ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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残された者たち①

満天の星空の下。焦茶色の大地を揺らしながら2機の巨人が進んでいく。

 

巨人たちは同じ姿をしていた。鈍く光る頭部のモノアイとライトグレーの装甲に、差し色として所々がスカイブルーに塗装されている。武装も剣に盾とシンプルな構成だ。

 

──だが、その状態はひどいものだった。

 

装甲には無数のヒビが放射状に広がり、剣は鈍り、盾は大きく凹んでいる。

 

「なぁザブン……」

 

後ろを走る方の巨人、エルドラGMに乗るカリコが不意に呟いた。

 

「……んだよ」

 

「ヒトツメ……増えてるよな?」

 

「……まぁなぁ」

 

疑問系ではあったが、カリコの言葉は明確たる事実だった。

 

フレディたちと別れてから約一週間、毎日のように哨戒業務に従事していたが、ここ数日ヒトツメとの接敵頻度が右肩上がりに増えているのだ。

 

数だけで言えば、ビルドダイバーズが来る前と大差ないほどだ。無論エルドラGMという強力な戦力がある分、あの時よりかはマシなのだが。

 

「フレディたち……今何してんのかなー……」

 

「さぁなぁ……ま、大丈夫だろ……」

 

溜まりに溜まった疲れからか、会話が継続しない。二人は半分スリープ状態で機体を動かし続ける。

 

「……ん?」

 

「でもなぁ……食うんだったらンガの実の唐揚げも……」

 

「ざ、ザブン……う、上……」

 

「上ぇ?」

 

ザブンはメインカメラを上空に向けた。カメラはカリコ機からの情報をもとにモニターをズームしていく。

 

「あれ、何に見えるよ……?」

 

夜空に浮かぶ星々に混じって、空色の装甲が見える。

 

「ヒトツ……いや、ガンプラ?」

 

空飛ぶ物体Xにはヒトツメ特有の禍々しさが感じられなかった。

 

そもそも、視認された時点で攻撃されているはずだ。とは言え、ガンプラだとしても操縦者がいない。

 

二人はオーバーワークで使い潰された頭のせいで、この事態が飲み込めずにいた。

 

「……近づいてきてる?」

 

「……段々大きくなってんもんなぁ」

 

そんなやり取りをしてる間にも空飛ぶシルエットは段々と形を成していき──

 

「「うわああああぁぁぁ!!」」

 

あわや衝突するかと思われた謎のシルエットは、すんでのところでエルドラGMの頭上を通過しボスンッ!!と間の抜けた騒音を立て砂にまみれた柔らかい地面に着地した。

 

「……どうするよ」

 

「いや、行くしかねぇだろ……」

 

多少の面倒くささを感じつつも、ここで調査しなければレジスタンスの主義に反する。

 

恐る恐る近づき、間近に迫ってもその正体はわからなかった。

 

丸まった前方に、ガンプラが3機は入りそうな後部。側面には鳥の翼のような形のユニットが接合されている。

 

「おいおい……こりゃあ……」

 

「待て!誰か乗ってねぇか?!」

 

前方部を調べていたカリコが叫んだ。確かに、貼り付けられたガラスの先に、小柄な人影が見える。

 

二人は全く構造の分からない機械にあたふたしながらも、最終的にエルドラGMのパワーで後部を引き裂き侵入した。

 

前方部はコックピットになっていた。席には外から見えた人影が座っている。

 

「お、おいしっかり……って!!」

 

毛布にくるまっていた人物の顔をカリコがのぞいた。それが、亡き友の弟だとは知らずに。

 

 

* * *

 

そこから月が沈み、朝日が顔を出した頃。

 

二人はフレディを村へ運び、何故か起きていたマイヤの手を借りながらフレディを2階の部屋に寝かせた。

 

ベッドに横たわらせた途端、フレディは穏やかな寝息を立てた。

 

3人はようやく張り詰めていた空気が緩和されたのを感じ、ほっと息を吐く。

 

「本当に、ありがとうございました……!!」

 

「いいって!頭下げるほどのことじゃねぇから!」

 

カリコもザブンも疲労困憊と言った様子でフラフラとした足取りで空き家へと向かっていく。

 

そんな二人が見えなくなるまで、マイヤは深々と頭を下げ続けた。

 

そうすることでしか有り難いやら申し訳ないやら、自分でもわからない気持ちを表現できなかったのだ。

 

「マイヤ……?どうしたんだ、こんな早朝に……」

 

「父さん……!聞いてフレディが……!!」

 

マイヤは物音で起きてきた父トノイに事の顛末を話した。

 

トノイからすれば正に寝耳に水といった話だろうが、彼はマイヤを宥めながらも真剣に話を聞き頷いた。

 

「そうか…………その空から落ちてきたものには、フレディしかいなかったんだな?」

 

マイヤが頷いた瞬間、トノイは静かに目を伏せた。

 

「…………わかった。今日の会議でそれもみんなと話そう」

 

「ねぇ父さん……フレディ"は"、大丈夫だよね?」

 

「マイヤ……」

 

「だって……このまま……このまま目を覚まさなかったら……私……」

 

トノイは震えるマイヤを静かに抱きしめ、頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ、マイヤ。」

 

マイヤは父親のことを尊敬している。

 

全ての民に敬意を払い、誰からの主張にも真摯に耳を傾ける人格者。

 

そんなトノイの背中を見て育ったマイヤは、村の長としても、親としてもこうありたいと思っていた。

 

だが、その言葉だけは素直に信用することはできなかった。

 

「ほら、今日の朝食はいいから……少し横になってなさい」

 

「……うん」

 

* * *

 

重力があると目が覚めた瞬間に理解した。

 

「成功したんだ……」

 

フレディが辺りを見渡すと見慣れた本の山が目に入った。

 

数秒の逡巡の後、ここが自分の部屋であることに気づく。

 

「僕の……部屋?」

 

「フレディ!!」

 

「うわっ!」

 

突如現れた人影に、フレディは勢いよく抱きしめられた。

 

「フレディ!!大丈夫なの?!体は動かせる?!目は見える?!」

 

「ちょ、ちょっと姉さん落ち着いて!」

 

フレディは自分が五体満足であることをマイヤに話した。

 

するとマイヤは幾分か落ち着きを取り戻し、フレディが空から落ちてきたことと、カリコとザブンが運んできてくれたことを教えてくれた。

「そっか……ありがとう、姉さん」

 

「ちょっと!どこ行くの?!」

 

徐に立ち上がるフレディを、マイヤは信じられないものを見るような目で見つめる。

 

「どこって……寝てる暇なんてないよ。早くシャトルからデータを回収して……あぁ、ならガンプラも操縦しなきゃ……二人には悪いけど勝手に……」

 

「フレディ……?おかしいよ……なんで、そこまで……」

 

マイヤはフレディを見つめ続けている。だが、その瞳の奥に隠しきれない恐怖の色が浮かんだ。

 

「なんでって……エルドラの危機なんだよ!?僕が動かなきゃ……」

 

「分かんないよ……!!ムランさんだって聖獣さんだっているんでしょ?!無事なんでしょ?!あの二人組だって、とっても強いって……」

 

「…………姉さん」

 

フレディはこの瞬間、生まれて初めて家族との隔たりを感じた。

 

少なくとも、姉であるマイヤにありのままの真実を伝えられないと冷酷な判断を下せてしまう自分がいることに気づいたのだ。

 

今の自分は、家族という名の安らぎを得てはいけないと。そんな資格は無いのだと。この世界を、エルドラを守るために。

 

そんなフレディの決意にも似た思考を、不意の爆音が塗りつぶした。

 

ビルドダイバーズが設置してくれたヒトツメが来襲した時用の警報音だ。方角は村の北部。さっきマイヤに教えてもらった、フレディが着陸したという方角。

 

「しまった……!」

 

フレディは自身の犯した過ちに遅まきながら気づいた。

 

ヒトツメが増加しているこの現状で宇宙からの不時着なんてしようものなら、すぐにでもアルの魔の手が迫るに決まっている。寧ろ一晩持っただけでも奇跡だ。

 

フレディはベットから飛び起き、そのままの勢いで本の山を散らしながら部屋を飛び出した。

 

「フレディ……!」

 

姉から発せられた弟の名は、彼自身の耳に届くことはなかった。

 

 

一方その頃、村北部。

 

エルドラGMが頓挫する仮置き場の前でカリコ、ザブン、ストラの3人は揉み合いになりながらも言い合いを続けていた。

 

「無理だよ二人とも!!足元フラフラじゃないか!!」

 

「俺らが行かなかったら、誰が村守るんだよ……!退いてろ、ストラ!!」

 

「だから!俺が行くって言ってるだろ!」

 

話し合いは一向にまとまる気配が無い。そんなことも露知らず、フレディは3人に駆け寄った。

 

「フ、フレディ?!なんで!?」

 

ポカンとしたカリコとザブンの横を走り去り、フレディはエルドラGMの足元へと走った。

 

「ストラ!こっち使うよ!」

 

「……そういうことかよ!」

 

フレディに一歩遅れてストラも走り出す。

 

「お、おい、待てよ!!」

 

「よせ!!ストラーー!!フレディーー!!」

 

フレディ達はカリコとザブンの静止を振り切り、エルドラGMに乗り込むと互いに操縦桿を傾けた。

 

* * *

 

フレディたちの村には二つの主要路がある。

 

かつてのビルドダイバーズは大胆にも片方を爆破によって塞ぎ、もう片方に敵を集中させるという作戦をとった。

 

だがしかし、それを参考にするには時間も火力も桁違いに足らなかった。残存勢力はエルドラGM2機のみ。

 

無謀にも、二人は東側をストラ。西側をフレディが担当し、攻め入るエルドラアーミーたちの猛攻を懸命に対処した。

 

『はっ……はっ……こいつで……六!!』

 

ストラ機が刃こぼれした剣でエルドラブルートの頭部を叩き潰す。

 

『フレディ!そっちは?!』

 

「なんとか……なってる……よ……」

 

フレディ機はビームライフルを用いた正確な射撃で敵を寄せ付けないよう立ち回っている。

 

だが無常にも、エルドラGMはエネルギーが枯渇し始めたことをアラートという形でフレディに知らせていた。

 

それでもフレディは、半ば機械的にトリガーを引き続けた。

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も。

 

「僕は……」

 

機体の限界よりも先に、フレディの視界がぐらりと揺れた。朦朧とする意識の最中、これまでの記憶が走馬灯のようにフラッシュバックする。

 

「だから……もう大丈夫です……!ありがとうございました!!」

 

これは……僕だ……3年前の宇宙での出来事。

 

あの時吐いた、アルスへの感謝の言葉。

 

──間違っていたのだろうか?

 

『フレディ?!おい、しっかりしろ!!』

 

フレディ機の沈黙に気づいたストラは、鍔迫り合いになっていたEアーミーを足で押し除け、救援に向かおうとした。

 

だがその瞬間、バキィッ!!とストラ機の脚部装甲から悲鳴にも等しい破砕音がなる。

 

脚部損傷によってストラ機は転倒し、地に伏した。

 

『なっ……クソッ!動け……動けよ!!』

 

これ幸いとEアーミーたちはジリジリと距離を詰めていく。

 

一方、ストラが窮地に陥ったとフレディは頭で理解していた。なのに、体が動かない。

 

動かなくなった2機のエルドラGM 。

 

Eアーミー達はこれまでの鬱憤を晴らすべく、右手に握られた棍棒を天高く振り上げた。

 

──やられる。

 

スローモーションになった棍棒が、じわじわとコックピットに迫る。フレディは朦朧とした意識の中で、人が死ぬ時はこんなふうになるのかと諦念していた。

 

その時だった。空からの飛来物が、Eアーミーの脳天を貫いたのは。

 

Eアーミーは後ろへよろめき、スパークを走らせながら爆発した。

 

「誰……?」

 

空を見上げると、太陽に重なる影が見えた。

 

黒点?いや違う。影は、人型のシルエットをしていた。

 

あれは──。

 

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