ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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誰の為に捧げた物語①

「君の力が必要なんだよ!アカバネ!君ほどのモデラーなら、"聖獣の翼"のデータを作れる……!頼む……!!」

 

シンラの懇願を聞いたアカバネは、渋面を作りながら頷いた。

 

「……ふん、信ぴょう性は薄いが、お前ならもっとマシな嘘をつく。信じてやらんこともない」

 

「な、なら……!」

 

「だが、協力するつもりはない。貴様の計画の片棒を掴ませられるのは二度とごめんだ。交渉決裂だな。とっとと帰れ」

 

「そうはいかないんだよ……!頼む!」

 

「断る。帰らないと言うのなら、運営に通報する」

 

一瞬、言葉を詰まらせるシンラだったが、すぐに次の言葉を口に出した。

 

「……それでも良い……エルドラが平和を取り戻せるなら…………」

 

このシンラの反応はアカバネも予想外だった様だ。寄せていた眉根が少し後退し、首を傾げた。

 

「お前は……何がしたいんだ……?あれほど、死者の蘇生に拘っていたお前が、今更正義感に目覚めた訳でもあるまい。お前は一体、何を企んでいる……?」

 

シンラは、空気に溶けてしまいそうなほど弱く、小さな呟きを発した。

 

「……僕の夢は、もう、叶わないんだよ」

 

「何だと……?」

 

「GBNのプレイヤーデータは、永遠に保存されてるわけじゃない……使われなくなったものは、廃棄される」

 

「それがどう……いや、待て」

 

アカバネの奇妙な反応に、シンラは頷いた。

 

「ご想像の通りだよ。僕が一番蘇らせたかった人のデータは……もうどこにも無い」

 

アカバネは、シンラの目を凝視した。俯き加減ではあったものの、その目に嘘や虚実のの気配は見えなかった。

 

「……お前が夢から覚めたのは分かった。だが、エルドラとなんの関係があるというんだ。お前には、何も関係がないじゃないか」

 

「……いや……それがあるんだよ」

 

シンラはそう言うと、懐から一冊の本を取り出した。

 

「……これは?」

 

「拘束中の僕に、事情を知らないELバースセンターの職員が何度か差し入れをしてくれた。これは、その中に入っていたものだ」

 

シンラがアカバネに本を手渡した。アカバネは本を一瞥し、口を開く。

 

「再起……"リライズ"と読むのか。だが、このSF小説がどうした」

 

「推測も混じるけど……この本は多分、エルドラに言ったことのある者……若しくはその関係者が執筆している。色々なものが、酷似していたからね。偶然とは思えない」

 

一呼吸置いて、シンラが深呼吸する。

 

「……生きる目的が無くなった僕にとって、監禁生活は全く苦ではなかった。長い長い、眠りのようなものさ。深い哀しみもなければ、心の昂りもない。そんな僕に、この本は心の温かみを思い出させてくれた……」

 

"誰かの為に頑張れる"

 

そんな主人公の姿は、シンラの絶望に沈んだ心をゆっくりと癒していたのだ。

 

「なら、脱走したのもそれの影響か?」

 

アカバネの問いに、シンラは首を横に振った。

 

「いや、それは違う。脱走は、スルトの身柄を確保する為だ。……結果的に、聖地巡礼のようになってしまったけれど」

 

監禁されたシンラの唯一の心残り。それはスルトの存在だった。

 

元々、脱走自体は計画済みだったのだ。しかしそれは監禁100日後スルト達の手助けによってなされるはずだった。

 

だが、スルトは何日経っても現れなかった。

 

当時のシンラは、信頼していた部下の裏切りと、最愛の人の消失を同時に味わったのだ。

 

多少なりともその境遇を理解したアカバネは、初めて目の前のティーカップに手を伸ばし、穏やかな口調で言った。

 

「……お前の事情はわかった。一年前とは、少し違うと言うこともな」

 

ガタっ、と物音を立て、シンラが前のめりになる。

 

しかし。

 

「早まるな。だからと言って、お前が私や友人達にした罪が消える訳じゃない。だから、協力するに当たっての条件を課させてもらう」

 

「条件……?」

 

「試験の様なものだ。私は、お前が心の底から悔いてくれると信じて"ある事実"を伝える。聞かなくても良い。お前が本当に心を入れ替えたのなら、この話は聞かない方がいいだろう。聞けば、確実にこれからの人生に影を落とす。だからこそ、お前が本当に改心しているのか……それが分かる」

 

アカバネの仰々しい問いに、シンラは迷わず頷いた。

「聞かせてくれ」

 

「ならば問おう、シンラよ。お前は、本当に母親を蘇らせたかったのか?」

 

「何だと……!」

 

シンラは拳を握り締めた。アカバネの言葉は、母親への想いの侮辱に近しい。そんな様子をみて、アカバネはため息をこぼす。

 

「……自覚がないようだな。」

 

「自覚だと?」

 

「質問を変えよう。お前は何故、あんな遠回りな計画を練った?お前なら私やコウを利用せずともエルダイバーの真髄に辿り着けたはずだ。」

 

「それは……買いぶりすぎだよ」

 

「それに、死ぬかもしれんELダイバー化をどうして実行した?運営に理論を見せてもらったが、自分の身をかけるには到底信用ならないものだったぞ」

 

「そ、それは……」

 

言葉を詰まらせ俯くシンラに、アカバネは指を突きつけた。

 

「私が代わりに答えてやろう。お前は"死にたかったんだよ"。母親が生きるのをやめたあの時から」

 

「何故そう言い切れる……!僕は……!」

 

シンラが次の言葉を発する前に、アカバネの口が開く。

 

「……けれど一人が怖かった。お前は孤独を恐れたんだ。だから、母親を蘇らせるなんて最もらしい建前を使い、人工的なエルダイバーを作り、多くの人間に迷惑をかけてまで繋がろうとした」

 

「ち、違う!ぼくは……!!」

 

「……お前は、さっき差し入れがあったと言ったな。気づいてなかったとは驚きだが……お前は拘禁されてから専属のカウンセラーが付いていたのさ。その差し入れは、そのカウンセラーからだろう」

 

シンラは絶句した。

 

自分がひた隠しにしていた"何か"を覗かれたような気がした。

 

「……でも僕は、死にたいなんて一言も言ってない!!人の心を覗ける訳でもあるまいし……!デタラメだ!!」

 

「はっ……ならばお前が敗れた後、アーティファクト達はどうした?」

 

「…………!」

 

脳裏に、一年前のあの光景が浮かぶ。部下であるアーティファクトたちが、なんの命令もなしに特攻していったあの光景が。

 

「あの後、運営がコンピュータ上でどれほどシュミレーションしても、あの結果にはならなかった。ある一つの場合を除いて」

 

「それは……?」

 

「アーティファクト達に、"自殺願望"を植え付けさせた場合だ。実験の映像を見せてもらったが、みんな面白いように自爆していったよ。そして、カウセリングの結果と合わせて運営は一つの結論を出した。」

 

「まさか……」

 

呼吸が、浅くなる。

 

「《シンラの作り出したアーティファクト達は、不思議なことに、"自殺願望"が遺伝した。親から子に受け継がれる血のように》……とな。」

 

「やめろ……」

 

瞳孔が、行き場を失う。

 

「あくまで推測だ。だがお前は、死の概念が希薄なアーティファクトを不完全なだと断じたな。命を軽率に捨てるのが、完璧な生命なわけがないと。だが、運営の調べたところによればアーティファクトと通常のELダイバーには"大きな違い"はなかったそうだ。……誰かから教えられた"不吉な願望"以外はな。」

 

「言うな…………!」

 

鼓動が、早まっていく。

 

「分かるか?人殺しの天才さんよ。お前の罪の重さが。そんなお前が、エルドラを救いたい?笑わせるなよ。自分一人救うことのできないくせに……大方、エルドラも迷惑してるだろうさ。哀れなアーティファクトたちの様に、お前の破滅に突き合わせられたんだからな!!」

 

「………やめて……」

 

弱々しくシンラが呟いた。

 

──自惚れていた。自分は、まともになれたのだと。異世界に行って頼られて。自分は生きていいのだと、認められた気になっていた。

 

だが、どうだ。過去を振り返って見ればそこに積まれていたのは罪ばかり。

自分は何も変わってなどいなかった。アカバネの言う通りだ。このままでは、エルドラも滅ぶ。

 

──全部、全部、くだらない感情を抱いた僕のせいで。

 

シンラの瞳に、じわりと涙が浮かんだ。

 

肩は小刻みに揺れ、手の震えが止まらない。

 

大きすぎる自責の念は、もはや彼の思考すら麻痺させていた。

 

──小さな、小さな手だ。自分のものとは思えない。そうだ。この手で、僕は、ぼくは……

 

「もう……いいでしょう」

 

手の震えが、止まった。

 

「……タツカ……?どうして……」

 

どこからともなく現れたのは、袂をわかったはずのパートナーだった。

 

タツカはシンラの手をとり、優しく微笑んだ。

 

「もう、大丈夫です。私がなんとかしますから」

 

そう言うと、タツカはアカバネに向き直った。

 

「はじめまして、アカバネさん。私はタツカ……彼、シンラのパートナーです」

 

「……タツカとやら。君はどこから聞いていた?」

 

「……ごめんなさい。最初からです」

 

「なら分かるだろう。君のパートナーは大罪人だ。庇う価値もない」

 

アカバネがそう言い切ると、シンラの体が跳ねた。

 

「……本当に、そうでしょうか」

 

「何……?」

 

タツカはシンラの手を握りながら、力強く言い放った。

 

「先程、シンラががアーティファクトに自殺願望を植えつけたかの様に言ってましたけど……本当に、それだけなのでしょうか?」

 

「……何が言いたい」

 

「死ぬことは、とても難しいことです。自分で死にたいと思っても上手くいかない……この人みたいに。だから、犠牲になったアーティファクト達の背中を押してしまったのは、その"願望"だけではないと思うんです」

 

「面白い考察だな。では、何が彼らをそこまでさせたんだ?」

 

数秒の逡巡の後、タツカは噛み締める様に言う。

 

「……愛です」

 

「愛?」

 

「"誰かのために頑張る"。とても素敵なことです。でも、それが歪んだ愛から出力されてしまえば、自分も他人も傷つけてしまう」

 

「つまり……アーティファクトたちはシンラを愛していたと?」

 

「はい」

 

タツカがそう断言した途端、部屋中にアカバネの笑い声が響いた。

 

「は、ハハハッ……!何を言い出すのかと思えば……愛だと?!それはそんなに便利な言葉じゃないぞ!仮にそうだとしても、こいつの罪が増えるだけじゃないのか?愛してくれた人を死に追い奴までいるのだからな!結局、庇う価値なぞ微塵もない!」

 

「庇っている訳じゃありません!」

 

タツカの叫びに、アカバネが黙り込んだ。

 

「シンラは私のパートナーです!罪があるなら、一緒に背負います!罰を受けるなら私も一緒に……!!」

 

アカバネは、信じられないものを見る目でタツカを睨んだ。

 

「…………自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

タツカはこれに即答した。

 

「もちろん」

 

「……君は仲間想いなんだな」

 

アカバネがつまらなさそうにため息をついた。

 

「全く……シンラ。彼女の言葉に感謝するんだな。どれ、見せてみろ」

 

「み、見せ……?」

 

「聖獣とやらの翼だよ。直してやる。そう言っているんだ」

 

「……いいのか?」

 

沈黙を貫いていたシンラが、戸惑いを滲ませながら言う。

 

「言っただろう。お前を見極めるのが条件だと。……まぁ、殆どお情けだがな」

 

「……ありがとう……ございます」

 

酷く掠れた、声にならないほどの小さな音。

 

だが確かに、それはシンラの口から発せられていた。




Q,何故シンラは改心したのですか?

A,うつ状態の時に、純度ほぼ100%の「ガンダムビルドダイバーズリライズ」を見て脳を焼かれたから。

何気に、原作のオサムさんのセリフであった「(自分の小説が)巡り巡って誰かを助けるかもしれない」の答えになっています。原作では、ヒロトを励ますためのセリフですが、こう言う解釈もええやろ。

悪役が味方になる展開は、賛否両論になることが殆どです。現実的にも、罪を償った人間は普通になれるのかという模範回答のない問いが存在します。

ですが、この物語のタイトルはRE:Riiiiiiiiiise 。シンラを含めた、罪を犯した後の人間がどうなるのか。

最終回には、結論が出るでしょう。
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