見える地平線は美しくもありながら、この世界には何も無いんじゃないかという不安も植え付けてくる。
それでも私は土煙が上がるほどの速度で荒野を一直線に駆け抜けた。
目覚めた場所が遺跡で、それも放置されているような様子はなかった。
ならきっと、近くに村や町のようなものがあるはずだ。
「ま…………て」
ダッシュ開始から数分後、背後から力の抜けた声が聞こえてきた。
私はバックパックを下ろし、声の主の顔を見る。
「……なんで息切れしてるんですか?私しか歩いてないのに……」
「お前が!僕を無視して走り回ったから酔ったんだよ!」
顔面蒼白になった彼はバックパックから液体のように溢れ落ちた。
「……休憩します?」
「そうしてくれ……おえっ」
彼は四つん這いになり、嗚咽と涙声を発した。
「私も休むか……」
私も近場の盛り上がった岩に背中を預けた。
ーー数分後。
「はぁ……酷い目にあった」
「落ち着きました?」
「あぁ、お陰様でな」
彼の皮肉を聞こえなかったふりをして立ち上がる。
「じゃあ行きましょうか」
「待ってくれ」
そう言った彼はウィンドウを開き、一冊の本を実体化させた。
「なんですか?これ?」
「これはクガ・オサム大先生原作の"再起"というSF小説だ」
「
差し出された本を手に取ってみると、ざらざらとした表紙には簡素なゴシック体でタイトルが書かれている。
パラパラとページを捲ると、小説には似つかわしい付箋やライン引きがされていた。
これでは小説というよりも受験生の使う参考書のようだ。
「それの21ページを見てくれ」
「……!!これは……」
そこに描写されていたのは、あるゲームをプレイしていた主人公が、強引な友人に連れてこられた路地裏で意識を失い、砂まみれの遺跡で目覚めた場面だった。
その後、獣の姿をした子供に助けを求められ、彼らはあたり一面の荒野で18メートル級の機動兵器に乗って戦う……という内容。
「僕達に似ていると思わないか?」
「いやいや……こじつけが過ぎますよ!砂まみれの遺跡と荒野の部分だけじゃないですか!!」
「ここに18メートル級の機動兵器がいるが?」
「今は変身できない癖に……」
「何か言ったか?」
「いいえ!何も!」
私は小説をもう一度見返しながら、数十分前に目覚めたあの場所を思い返してみた。
確かに、砂まみれの遺跡が盛り上がった岩の上に作られているというロケーションは小説と完全一致している。
「どうする?これで獣人の子供が出てきたら?」
「……どうせこの小説を見た運営が似たようなディメンションを作ったとかでしょう?」
「あぁ、言ってなかったけどここはGBNじゃなくてーー
その瞬間。地響きと共に地面が大きく揺れた。
「じ、地震?」
揺れは更に大きくなっていく。立っていることすらままならず、バランスを崩し、膝をついてしまった。
これはまずい、と思ったその瞬間、何事もなかったように急に揺れがおさまった。
「お、おわっーーー」
「タツカ!後ろ!」
「へ?」
グポン。
一つ目の巨人が、こちらを凝視していた。
灰色の装甲に、巨大な斧。脚部は四つ足に分かれており、私が背中を預けていた岩を軽々と踏みつけ、静止している。
「こ、こんにちは……」
ヒトツメは挨拶を返すことなく、こちらを凝視し続ける。
「伝わらなかったかな……」
「いや、と言うよりも……」
ヒトツメは手を頭の上に挙げた。決して挨拶を返したのではない。
その手には巨大な斧が握られているのだから。
明確な攻撃のプレモーションである。
「うわっ!!」
ヒトツメの斧が大地を文字通り切り裂いた。
岩場は崩れ大小の破片となり、爆発した手榴弾のように飛び散る。
岩のかけら一つが私の足に衝突し、皮膚を切り裂いた。
転んだ拍子に、どろりとした赤い液体が黄色い地面に染み込んでいく。
体を突き刺すような強烈な痛みに私は思わず顔を歪めた。
「いっつ………」
「タツカ!立て!早く!!」
ヒトツメは私が痛みに悶えるところまで計算づくだったのか、息つく暇もなく追撃のモーションに入った。
振り上げられた斧が太陽の光を浴びて鈍く光る。
「あ……」
だが、ヒトツメの斧が振り下ろされるよりも早く、一筋のビームが、ヒトツメの装甲を穿った。
突然の攻撃に、その場にいる誰もが困惑した。
一番大きな反応を見せたのは、もちろん攻撃されたヒトツメだ。
モノアイを左右にふり、新たな敵の位置を探る。
その敵はたった一人で車のようなビークルに乗り、ビームを絶えず撃ち続けながらこちらへ接近していた。
ヒトツメが攻撃対象を変更し、車へと歩を進めた。
だが、操縦者はヒトツメの連撃を鮮やかな運転で交わし、タツカ達の元へ着いた途端、急ブレーキを掛けた。
「乗れ!早く!」
変声期特有のしゃがれた声と共に、操縦者が二人に手を差し出した。ゴーグルを被り顔は見えない。
シンラはほんの一瞬動きを止めて目を見開いた。おそらく躊躇ったのだろう。突然現れたこいつをを信用してもいいのかと。
だが、迷ってる暇はなかった。視界の奥ではヒトツメが再びこちらへ迫ってきている。
それに私も怪我で走れない。
「やむを得んか……!頼む……!」
シンラはバックパックを車後部座席に投げ入れた。
私も操縦者の少年の肩を借り、なんとかビークルに乗車する。
「振り下ろされるなよ!」
少年が勢いよくアクセルを踏み、車は急発進した。
幸いなことにヒトツメは遠距離武装を持っていないようだ。
死に物狂いで追いかけてくるが、距離は全く縮まらず、捕まる様子はない。
しばらく両者の追いかけっこは続いたが、ある程度距離を離すと、ヒトツメは何かを思い出したかのように去っていった。
「……振り切ったか?」
「あぁ、もう安心だ」
操縦者の少年がぷはっと息を吐きながら窮屈そうなゴーグルを外した。
彼の顔の大部分を隠しているゴーグルが取り払われたことで、青い体毛に包まれた顔が露わになる。それは明らかに人間の肌ではなく、一言で言うならば……獣人。
「オレはストラ。近くの村に住んでる。アンタらは……何者だ?」
「私達は……いっ!」
瞬間、ズキンと私の足が鋭い痛みを訴えた。切羽詰まる状況で気づかなかったが、私の血はビークルの座席を汚してしまい、座席にはちょっとしたシミができていた。
「わっ!ごめんなさい!」
「あぁ、謝んなくていいよ……というか、こっちこそごめんな、応急処置出来なくて……」
ストラと名乗った少年は運転しながら白い布巾を取り出した。使っていいよ、とのこと。見ず知らずの私たちに親切にしてくれる彼のご厚意に感謝し、私は差し出された布巾を手に取った。
それに比べてこのペット野郎はさっきからあの小説を開き、独り言を呟いている。
「凄い……!この小説はきっと……!」
私は布巾で怪我のしたところを押さえる。じんわりと、赤い色が真っ白だった布巾の色を上書きする。
そんな私を気に留めず、相変わらず小説を読み耽る彼の姿に私はイラっときた。とても。
無言で彼から小説を取り上げ、私の頭の下に置き、枕がわりにした。
「何をする、返してくれよ」
「あー……ねむ」
「おい……返せって」
彼が小さな小さな足と手で反抗の意をしめした。
そらを軽くあしらい、彼の体を持ち上げ、ストラの横、助手席に置いた。
「私……痛みで話せないんでぇ……シンラさんは……ストラさんに事情説明を……」
私はヒラヒラと手を振りながらそう言った。
何か座席の向こうで悪態を突かれたような気がしたが、奴の身長では座席をよじ登ることすらできまい。
「……説明、頼んでいいか?」
「二度手間になるから村に着いた後にしたかったが……まぁ、いいか」
「あぁ、そうだ、ストラさんありがとうございました!」
「話せるじゃないか、タツカ?」
「………」
(なんなんだこの二人……ガンプラの民……だよな?でもビルドダイバーズじゃなさそうだし………?)
シンラはようやく、ストラに説明を始めた。
それを聞いた私は安心して、空に流れる雲の数を数えるのに勤しんだ。
うとうとしながら数えた雲の数が50を超えた頃、ビークルは止まり、目的地に到着した。
次の話を丸々使って詳しく状況説明させていただきます。
質問などございましたお気軽にどうぞ。