ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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セグリ防衛戦①

フレディの村、機体仮置き場にて。

 

「ここをこうして……よし!」

 

鏡砂の変換を終えたシンラが、小走り気味にその場を離れた。

 

「フレディ!動かしてみてくれ!」

 

「は、はい!」

 

スピーカーで拡散されたフレディの声が村入り口の渓谷に響く。

 

フレディの"機体"はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。控えめな振動が地面をつたう。

 

この前の戦闘で倒したEアーミーを鏡砂に変換して作られた新機体。

 

正確にいえば"新"ではないのだが──何はともあれ、作戦の準備は着々と進んでいる。

 

 

 

 

 

シャトルから無事データを持ち帰った私達は、丸一晩を休息にあてた。

 

当然、この時点でタイムリミットは残り4日を切ってしまっているが、そのリスクを負ってまで休んだのにはちゃんと理由がある。

 

次の目標は強硬派のはびこるセグリの奪還。つい先日のフレディ救出を思わせるような作戦だが、その内容はまるで別物だ。

 

なぜなら、今の私たちには頼もしい仲間がいるのだ。彼らの疲れを取り、全員分の機体を用意するのもこの休息の目的だった。

 

次に、ムランとスルトの存在だ。

 

以前シンラは衛星基地の中で、『現状では強硬派全員を宥めるのにあと一押し足りない』という旨の発言をしていた。

 

だが偶然にもスルトの洗脳が解けたことで強硬派への説得難易度は格段に下がった。

 

とはいえ、ムランがここに辿り着くまでには時間がもう少しかかる。

 

アルス•ヘイヴンズには、補給と休憩をしながら一週間ほどかかったので、それらを切り詰めて3〜4日程。フレディ不時着から既に3日が経過してるので、早ければ今日中には来る計算だ。

 

──しかし。

 

「……騒がしいな」

 

作業がひと段落し、昼の休憩をとっていた頃、不意にシンラが呟いた。

 

確かに、村の方では皆が畑作業などを終え、腹を満たすために一時帰宅する時間帯なのに、人影がチラホラと出入りしてるのが見える。

 

「何かあったんでしょうか……」

 

フレディが不安そうに口を開く。

 

不穏な空気が私たちの合間を流れたその時、村の方から見慣れた人影が顔を出した。

 

「あれは……ストラ?」

 

フレディがおーい、と叫びながら手を振る。しかし、ストラの表情は険しいままだった。

 

「どうした、何かあったのか?!」

 

シンラの言葉に、ストラは頷きながらも、ぜぇぜぇと肩で息をすることしかできていない。

 

おそらく、村からここまで全速力で駆けてきたのだろう。そして、彼が急ぐことになった理由は、私たちにとって良いことではないはずだ。

 

そんな嫌な予感は、息も絶え絶えなストラの言葉によって、すぐに答え合わせがなされた。

 

「あぁ……さっき……近くの村から伝令が来た……!セグリが……ヒトツメに襲われてる……!!」

 

* * *

 

──数時間後、水上都市セグリ南部。

 

橙色に染まった空を覆い尽くすかの如く飛来する物体が、一目散にセグリ目掛け進んでいく。

 

そんな世界の終わりを想起させる夕暮れの空に、数多のビームが線を引いた。

 

ビームを放っているのは、体格に似合わない巨大なライフルを持った量産型コアガンダムとそれらを統べる黒色のアースリィ。

 

ビームはその身に秘めた威力を余すことなくヒトツメにぶつけ、数えきれないほどの鉄屑を作った。

 

しかし、その火線の魔の手から逃れた機体が、一機だけ尚も進行を続けコアガンダム隊の頭上を通過する。

 

「すまん!一機逃した!」

 

ノイズ走るスピーカーから、狙撃手であるユナクの声が響く。

 

「問題ない……すよっ!!」

 

飛行型のヒトツメがセグリのバリアに達する寸前、地面から弾丸の如く加速した機体──ノザトのアースリィガンダムが、ヒトツメをサーベルですれ違いざまに一刀両断した。

 

が、切り捨てられたヒトツメから発生した青白いスパークが、ほんの僅かにセグリのバリアに触れた。

 

「あぁ……!クソッ!」

 

ノザトの目に、受け入れがたい光景が映る。

 

鉄壁を誇ると思われていたセグリのバリアが熱に溶かされた金属のように崩れ、溶解していたのだ。

 

どう言うわけか、飛行型のヒトツメが背負う特殊兵装は、セグリのバリアを無効化出来るらしい。

 

数時間前までは傷ひとつない完全なドーム状だったのにも関わらず、今のバリアは虫喰いにでもあったかのような穴が無数に空いている。

 

「ノザトッ!!まだ来る!!」

 

ユナクの叫びがスピーカー越しに放たれた。地平線の揺らぎに、幾多の黒いシルエットが映る。

 

ヒトツメの大群だ。これで三度目になる。

 

敵が戦力の逐次投入という愚行を犯しているのは、何か考えがあってのことか、それともただ舐められているだけなのか。

 

「……クソがッ!」

 

例えどちらであろうと、ノザトの神経を逆撫でしたことに変わりはなかった。

 

「待て!ノザト!!落ち着け!!」

 

「狙撃班!遊撃班と狙いを入れ替えろ!!」

 

引き止めようとするユナクの声など気にも止めず、ノザトは命令を出す。

 

両方の部隊は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐに狙いを切り替えた。

 

狙撃班は地上のヒトツメに狙いを変え、遊撃班は空のヒトツメを処理すべく先に飛び出したノザトの後を追う。

 

「全機……突撃ッ……!!」

 

その命令を皮切りに、遊撃班であるコアガンダム全六機が、一斉にサーベルを抜き放つ。

 

ノザトのこの判断は間違いではない。

 

冷静さを欠いていたのは事実だが、武装を持たないヒトツメを一々狙撃するよりも、自ら叩きに行った方が早いと言う言い分は、セグリの状況を考えれば妥当なものだったと言える。

 

──"武装を持たないヒトツメならば"。

 

最初に違和感に気づいたのは当然、先行していたノザトだった。

 

ヒトツメの装備が違う。バリアを穿つ特殊兵装ではなく、何か違うものを背負っている。

 

疑念を払拭する前に、ヒトツメがアースリィの間合いに入った。

 

刹那、ノザトはヒトツメが自分を睨み据えていることに気づく。

 

「……っ!!てっ──」

 

ノザトの声は、最後まで発せられることはなかった。ヒトツメの自爆音が、彼の声をかき消したのだ。

 

「隊長?!」

 

遊撃班の一人が叫んだ。数秒もしないうちに、この兵士もヒトツメの自爆に巻き込まれてしまう。

 

遊撃班全機が、ヒトツメが作る爆発の中に呑まれ、地上へと落下していく。

 

「終わりだ……もう……」

 

ことの顛末をスコープ越しに見ていた狙撃班の誰かが、そう呟いた。

 

* * *

 

──同時刻、セグリ北部

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

とあるレジスタンスの一兵が、雑念を振り払うかのように雄叫びをあげた。

 

彼の乗機であるエルドラGMはそれに呼応し、勇ましくEブルートに切りかかっていく。

 

──だが。

 

「ギギィッ!!」

 

Eブルートは咆哮めいた機械音を発しながら、兵士の攻撃を片手で容易く受け止めた。

 

「なっ……!!」

 

驚愕する兵士をよそに、Eブルートは乱暴に腕を振り回した。エルドラGMの剣が宙を舞い、地面に突き刺る。

 

間髪入れずに放たれたEブルートの追撃を、エルドラGMはかろうじて盾で防ぐ。

 

だが、傷ついた機体では衝撃を吸収し切ることが出来ず、後方へ派手に倒れ込んでしまった。

 

大きく揺れるコックピットの中で、兵士の体もまた、機体と同じように投げ出され、床に叩きつけられる。

 

「ぐっ……」

 

機体の大破こそ回避できたが、起き上がることすらできないこのダメージ量ではコックピットの中で兵士が生きているか否かの違いしかない。

 

「誰か……」

 

兵士の掠れた声に、けたたましくなるアラートが被る。虚になりゆく視界の中で兵士は外を映すモニターに一縷の望みを託した。

 

しかし、前後左右何処を見ても、ヒトツメに倒された仲間しか映らない。

 

──キシ、キシ、キシ。

 

昆虫の鳴き声を思わせるような、特徴的な機械の軋む音が兵士の耳に入った。

 

Eブルートの走行音だ。兵士にとっては、死神の足音でもある。

 

「…………ちくしょう」

 

兵士の喉から漏れ出た最後の言葉は、今までの一生を込めるにしては陳腐なものだった。

 

敵から目を逸らし、抗うことすら放棄した兵士はコックピットの床に突っ伏して最後の時を待つ。

 

Eブルートはそれを嘲笑うかのようにモノアイを光らせ、斧を振りおろした。

 

──だが。

 

コックピット目掛け放たれた斧は、ギギギ──と獣の歯軋りのような音を立ててその動きを止めた。

 

「……っ?」

 

兵士は、最後の時が来ないことに疑問を抱きながら、恐る恐る顔を上げた。

 

モニターに、兵士を庇うアースリィの背部が映る。今まさに兵士の命を奪おうとしていた斧は、アースリィの盾によって動きを止めていた。

 

助かったのか。助けてくれたのか!

 

兵士は生の有り難みを思い出しながら、混乱したままの頭で感謝の言葉をどうにか捻り出そうとした。

 

「ありが─────?」

 

突如兵士の混乱が、さらに深みを増した。何がおかしい。

 

落ち着きを取り戻した

兵士は、目の前にいるアースリィの違和感にようやく気がついた。

 

色だ。

 

影になってわからなかったが、このアースリィは色がおかしいのだ。

 

本体は白。装備しているのは、レジスタンスの幹部クラスに与えられる黒いアースアーマーではなく──

 

青い──蒼い、惑星の色をしていた。

 

まさか。まさか。

 

兵士はその言葉を何度も脳内で叫んだ。だが、その昂りはすぐに収束する。

 

「大丈夫……ですか?」

 

違う。

 

その声は、兵士が期待したものではなかった。

 

あの青年ではない。 ビルドダイバーズではない。

 

それと同時に、新たな疑問が浮かぶ。

 

なら、今目の前に居るのは、一体──?

 

* * *

 

兵士の推理は、半分しか合っていなかった。

 

確かに、今、アースリィのコックピットに乗っているのは、ヒロトという名の青年ではない。

 

だがしかし、もう一方は。

 

"ビルドダイバーズ"ではないと言う点においては、兵士の推理は間違いだった。

 

「ギギィ!!」

 

こう着状態にしびれを切らしたEブルートが叫ぶと、目に見えて出力が上がった。

 

アースリィのシールドが軋み、脚部が地面に沈む。

 

パワー差が大きい。アースリィでは、この差は覆せそうにない。

 

「ボルト•アウト!!」

 

次の瞬間、パイロットは高らかに叫び、音声入力が正常に機能した。

 

コアガンダムに接続されていたアースアーマーは、まるで絡まった糸が解けるようにバラバラと崩れる。

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

Eブルートが目の前の光景に困惑した一瞬を、パイロットは見逃さなかった。

 

雄叫びを上げながら、コアガンダムがタックルを仕掛ける。

 

勿論、ダメージは少ない。しかし、パイロットの狙いはそれではなかった。

 

本当の狙いは、動けないエルドラGMとEブルートの距離を引き剥がすこと。

 

Eブルートはまんまとその思惑通りに動いた。

 

体勢を立て直すために四つ足を用いたバック走行を開始する。

 

──隙ができた!

 

「コアチェンジ……」

 

パイロットが呟く。

 

「ドッキング•ゴー!!」

 

かつて隣にいた青年と同じように。

 

空から飛来した紅のアーマーが、コアガンダムを包み込む。頭身が変わり、モニターが映す機体コードも、それに準じて変化した。

 

MARSFOUR GUNDAM。

 

《マーズフォーガンダム》と。

 

接近格闘戦に特化した、無限に等しいコアガンダムの可能性のひとつ。

 

マーズフォーがスラッシュブレイドを抜き、合体させた。大剣を見せつけるかのように構える。

 

誰がどうみても、それは明らかな挑発だった。

 

Eブルートのモノアイが一際強く輝く。

 

立場が逆転していることにも気づかずに、Eブルートはマーズフォーへ突撃した。

 

マーズフォーとEブルート、大剣と斧が互いに交差する。

 

決着は一瞬だった。Eブルートの体がぐらりと崩れ、コンマ数秒後、爆炎と砂煙が同時に舞い上がる。

 

「…………勝った」

 

マーズフォーのパイロット"フレディ"は、静かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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