ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
ハルマ…前作主人公。シンラに多大なる迷惑をかけられた末、殺されかけた。
アカバネ……凄腕のガンプラジャンキー。シンラに多大なる迷惑をかけられた末、殺されかけた。
私は涙で腫れぼったくなった目をこすりながら、ハルマと名乗った男と円形の広場にあるベンチに座っていた。
彼は私の要領を得ない長話に相槌を打ちながら、真剣な眼差しで言う。
「そうか……パートナーと喧嘩別れを……」
「はい、お恥ずかしいんですけど……」
「そんなことないよ、よくある話さ。それでいて解決方法が人それぞれだから、厄介この上ない」
「そう……ですかね……」
そう言いながら、私は罪悪感に蝕まれていた。
その理由は、私の話が99%の虚構で作られていたからである。
シンラの脱獄幇助から始まり、エルドラでの紆余曲折と衛星基地での顛末は、初対面の人間に話すべきではないと判断した。
事実は小説より奇なり、とはよく言うがそれにしたって限度がある。
結局、正しく伝えられたのは私とシンラの関係性ぐらいだった。
それだって、彼がちっちゃなマスコットの姿をしていることや、ガンプラに変身できることも省いてしまっている。
「でも……これで良かったのかもしれません。結局、成り行きであの人に着いていってただけですから……」
きっと、目の前の男には、私は「痴情のもつれでゴミ箱に頭を打ちつけていたメンヘラダイバー」とでも見られているだろう。
半分は誤解だが、もう半分は殆ど事実だ。幻滅されて当然だと、自分でも思う。
「本当に?」
だからこそ、彼の眼差しが真剣なままだったのに私は息を飲んでしまった。
ハルマが空を仰ぎ見ながら、ポツポツと呟く。
「そうだな……さっき、よくある話とか偉そうに言ったけど……俺も何回かやらかしてる」
「な、何回も……?」
もし、彼がこのまま恋愛失敗談を話し始めたのなら、私はすぐさまベンチから立ち上がり、彼方へ駆け出していただろう。
しかし、彼の口ぶりは過去を嘲笑するわけでも、自分の魅力をひけらかすわけでもなく、まるで死者を慈しむように穏やかだった。
「一回目が……………リアルのゴタゴタで相方がGBNにログインできなくなってさ。その時は荒れたなぁ……どうにもならないことをどうにかしようとして……もしかして君も、そんな感じかい?」
「いえ、私は……そんなリアルとかは関係なくて……」
話を続ければ続けるほど、私の架空の話は辻褄が合わなくなるような気がしたが、ハルマは全く疑うそぶりも見せずに話を続けた。
「そっか。なら尚更……問題は深刻だな」
「え?」
「だってそうだろ?ここはGBN。リアルの何倍も繋がりの薄い世界だ。血縁もなければ、絆だって本物かどうか怪しい。……フォースやフレンド機能は便利だけれど、解除しちまえばそれで終わりだ。現実の友情とは、比べるまでもないよ」
「……………」
私は、彼の言うリアルを情報としてしか知らない。正確に言えば、エルドラもリアルとは地続きなのだが、ガンプラを呼び出したりしているのはGBNよりだし、彼の言うリアルとは乖離している。
「だからこそ……"本物"に出会っちまったダイバーは、多かれ少なかれ苦労するんだよな」
「本……物………?」
「例えば、本物の友情、愛情……もしかしたら、本物の命……本物の世界とか」
私は無意識のうちにぴくりと体が跳ねた。彼の言う本物の世界とは、エルドラのことではないのか。
彼は確かに、運営の傘下だと言っていた。しかし、私はこれを単なるナンパの口実ぐらいにしか思っていなかったのだ。
突然のカミングアウトに、心臓が鼓動を早めた。膝の上で拳を握る。そうでもしなければ動揺が隣の男に伝わってしまうような気がした。
──しかし。
「君の場合は……"本物の感情"だな。GBNの感情表現はよくシュミレート出来てるけど、泣くまでいくのはめちゃくちゃ難しいんだ。」
「む、むず……」
「あぁ、すまん!そういう意味じゃなくて……」
運営云々は私の思い過ごしだったようだが、恐怖の感情が、一転して恥の一文字に変わる。
あんな見事な泣き顔は、GBNじゃなかなか見れないらしい。私が顔を紅に染め上げると、ハルマは気まずそうにわざとらしい咳払いをし、場を取り直してから話を続けた。
「……君はあの時、本気で悲しんでいたんだと思う。それこそ、自分がどうなっても良いと思ってるぐらいに。けど、一旦落ち着いて恥ずかしくなった。"本気の感情"に。だから、当たり障りのない、"これでよかった"なんて大人びた事を言う。本心とは別にね」
「私が……嘘を言っていると?」
さっき言った、私がシンラから離れた方が良いと言う意見は、紛れもない本心のつもりだった。
それを否定されたことで、煮えていた頭が冴え、少しばかりの不快感が滲む。
ハルマもそれが分かったのか、すぐに言い加えた。
「……ちょっと言い方が悪かったか。その……離れた方が良いってのも本心ではあると思うよ。君の優しさの表面化だしな。悪い事じゃないけど、君にとって、良いことになるとは限らない」
少し不明瞭な表現だが、的を得ている。
──しかし……
「なら、私は……どうすれば……」
私の縋るような目線に、ハルマは首を横に振る。
「それは自分で決めなくちゃだな……でも、ヒントならある」
「ヒント?」
「我儘になるんだ。君みたいな、素直じゃない人はそんぐらいがちょうど良い」
どうやらこの数分で、我が最大の悪癖は彼に看破されていたらしい。
「で、でも……」
「躊躇う気持ちは分かる。他人を傷つける可能性だってあるからな。けど、君が真っ直ぐに生きてきたのなら、取り返しがつかなくなる前に、誰かが手を差し伸べてくれるはずだよ、きっと」
「でも……私に……そんな人は……」
──いない。
それを言葉にするよりも早く、ハルマの手が動いた。何をするのかと思えば、右手の指で自らを指す。
「でも、俺が来た……だろ?」
「……へ?」
どうかしてるとしか思えない台詞だ。未熟なナンパ師だってもっとマシな口説き方をするだろう。
だが、不思議と彼の言葉に邪なものは感じられなかった。それ以上に、実績に裏付けられた絶対の自負、確固たる意志を感じる。一体何を成し遂げたらそんな自信がつくのだろうか。
何はともかく、今回の一件は私に非があるのは事実だ。彼の言う通り、自分を顧みるべきなのかもしれない。少し後ろ向きな決心をした私に、ハルマは少し顔を赤らめて言う。
「……ちょっとカッコつけすぎたかな。本題に戻るけど……相方さんと喧嘩別れしてから、フレンド登録は解除したのか?フォースは抜けた?意外と、お互い冷静になってから仲直りってこともよくあるよ」
「それは……」
確かに、そのような事例はあるのかもしれない。しかし、私とシンラはフレンド登録などしていないし、フォースに至っては話題にすら上がっていない。
そもそも、私とシンラは、システム的にはダイバーと登録機体な訳で……
「あっ……!」
一瞬の閃きに身を任せ、私は手を振ってウィンドウを呼び出した。
設定が「覗き見防止オフ」になっていたが、ハルマが気を利かせてソッポを向いてくれたのを良いことに、タブを開き、お目当ての項目『登録機体座標』に辿り着く。
「あった……!」
マップ上の現在地からおよそ北に5キロ地点に、赤い点が点滅している。
『G-RAGNAROK』。
シンラの、別の名前。
これはハルマが言った「現実よりも薄い繋がり」なのだろう。それでも、私とシンラは繋がっている。
それとなしに事情を把握したハルマが、ニヤリと笑った。
「よかったな。それで……君はどうしたい?」
「私は……」
シンラは用意周到を絵に描いたような奴だ。
ゲームのデータをいじることなんて大差ないだろう。その彼が、マップに情報を落としておくとは思えない。
これは試練だ。アイツがわざと残した、私に覚悟を問う試練。
──いや、違う。そうではない。
それ以上に、私はマップにシンラの影が映った時、確かに安堵した。これが本心でないならば何が本心なのか。
「行きます……!!もう一度、やり直せるのなら……!!」
「……腹括ったみたいだな」
「はい!ありがとうございました!」
ベンチから立ちあがろうとした私を見て、ハルマが口を開いた。
「待って!乗り掛かった船だし、送るぐらいはさせてくれよ。結構距離あるだろうし」
「え……でも……」
ハルマはよいしょ、と膝に手を当て立ち上がり、ウィンドウを開く。
「ガンプラないんだろ?遠慮すんなって」
瞬間、視界が何度か歪み、流線のように滑った。
気がつくと、私たちの立っている地面は石造りのタイルから灰褐色の装甲板に変わっていた。噴水があったはずの場所には、白いガンプラが立っている。
おそらく『カテーラ』の格納庫に移動したのだろう。
ハルマは空いていたガレージの前に立ち止まり、操作パネルに手をかざした。パネルは個人IDを認識し、空白だったガレージに光の粒子が満ちていく。
粒子はほんの数秒で真っ黒なフレームを造形し、その上に白と蒼の装甲が載せた。
「……バルバトス……!!」
ハルマの愛機を見た瞬間、私は無意識のうちに驚嘆の声を漏らしていた。
幾千幾万とあるガンプラとは言え、GBNで他者とモロ被りしてしまうのは避けられない。
だからこそ、ビルダーは自分なりのガンプラを塗装や改造で作り上げていくのだが、それでもベース機が同じなら、酷似してしまうことは稀にある。
その実例が目の前で起こっただけだ。
そう頭では理解しているはずなのだが、私はハルマのバルバトスにシンラの面影を見出してしまっている。
──いよいよだな……
心中の皮肉で恥ずかしさを半減させたが、私の驚嘆の声は肯定にとられたようで、ハルマが更なる追撃を放った。
「バルバトス、好きかい?」
「え、えっと……」
今までの私なら、「いや、別に……」などとお茶を濁していただろう。
しかしながら、我儘になる──もちろん素直になれない場合のみだが──と、心を入れ替えてしまった以上、ここでその発言をしてしまうのは先ほどの決心に反するのではないか。
意を決し、震える声帯を抑えながら、私はなるべく普段通りに声を出した。
「……はい、とっても!」
「……ありがとな」
ハルマは、まるで自分が褒められたかのように笑った。
* * *
同時刻、『カテーラ』より北5キロ地点に佇む小さな山小屋にて。
質素なテーブルを囲むように、一人の男と黒いぬいぐるみが座っている。全く手のつけられていないティーカップは、その中身をぬるま湯に変えていた。
ここだけを切り取れば、童話の中の一ページと思うかもしれない。
しかし、男の顔は暗かった。額に皺を寄せ、不機嫌を顔全体に貼り付けている。
「私を殺しかけた奴らが……雁首揃えて何の用だ」
男は、爆発寸前の怒りを声に乗せながら口を動かしている。
それを理解したぬいぐるみ──否、シンラは緊張で唾を飲んだ。
言葉を謝れば、エルドラどころか自らの身すら破滅に一直線だ。
そうならない為に、シンラは今ここで、過去の罪を清算しなければならない。
慎重に言葉を選びつつも、シンラは紛れもない本心を口にした。
「勝手だとは重々承知している……けれど、君の力がどうしても必要なんだ……!!"アカバネ"!!」
アカバネと呼ばれた男は、静かに目を伏せた。