ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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生存②

日記ログ50日目

 

クアドルン及びシドー•マサキからの襲撃を確認。

 

敵の破壊活動により基地内部損傷甚大。

 

エルドラ内でのガンプラを使った諜報活動が原因と推測。

 

メインプログラムをタブレットに写した後、スルトを鏡砂に変化させ、敵の捜索を回避。

 

「スルト」の再実体化時に、メインプログラムを混入させることに成功。思考の共有は完了済。

 

* * *

 

「日記ログ……」

 

55日目、そう発言しようとした私の声はシンラによって阻まれた。

 

「もういい、タツカ。ありがとう」

 

「……えぇ、どう致しまして」

 

100に及ぶはずの朗読劇は、意外なことに半分足らずで終わった。喉の酷使を考えるとありがたいことこの上ないはずなのだが、そんなものが気にならなくなるほど50日以降に記された日記は不気味だった。

 

あれはもはや日記と呼べるものではない。

 

アレを直した、コレを作った。そんな報告書のような短文が4日間続いた所で、シンラに朗読を静止された。

 

気を取り直し、音読に使っていた思考リソースを考察に回す。

 

50日以前の日記に書かれていたのは、宇宙漂流したスルトの日常だ。

 

喜怒哀楽のこもった文体は、彼の仲間が亡くなった頃から悲哀の文に変わり、50日を皮切りに無機質な文字の羅列に固定された。まるで人が変わったかのように。

 

いや、違う。"まるで"ではなく……

 

「「乗っ取られた」」

 

偶然にも私とシンラの声が同時に発せられた。

 

「タツカ……君もそう思うか」

 

ヘッドセットから再度シンラの声が出てくる。

 

「ええまぁ……思考の共有だとか物騒な記述がありますから」

 

タブレットを操作し、該当のページを見ながら呟く。50日目のログは今回の事件のほぼ全てを物語っていると言っていい。

 

日記に書かれていた『ガンプラによる諜報活動』とは、フレディ達の言う『ヒトツメ復活』の言い換えだろう。

 

クアドルンとマサキ云々は言わずもがな。そして、ヒトツメ復活のからくりを探していた彼らをこの日記を書いた人物は鏡砂を巧みに使い見事回避した。

 

それほどまでに鏡砂に精通した高性能AIには心当たりしかない。

 

確たる証拠を見つけられなかったクアドルン達は、不思議に思いながらもヒトツメの手で修復していた基地を破壊したはずだ。

 

それを見たスルトは、何を思ったのだろう。

知る術はもうないが、彼の残してくれた絶望の記録は、確かに私達の希望になってくれた。

 

「タツカさーん!!」

 

「フレディ!大丈夫だった?」

 

モニタールームに入ってきたフレディを私は出来る限りの笑顔で迎えた。

 

実は日記を読んでいる間、手持ち無沙汰だったフレディに頼んで他の部屋を探ってもらっていたのだ。

 

と言うのは建前で、凄惨たる日記の音読を聞かせたくなかっただけである。

 

40日を超えたあたりのログは、人間の醜悪さを如実に表している。

 

それを共感性の高いフレディに聞かせるには……

━━今までの自分の行動に、疑念を抱いている彼に聞かせる気にはなれなかった。

 

ヒトツメが闊歩しているかもしれない廊下に、一人で向かわせるのは不安だったが、シンラのサポートもあり無事見つからずに帰ってくることができたようだ。

 

日記の内容は、後でかいつまんで教える手筈になっている。

 

「探索、完了です!」

 

少々過保護すぎる逡巡をしていた私にフレディはふんす、と可愛らしい敬礼をした。

 

少しは気を持ち直してくれたかな、とまた過保護な言葉が脳裏に浮かぶ。

 

「何か見つかったのか?フレディ」

 

共通無線に切り替えたシンラの声が、私とフレディの耳に入る。

 

「はい、ええと……こんなものが……」

 

フレディが持参したポーチをゴソゴソと漁った。取り出された紫がかった黒い球体を受け取る。

 

ぱっと見の印象は、ガードアイの触手をもいで何百分の一と圧縮した感じだ。ただし、名の由来でもあるモノアイがカメラのレンズのような多重構造になっている。

 

「うーむ」

 

とは言え、ただのカメラがそこら辺に落ちているとは考えにくい。きっと何かしらの仕掛けがあるはずだ。そう考え紫玉をこねくり回していると、レンズにさながらボタンのような遊びがあることに気づく。

 

「ん?」

 

「どうした?タツカ」

 

「いや、なんかボタンみたいなものが……」

 

━━カチリ。

 

「じゃあタブレットと一緒に持ち帰ってきてくれ。危険物の可能性もあるから、ボタンは絶対押さんように」

 

「あっ……」

 

言われてみればそうだ。

 

身の危険を察知した脳は、その処理能力を存分に発揮し、この手に握られた球の正体をはじき出す。

 

ボタンのついた、丸くて、投げやすい形の物体。

 

━━グレネード?

 

「うわああぁぁぁ!」

 

全力投球した紫球は無重力空間の恩恵を頂戴し、ゆっくりとだが確実に飛翔し、壁にぶつかった。

 

意外と弾性のあったボールは、壁に触れ、ボヨンと跳ね返ってきた。

 

「うわああぁぁぁ!!…………れ?」

 

紫ボールは確かに内部から光を発した。しかし、爆発は起こらず、代わりに紫色のウィンドウがレンズから飛び出している。

 

「……タツカ」

 

「なんでしょうかね、これ。」

 

シンラの冷ややかな声を無視しつつ、ボールから出てきたウィンドウを凝視する。

 

ウィンドウには、謎の象形文字が刻まれており、何が書かれているのかわからない。

 

フレディも疑問符を浮かべているので、エルドラの言語ではないだろう。

 

にも関わらず、私はこのウィンドウに既視感を抱いていた。けれど、こんなデザインのウィンドウなんて、GBNでしか……

 

「あっ……」

 

瞬間、脳裏にある場面が浮かんだ。

 

黒い巨人の手に握りしめられながら喚く男。私はそれを、手放そうとして……

 

「ワープ装置……?」

 

* * *

 

「なるほど……確かにそうだ」

 

MS形態でカーゴに入っているシンラが、運転席のモニター越しに紫ボール、もといワープ装置を分析している。

 

タブレットとワープ装置、その他諸々を抱えた私たちは、一旦の休憩も兼ねてシャトルに戻った。

 

「これで……じーびーえぬに行けるんですか?」

 

フレディのこの言葉に若干の羨望が混じっていたのは気のせいではあるまい。ビルドダイバーズの世界に行けるなら、フレディは喜んでいくだろう。

 

「ああ、行ける。だが……これはプロトタイプ、未完成品だな。使うわけにはいかない」

 

「そうですか……」

 

シンラの言葉に肩を落とすフレディ。

 

「まぁ、頑張れば完成品を作れるがな」

 

「本当ですか!?」

 

「どちらにせよ、僕たちも帰らなくちゃならないからな……まぁ、それはスルトをなんとかした後の話だが」

 

そういえばそうだ。エルドラからGBNに帰るのも私たちの目標だった。

 

一度クアドルンに頼んでGBNへの帰還が可能か試したのだが、私たちはどうやら本来の召喚プロセスから逸脱しているため、正規の方法では帰れないという結論がでた。

 

ので、帰れる目処がたったのは嬉しいのだが、腑に落ちないこともある。

 

こんな便利な装置があるならば、スルトの仲間達が野垂れ死ぬ必要はなかったのではないか?

 

そう思いながら日記のログを辿ると、90日あたりでワープ装置のことが記されていた。

 

となると、コレを作ったのはスルトではなくアルだということになる。

 

アルがスルトにワープ装置の存在を教えなかったのは、彼らのコミニケーション不全か、それとも……

 

「そういえば、日記にはなんて書いてあったんですか?」

 

「タツカ。説明頼む」

 

この人(?)はいっつも……

 

やれやれと肩をすくめながら、私は所々をごまかしつつ、フレディに50日分の日記の要約を話した。

 

「じゃ、じゃあ僕たちが今まで戦っていたのは……」

 

リアクションの割に、フレディはさして驚いているようには見えなかった。スルトがヒトツメを操った時点である程度予想をつけていたのかもしれない。

 

私達は最終的に、アルスがGBNに転移した時の残滓、不完全なバックアップがスルトとの邂逅で目覚めてしまったと結論づけた。

 

「それで……どうするんですか?このタブレット、強硬派に叩きつけます?」

 

私の提案に、シンラは苦笑する。

 

「いや、それだけじゃ足りないだろう。元を取り除かない限りはこの争いは続く」

 

「元……?」

 

「スルトだ。スルトと融合したアルスを分離させる」

 

「できるんですか?そんなこと」

 

「できるさ、タツカ。少し言う通りにしてくれないか」

 

「……?は、はい」

 

「まずはウィンドウを出して」

 

モニター越しに出される指示に相槌を打ちながら従うとステータス→機体設定→武装欄と進んだ。

 

「そこに、finish moveの選択欄があるはずだ」

 

「finish move……?はい、二つあります」

 

「02の方をタップ」

 

 

私が指を動かすとステータスウィンドウが変形し、画面に『パルマフィオキーナ:ブレイクboost』という文字が浮かび上がる。

 

「ってなんなんですか?これ」

 

「今プログラムしたのは、いわゆる必殺技。

効果は"プレイヤーデータの改竄"だ。」

 

━━データの改竄。

 

エルドラにおけるガンプラが鏡砂によって顕現した実態ある兵器とはいえ、その性能はGBN準拠である。要は『こっちでできることはあっちでもできる』が大前提だということ。

 

言うまでもなく、ゲーム世界でのデータの書き換えなんて行為は不正である。

 

「な、なんでそんなチートじみた物を……」

 

私の質問にシンラはそっけなく答えた。

 

「少しツテがあったのさ。とにかく、コレをスルトに当てさえすれば、寄生したアルス……否、アルを取り除けるはずだ」

 

「……そんな簡単に?」

 

「理論上はな。前例もある。」

 

この場合の前例って一体…… 私は訝しんだ。

 

* * *

 

空気が通っている場所はあらかた調べ終わったので、今度はMSを使っての調査だ。正直、調査範囲のことを考えたら、ここからが本題だ。それに、もしヒトツメの活動が確認されたら、破壊しなければならない。

 

「よし、フレディ。問題ないか?」

 

「はい!フレディ!エルドラGM!出発します!」

 

フレディの乗ったエルドラGMは、格納庫を飛び出していった。無重力を物ともせず、スムーズな動きで、宇宙を進む。

 

GBNでの話だが、宇宙空間は初心者お断りの難易度を誇る。ここまですんなりいくのなら、フレディには天性の操縦の才があるに違いない。

 

「じゃあ、私たちも行きましょう」

 

MS形態になったシンラに乗り込み、操縦桿を握ったその時だった。

 

「……まて」

 

「なんです?」

 

「何か……来る」

 

一筋の流星が、宇宙に描かれた。





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