ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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スルトの日記③

日記ログ11日目

 

喉が渇いた。腹も減った。

 

GBN内で生まれた者が現実で体を得る━━その意味を、我々は理解していなかったのだ。

 

向こうの世界での飢えや渇きはあくまでデバフステータスでしかなかった。だから日増しに増えていく腹や喉の不快感が、生命維持に必要な事だと気づくのに一週間以上もかかってしまった。

 

幸運だったのは、私達の体が純粋な栄養で動いている訳ではなかったことだ。

 

鏡砂で動く我々の体は、本来の餓死とは違い、蓄えていたエネルギーが尽き、事切れるその瞬間まで問題なく動くことができるらしい。

 

この推測は、実体験によって得られたものだ。

呼吸が止まる。目の焦点が合わなくなり、体の力が抜けていく。体の隅から隅まで、自分のものではなくなっていくかのようなあの感覚。

 

もしあの時、近くにザックがいなかったら。

 

彼のストレージ内に、GBNから持ち越した飲料水が入っていなかったら。

 

急に体調を崩した人間に、水を与えるという

ステレオタイプな考えが、ザックの頭になかったら。

 

どれか一つ欠けただけでも、私の命は消え失せていただろう。命を失うのは、怖い。あんな臨死体験は二度とごめんだ。

 

* * *

 

日記ログ13日目

 

昨日から私達のスケジュールに『食事』が追加された。

 

お陰で稼働時間の大幅な低下が見られた。一日の全てを基地脱出のために使えないのは痛手だが、死んでしまっては元も子もない。

 

私が倒れた期間から計算した食料の残量は、一カ月半分。これは各々のストレージに入っていたものだ。

 

因みに、一番貢献してくれたのはザックだった。整理整頓が苦手な彼の溜め込み癖には辟易していたのだが、よもやそれのお陰で食い繋ぐことが出来るとは。

 

ついでに、睡眠時間も見直すことになった。あっちの世界でも睡眠自体はしていたのだが、脳内データの処理という名目上、時間を気にしたことはなかった。

 

普通の人間は8時間も眠るらしい。流石に一日の三分の一を使うのは難しいので、睡眠時間は6時間を目安にすることになった。

 

* * *

 

━━スルト達が目覚めてから14日が経過。

 

寝床から這い出したスルトは、ステータスウィンドウに表示された時計を確認し目を見開いた。時計は起床時間から既に30分経過したことを示している。

 

「……」

 

ザック用のベットはもぬけの殻だ。起こしてくれてもいいのに、と無意味な責任転嫁をしつつ、勤勉な相方に小馬鹿にされないためにも、急いで身なりを整え、修理の進む廊下に身を乗り出す。

 

「きゅ!」

 

ガードアイが修理用のトーチ片手にスルトに挨拶をした。スルトも、片手を挙げて挨拶を返す。

 

「あぁ……おはよう」

 

彼らとのコミュニケーション(全く言葉はわからないのだが)にも、そろそろ慣れなければならない。

 

ここに来て、そろそろ三週間になる。

 

タイムリミットは刻々と迫っているはずなのに、何一つ問題は解決していないのに。

 

スルトはどこか、ここに来た当初の焦りが無くなっていくのを薄々自覚し始めていた。

 

いけない事だとは思いつつも、どうにも逃れることのできない楽観視━━いや。"楽観"ではない。

 

楽しいのだ。この生活が。

 

この世界にきて、初めて生きるということを知った。造られた生命であるはずの自分が、人として生きていると心の底から思えるのだ。

 

ザックもセレーナも、同じ気持ちを抱いていてほしい。そんなことを考えながら、スルトはモニタールームに入って行った。中からは、二人分の話し声がする。

 

「すまん、遅れ………」

 

「「あっ」」

 

「た………………………」

 

スルトはこの世界に来て、沢山の知らなかったことを知った。その自負があった。

 

だがこの日、彼のメモリに新たな知識が二つ分追加されることになる。男女の恋愛関係と、第三者の目線でそれを見守る方法だ。

 

しかし、寝坊したせいで二人の友人同士の接吻を目撃してしまった彼の対応は、お世辞にも良いものとは言えなかった。

 

コンマ数秒後、スルトの絶叫が基地を揺らした。

 

 

* * *

 

日記ログ20日目

 

今日は災難だった。自分の喉が、あれほどのキャパシティを持っているなんて思わなかった。

 

愛という名の感情の知識は持っていた。そもそも我らはシンラ様の傷ついた心を愛で埋める為に作られたのだ。知らない訳がない。

 

だが、私の知っている愛はどちらかと言えば

家族愛と呼ばれるもので、ザックとセレーナのものは少し毛色が違う。

多少狼狽えてはしまったが、これは喜ぶべき事だと思う。二人は私にとってかけがえのない仲間だ。例え愛情を抱いていなかったとしても。

 

* * *

 

日記ログ21日目

 

昨日は動揺で思い至らなかったが、人を愛すということは、我々が本物の人間になったことの何よりの証明ではないのか。

 

生きる為に、食卓を囲む。一つの目標に向け団結する。互いの関係を築く。寝る。起きる。人間とは何か、哲学をするつもりはない。

 

だが、今あげたどれもが、生命を与えられた者だけに許された行為であるはずだ。

 

そして私は今、言葉を使って一日を記している。シンラ様に我々の作戦の経過を知ってもらう為に始めたこの作業は、いつの間にか私を人間たらしめるものになっていた。

 

私達は生きている。この薄暗い基地の中で、確かに人として生きているのだ。

 

* * *

 

日記ログ30日目

 

ここに来てようやく一カ月になった。今思い返しても、激動の一ヶ月だったと言わざるを得ない━━特に、最近は。

 

ここ数日の日記で、私は全く基地脱出の進捗を記していない。実際は着実に進んではいるのだが、他にも書きたいことが山ほどあって、進行状況を記すことを蔑ろにしていた。

 

こんな物をシンラ様に見せたら、皮肉のひとつも言われるに違いない。なので、久しぶりに基地脱出の進捗をここに記す。

 

基地の修理は、未だ完了していない。使えるのは本当にわずかなスペースのみ。私達の寝床、モニタールームと、それを繋ぐ廊下だけだ。

 

ガードアイ達には今、ガンプラの製造と、発着を担う場所を修理してもらっている。

 

これはそれほど難航していない。時間が解決してくれるだろう。

 

ゼルトザームのデータ解析は、既に100%完了している。あとは鏡砂を使ってガンプラとして実体化させるだけなのだが、ここで問題が起きた。

 

鏡砂の量が、圧倒的に足りないのだ。

 

ゼルトザームそのものを実体化しようとしても、まるで数が足りない。おそらく、1機分にも満たないだろう。

 

ガードアイ用のガンプラのデータを改竄することも考えたが、あれは人が操縦できる物ではないし、そもそもスペックが低すぎる。あれでは、目的である大気圏突入に耐えることができない。それに対し、ゼルトザームはオーバースペック過ぎる。

 

今私達は、ゼルトザームをスペックダウンさせつつ、なんとか2機分を用意しようとしている。三機分ではないのは、コックピットに一人だけなら入れる仕様のおかげだ。

 

後の問題は、やはり食料だろうか。食料の残量は一ヶ月分を切った。

 

シンラ様の奪還のことを考えると、GBNにはあと一ヶ月以内には帰りたい。

 

となると、食料の不足はあってないような物だが、目に見えて残りが少なくなれば、心配は増える。

 

アルに尋ねた所、モニタールームの先、廊下の突き当たりには、貯蔵庫があるらしい。

 

だが、その廊下は瓦礫まみれで通ることができない。もし退かすなら相当の時間が必要になるだろう。

 

 

* * *

 

日記ログ40日目

 

予想以上に、ゼルトザームのスペックダウンは難航している。ここまでくると1から作った方が早かったと思ってしまうが、もう後の祭りだ。

 

基地の修理状況は90%を超えた。後はガンプラを作るだけ。だが、その一歩が遠い。

 

食料問題もより深刻になった。残りは多く見積もっても15日分にまで減ってしまい、仮にこれが尽きるまでに脱出できたとしても、エルドラに着いてからが心配になる量になってしまった。

 

エルドラ人との接触の前に、餓死するようなことは避けたい。最終的に、3人で話し合って貯蔵庫を開けることにした。

 

明日から、ヒトツメ3機とザックが瓦礫撤去の任に就くことになる。

 

* * *

 

━━スルト達が目覚めてから、45日が経過。

 

「……ふう」

 

こめかみを手で押さえながら、スルトがモニターから目を離した。夜通し作業したツケが、疲労という形で支払われているのだ。

その様子を見たセレーナが、心配そうに言った。

 

「少し休憩する?」

 

彼女の魅力的な提案に、スルト無意識の内には頷いていた。

 

「そうだな……ザックも呼んでくるか……」

 

今すぐ寝室に駆け込みたい気持ちを押さえながら、フラフラとした足取りでモニタールームを出る。

 

ドアのすぐ横に積まれていた瓦礫は、ザック達の献身のおかげで撤去されていた。まだ小岩がゴロゴロと転がっているものの、通行不能だった廊下は30メートル程歩けるようになっている。

 

数十メートル程後退した瓦礫の麓に、人影が見えた。

スルトは近づくと、ザックは振り向いた。

 

「お、スルト!休憩か?」

 

そうだ、とスルトが答えると、作業着に身を包んだザックは、「じゃあ俺も」と傍にいたヒトツメの横に腰を下ろした。

 

「順調そうだなザック」

 

「こいつらのお陰だよ。な?」

 

ザックが傍のヒトツメを撫でた。「きゅきゅ!」と嬉しそうな反応を見せるヒトツメ。

 

「そうか……」

 

ヒトツメをエルドラに連れて行くことは出来ない。

 

ならばこそ、この芽生えた絆を忘れないようにと、スルトはその微笑ましい光景を瞳孔に焼き付けた。

 

少しだけザックとの談笑を楽しんだ後、スルトは寝床に直行した。爆発音が廊下に響いたのは、それから数分後のことだった。

 

* * *

 

被害報告

 

ヒトツメ2機が大破、1機が損傷軽微。

 

ザックが爆発で片腕を持っていかれた。

鏡砂による治療は施したが、目を覚まさない。

 

通路は大穴が開き、宇宙空間に空気が持っていかれた。酸素供給装置をフル稼働させ、修理した通路共に事なきを得た。

 

貯蔵庫の壁も壊れ、物資の殆どが宇宙に投げ出された。残った物資も経年劣化が酷く、使えそうなものは何も無い。

 

ザックとガードアイの傷跡と、壊れた修理用トーチ、この三つの証拠から原因は瓦礫に密閉されていたメタンガスの様な可燃性の気体への引火と推測。

 

ザックの治療に手間取り、残り少ない鏡砂の総量は更に減った。

 

これではガンプラひとつさえ作れない。

 

 

 




ジークアクス、あんましリアタイ出来ていないのですが、緑のおじさんも宇宙漂流したらしいですね。

被っちゃった……(・ω・`)

前作を見ていない方にも楽しんでもらえるよう、前作のオリ設定、オリ用語は出さない方針です。混乱させてしまったら、申し訳ない!

一見矛盾している様に見えてしまうかもしれませんが、そこはちゃんと掘り下げるので少々時間をください……!!
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