ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「誰……?」
疑問を無意識のうちに口にしながら、フレディは空を見上げた。
すると、太陽に重なるようにして朧げにゆらめく影が見えた。黒点?いや違う。影は確かに人型のシルエットをしている。
あれは──
* * *
「タツカ!早くファンネルを寄越せ!」
相方の久方ぶりの無茶振りに私は裏返った怒声を返す。
「今やってます!急かさないでくださいよ!まだ慣れてないんだから!」
そう怒鳴りつけながら、私は今までとは一風変わったモニターを睨みつけた。
今までの戦闘では、機体制御をシンラが担当し、ファンネル系含めた背部武装の制御を私が担っていた。アカバネに改造を施された今も、そのスタイルに変化はない。
だが──
「数が……多すぎるっ……!」
従来のラグナロクには、種類の異なるファンネルが六つ装備されていた。あれも中々複雑な操作性だったが、今はそれの比ではない。
脳裏に、アカバネから手渡せられた"辞書のように分厚い設計図の束"と彼とのやり取りが蘇る。
『Gラグナロク本体には殆ど手を加えていない。その代わり、バックパックの90%を新造した』
記憶の中のアカバネが慣れた手つきで資料をめくり、新機体のコードネーム『エクスマ』の文字と共に、機体の全体像が線画で映し出される。
本体にそれほど大きな変更点は見られなかった。強いて言えば、レールガンの追加ぐらいか。
とは言え、そのインパクトの薄さを補って余りあるほどバックパックの形が変化していた。無数の武装が棘のように突き出しているその背面は、どこか針鼠に近い印象を与えてくる。
『大剣型のGSファンネルが2個。ビームを出すノーマルのファンネルが8つ。ガンダムフレームには似つかわしくないが、まぁ我慢してくれ』
プライドと実用性をギリギリまで天秤にかけてくれたのだろう、アカバネは微かにため息を漏らした。
『あとは、防御用ファンネルが2個。差し詰めW(ウォール)ファンネルといったところか……』
説明書を読みながら、私は相槌を打つ。
「役割が違う12個のファンネル……ですか」
「違うぞ」
「へ?」
「言っただろう。90%を新造したと。残りの10%は、元々装備されていたファンネル類だ」
アカバネが、設計図の線画をトントンと指で叩いた。確かにその部分だけは他と違って見覚えがある。
『ファンネルの総数は……18個。それも種類の異なるものが、な。大変だろうが……頑張れよ』
──他人事だと思いやがって!!
回想の中のアカバネが放った、皮肉めいた笑みに私は思わず心の中で毒づいた。
それなのに冷静さをかいたのが伝わったようで、シンラがレールガンの狙いを定めながら叫んだ。
「タツカ!!"やれるな"?」
「…………っ!!えぇ!もちろん!」
私は呼吸を整えてから、彷徨っていた視線をもう一度モニターに戻した。
アカバネが私専用にデザインした液晶には、やはり18個6種のファンネルが並び、二つの操縦桿の間には、足りなくなったボタンを補うための補助キーボードが浮かんでいる。
──最優先なのは、破損し動けなくなっている2機のエルドラGMとその後ろの村落の防衛。
「ならっ……!」
操縦桿から手を放し、キーボードを叩く。
18個6種類のファンネルが生み出す複雑な操作性は、裏を返せば莫大な数の戦略が練れるということ。
地上にいるEアーミーは装甲がそれなりに厚い近接型。ならば、相性のいいファンネルを選び──
「いっけええぇぇぇ!!」
絶叫と共に、背部からLS(ロングソード)ファンネル二つと脚部からWファンネル二つが勢いよく放たれた。
四つのファンネルは、二手に分かれた渓谷に一陣の風となって舞い降りる。
「Wファンネル……起動っ!!」
ほぼ落下に近い形で空を駆けたWファンネルは、停止した2機のエルドラGMにぴたりと食いつき半円ドーム状の防御フィールドを作り出した。
計算上、このフィールドはEアーミーの近接攻撃なら問題なく防げるほどの防御力を有している。5分ほどでエネルギーが切れてしまうものの、その間エルドラGMたちに意識を回す必要はなくなった。
「後は……!」
空いた指先を、今度はLSファンネルの制御に充てる。狙うはEアーミーたちの"足元"。
Eアーミーたちは手持ちの棍棒型で抵抗を見せるも、ファンネルの素早い動きについてこれず瞬く間に脚部を潰されていった。
「よし、よくやった!」
私が何も言わずとも、シンラに作戦は伝わったようだ。ファンネルによる斬撃で足が止まった隙に、シンラのレールガンが敵機の装甲を穿つ。
「ギッ……ギギィ……」
Eアーミーの断末魔が、撃破時の爆発にかき消された。残るヒトツメたちは自軍が優勢ではなくなったと悟ったのか、僅かに後退りする。
「タツカ、続けろ!こっちで合わせる!!」
「はいっ!!」
この即席の連携プレイは上手いことハマり、
20機ほどのEアーミーたちは数分も経たずに殲滅された。
* * *
戦闘を終えた私たちは地上に降下し、エルドラGMのパイロットを確認して驚嘆の意を込めた悲鳴を上げた。
ストラが乗っていたことにも驚いたが、問題だったのはフレディの方だ。
話によれば、私たちがGBNに飛ばされていた間に一人で大気圏を突破し、村近くに不時着したらしい。
そこら辺のこと含め、村でゆっくりと話したかったのだが、前述の不時着の際にシャトルの中にデータを丸ごと置いてきてしまったようで、私たちはコックピットを一旦の休憩所にしながら、シンラをシャトルに走らせている。
「フレディ……ほんとに大丈夫なの?」
私はアイテム化させた回転椅子を後ろに向け、フレディの顔を見ながら言った。改造のお陰で、コックピットが二人乗り仕様に拡張されたからこそなせる芸当である。
「はい!もう大丈夫です!」
私と同じく、コックピットに実体化された椅子にちょこんと座りながら答えるフレディ。
一見、言葉通り何も問題なさそうに見えるが
、ストラから病み上がり同然だと聞いて過度に心配してしまっている自分がいる。
「そ、そういえば、タツカさんたちは、今まで何処に……?」
そんな私の表情から何かを読み取ったのか、フレディは慌てた様子で疑問を口にしたので、私は今までの経緯を短縮版にして話した。
流石に私がシンラと喧嘩したことは話さなかったが、それでも情報過多なことには変わりない。当然湧き出たフレディの質問に、私は一個一個詳細かつ丁寧に答えていった。
「最後に…………タツカさんたちはどうやって帰ってきたんですか?」
「うーんと、こっちに来ること自体は簡単だったんだ」
アカバネとの待ち合わせの合間、その僅か20時間の間に、シンラはエルドラへの転移装置を自信満々に完成させた。
「でも、来てからが大変でさ。ほら、クアドルンさんの翼を直そうと、何個か遺跡に訪れたでしょ?装置があの中の一つに転移させちゃってさ……鏡砂は少ないわ、場所もうろ覚えだわ……」
当初の予定では、初めてエルドラにきた時と同じくフレディの村周辺の遺跡に転移するはずだった。
しかし、私もシンラもアルス•ヘイヴンズに向かう際、クアドルンの翼を直そうと遺跡に訪れたことを失念しており、あろうことか転移装置はそこの石板と感応してしまったのだ。
幸運だったのは、その遺跡に僅かに鏡砂が残っていたことと、近くにはぐれEアーミーが彷徨っていたこと。
シンラは僅かな鏡砂で最低限の機体を形造り、はぐれヒトツメを討伐の後、即解体。
そうして増えた鏡砂で、やっとこの新機体、『Gラグナロク:XM(エクスマ)』を作り上げた。
「そこまでで、もう朝になっちゃった。
仕方なく近くの村で休もうとしたら、夜に流星を見たって聞いて………アルの刺客かも!って急いだら、襲撃されてた村に着いたんだ」
実際にはこの流星はフレディのシャトルだった訳だが、結果的にそれは誤差というべきだろう。
私の説明を聞き終えたフレディは、口を開き何かを言おうとしたものの、直ぐにそれを取りやめ、僅かに言い淀んだ。
「えっと……その…………」
「……ビルドダイバーズが気になってる?」
「……っ!!」
バッサリと切り捨てた私に、フレディが申し訳なさそうに息を呑む。
「……すいません。……お二人にも、何度も助けて貰ったのに……」
「いいっていいって。そのことも話そうか」
私は、スルトが暴露したビルドダイバーズがこれない理由をフレディに伝えた。
流石のフレディも言葉にはしなかったものの、洗脳されたスルトの恩を仇で返すような命令には顔を顰めて見せた。が、すぐに被りを振った。
「つまり……ヒロトさんたちはエルドラに来れない……」
私はフレディの発言に半分だけ同意する。
「……セグリを奪還するまではね。一応、GBNのあちこちに警告文をばら撒いといたから、ビルドダイバーズの人たちにもエルドラの状況は伝わっていると思う」
シンラがエルドラ転移の準備をしている時の私の仕事がまさにそれだった。
GBN内外に存在するありとあらゆる掲示板やビルドダイバーズの個人GTUBEチャンネル。果てにはクリエイトミッションまでも利用し、今のエルドラの現状を記しておいた。
今頃GBN運営はいきなり大量に現れたスパムメッセージに四苦八苦している頃だろう。彼らには悪いが、自動送信のシステムも組んである。
ここまでやれば、ビルドダイバーズの面々がどれほど忙しいとて、5人もいれば誰かしらの目には入るだろう。
だが、これだけではフレディを安心させることはできない。
その証拠に、彼の顔はまだ暗いままだった。
私は出来る限りの語彙を絞り出しフレディの不安を少しでも取り除こうとした。
「だから……一刻も早くセグリを奪還しよう。フレディ……協力してくれる?」
「……はい!もちろん!」
フレディが今日一番の笑顔を見せる。私が彼の救いにはなれないことはもう充分理解しているつもりだったが──
「それでも…………応えるな」
「……タツカさん?どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないの。それより、フレディの方の話も聞きたいな」
無垢な純粋さを持ち合わせているフレディは、私の下手な誤魔化しを疑うこともせずに矢継ぎ早で話し始めた。
「そ、そうでした……!えっと、お二人が消えた後、気絶から覚めました。ただ、もうその時には僕の機体はぴくりとも動かなくて……」
ここまでは、私の記憶と一致している。しかし、ここからの展開は私の予想を遥かに超えていた。
「だから、脱出するついでに自爆させときました」
「じ、自爆?!」
「あの場所を放置したままでいいとは思えなかったので……」
フレディの逞しさは、私の印象パラメータよりもだいぶ上を言っているらしい。面食らいながらも、私は疑問を口に出した。
「で、でも……そんなことしたら衛生基地内のヒトツメが……」
「はい、ウジャウジャ出てきて、命からがらシャトルで逃げてきました……正直、死ぬんじゃないかって思いましたけど……」
フレディがそのえげつない光景を思い出したのか、軽く身震いした。
「……でも、大気圏を突破した時に、運良くアルス•ヘイヴンズの通信圏内に入れて、ムランさんに不時着予定地の座標を送れたんです!」
「ほ、本当?!」
「はい!ムランさんは『いますぐクアドルンと向かう!』って言ってました!……それでも何日かはかかるでしょうけど……」
「ううん、大手柄だよ!フレディ!」
正直なところ、ムラン、クアドルン二人との合流は、既に諦めるか否かの瀬戸際だった。5日のタイムリミットに間に合うか、かなりギリギリになってしまうからだ。
しかし、フレディの運のお陰で二人との合流はほぼ確実になった。
それだけでは無い。
フレディは、あのヒトツメの製造場で、損壊したエルドラGMを自爆させたとも言っていた。
どれほどの爆発だったかは推測になるが、もしかしたら5日後に迫った宇宙からのヒトツメ侵略も少し延長されたかもしれない。
私は勝利の波が来ていることを微かに感じた。
今まで好き勝手やられていた分、この流れを無駄にするわけにはいかない。
『タツカ。フレディ。そろそろシャトル付近だ。準備を頼む』
スピーカーからのシンラの声がコックピットに響く。
私とフレディは立ち上がり、太陽の光が指すモニターの外の景色を、ゆっくりと、だが確かにその目に刻んだ。