ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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VSゼルトザーム②

モニターの片隅に手紙のようなアイコンが現れ、点滅し始める。それを見た私はすぐさま叫んだ。

 

「フレディから連絡です!現在地と、スクリーンショット!」

 

シンラは刀を振いながら、矢継ぎ早に答える。

 

「急用か?!」

 

「い、いや、これは……!?」

 

その問いに、私はすぐに答えを出すことができなかった。フレディから送られてきたものが、あまりにも情報量が大きすぎたからだ。

 

狼狽える私とは対照的にシンラはすぐさま判断を下す。

 

「彼には悪いが後回しだ!位置のマッピングだけし──

 

ガキンッと、シンラの言葉を鈍い金属音が遮った。ゼルトザームと武器を打ち付けあったのだ。

 

「…………」

 

ゼルトザームのツインアイが怪しく煌めく。スルトは発狂した後、全く口を開かなくなった。まるで、戦闘だけを考えるマシーンのように効率よく私たちを追い詰めていく。

 

「少し……目算が外れたか……な!!」

 

シンラが刀で強引に拮抗状態を崩し、バックステップした。距離の空いたその瞬間、全速力での逃走を選択。 スラスターが悲鳴をあげるが、こうもしなければゼルトザームに追いつかれてしまう。

 

大地震を思わせるほど揺れ動くコックピットの中で私はシンラに向け叫んだ。

 

「ど、どうすんですか?!」

 

「作戦続行だ!衛星基地に入るぞ!」

 

衛星の縁に沿うようにして加速していたシンラが急制動をかけ、それによって生まれたGをなんとかやり過ごすと、モニターはいつのまにか白亜の通路を映していた。

 

基地内部に入ったのだ。事前に脳に叩き込んでいたマップを思い返す。天井の高さを見るに、ここはMS用の通路だろう。

 

──だが、しかし……

 

「いいんですか、この道は……」

 

私のシンラへの問いかけは、不意に背後で起こった廊下の崩落音に紛れてしまった。反射的に振り返ると瓦礫の中から異形の赤腕が伸びており、奴のツインアイが瓦礫の合間で光っている。

 

その瞬間。冷気のような感覚が体を迸った。

 

「……っ!!ファンネル!!」

 

気合いとともに背部に格納された大小六つのファンネルが一目散に瓦礫に向けて駆け出した。

 

だがしかし、ファンネルがそこへ届くよりも早くゼルトザームの赤腕が動く。

 

赤腕は機械であることを忘れ、蛇のようなしなりをもちながら、縦横無尽に凄まじいスピードで動いた。その手の中には、崩落した通路の破片が握られている。

投石だ。

 

ゼルトザームはオバーテクノロジーを秘めた18メートル級のサイズを持ちながら、ある種原始的な投石を試みたのだ。

 

瓦礫から作られた弾丸、岩の礫達が通路を埋め尽くす。

 

私はファンネルで礫を叩き落とそうとするも、その圧倒的な数と速度に大敗し、突発的に作ったファンネルによる最終防衛ラインは呆気なく崩壊した。

 

操縦桿の合間に、武器破損ウィンドウが表示される。放った六つのファンネルの内、三つがロスト、二つが破損。

 

──あいつ……学習しやがった!!

 

私は心の中でそう毒づいた。

 

ゼルトザームの能力の高さはミーティング諸々で嫌と言うほど聞いていた。しかし、それはあくまで性能面の話だと今更になって気づく。先刻のゼルトザームの最大火力を受け止めたことで、私は奴のスペックを理解した気になっていたのだ。

 

武装面で敵わないのなら、頭を使う。当然の摂理だ。それに沿ってゼルトザーム、いや、ゼルトザームを操っているであろうスルトは環境を利用し、岩礫の絨毯爆撃と言う選択をとった。

 

例え用のない敗北感が、べったりと脳内に張り付き、嫌な冷や汗が出る。

 

「くっ……そ!」

シンラも異変に気付き、迫り来る投石物に対処しようとした。バレルロールや宙返りを駆使し懸命に回避運動に徹するも、そもそもの通路にMSを思い切り動かせるほどのキャパシティは無く、無慈悲にも被弾は重なっていく。

 

私も背部のレールガンを用いて援護したものの、やはり手数が足りず、数秒もしないうちに脚部スラスター部に岩礫が衝突し、小規模な爆発が発生する。

 

「うわっ!」

 

燃焼剤の最後の一踏ん張りにより、私たちは一時の加速を体験した。

 

幸か不幸か、通路は残り100メートルほどで途切れており、その先はおそらく、いや確実に暗闇に包まれたあの部屋だ。

 

爆発による加速に逆らわず、そのままの勢いで暗闇に包まれた空間に滑り込んだ。果てしなく続きそうな暗闇の塔を、ゼルトザームから逃れるために下へ下へと進む。

 

「ぐっ……」

 

シンラが渋い声音で右の肩アーマーを押さえた。その痛々しい仕草からは、普段の彼特有の飄々とした余裕を感じられない。

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 

「問題ないさ。痛みもない、だが……」

 

ちらりとシンラの視線が移動する。右肩から、左脚。そして……バックパック。どこもダメージを負った場所だった。

 

一方、こちらはそんなに視線を動かさなくとも、コックピット内の色だけで大体のダメージ量はわかる。

 

今のコックピット内の色は……

 

「イエローゲージってところか……」

 

シンラの推測は、恐ろしいほど正確でいて、悲しいほどに事実だった。

 

「すいません、遠距離は私の役割だったのに……」

 

「反省よりも先にやることがあるだろう。まだ巻き返しはできるはず……いいか、この部屋を使って……」

そうしてシンラが語り始めたのは、突拍子もない、言い換えればらしくない作戦変更の案だった。それもハイリスクローリターンな、戦術と言っていいのかも定かではない程の杜撰な──

 

自分のミスを棚に上げ、私は無意識に意義を唱えてしまった。

 

「そ、そんなことしたら!」

 

「早くしろ!もう奴が来るぞ!」

 

シンラの怒声と、通路から聞こえる巨大な足音が同調した。ゼルトザームがすぐそこまで来ているのだ。

 

焦る気心を抑え、私は操縦桿を動かして、あるコマンドを入力した。

 

Gラグナの特殊スキル《バックパック分離変形》 。

 

システムがコアファイター状態になったことを感知し、コックピットに変化が起こる。HPバーがぐぐっと伸び、警告色であったイエローのモニターも澄んだ青色に戻る。

ファンネルを失い、不恰好になりながらもコアファイターは暗闇の深部に臆することなく進んでいく。

 

「……無理しないでくださいね!!」

 

「あぁ、わかってる」

 

* * *

 

壁に貼り付けられたヒトツメ達に紛れてのアンブッシュ。それがシンラの言う策だった。

 

ヒトツメ達の輪郭すら覆い隠す暗闇に隠れるのは容易い。その上、Gラグナロクは全体的に暗色のカラーパターンを採用している。隠蔽率は申し分ないだろう。

 

シンラはスパークを発していた装甲を強引に引き剥がした。少しでも発光を抑えて隠れる為だ。

 

(これで、レッドゲージは確実だな……)

 

自身の命の減りを自覚しながら、シンラはヒトツメ達の間、手ごろなスペースに体を押し込んだ。 通路と部屋の敷居の真下で必然的に磔のような姿勢になる。

 

ボロボロの装甲に、不自由な体。場所は違えど、さながらGBN内で拘束されていた時と酷似している事にシンラはノスタルジーめいたものを感じ、思わず皮肉混じりの自嘲した。

 

(死者の楽園を作る……そのために、多くを犠牲にしてきた……)

 

シンラの頭に浮かぶのは、罪なき少年達と創り上げた"元"仲間達。

 

当然、スルトもそこに含まれている。もうこの世には居ないであろう、ザックや、セレーナ達も……

 

──神様……身勝手な僕が然るべき報いを受ける前に……少しだけ、もう少しだけ時間をください。その時間で、僕は──

 

ズン、ズンと鉄同士を激しく打ち合わせたような重低音がシンラの意識を現実に戻す。

音が二、三度響いた後、廊下に灯る光の中から、異形の巨人が現れた。

 

「…………」

 

ゼルトザームは沈黙を貫いていたが、その顔に苛立ちが浮かんでいるように見えたのは気のせいではないだろう。

 

ゼルトザームは滑らかな足取りで部屋の中に侵入した。距離にして僅か20メートルほど。シンラが無いはずの息を呑む。

 

不意に、ゼルトザームが左腕を持ち上げた。

無意識のうちにシンラの体が強張り、戦慄が走る。

 

「……オブジェクトコントロール•プロダクション•サスペンデッド」

 

ゼルトザームが英単語の羅列を呪文の様に唱えた。その瞬間、周囲のヒトツメの頭がカタカタと壊れたパペットの様に揺れ始める。

 

「な、何を……」

 

シンラの困惑が収まるよりも早く、壁に貼り付けられたヒトツメ達は、自らのモノアイに光を灯し始めた。

 

それによって、闇に包まれていた部屋に光が灯る。光は立体の板となって宙に浮かび上がる。そのウィンドウには、二つの文字列が刻まれていた。

 

《Production suspended》と《121:23:49 》。

 

──製造中止。やはり、ここは……

 

「そこに居たんですね」

 

コンマ数秒後、ゼルトザームの投げた槍がシンラに目掛け飛翔した。

 

「……っ!」

 

装甲を減らして身軽になったのが幸いし、間一髪、上に逃げて槍を回避したものの、最大のアドバンテージたる不意打ちを逃してしまう。

 

ゼルトザームは盾からビームサーベルを抜き放つと、逃げたシンラを猛然と追い、上昇していく。

 

幾度かの衝突を繰り返した後、ついに刀とサーベル、2種の刃が互いを壊さんと交差した。

 

「随分……貧相な姿になりましたねっ!!」

 

それは紛れもなくスルト自身の声だった。

アルに操られた哀れな道化でありながら、シンラを否定しようと溢れんばかりの憎悪を発している。

 

「くっ……」

 

それに言い返す余裕もなく、シンラの刀が小刻みに震え始めた。限界は近い。拮抗状態は数秒と続かずに、スルトのサーベルがシンラの刀を弾き飛ばした。

 

刀が、壁のヒトツメ達の合間に突き刺さる。スルトはそれの隙を見逃す筈もなく、すかさず追撃を開始した。

 

「これで終わりだっ!!」

 

ゼルトザームがサーベルを掲げた、その時。

 

「らあああああ!!」

 

ゼルトザームの背後から、威勢のいい絶叫が響く。支援機としては不恰好な羽と必殺の威力を秘めたレールガン。

 

数分前に離れたパートナーの姿が、そこにあった。

 

残り少ないファンネルをタツカは展開し、ゼルトザームの背後を突く。

 

「遅いんだよ……!!」

 

口では毒を吐きながらも、シンラの顔は戦いの最中であることを忘れ、笑みが浮かんでいた。

 

僅かに残ったエネルギーを使い、シンラも手刀での攻撃姿勢に入る。

 

──だが。

 

「その程度で……勝ったつもりかっ!!」

 

スルトは叫び、恐るべき反応速度を見せた。

 

ゼルトザームは掲げていたサーベルで、タツカのファンネルを一機残らず撃墜。残った赤い巨腕でシンラの手刀をいなし、突撃を仕掛けてきたタツカごと上へ放りなげる。

 

その衝撃で、シンラの残りわずかとなった装甲値──命の残量が1ドットに迫る。回復したタツカの支援機も、ばちばちと電流がスパークし悲鳴を上げている。

 

「無様だな」

 

スルトが氷を思わせる様な冷たい声を発す。心の底からの、侮蔑の声音。

 

「そうやって……」

 

タツカが、小さく呟いた。

 

「そうやって、人を拒んで見下すから……!貴方は足元をすくわれるんだ……!!」

 

「強がりを……!」

 

スルトは苛立ちを隠さずに再度サーベルを構える。

 

スラスターが火を灯し、燃焼剤が燃え、ゼルトザーム全体が生命を刈り取る弾丸となってタツカ達を喰らおうとした。

 

──ザシュ。

 

「な……に……?」

 

異音が発せられたかと思うと、ゼルトザームの腹部から、西洋剣の切っ先が顔を出していた。

剣はゆっくりと、だが確実に下へと向かい、ゼルトザームの下半身を切り裂く。

 

「だ、誰だ……っ!!」

 

ゼルトザームが、上手く動かない体をよそに、顔だけを後ろに向けた。乱入者である『エルドラGM』はすかさずその顔に剣を突き刺し、天井へブーストを開始。

 

「今ですっ!!皆さん!!」

 

「よくやった、フレディ!!」

 

フレディの言葉に、シンラが返す。そのまま傷ついた機体に鞭打ち、無理やり支援機をドッキングさせ叫んだ。

 

「タツカ!やれ!!」

 

「はいっ!!」

 

ゼルトザームのコックピットを掴み、引き剥がす。パイロットであるスルトの顔が見えたタツカは、待機させていたコマンドを入力した。

 

『パルマフィオキーナ:ブレイクboost』

 

シンラの右手が必殺の輝きを発し、ゼルトザームに迫る──!!

 

 

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