ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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生存①

スルト達が目覚めてから??日が経過。

 

食料残量、21日

 

「あぁ……ハ……ハ」

 

それは、知性ある者の振る舞いとは思えなかった。

 

震え、鳴き、喘ぐ。

 

かつて人間になったと自称した"ソレ"は、血と砂の混じった床に身を屈めていた。

 

どうして、こうなってしまったのか。

 

彼の問いに答える者は既に、この世から居なくなっていた。

 

* * *

 

スルト達が目覚めてから、46日が経過。

食料残量、残り9日。

 

「ねぇ、スルト……?」

 

「どうした」

 

セレーナの発言に、スルトは溢れんばかりの苛立ちを込めて返した。

だが、セレーナにそれは伝わらなかった。

 

「このままじゃ……私たち……」

 

ゼルトザームの設計図を凝視しながら、スルトが口を開く。

 

「手、止まってるぞ」

 

「だって……!無理だよ、もう……!これ以上、この機体に削るところなんて……!!」

 

「じゃあどうすればいい!!ザックを見殺しにすればよかったのか!?」

 

「そんなわけ……!」

 

先日の事故の影響はザックやガードアイの損傷だけに留まらず、二人の関係悪化にまで及んでいた。

 

貯蔵庫が空だったせいで食料は後9日分しかない。それが尽きてしまったら一週間以内の絶命が確定してしまう。

 

脱出をしようにもただでさえ不足していた鏡砂はザックの治療で更に減ってしまった。

 

今二人を突き動かしているのは純粋な死の恐怖に他ならなかった。そんな状況で一致団結できるはずもなく━━。

 

「……すまん、取り乱した……。少し一人にさせてくれ……」

 

今度のスルトの懇願はセレーナに届いた。

「ごめんね」と一言だけいい、彼女はモニタールームから姿を消した。

 

沈黙に包まれた部屋の中で、スルトは独り言を言うかの様に呟いた。

 

「なぁ、アル……俺はどうすれば良かったんだ……?」

 

『質問の意味がわかりません』

 

普段と変わらぬアルの様子が錯乱しかけていた自身の情けなさに拍車をかけ、スルトは苦笑した。

 

これはアルの常套句だ。

 

高性能AIである彼だが、言葉の真意を予想し発言するというプロセスは不得手らしい。

 

だがこのまま何も発言しなければそれはそれで不機嫌(なように見える)な反応をするので、スルトは適当な質問をすることにした。

「……鏡砂はどうやって作る?」

 

『高純度の月の石、それを六月かけて精錬することで出来上がります』

 

こちらもまた、幾度となく聞いた台詞だ。と言っても、聞いたのと同じ回数スルト達が質問しただけなのだが。

 

半年。あの便利な鏡砂がその程度の時間で出来上がるのならば破格の効率だ。しかし、時間が残されていないスルト達にとっては無意味な情報でしかなかった。

 

━━何かの間違いで鏡砂のできる時間が短縮されていればいいのに。

 

そんな祈りが届いたのか、アルが珍しく自分から発言した。

 

『鏡砂が……欲しいのですか?』

 

スルトは驚いた。先程の前提を覆す反応をアルが見せたからだ。

 

「あぁ鏡砂さえ、鏡砂さえあれば……みんなで帰れるんだ……」

 

『一つだけ、鏡砂を手に入れる方法があります』

 

「……何だって?!」

 

スルトの追い求めるものをアルは提示した。しかしその方法は、彼らの仲をより引き裂くことになる。

 

『分解するのです。ガードアイ達を』

 

* * *

 

一方その頃、セレーナはザックのお見舞いに来ていた。

 

「う……」

 

「ザック……!起きたの……?!」

 

ザックの瞼が、ゆっくりと開かれる。

 

「あれ……俺の腕……あ、る……」

 

ザックは自身の腕を見ただけで、多くのことを察してしまった。

 

「ごめん……」

 

「謝らなくていいよ……!気に病むことなんて何も……!」

 

「アイツらは……?俺のこと、助けてくれたんだ……」

 

セレーナは、ザックと共に作業していたガードアイが、どうなったのかを話した。

 

「そうか……あの世で……謝らなくっちゃあな……」

 

セレーナは泣いていた。

 

これでもかと傷ついた彼に、もっと残酷な事実、貯蔵庫には何もなかったことを伝えなければならない事が心苦しかったからだ。

 

* * *

 

スルトが目覚めてから47日が経過。

食料残量、8日。

 

モニタールームに、セレーナの叫び声が響く。

 

「嫌だよ!そんなの!」

 

スルトも売り言葉に買い言葉で怒声をあげてしまう。

 

「これしか……これしか方法がないんだよ!ガードアイ達を鏡砂に変えるしか……残された道は無いんだよ!!」

 

「スルトだって……あの子達にはお世話になったんじゃないの?!何でそんな簡単に割り切れるの!?」

 

「それは……」

 

確かに、ガードアイを鏡砂に変えるこの策はセレーナにとって受け入れ難い物だとは分かっていた。

 

「きゅる!」

 

脳裏に、挨拶を交わしたガードアイの眼差しが浮かぶ。

 

「しかし……しかし……!」

 

今は感情を優先すべきではない。そう主張しようとした、その時だった。

 

「大分……揉めてんな……」

 

「ザック!」

 

息も絶え絶えなザックがモニタールームに入ってくる。倒れそうになった彼にセレーナが駆け寄り、肩を貸した。

 

「なぁスルト……今ある鏡砂で、ガンプラ何機分なんだ……?」

 

ザックの瞳孔は酷く揺れていた。真実を告げてしまえば、そのまま崩れてしまいそうなほどに。

 

だが、スルトは素直だった。

 

「……多く見積もっても、1機分。鏡砂だけじゃない、食料だって……」

 

「ならよ……頑張れば、二人は助かるってことだよな……?」

 

「……ザック?」

 

ザックの目が、何故か生気を取り戻した。覚悟を決めた漢の目になった。

 

「俺がヘマしたせいでこうなってんだ……責任ぐらい、取らせてくれよ」

 

ザックが目を伏せ、懐を探った。彼の手が拳銃を握りそのまま躊躇いもなしに、銃口を咥える。

 

「駄目っ!」

 

ザックがトリガーに指をかける前に、セレーナが彼の手を叩いた。

 

脳天を貫くはずだった弾丸は天井へと進み、反動を抑えられなかったザックは拳銃を手放してしまう。無重力に包まれた拳銃はスルトの手元に吸い付くように飛来してきた。

 

「ザック……流石に思い詰め過ぎだ」

 

拳銃を手に取り、ストレージにしまう。ザックは項垂れたまま、目線を合わせることすらしなかった。

 

「……セレーナ、看病してやってくれ」

 

「う、うん……それじゃあ……」

 

彼女に連れられて、ザックは部屋を後にした。二人が部屋に入って行ったのを確認し、スルトはモニターに向かって囁いた。

 

「……アル、頼みがある」

 

* * *

 

「……よし」

 

日記を書く手を止め、タブレットを部屋に放り投げる。ザックの看病をセレーナに任せたのは正解だった。

 

ここ数日スルトが寝泊まりしていたモニタールームから、音を出さないよう慎重に抜け出す。息を殺しながら廊下を進むと、数分もしない内に目的地に辿り着いた。

 

ドアの横から、ガードアイが顔を出す。

 

「きゅ!」

 

「しー」

 

「キュ……」

 

人差し指を口の前で立たせるジェスチャーを、ガードアイは瞬時に理解した。その様子が、スルトの心を更に締め付ける。

 

「……みんな、揃ってくれてありがとう」

 

スルト達が目覚めた部屋、通称鏡砂部屋に集まった数十機のガードアイ達になるべく小さな声で挨拶をする。

 

「知っての通り、私達の目的はこの基地を脱出することである。そして……君達はそれを成し遂げようと身を粉にして働いてくれた。感謝しても仕切れない……本当に、本当に……ありがとう……」

 

一字一句違わず、スルトの本心だった。

 

「だが……このままでは、私達の目的は果たせない。鏡砂がないからだ。ここまで働いてくれた君達に、こんな事を頼むのは間違っているのかもしれない……でも……」

 

本来、鏡砂があった場所を、踏みしめながらスルトが言う。次の瞬間硬い床に膝と手、頭をつけたスルトが言い放った。

 

「私は……3人でエルドラに行きたい。だから……みんなの命を、私達にください」

 

本心であり、エゴでもあるその言葉。アルに集めてもらったガードアイ達は、感情があるかのように互いを見つめあった。

 

アルの命令は絶対だ。彼を使えば、こんな茶番をせずともガードアイを鏡砂に変える事が出来る。

 

だが、スルトはそれをしなかった。

 

あくまでお願いという形で、ガードアイの解体を為そうとしていた。

 

これはエゴだ。自分が手を汚さない為の苦肉の策だ。

 

━━それを、分かっていながら……

 

「「「きゅ!!」」」

 

ガードアイ達は、一斉にスルトの背後のコンソールに飛びついた。

 

一機、また一機。ガードアイ達は自ら解体装置であるコンソールに飛び込んで行く。自己犠牲のパレードは、彼らの全てが砂粒に変わるまで続いた。

 

スルトの瞳から雫が垂れる。掬い上げた砂つぶが、こぼれた涙を受け止めた。

 

* * *

 

数十分後。

 

スルトは再びザックの部屋を無言で通り過ぎようとした。壁に手を付き、仄かな灯りを頼りにモニタールームへの道を辿る。

 

━━ぴちゃり。

 

「……?」

 

足元が濡れている。スルトは身を屈めて、液体の色を見た。

 

赤だ。黒の混じった、美しい赤。

 

「ザッ………!」

 

それは、知性ある者の振る舞いとは思えなかった。

 

「ク」

 

震え、鳴き、喘ぐ。

 

部屋に転がる二つの遺体。かつて人間であった頃の名をザックとセレーナと言う。

 

スルト達が目覚めてから、47日が経過。

 

食料、残り21日

 

* * *

 

スルト達が目覚めてから49日が経過。

 

『どうかされましたか?』

 

キーボードを叩く。

 

「……」

 

『何かあったのですか?』

 

キーボードを叩く。

 

「……」

 

『昨日はずっと横になっていましたが』

 

喉から、しゃがれた声を出す。

 

「うるさい」

 

『あの二人は……どこへ行ったのですか?』

 

キーボードを、スルトは思い切り殴った。

 

「うるさいっ!!馬鹿AIが!」

 

スルトは、アルの発声を遮り、キーボードで命令を出した。アルは命令通りに事を進める。

 

『規定量の鏡砂を確認。ゼルトザーム•ザセスの建造を開始します』

 

* * *

 

日記ログ49日目

 

つかれた

 

* * *

 

スルトが目覚めてから50日が経過。

 

その日、スルトは聞き覚えのないアラートで目覚めた。

 

「何だ?!」

 

空に浮いていた体を無理矢理起こし、目の前のモニターに向かって叫ぶ。

 

「アル!!アル!!このアラートは何だ!!」

 

『未確認の生物を捕捉。』

 

「なっ……カメラ回せ!」

 

無数のモニターの内の一つが、宇宙の映像を映し出す。映像を見たスルトは、脳内の語彙から捻り出した名称を口にした。

 

「ドラ……ゴン?」

 

カメラが、雷を纏う黒龍を捉えた。龍は一直線にこちらへ向かってくる。

 

「何だ……?何を……?」

 

黒龍が、身を捩らせた。

 

「まさか、まさか……!」

 

雷鳴が、まるで獣の咆哮のように響いた。黒龍の纏う稲光は、その強さを爆発的に強めていき━━

 

「やめろおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

雷撃が基地を襲った。

 

ぷつり、とモニターの映像が切れる。

 

「あ……あぁ……」

 

モニターの中央にある建造所を写していたカメラに、粉々になったゼルトザームの破片が叩きつけられた。

 

* * *

 

人間は、現実を受け入れられなくなった時、過去や未来に救いを求める。

 

それはこの世界で人間になったスルトも同じだった。

 

どうすれば、この状況で生き抜く事が出来るのか。限界寸前のストレスに 締め付けられた脳で、スルトは必死になって考えた。"これまで"と"これから"に希望を見出そうとした。

 

スルトは自身に問うた。

 

どうやって生きてきたんだっけ。

 

ずっと、シンラ様の言いなりになってこの世界まで来た。

 

ここで、私は何をした?

 

友を死に追いやり、仲間に犠牲を強いた。

 

過去は、スルトを救ってはくれなかった

 

スルトは自身に問うた。

 

どうやって生きてくんだっけ。

 

エルドラに行く?

 

いや、違う。それはあくまで目標を果たす為の通過点に過ぎない。

 

目標はシンラ様の救出。

 

だが、私はその手前の基地脱出すら。

 

もうできない。もう間に合わない。

 

未来は、スルトを見捨てた。

 

薄暗い部屋の中。酷く憔悴した人間が、膝をついていた。

 





前作に続き、すぐ自死の選択をしてしまうシンラの仲間たち。可哀そ……

ザックとセレーナの最後の会話は、皆さんの想像にお任せします。
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