ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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決戦準備

「……もう一度聞く。納期は?」

 

アカバネの声は今にも爆発してしまいそうなほど震えていた。

 

それとは対照的に、シンラは恐る恐る口を開く。

 

「………明日」

 

「無理だ!!」

 

「そ、そこをなんとか……」

 

私は叫ぶアカバネをなんとか宥めようとしたものの、大した成果は得られなかった。

 

「無理なもんは無理!!絶対無理っ!!」

 

アカバネの絶叫は、ここから3分近く続いた。

 

* * *

「……少し状況を整理させろ」

 

息も絶え絶えになったアカバネは、机に両手をつきながら呼吸を整える。

 

「エルドラ崩壊のタイムリミットは一週間。そうだな?」

 

シンラが首を小さく縦に振る。

 

「あぁ。だから、そこからやりたいことを逆算した上での納期なんだけど……」

 

「……やること?」

 

私が口を挟むとシンラはうっかりしてた、とこぼし言った。

 

「そうだね。タツカも来たことだし、もう一度説明しておこう。僕たちは、アルが衛星から大量のガンプラを放出する前に、それを食い止めなくてはいけない。そのために、やらなきゃいけないことが二つある。」

 

「二つ……」

 

数としては少ないが、その分重労働なんだろうなという私の予想は概ね当たっていた。

 

「一つは、聖獣さんの翼を治すこと。これは、戦力の確保と、衛星への移動手段を兼ねてる。」

 

「あのロケットを使えばいいんじゃ……?」

 

アルスの秘密基地には、大量の未完成のヒトツメがいた。材料もデータも揃っているのだからわざわざクアドルンに頼る必要はないと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「そうしたいのは、山々なんだけどね……ここで、二つ目のやることが関係してくる」

 

「それは……?」

 

シンラは一呼吸置き、口を開く。

 

「セグリの解放だ。今のレジスタンスは崩壊寸前だろう……決戦前になんとかしておきたい」

 

「あ、あぁ……」

 

現在、レジスタンスの本来のリーダーであるムランは内紛により逃亡中であり、実質的リーダーのスルトは私たちの手によって言わば誘拐中。

 

彼らの人手不足は、スルトのような無理のある人材登用をみれば明白だ。良くも悪くも、勢いのあるリーダーを失ったことで今頃セグリは大混乱中だろう。

 

そんな状況で、衛星基地の問題を対処してハイ終わりとはなるまい。最悪の場合、過激派たちに妨害される恐れもある。

 

このような状況では、クアドルンというユニットは無視するにはあまりにも高性能すぎる。

 

戦力としては申し分ないだけでなく、山の民からの尊敬も集めている。嫌な表現かもしれないが、その存在は錦の御旗そのものだ。

もしアカバネの協力によってクアドルンが戦線復帰してくれるのなら、この戦いの勝率はグンっと上がる。だがそうなると、エルドラの大地を駆け回らなくてはならず、そんな中での一週間という時間はあまりにも短い。

 

「セグリや移動のことを考えると明後日にはエルドラに戻りたい……だから……」

 

シンラがアカバネの座る方向に目を向けた。

 

しかし。

 

「事情は分かったが……それでも厳しいな」

 

アカバネの返答はNOにほど近いものだった。

 

彼はシンラから貰ったクアドルンの写真を机に置き、指でコツコツと羽の部分を叩く。

 

改めて見返してみると、クアドルンの機械翼、もといガンプラ翼は凄まじい完成度を誇っている。

 

ガンプラにおける改造技術、そのキモと言っていいのは"違和感をなくす"ことである。

 

ミキシングなどで生じる形の違和感や色の違和感。それを抹消するだけでなく、より己が求める形へと昇華させる──それを、ビルドダイバーズの内の誰かはクアドルンという生物で実行しているのだ。

 

それはガンプラ制作というよりも義手、義足を作るのに等しい。もしかしてそっち関係の人だったり……と、意味のない予想をしてみる。

 

「ベースはペネのスタビライザー……それも、かなりの改造を施している……いくらデータ上とはいえ、今の時間制限では100人がかりでも無理だ。……せめて明後日までにはならないのか」

 

アカバネはそう言いながら写真に視線を落とす。あれほど自信満々だった彼がここまで打ちのめされているということは、やはりクアドルンの翼はガンプラ製作技術以外の何かが必要なのだろう。

 

それでも明後日という条件に譲歩してくれているのは有り難い──

「……けれど、もし間に合わなかったら……」

 

脳裏に、考えうる限りの最悪の情景が浮かぶ。

 

崩壊する水上都市。

 

火に包まれた村々。

 

立ち昇る煙と人々の絶叫。

 

それだけは絶対に阻止しなければならない。

 

だが、どれだけ決意を固めようとも、解決手段がもたらされるわけではない。

 

「聖獣の翼、ビルドダイバーズが治したんだろう?彼らが使ったデータはないのか?」

 

おそらく、この3人の中で最も柔軟な思考を持つアカバネが疑問を呈した。

 

「あるにはある……ただし、制圧下のセグリの最奥にだ。そうなると、セグリ攻略の戦力が足りなくなる……」

 

まさしく八方塞がりだ。一瞬の静寂でさえも肌にまとわりつくような粘ついた不快感を醸し、じわじわと私たちの間に充満していく。

 

「……待ってくれ。」

 

そんな重い空気を、アカバネが壊した。

 

「詰まるところ、今早急に必要なのは、強大な戦力なんだろう?なら、聖獣とやらに限らなくてもいいんじゃないか」

 

「確かにそうかもしれないが……そんな強いガンプラを作ったところで、持っていけないんじゃ……」

 

意味がない。そう言おうとしたシンラに、アカバネは口を挟む。

 

「違う。……普通のダイバーなら、戦力が足りないと感じたら"自分のガンプラ"を強くする。つまり……」

 

そうして提示されたのは、恐ろしく単純で、全てを解決する方法だった。

 

「お前自身が最強になればいいのさ。シンラ」

 

* * *

 

明日の正午にもう一度会う約束を取り決め、アカバネはログアウトしていった。

 

私とシンラの二人は、小屋の地下室(元々小屋自体がシンラの隠れ家だったらしい)に設置された大小様々な機械とケーブルの合間に居座り、エルドラへの転移装置の作成を開始した。

 

複雑怪奇な機械類に囲まれながらも、作業は順調に進んだ。元より、理論は完成しているのだから当然ではあるが。

 

「交渉、上手くいって良かったですね」

 

「……あぁ」

 

普段通りの軽口のつもりで言ったはずなのに、シンラからは空返事しか返ってこなかった。

 

(そうだ……喧嘩別れしてたんだった……)

 

場の雰囲気に流され、なあなあにしていたが、 私たちの仲は現在冷え冷えのコールド状態。普段通りであるはずがないのだ。

 

いやでも嫌な訳ないよな……流れとは言えこうやって行動を共にしている訳だし──

 

「タツカ」

 

「ひゃい!?」

 

思考の世界から突然呼び戻されたことで反応が少々バグってしまった。幸いシンラは気にすることもなく、モニターと睨めっこしながら言葉を続けた。

 

「なんだ…………その…………ええと……すまなかった」

 

間投詞の合間にたっぷり5秒ほどの沈黙を使いながら、シンラは謝罪の言葉を口にした。

 

だがそれは、決して陳謝の表明を拒んでいる訳ではなかった。むしろ、誠実さを求めた結果のようにも思える。

 

「……謝らなきゃなのはこっちです。……私、身勝手でしたよね」

 

私の言葉にシンラは被りを振った。

 

「いや、そんなことは……」

 

「……キリがないですね」

 

「……そうだな」

 

これで謝罪合戦は幕を閉じた。のだが、シンラはまだ言いたいことがあるようだ。

 

「なぁ、タツカ」

 

「なんです?」

 

数秒の逡巡の後、シンラが尋ねた。

 

「僕の過去、上で聞いたんだろ?……幻滅しなかったのか?」

 

シンラの過去。正確に言葉にするのは難しかったが、私が抱いた印象は一つだけだった。

 

「うーん……まぁなんとなく、予想通りというか……」

 

「なっ……」

 

「え……?」

 

シンラが絶句した。その反応は少し予想外だ。

 

「そ、そんなに悪人面だったか……?」

 

面という問題ではない。そもそも、あなたの面はSDのガンダムでしょう。

 

包み隠さずそう伝えると、シンラはモニター越しにも関わらず、とても分かりやすく気分を沈ませた。

 

「……そう」

 

このままではまずい。そう感じた私は、もう一つの本音を口にした。

 

「でも、善意も感じてましたよ。そうじゃなきゃ無理矢理にでも逃げ出してましたし」

 

「……そうか」

 

これ以上、この話題を広げても何も生み出せるものはないだろう。

 

そう考えた私は、気になっていたことで話題を逸らすことにした。

 

「そういえば、スルトさんは何処へ……?」

 

「あぁ……説明してなかったな。簡潔に言えば、スルトは今、睡眠中だ」

 

「す、睡眠?」

 

「分離したとは言え、アルに頭をいじくり回されていた訳だからな……大事をとって休息させている」

 

つまり、スルトはアイテム欄の中であの結晶として大人しくしているということになる。

 

存在がバグの塊のようなものなのだから、GBNにいる間はこのままの状態が続くだろう。

 

──だが。

 

「……私が戻らなかったらどうするつもりだったんですか?」

 

ぼくらでエルドラを救えるもんね!と主張していた割には、シンラの行動はかなり行き当たりばったりだ。

 

私の問いに、シンラはまた沈黙を挟んだ後、回答を示す。

 

「…………本当にありがとう。タツカ」

 

「考えてなかったんですね……」

 

* * *

 

X市郊外のある病院の一室にて。

 

入院患者用のベットに横たわっていた男は、微かな軋みと共に体を起きあがらせた。

 

携帯型のGBNログイン用ヘッドギアを膝の上に置き、大きなため息をつく。

 

男の名はアカバネ•カイ。いましがた、仮想の世界でシンラたちと会話していた『アカバネ』張本人である。

 

「まさか……こんなことになるとはな……」

 

アカバネはここ数日でいくらか縮んだ様に見える手のひらを顔の前に広げながら、小さく呟いた。

 

やや皮肉めいた自嘲が浮かび上がるのを感じ、アカバネはそれを誤魔化すべく、早速"依頼"された作業に励むことにした。

 

棚に置いていたPCとヘッドギアの位置を入れ替え、目当てのファイルを開き、キーボードをカタカタと叩く。

 

幸い、今日の回診は既に終了している。なので何者にも邪魔されることはなく、アカバネは集中力が保てる4時間を休憩を挟むことなくフルに使い、シンラから頼まれたデータの作成を終えた。

 

療養中の身には、いささか厳しい作業だった。疲労が形を成して、ため息という形で外に出る。

 

「ガンプラ……か?」

 

声のしたほうに目を向けると、半分ほど開いたスライド式ドアの向こうに、スラリとしたシルエットの男が立っていた。

 

男は一瞬ハッと表情を変えると、ドアを軽くノックする。礼儀正しくはあるのだが、どこか天然という印象を与える。

 

とは言え、悪い気はしない。退屈な入院生活の中で奇跡的に出来た、趣味を共有することができる友人なのだから。

 

「よく分かりましたね」

 

「目が真剣だったからな」

 

友人は、ほんの少し粉塵が付着した手を使い、ベットの横の椅子を引き寄せ、座った。

 

「そういうそっちは……"ガンプラ教室"?」

 

アカバネはその友人の手に指を指して言った。

彼は静かに頷く。

 

「あぁ。また顔を出してくれると助かる。みんな会いたがってたからな」

 

驚くべきことに、この病院では一週間に一回ほど、「ガンプラ教室」なる子供向けイベントが開催されている。

 

つい最近始まったようだがかなり好評のようで、時折子供達の笑い声がこの部屋にも届くほどだ。

 

そんな笑い声に釣られて出会ったのが、目の前にいる彼その人である。

 

「体、大丈夫なのか?」

 

アカバネが頷く。

 

「あぁ。所詮はシンナーの吸いすぎだからな。君も気をつけたまえよ……」

 

2日前に呼吸不全として運び込まれ、原因が判明してからはお医者様にこっ酷く叱られたものだ。幸いなことに後遺症はなく、明日には退院できる。

 

アカバネと友人は、ここから数十分ほどガンプラの話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

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