ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「日記……だと?バカな、僕が渡した時にそんなものは……」
「……でも、日記です。本当に……」
私は日記のアイコンをタップした。すると出てきたのは簡素な文字列。
何年の何月、何日目と言う共通の見出しがずらりと並んでいる。
画面をスクロールすると、見出しの数は100を超えていた。一日一個だと仮定して約三ヶ月分。かなりの数になる。
「タツカ、読み上げてくれないか」
「むー……」
正直、これを読み上げるのにはかなりの時間が必要になりそうだ。それに、人の日記を声に出して読むと言うのもあまり気分のいいものではない。
しかし、日記を書いたであろうスルトについて、一番よく知るシンラの頼みだ。もしかしたら、彼だけがわかる暗号があるのかもしれない。
「そうですね……じゃあ、初めから……」
すうっと息を吸ってから、私はスルトの残したであろう日記を一字一句間違いのないよう、慎重に読み上げ始める。
シンラ様は運営に拘束された。
だがしかし、これで全てが終わりになったわけではない。あの方は、戦いに敗れた時のことも考慮しておられた。
優秀な部下たる私達3人にのみ課せられた任務は、研究データの保護と、彼の方の身柄の奪還。そのタイムリミットは三ヶ月。
だが、運営の行動は予想以上に早かった。拘束2日後には私たちのアジトに辿り着き、強襲を仕掛けてきた。
危機に陥った私たちに残された選択肢は1つ。
あの未完成の転移装置を使って遥か遠くの惑星、エルドラに旅立つこと。
* * *
一年と少し前。
スルトは何もない空間で目覚めた。
いや、それでは少し語弊がある。砂ばかりの暗闇の中で、目覚めたといった方が正しい。
「成功……したのか……?」
体毛にこびりついた砂を払い除けながら、スルトはゆっくりと立ち上がった。
「よぉ!スルト!!無事だったか!」
暗がりの中から現れた人物を、スルトは頭の上から順ぐりに確認した。
スルトの獣人型とは異なった、純粋な人型のダイバールック。剣山のように尖った髪型、額に巻くバンダナと糸目。首から下はスルトと同じデザインのファンタジーナイズされた中世風の装備一式。
「ザック…………!」
見慣れた人物に、スルトは左手を振りながら答えた。ザックはスルトと同じく、シンラの忠臣の一人だ。彼は普段と変わらぬ気さくな調子で話す。
「にひひ……この毛並みは間違いなくスルトだ……!」
「やめろ!ペット扱いするな!」
そうは言いつつも、普段通りのザックの仕草はスルトの心をほんの少しだけ癒した。
いつもペット扱いされるこのダイバールックに、スルトは頭を抱えていたのだがこの時ばかりはこの姿で良かったと感じた。
一通りスルトの毛並みを堪能したザックは、咳払いをして仕切り直した。
「セレーナも無事だ。これで3人とも揃ったな」
「そうか……彼女も……エルドラに来れたんだな」
スルトの安心した表情とは対照的に、ザックは表情を固くした。
「それが……少し事情が変わったんだ」
「……?それはどう言う……」
「まぁ来いよ、こんな真っ暗闇で話すと、気がおかしくなりそうだ」
* * *
色味を失った白亜の廊下を蹴って進む。地面に足がつかなくとも、体は前に進んでいく。
「ザック、なぜこんなに体が軽いんだ?エルドラの重力は、あっちとは違うのか……?」
スルトの言う「あっち」とは、GBNのことだ。
GBNではダイバーの活動できる場所は基本的に1Gである。現実とかけ離れた重力設定は、快適なゲーム体験の支障になると運営は判断しているらしい。
諸々の事情を知っているザックは、見当違いななスルトの質問に、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「あーんと……結論から言うぜ。俺たちは今、宇宙漂流状態だ」
「……何だと?」
「これは説明するよりその目で見た方が早いからな……質問は後で聞く」
ザックは言葉を濁すと、そのまま無言で通路を進んだ。スルトは訝しみながらも、数分間彼の背中を追う。
「こっちだ」
自動ドアを潜り、階段を登る。その先にあったのは、四方を液晶で囲んだいわゆるモニタールームだった。
部屋を照らすはずのライトはその役目を完全に放棄しており、モニター画面に灯る砂嵐が、スルト達のシルエットをかろうじて照らしていた。
「これは……」
スルトが異質な部屋に尻込みをしたその瞬間、彼の体に影が覆い被さった。
「ス、ル、トーーーー!!!!」
「むぐっ!セレーナ!いきなり抱きつくんじゃない!!」
叫び声と共に飛び込んできた同士を、スルトは払い除けた。飛び込んできた人物は舌を出して悪びれもなさそうに謝る。
「ごめんごめん、みんな無事だったのが嬉しくってさ!」
彼女の名前はセレーナ。人型と獣人型の中間のようなダイバールックで、小柄な体格に見合わない茶色のフーデットケープを身に纏っている。
「……もういいだろう。早く現状把握させてくれ」
「わかった。これを見てくれ」
ザックの言葉と共に、モニターの画面が切り替わった。移されたのは大小二つの円形の物体。
「あっちのでっかい惑星がエルドラ。俺たちが避難するはずだった場所だ」
「……じゃあ……」
スルトの発しようとした言葉を、セレーナが先回りで口にした。
「うん……私達はこのちっちゃな衛星……こっちの方に生まれて来ちゃったの」
* * *
日記ログ 衛星基地に来て1日目。
現状確認だけで一日を使ってしまった。
私たちに課せられた任務は研究データの保護と、シンラ様の奪還。
前者はもう果たされたと言っていい。私達がここに来れたのは、シンラ様の残した研究データあってこそだ。あちら側の転移装置も、最後尾の私が爆弾を仕掛けた。
今頃あの無能な運営は、必死になって装置の破片を一つ一つかき集めているはずだ。
問題なのは後者だ。三ヶ月のタイムリミット付きなのが痛い。
本来ならエルドラ、GBN間の移動方法を煮詰めた後に行動を移す予定だったのだが、緊急避難先として転移装置を使ってしまった。
ゲームとリアルの違いは、私たちを予想以上に苦しめている。
こちらではGBNのように上手くはいかず、転移装置を再び作るのならば基礎設計からやり直さなければならないだろう。そうなると、100日では足りない可能性が高い。
つまり100日程度の期間で私達は
①衛星基地からの脱出
②惑星エルドラに到着後GBNへの転移方法を知っている者との接触
③GBNへ転移後、運営からシンラ様の奪還
この3つを行わなければならない。
だが、この基地にはシャトルの一個もない。ガンプラも呼び出し不可能になっている。
* * *
日記ログ4日目。
今日は私達が目覚めた場所にあった「不思議な砂」の分析をした。
調べれば調べるほど、その特異な性質が明らかになった。
あれは夢のテクノロジーだ。これとデータさえあれば、なんだって作ることができる。
それを知った時の喜びようといったら、言葉にすることができないほどだ。
私たち3人は互いの優秀さを再確認した。
やはりシンラ様は正しい。多少失敗してしまったが、それも織り込み済みなのだろう。この3人で任務につけて心から嬉しく思っている。
夢のようなアイテムを手に入れたまではいいのだが、この基地に都合よく脱出に使えるデータがあるのかは不明だ。
だが、基地探索中、ザックがMSの残骸を見つけた。この基地にもガンプラのデータがある可能性は高い。
データが欲しい。何よりも、ガンプラのデータが。
* * *
━━スルトが衛星基地にリスポーンしてから70時間が経過。
「ねぇ……コレって……」
セレーナが、手振りでスルト達を呼んだ。ザックは期待からか、思わず声を荒げてしまう。
「何か見つかったのか!?!」
「う、うん……ガンプラじゃないけど……」
セレーナが体を避け、スルト達にモニターを見せる。画面には、心電図のように脈打つ波形が表示されていた。
その左横には、「瞳をを閉じた、一つ目のある人魂」というなんとも形容しがたいアイコンが映されていた。
「……なるほど基地制御用のAIか」
スルト達は直感的に、この人魂のような何かが自分達と似た存在だと理解した。問題はこれをどうするかだ。3人で話し合い、出た結論は、とりあえず起動させてみよう、というものだった。
「今は一つでも情報が欲しい。もしやばい奴だったら……シャットダウンを頼む」
セレーナとスルトは、無言で頷いた。
ザックは意を決してモニターの画面を触る。
『おかえりなさい』
「うおっ……!た、ただいまー……ってアンタ、名前は?」
想像のはるか上をゆく滑らかな言葉使い。ザックの顔に僅かな希望がにじみ出る。
なんとかなるかもしれない。
そんな期待をつゆ知らず、AIが言葉を続ける。
『私━━━名━━━、アル━』
「あー……アルでいいか?」
ザックの声には明らかな落胆が混ぜられていた。
無理もない。挨拶はスムーズだったのに、急に雲行きが怪しくなったのだ。一度期待してしまったからこそ、その落差に肩を落としたのはスルトも同じだった。
AI、仮称アルはザックの質問に答えることなく、ノイズ混じりの音声を発し続ける。
『守っていま━━何故━?帰ってこられ━━━━ない━━━すか?』
「……段々ノイズが酷くなっているぞ」
「ちょっと待って。多分、発声機能が……」
スルトはアルを止また方が良いんじゃないか、そう思ったがセレーナの必死の表情を見ると中々言い出すことができず、結果的に無言で彼女のパネル操作を見守る。
『━━違うと━━━━で━か一━いつかと━い━━━で━━』
「おいセレーナ……これはもう……」
ダメだ、諦めよう。そう言おうとしたスルトの台詞に、セレーナが強引に割り込んだ。
「待って!後少しだから!」
『目覚め━━━━━━━━━━━━━━━忘れ━━━━━』
「よし!!これでどう?」
完全に事切れたと思われたアルは、セレーナの活躍により段々と声が安定し始めた。
おかげで、アルが次に発した言葉は、充分に聞き取れるものになっていた。
『似た━━━二人……』
人魂の中に映る眼光が、ザックとセレーナを捉えた。
「私たちのこと?」
「まぁ、兄弟みたいなものだしな……」
『帰っ━━れ━━━━ないのですか?』
驚いたことに、アルはこちらの事情を認識しているかの様に話始めた。まだ少しノイズが混じってはいるが、ようやくアルとのコミニケーションが始めることが出来る。
それが嬉しかったのか、ザックは興奮した様子で捲し立てた。
「あぁ、帰りたいんだよ、俺たちの故郷に!行きたいんだ、惑星エルドラに!!」
『…………!!!!』
その時、人魂の姿をしたアルの目が、なぜか大きく見開く。
ほんの一瞬。時間にすれば1秒にも満たないだろう。それに気づいたのは、モニターを凝視していたスルトだけだった。
『ですが……何故━━━?何故あなた━━はそれと共に……?』
眼光が、今度はスルトを貫く。
「なんだ……?私に……言っているのか……?」
先程とは雰囲気が全く違う。その変容ぶりに、思わずスルトは一歩後ずさった。畏れからかその足は小さく揺れている。
ザックはそれを見て、彼の肩に手を回す。
「何故って……そりゃ俺たちの可愛いペットだからだっ!!」
「ふざけてる場合いか、バカモノ」
ザックの馬鹿げた軽口を皮切りに、スルトの足の震えが止まった。口には出さなかったが、心の中でスルトはザックに感謝した。
『ペット……』
アルがこれを冗談で受け取ったのか、本気にしたのか、どちらかはわからないが、それ以上質問をすることはなく、誠に不本意だが、良い方向に転がったのだとスルトは思うことにした。
アルが完全に安定したと結論づけたザックは、立場を入れ替えて質問をする。
「アル。俺たちは目覚めたばっかで、この基地のこと全然わかんねぇんだよ。所々ぶっ壊れてるし……地図とか持って無いか?」
『……わかりました。マップデータを表示します』
* * *
日記ログ7日目。
セレーナがモニタールームで面白いものを見つけた。
AIだ。
名前は……何処かが壊れているのか、最後の文字がどうしても聴き取れなかった。
我々はこのAIにアルと名付けた。
発声機能やホログラム化など、多くの機能がある損傷していたが、大体はセナの修理で事なきを得た。
アルはAIとしては稚拙だった。簡単な受け答えすらあやしいが、それが損傷しているからなのか、元々のアルの性能なのかはわからない。
* * *
日記ログ10日目。
アルを手に入れたことは正解だった。
基地内部の地図が手に入れば御の字と思っていた期待を、彼は優に上回ってくれたのだ。
アルがもたらしてくれたのは、地図はもちろん、何十機もの作業用機械兵に、膨大なガンプラのデータ。
どちらも損傷が著しかったものの、工夫すれば充分使える。
基地のインフラ整備を機械兵達に任せ、私達はガンプラデータの復旧作業に着手した。
残念なことに、アルの持っていたデータは、どれも人が操縦する前提のものではなかった。
しかし、しかしだ。
たった一つだけ、人の搭乗を前提にした機体があった。
ガンダムゼルトザーム。
スペックだけ見れば優秀極まりないのだが、問題なのはこれを3機分作らなければならないということだ。
ゼルトザームのデータの完全復旧に、スペックダウンと量産化の調整。
面倒ではあるが、脱出の活路は見えた。
機械兵がドックの修理を頑張ってくれれば、来週までにはエルドラの地に降り立てるだろう。
……そういえばここ数日、ザックとセレーナの様子がおかしい。
口が達者なザックは急に顔を赤くするし、しどろもどろになる事が増えた。
活発だったセレーナは、気のせいか少し大人びた気がする。
それに、ザックとセレーナの二人きりでの会話の数が明らかに減っている。
一体どうしてしまったんだろうか……?
私も少しぼーっとしたり、 腹の中から変な音がしたりするようになった。
きっと、二週間近くここに滞在して、気が抜けてきているに違いない。
引き締めていかなければ。
パーフェクトコミニケーション、達成!!
今回の話はリライズ11話のアルスとの会話を聞きながら作りました。
是非皆様も、お手元の端末で視聴しながら読んでみてください。
何か、気付けることがあると思います。