ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
ライトで灰色の壁を照らし、刻まれた文字を読み取る。
「こちらタツカ。R-7の隔壁が降りてます」
ヘッドセットのマイクの位置を調整し、シンラに文字を伝えると、ノイズ混じりの無線で向こうから言葉が返ってくる。
「了解。30秒で開ける」
流石に三度目ともなるとこのやり取りにも手慣れてきて、ほぼ流れ作業のようになっていた。
隔壁が、がこんという重い音を響かせ約20秒で開放される。
露わになった先の通路は、足元が見える程度に照らされていて、少し先には曲がり角が見える。
「ヒトツメは……いなそうだね。行こう、フレディ」
「……はい」
脳内の地図を広げ、足元に気をつけながら私達はコントロールルームを目指す。
* * *
数十分前。
シャトルを発着場に停留させた後、衛星に降り立った私は、その荒廃ぶりに度肝を抜かれた。
床の塗装は剥げ、所々焼けこげている。壁からはコードがダラリと垂れ下がり、そこかしこでスパークが走っている。
そもそも発着場自体のガイドビーコンが消えていたのだ。
フレディの記憶頼りに探したはいいものの、瓦礫が積み重なっていて、シャトルを停めるだけでも大変な苦労を強いられた。
そんな予想外のアクシデントに出鼻をくじかれてはしまったが、なんとか気を取り直して私達は出発前のミーティング通りに行動を開始した。
私とフレディはコントロールルーム、アルスがいたらしい場所を目指し、シンラはMS状態のままシャトルからバックアップする。
幸運なことに、発着場には電気の通った操作端末があった。
作戦の一部を変更し、シャトルから身を乗り出したシンラが、そこからハッキングをして隔壁などの障害を排除する手筈になった。
その甲斐あってか、探索開始から十分後までは順調に進んだ。
薄暗い通路は、幽霊が出るのではと勘繰ってしまうほどに不気味な様相を醸し出していた。
だがGBNのクエストならまだしも、ここは紛れもない現実だ。
鏡砂のようなオーバーテクノロジーはあってもスピリチュアルな存在はないと判断し、私もフレディも臆することなく通路を進む。
「そのT字路を右だ」
「了解」
シンラの指示の通り、私は通路を右に曲がった。
これがいけなかった。結果論ではあるが、ここで私は通路の先を充分に警戒すべきだった。
なぜならその気の抜け具合を見計らったかのように、基地の修理をしていたヒトツメ、ガードアイが現れたからだ。
「ピッ……ギギギ」
ガードアイは私たちを視認するなり目を丸くして脱兎の如く逃げ出した。
「逃すな!」
シンラの命令が言い終わる前に、私は腰のホルスターからハンドガンを抜き、引き金を二度引いていた。
廊下に、二発の銃声が響く。
弾丸は目標に吸い込まれるように進み、ガードアイを貫いた。
被弾した箇所からは電流がほとばしり、ヒトツメの由来たる円状の眼のような部品が点滅を始めた。
「ぴ…………」
ガードアイの断末魔を区切りに、廊下は再びの静寂を取り戻す。
緊張状態から開放された私は、ハンドガンとしては重い部類の愛銃を下ろしホルスターにしまう。
一連の動作を終え、ため息をつこうとした時になって、私は自身の犯した失態に、遅まきながら気付いた。
「………」
背後にいたフレディが、俯きながら廊下を進むみ、ヒトツメだった物━━死体というべきか鉄屑と言うべきかは定かではないが、それの近くに彼はひざまずき、装甲を撫でた。その物憂げな様子が、私の心を締め付ける。
レジスタンスの内紛続きで印象が薄れていたが、そもそも事の発端はヒトツメの復活だ。
それ自体はスルトが仕掛けたマッチポンプである可能性が高いが、この闘いの本質はヒトツメを保護すべきと主張する穏健派とヒトツメは倒すべきという強硬派のイデオロギーの対立である。
当然、フレディは穏健派だ。それも、首領に仕立て上げられるほどの。
私はそんな彼の背景を知っていながら、自身の身の安全の為に躊躇なく引き金を引き、ヒトツメを━━殺した。
遠征隊襲撃の前にも、ヒトツメと戦いはしたがあれは正当防衛の面もあった。
だが、今回先に手を出したのは、間違いなくこちらだ。
この行為は、逃げ惑う敗残兵を執拗に追い詰める悪鬼のそれではないのか。
私が銃を使わなかったら、和解の選択肢だってあったかもしれないのに。
私は、それを、考えることもせず……
「…………身勝手だってのは、分かっているんです」
フレディが背を向けたまま小さく呟いた。私の葛藤を察したのか、その言葉はどこか自嘲的だ。
「……タツカさんは、モノの事を知ってますか?」
「うん……」
私は頷きながら返答した。モノはフレディ達の村にいた非常に友好的なヒトツメだ。
彼の案内で村を回ったのは記憶に新しい。
「あの子をカリコさんとザブンさんが拾ってきた時……姉さんが大反対したんです。『やめて、そんな奴村に入れないで!』って……」
私はフレディの言う"姉さん"が、お世話になったマイヤさんだと瞬時に理解することができなかった。彼女がモノのことを、そんな風に言う姿が全く想像出来なかったからだ。
━━驚かせちゃってごめんね、この子はモノ。えーっと、一応、ヒトツメ……だけど、悪い子じゃないよ。
モノのビジュアルに驚く私に、彼女は確かにこう言った。幸い背を向けていたフレディに私の困惑は伝わらなかったようで、彼はそのまま語り続けた。
「最初は、モノを嫌がる人達ばかりでした。アシャは最初見た時泣いていたし、ジリクさんだって、言葉には出さなくても明らかに敵視していたし……でも、それも少しづつ変わっていったんです」
フレディの提示した二人の人物名は、偶然にも私の記憶回路に存在していた。ほんの数分話した程度だが、彼らからも、モノに対して負の感情を抱いている様子は伺えなかった。
つまり、あの反応、あの日常こそがフレディの言う"変わった"結果なのだろう。
「モノを少しづつ受け入れていく人たちを見て……僕はそこに平和を見出しました。これが、これからのエルドラのあるべき姿だって……そう思いました。だから、レジスタンスの人達にお願いしてヒトツメの保護を始めたんです……でも」
この"でも"に続く言葉の残酷さを、私は既に知っている。
フレディの思い描く理想のエルドラは、未だ訪れていない。それどころか今の状況は、平和とは正反対の位置にある。
「僕は……自分の理想を押し付けていたんです。それが正しいことだと信じて……だから……」
「ダメだよ。フレディ。それは、言っちゃダメだ」
この時の私の直感は、自分自身でも驚くほど冴え渡っていた。フレディが発しようとした言葉を、彼が口に出す前に理解していたのだ。
私が口を挟まなかったら、彼は確実に私の銃撃を肯定していた。
だがそれは、今のフレディが決して口にしてはいけない言葉だ。ヒトツメ達と山の民を繋ぐ穏健派の筆頭が、私の行為を肯定してしまったら、この戦いの果てに明るい未来はない。
フレディはこの戦いに、穏健派として勝たなければならない。そうしなければ、ヒトツメ達に未来はない。第二のモノは現れない。
「フレディ。タツカの言う通りだ。」
今まで沈黙を保っていたシンラが無線越しにそう言った。その言葉は、あの時河原で内心を吐露したフレディにかけた言葉と酷似している。
「じゃあ……僕は……」
それ以上、フレディが何か言うことはなかった。無言で立ち上がり、ヒトツメだったものに対して、手を合わせて祈る。
フレディは激しい自責の念に駆られている。
それは河原での懺悔や、今回の自己否定を見れば明らかだ。
なのに自責の念に駆られた若者に道を示さず、救いの手を差し伸べることすらもせず、彼の言葉を遮り、否定する。
側から見た私達の行動は、悪党そのものだ。
フレディはこの先もずっとずっと自分のことを責め続けるだろう。だが私達に彼を救うことはできない。
それはきっと、彼と多くの時間を共にした者達の役目だ。
そんな言い訳を頭に浮かべながら、私はヒトツメの死骸の横を通り抜けた。
* * *
時間が空いて、ほんの少し元気を取り戻したフレディが叫んだ。
「ここです!」
R7の隔壁をくぐり抜け、崩壊した通路を二、三度迂回すると、ついに私たちは目標であるコントロールルームの前に立った。
コントロールルームの入り口は階段になっており、そこをひしゃげた自動ドアが塞いでいる。ドアは壊れていながらも、その役目を果たそうと、忙しなく動いていた。
シンラのハッキングで、ドアの動きは止まり、人が一人通れそうなスペースが空く。
小柄なフレディがすんなりとそこを通り抜け、私は無理矢理体を捩じ込み、先に階段を登るフレディの背中を追いかける。
無重力空間での階段はその必要性が全く見出せなかった。寧ろ、踏み外す可能性が高くなっているような気もする。
「ここが……モニタールーム……」
階段を二段ほど蹴って、宙を移動する。
その先にあったのは、文字通りの空間だった。
四方の壁に取り付けられた液晶は、砂嵐のようなノイズを映しており、周囲を少しだけ照らしていた。液晶の傍には、エルドラ特有の三角形のディテールが彫り込まれている。
「どう……?フレディ……?」
フレディは周囲を見渡し、首を振った。
「前に来た時は、いきなりアルスさんが現れたんですけど……」
「……何も起きないね」
部屋に入って既に1分ほど経過しているが、特にこれといった変化は起こっていない。
懐からライトを二つ取り出して片方をフレディに渡す。
暗闇に包まれた部屋を、私達の二つの光源が照らした。
ライトを振って周囲を探索するが、やはりめぼしいモノは見当たらない。このままでは、せっかく月に来たというのに無駄足になってしまう。
いや、前回の探索で見つけらなかったヒトツメが基地内にいたことを考えると何も変化が起こっていない方がおかしな話だ。
願望にも似た薄い根拠を頼りに、部屋の隅々を照らし続ける。
「何か手掛かりは見つかったか?」
「いや……何も……」
シンラの無線に応えようとしたその時。私のライトの光が、何かを捉えた。場所は部屋の中央、天井のすぐ近く。
私は身を屈ませ、大きくジャンプをするイメージで、天井近くまで浮き上がった。右手に触れた何かを離さないようがっしりと掴み、天井に左手をつき床へUターンする。
「これは……?」
私の右手に収められていたモノは、間違いなく、タブレット端末だった。うっすらと埃をかぶってはいるが、損傷はなく年季も全く感じない。
「何か見つかりましたか?」
私の大ジャンプを見たフレディが駆け寄ってくる。
「うん、このタブレットが……」
「タブレット?!タツカ、それは黒色か?」
タブレットと言葉を発した瞬間、無線越しでシンラが慌ただしく叫んだ。
暗がりに同化している為分かりにくいが、ライトでタブレットを照らすと確かに黒色をしている。
「え?は、はい黒です……」
「背面に何か書いてあるか?!」
タブレットをひっくり返し、フレディと一緒に顔を覗かせる。示し合わせた訳でもないのに、私とフレディは同時に背面に彫られた英単語を読み取った。
「「GBN……?」」
読み上げた瞬間、私たちはハッとなって顔を見合わせた。シンラも確信に満ちた声で呟く。
「……間違いない。それは、僕がスルトに渡した、タブレット端末だ。起動はできるか?」
「はい……ええと……」
手探りで電源ボタンを押すと、画面が点灯した。
当然の如くパスワードがかかっていたものの、シンラの言葉通りに入力すると、タブレットはすんなりとホーム画面へと移った。スルトに渡した、という彼の発言に信憑性が増す。
こじんまりとしたホーム画面には、たった一つのアプリが、ポツンと佇んでいた。アイコンの下の文字を無意識に呟く。
「日記……?」
フレディ鬱ですね、完全に。ここで唐突に自分語りをば。
ヒトツメとの今後を考えた際に、真っ先に浮かんだのは原作のラストのシーンをどう解釈するかです。リライズの象徴とも言っていい、あのシーン。
カリコもザブンも、ヒトツメに故郷を焼かれたけれど、一人で彷徨うヒトツメを(僕が勝手にモノと名づけてしまいましたが)彼らは受け入れる。
あれはカリコとザブンだったから成り立った。そう思っています。二人を特別視しているんです。彼ら二人だったからこそ出せた答え。フレディがアルスにありがとうございました、と言ったのも同じだとそう言うふうに解釈しました。
メタ的な話になってしまいますが、製作陣はヒトツメとの和解が物語的にも描写的にも難しい物だと、かなりの解像度で理解していたと思います。
それは決戦前のムランの反応だったり、アシャの「ヒトツメいなくなるの?」だったり、戦争なのにヒトツメによる山の民の殺害が描写されていないことだったり(アルスの月の雷を除く)に表れている。
だからこそ、あの二人は特別なんです。フレディも含めて、家族を、殺されても報復心を抑える。
もしそれを、山の民全員ができてしまったら、行きすぎたご都合主義だと言わざるを得ません。山の民の善性はしっかり描写されてはいましたが、それだとメイの提案に反論したムランが情けなく映りますし、何よりラストのシーンをやりたいが為の、生きたキャラ殺しだと思ってしまいます。
じゃあ種族的な和解は無理でも、個人個人だったら出来るのでは?と言う解釈もありますが、それだとあの二人組が特別ではなくなってしまう。
SEEDとAGEだったら、ぼくは後者の方が好きなんです。
リアリティがあるのもいいけれど、フィクションとしては、種族間でわかりあって欲しい。
バトローグに助けられたヒトツメが映りますが、あれは紆余曲折あった末の結末だと思いたい。
エゴまみれになってしまいましたが、僕はこう言った信念と解釈のもと、この物語を作っています。
解釈違いが起こっていたら……申し訳ない!!でもそれは、僕なりに作品と向き合った末の結果なんです!!
ガタガタ語ってたら千字近くなっちゃったよ!!
改めまして、答えの出ない問いに、フレディはどう答えるのか。見守っていて欲しいです。