ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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セグリ防衛戦②

「ハッ……ハッ……これで……おしまい……!」

 

フレディが発した息切れと、ヒトツメが地に伏したのはほとんど同時だった。

 

疲労を感じながらも、それを紛らわせるために操縦桿を強く握る。まだやるべきことは残っている。

 

フレディは武装スロットから設定してあった信号弾を選択し、躊躇なく引き金を引いた。放たれた信号弾の色は青。ヒトツメ撃退完了を告げるサインだ。

 

戦闘中も目を凝らしていたが、空に浮かぶ信号はフレディの打った分しか見当たらなかった。つまり、別働隊のカリコやザブンはまだ戦っているということだ。

 

「よし……!行こう、マーズ──」

 

フレディが操縦桿を傾けた。マーズフォーはそれに応え、燃焼剤を燃やす準備を始める。

 

「……待ってくれ!!」

 

マーズフォーの足元でレジスタンスの兵士の一人が叫んだ。フレディは少し思い悩んでから操縦桿を戻す。

 

「な、何ですか?」

 

「まずは……救援に感謝する。君がいなかったら俺たちは……」

 

「……お互いさまですよ」

 

フレディは、その兵士の言葉が本音であると感じながら、一抹の不安を拭えなかった。

 

「けれど……君は、レジスタンスの……強硬派の者じゃないな」

 

「……ッ!」

 

兵士の言葉は大声ではなかった。しかし、確信に満ちた低い声をアースリィの収音マイクはしっかりと拾う。

 

「……ええ」

 

「その声……君は……君は……フレディだろう?!俺たちが処刑しようとした、あのフレディなんだろう?!」

 

兵士の声が揺らいだ。それが自責の念なのか、困惑によるものなのかはフレディには分からかった。

 

誤魔化しは効かないだろうと、正直に答える。

 

「……ええ。そうです。僕の名は……フレディ」

 

「そうか……そうだよな……ははっ……」

 

兵士がよろめいた。フレディは手を差し伸べようとしたが、ガンプラでそんなことをしては余計危ないだけだと思い直す。

 

「なぁフレディ……アンタはどうして俺らを裏切ったんだ?!それとも……俺たちがアンタを裏切ったのか?!」

 

「……それは」

 

フレディの息が詰まる。兵士の問いに対するフレディが持つ答えは、どちらにも当てはまっているように思えたからだ。

 

「わからない……わからないんだ!!上はアンタを裏切りものとして扱うように言ってる……でも今日は、その上の命令で死にそうになった所をアンタに救われた……」

 

一呼吸おき、兵士はさらに捲し立てた。

 

「どうしてこうなった?!何がいけなかった?!間違っているのは誰だ?!フレディ……アンタなら全部分かるだろ?!俺は回答が……答えが欲しいんだ……!!教えてくれよ!"答え"を!!」

 

「僕だってッ!!」

 

フレディが叫んだ。

 

兵士に苛立ったわけではない。どちらかと言えば、その叫びは強い共感の発露だった。

 

答えのない問いを問いかけ続けている虚しさは兵士と同じ──いや、それ以上にフレディは抱えている。

 

だからこそ、フレディはこう言うことしかできなかった。

 

「……ごめんなさい。僕には……答えることができません」

 

「そ、そんなはずないだろう?!」

 

「……ごめんなさい」

 

困惑する兵士から目を逸らし、フレディがゆっくりとした動作で操縦桿を傾けた。

 

次の瞬間には、マーズフォーは地面を蹴り上げ空へ飛んでいた。

 

* * *

 

──同時刻、セグリ近辺上空。

 

空が足下に、大地が頭上に来る不思議な感覚。

 

ノザトはその逆転した世界を、モニター越しに見つめていた。

 

メーターが示す落下速度は見たことのない数字を示していた。ノザトの思考もそれに同調しているかのように加速する。

 

(死ぬのか………オレ……)

 

 

死ぬのは怖くなかった。

 

それよりも、自分を信じて着いてきてくれた部下たちが気の毒だった。

 

こんな無様、滑稽、部下殺しの汚名を背負いながら、宇宙渡しの先でどの面を下げて部下たちと再会すればいいのか。

 

(宇宙渡し……か)

 

ノザトは、滲み出た思考に少し驚く。

宇宙渡しは聖獣信仰を象徴すると言っても過言ではない大きな祭事だ。

 

──聖獣を憎んでいるはずなのに、そんなものを無意識に口に出してしまうなんて。

 

いや、無意識じゃない。求めていたんだ。本当は。

 

救われたかった。

 

ずっと前から。

 

──そうか……オレは……

 

それはノザトが心の奥底に沈めた本音だった。今際の際にようやく見つけた真実。

 

だが、全てがもう手遅れだった。

 

地面との距離は後少し。例え奇跡的に落下を生き延びても、地上にいるヒトツメ部隊に喰い散らかされるだけだ。

 

ノザトは、せめて即死できるようにと宇宙に祈った。

 

直後、巨大な衝撃がノザトのコックピットをはしる。

 

「……なっ?え?!」

 

素っ頓狂な声を出すノザト。

 

それもそうだろう。落下していたはずの自分の機体が宙で静止し、謎の黒い機体に抱きかかえられているのだから。

 

「無事か?」

 

「生きてますか?」

 

スピーカーから、男と女の声が響いた。どちらも聞き覚えのある声だ。

 

「あ、あぁ……アンタらは……!!」

 

「大丈夫そうだな」

 

再度の男の声でノザトは気を動転させながらも目の前の機体の正体に勘づいた。コイツらは、この二人は──

 

ノザトが質問をしようと、口を開く。だがそれよりも一瞬先に、女の声が彼の耳を貫いた。

 

「時間がない……しっかり掴まってて!」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

突如、先程の落下以上の速度がノザトの体を襲った。

 

メーターは完全に振り切れている。正面のモニターには空飛ぶヒトツメの腹が一面に映っていた。

 

黒い機体は、空のヒトツメの群れに突撃しているのだ。それに気づいたノザトは絶叫した。

 

「じ、自爆するんだぞ!?」

 

「「分かってるッ!!」」

 

男と女の声は、示し合わせたかのように同時に発せられた。

 

突風そのものとなった黒い機体は、ヒトツメたちの群衆を抜け、尚も上昇していく。

 

一瞬のうちに黒い機体はヒトツメたちの頭上を取った。

 

──速い!

 

敵機は眼前の敵の速度に、全く着いて行けていなかった。

 

ただ風が強く吹いただけと認識しているのか、目線を逸らすことなくセグリへの進行を続けている。

 

「視えるな、タツカ」

 

「はい!ロックオン完了、いつでも!」

 

男と女のやり取りは簡潔だった。だが、ノザトには彼らが言葉以上に多くの情報をやり取りしているように感じられた。

 

「ようし……聞こえるか?アースリィのパイロット」

 

「な、なんだ」

 

「最低限飛べる程度に機体を直した。確認しろ」

 

「何を言って…………!?」

 

ノザトが今日何度目か分からない驚愕の声を上げる。ヒトツメの自爆によって制御不能だったスラスターが、僅かだが動ける程度に修理されていたのだ。

 

「あ、あぁ……確かに……」

 

「なら大丈夫だな。今度は落ちるなよ」

 

そう言って、黒い機体はアースリィを真上へ放り投げた。

 

「あぶっ!?」

 

少々情け無い声を上げながら、ノザトはアースリィを錐揉み回転になる寸前で姿勢を安定させた。

 

「行くぞタツカ!!」

 

その言葉を境に、視界の隅でまた風が起こった。黒い突風が、一目散にヒトツメの大群に飛び込んでいく。

 

──無茶だ。

 

ノザトがそう思った瞬間、黒い機体はいくつかの事象を同時に発生させた。

 

まず、背部の翼が広がり、何かを打ち出した。アースリィの認証システムは、その何かを遠隔誘導兵器だと認識する。それぞれ形が異なっていて、その数は12。

 

そして、本体は刃のないサーベルを懐から抜き放った。何のつもりかと見ていると、大層な護拳に黒い機体が力をいれた。

 

刹那、機体の周囲に紅い色の稲光が走る。

 

「な、何だ?!」

 

──それはノザトら山の民が知り得ない"阿頼耶識システム"の応用技。

 

本来エフェクトでしかない稲光は、Gラグナロクの必殺技として顕現していた。

 

文字通り必殺の威力を込めた稲光が、サーベルの刃としての形を成してラグナロクの手に収束する。

 

「ギィ……?」

 

集団の中のヒトツメが、ようやく異変に勘づいたようだ。全てではないが、半数以上のヒトツメがモノアイを上空に向ける。

 

だが、勝敗を争うにはあまりにも出遅れていた。

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

ヒトツメとの距離30メートルほどで、黒い機体が吠え、サーベルを振った。

 

斬撃そのものに触れたものはいない。だが、サーベルの軌跡は何倍にも膨れ上がり、雷に姿を変える。

 

「今だ!!」

 

「はいっ!!」

 

女の声と共に、先程放たれたファンネルたちが雷の行手を阻んだ。

 

「いや……違う……!」

 

ノザトは直感的に理解した。あれは、雷の威力を抑えるのではなく──

 

直後、戦況は大きく変化した。黒い機体の放った稲妻が無数に枝分かれしたのだ。

 

稲妻の連鎖反応は、的確にヒトツメたちを貫いていった。ほとんどが墜落し、地上のヒトツメたちにとっての空爆になる。

 

黒い機体の一手で、レジスタンスが苦戦していたヒトツメはほぼ全滅してしまった。

 

「あ…………」

 

ノザトはたじろいだ。脳裏に、"あの頃"の情景がフラッシュバックする。

 

戦場から時たまに帰ってくる両親たち。"あの頃"のノザトは、二人が話す聖獣様の活躍に、目を輝かせていた。

 

──聖獣さまはな!とっても強いんだ!"翼"をバッ!!って広げてな!"風"みたいになってビューンって飛んで!!雄叫びを上げながら、ヒトツメを"雷"で一気に倒しちゃうんだ!!

 

──もう……お父さんったらそればっかり。

 

身振り手振りで説明する大袈裟な父と苦笑する優しい母。

 

父はひとしきり聖獣の威厳を語ったあと、決まってこう言うのだ。

 

──だから……ノザト。俺たちレジスタンスと聖獣様は絶対に平和を取り戻してみせる。絶対にだ。

 

──だから……良い子にして待っててくれよ。

 

 

 

「どうして……今更……こんなことを……」

 

ノザトの手に、雫が落ちた。

 

それが自身の目から流れたものだと気づくのに、数秒かかった。

 

「──ちょう!隊長!」

 

突然、接触回線が開いた。撃墜されたと思われた部下からだ。ノザトは慌てて目を擦りながら応対する。

 

「お前たち……!無事だったか!!」

 

「え、えぇ……コイツのおかげです。」

 

「それは……?」

 

見ると、部下たち全員のコアガンダムが、二つの分厚い鉄の板に載っていた。カラーリングは赤と黒。

 

「わからないんです。俺たちが落ちそうになったら急に現れて……」

 

「そうか……」

 

色からして、あの機体の所有物だろうとノザトは推測を立てた。奴は自分だけでなく、部下の命も救ってくれていたのだ。

 

「それよりも隊長!!あれは……アイツは何なんですか!!」

 

部下の一人が叫んだ。彼の乗るコアガンダムは、あの黒い機体の背中を指差している。

 

「……アイツは……」

 

ノザトは当然、答えを知らない。

 

けれど、突然浮かんだ両親との思い出は、何か意味のあるような気がした。死んでしまった両親が、導いてくれているかのような──

 

ノザトが、意を決して口を開く。

 

「あのガンプラは────」

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