ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
──レジスタンス本部最上階、執務室。
「以上が、ここ数日の顛末です」
レジスタンス兵士が、報告書をデスクに置く。
ムランは少し間を置いてから、窓の外に映る今にも砕けそうな結界を見て口を開いた。
「……結界の状況は?」
「報告によれば、全体の78%が破損。現在、聖獣様主導の修復を進めておりますが…………侵攻予定の3日後には間に合わないかと……」
「そうか……報告ありがとう」
ムランがそう言うと、兵士は一礼し執務室から出ていった。
「…………難儀なものだな」
誰もいなくなった部屋で、ムランは小さく呟き、立ち上がった。
* * *
「そこ!まだ調整終わってないぞ!」
人々とガンプラがひしめく格納庫に、シンラの怒声が響き渡る。私も負けじと声を張り上げた。
「修復の終わった機体はこっちに回してください!!」
その言葉で、兵士たちの忙しなさが倍増する。
セグリ防衛戦は、かろうじて私たちの勝利で終わった。全てが順調だったとは決して言えないが、セグリを失うという最悪の事態だけは回避できた。
穏健派と強硬派の内紛も、一旦の収束を見せた。やはり、両方のトップであるムランとスルトが揃ったことが大きかったようだ。
外に逃げていた穏健派の兵士達も続々とセグリに集結し、来たるべき決戦に備えている。おそらく今までとは比べものにならない規模の戦いになるだろう。
ならばこそと私たちはレジスタンスのガンプラを調整、修理、改修という任に着いた。
「タツカ、修復状況は?」
シンラの問いを簡潔に返す。
「全て終わりました。あとは個々人に合わせた調整と、不足分の製造を」
「なるほど……調整は任せて良いか?」
「ええ、勿論!」
「頼んだぞ」
直後、シンラは機体製造班の兵士に呼び出された。兵士と横並びになったシンラの小さな背中を見て、思わず言いようのない感慨に浸る。
一番不安だった私たち二人の扱いは、意外なところに着地した。なんと、ノザトという兵士が私たち二人を庇ってくれたのだ。
曰く、『あのガンプラは強硬派の作った知能を持った特殊機体』 『フレディ処刑時の動きは、予期しない暴走によるもの』──らしい。
正直、かなり無茶な言い分だと思う。
シンラはまだしも、私の方に至っては『なんか気づいたらそこに居た異世界人』程度の説明しかできず、一般兵は大いに困惑したことだろう。
そんな無茶な言い分が通ったのも、ムランの根回しのおかげだ。最終的にノザトら一部の強硬派を投獄し、私たちの二人の件をうまいこと有耶無耶にしてしまった。大した政治力である。
そんなことをぼんやりと考えながら作業している私に、声をかける者がいた。
「タツカ殿!少しお時間をいただきたいのですが……」
声のした方に振り向くと、腰の曲がった山の民が立っていた。一見迷子かと思ってしまうような風貌だが、れっきとしたレジスタンスの兵士──ガンプラ関連の技術顧問、メタクーリさんである。
「は、はい……どうしました?」
彼の威厳ある佇まいに気負わされ、言葉を少し詰まらせながら、私は彼に向き直った。
「シンラ殿にいただいたこのファンネルという武装……兵士達にシュミレーションさせてみましたが、全くもって扱いきれんのです」
メタクーリが肩をすくめ、申し訳なさそうに口を開く。
「情け無い話ではありますが……タツカ殿の手で、兵士達に喝を入れてやってはくれませぬか?」
「は、はぁ……」
軽い相槌のつもりで発した言葉は、何故か老人の脳内で超ご都合的な解釈をされてしまう。
「ありがとうございます!!模擬戦の準備はできておりますので、早くこちらに!」
「え?ちょ、ちょっと!!」
相槌の何十倍も大きな声で叫んだのにも関わらず、老人は歳を感じさせない軽やかな足取りで格納庫を駆けていった。
「ま、待って!!待って下さーーい!!」
そのまま勢いを殺すことなく、老人は格納庫出入り口に鎮座する全天周囲モニターを模したシュミレーション器具(これも、シンラが鏡砂で作った)まで走り続けた。
「タツカ殿、では早速……」
またも歩き始めた老人の肩をむんずと掴む。
「ま……っ……て、息……だけ……整え……させて……」
「おぉ!失礼いたしました」
肩で息をする私を尻目に、メタクーリが悪びれを感じさせない口調で言う。
──鏡砂ももっと身体能力を割増で構築してくれれば良いのに。
「なんとだらしない!ほれ!さっさとどかんか!」
なんなんだお前、と喉元まで出てきた言葉を私は慌てて引っ込めた。
メタクーリはシュミレーションマシーンのドアをバシバシと叩きながらその中の兵士に叫んでいたからだ。明らかに私に向けての言葉ではない。
「ええい、鬱陶しい!次こそは上手くやる!」
マシーンの中から兵士らしき怒声が飛ぶ。男性特有の低い声だ。聞き覚えがあるような気がしたのは気のせいだろう。
「それはもう何度も聞いたわい!さっさと諦めてあの方にイチから叩き込んでもらえ!」
メタクーリは怒声に臆することなくマシーンのドアを勢いよく開錠し、兵士を中から引き摺り出した。
一体、あの小さな体にどれほどのパワーを秘めているのか。そのままの勢いで、中の兵士が老人に放り投げられる。兵士はベチャッ、という少々情けない擬音を奏でながら、顔と地面を接触させた。
「クソっ……馬鹿力ジジイめ……」
悪態をつきながら兵士が立ち上がると、ようやくこちらの存在に気付いたようだ。こちらもまた、兵士の顔を見て合点がいく。
「やはり……貴様か……」
先に口を開いたのは、兵士の方だった。私は仰々しく"左腕"を動かし、敬礼の形をとり、叫んだ、
「お久であります!第……なんとか部隊隊長、ユナク殿!」
「チッ、白々しい……それに敬礼は左じゃなく右だ、常識知らずめ」
「ええ、勿論存じております」
周囲の兵士たちが、サッと目を逸らす気配。私たちの険悪なやり取りのせいなのは明白だ。
しかし、この程度の非礼はまだ温情と言うべきだろう。
目の前にいるユナクは、クアドルンが翼を失ったあの戦いの最中、私を狙撃し、殺しかけた容疑者(あの時点でアースリィを動かせる兵士は幹部クラスだけなのでほぼ確定)なのだから。
──例え、事態の大元を辿れば、彼を騙してセグリに潜入したのが全ての始まりだったと
しても。
居た堪れなくなった私は、更なる追撃を開始した。
「あれー?おかしいな……牢屋に入ってなくていいんですかー?……まさか、脱獄?!」
「貴様……分かってて言っているだろう」
ユナクの顔が段々と赤くなる。羞恥が憤怒かは分からないが、いい気味だ。
勿論、過激な強硬派であったユナクが拘束されていない理由は、ムランから聞いている。
単純に人手が足りず、決戦準備期間のみの仮釈放だ、と。
「去れ。キサマに教えを乞うぐらいなりゃ!」
背中をどついたかのような鈍い衝撃音が鳴り、
ユナクの言葉の結びが不自然な形で収束する。
それと同時に、その原因であろう人物が、ユナクの背後から現れた。
「準備できたぞい!」
* * *
「た、たたた大変です!シンラ殿!」
「どうしたメリバット君」
大慌てで駆け寄ってきたメリバットという兵士に、シンラは作業の手を止めずに半ば呆れ顔で対応した。
彼とはまだ知り合って数時間だが、彼の感情表現は少しオーバーすぎるとシンラは感じていた。
強硬派のガンプラの整備を一任されていたという実績を聞いた時は少し身構えたのだが、それは杞憂に終わりそうである。
「ホラ、アレ!アレ!」
メリバットは腕をブンブン振りながら、ある一点を指差した。
その先には、使用用途不明な巨大モニターが佇んでおり、付近のスピーカーからは威勢の良い叫び声や、仰々しい爆発音がこだましている。
どうやらシュミレーションマシンを使用した模擬戦の様子を投影しているらしい。
シンラは何をそんなに慌てることがあるのかとさらに画面を注視し、ようやく片方のプレイヤー名が相棒たるタツカのスペルになっていることに気づく。
「何やってんだ……調整頼んだのに……」
「は、早く止めないと!」
今にも走り出しそうなメリバットを見て、シンラは疑問符を浮かべた。
「……なんでだ?」
「だって……相手はあのユナクですよ!?強硬派……いや、レジスタンストップクラスのエース!ほら、シンラ殿も早く!!止めに行きましょう!!」
「あー……うん。どうせ、行ったって無駄だろう」
半ば反射的に頷きながら、シンラはモニターに視線を戻す。
『『ファンネルッ!!』』
モニターが映しだす仮想の荒野に、タツカとユナク、二人の叫びがコンマ数秒違わずに響き渡る。
二つの叫びはマシーンが音声入力として認識し、互いのアースリィの背から伸びる放熱板──否、フィンファンネルを射出させた。
11個のファンネルは唸りをあげながら空を駆け、同じ形をした敵に向かって一斉にビームを放っあ。
回避に次ぐ回避、攻撃に次ぐ攻撃。
ファンネル達の描く軌跡は、前時代の戦闘機たちが繰り広げたドッグファイトと酷似していた。
だが、この戦闘は空を制すだけでは意味がない。この戦場の主体は、ファンネルたちではなく、ガンプラ二機による白兵戦だからだ。
『おおおぉぉぉっ!!』
ユナクは雄叫びをあげ、彼のアースリィが猛然と斬りかかるべくプレモーションを起こす。
『負けるかぁっ!!』
タツカも勇ましく叫びながら、ユナクの放つ斬撃をサーベルで応戦した。一撃、二撃、三撃──サーベル同士が衝突するたびに、無数の火花が散る。
『チッ……!』
痺れを切らしたユナクが、四撃目に仕掛けた。
斬撃のタイミングを微かにずらしたのだ。
タツカのアースリィが繰り出した横薙ぎは、身を屈めたユナク機の頭部装甲を僅かに削ることしかできなかった。
『うわっ!?』
『もらったぁっ!!』
勝利を確信したユナクが吠える。事実、ユナク機のサーベルはタツカが乗るアースリィのバイタルパートに迫っていた。
「あぁっ!まずい!」
「……アングルが悪いな」
シンラが呟いたその瞬間、2機の間にバフンッ!!と重い絨毯をひっくり返したかの様な音と共に砂煙が舞う。
『何…?!何が?!』
ユナクの声は、明らかな動揺の色を含んでいた。刹那、一筋の光がユナク機の喉元に突きつけられる。
『私の勝ち……みたいですね』
砂煙が晴れた時点で、勝敗は誰の目から見ても明らかだった。それを示すのは、ユナク機の喉元で煌々と輝くタツカのビームサーベル。
だがしかし、それに異を反するものが一人だけいた。
「舐めるなよ……!」
途端、ユナク機のブースターがけたたましく鳴き、推進剤をこれでもかと燃焼させた。
当然、タツカが突きつけたビームサーベルはユナク機の頭部を熱し、余すとこなく炭化させる。
だが、それだけだった。ウィナー判定は出ず、バトルは続行。
ガンダム伝統の『頭部を破壊されたら負け』や、『決闘の勝敗はアンテナの破壊で決める』等の掟はエルドラの人々には通用しないらしい。
「あぁ!終わりだぁっーー!」
格納庫にいる誰よりも早く、メリバットが頭を抱え叫んだ。
「よく見ろ、メリバット」
「え?」
声に僅かな苛立ちを混ぜながら、シンラが言った。メリバットは再度モニターに向き直る。
映像ではユナク機のサーベルが、今まさにタツカ機の胸元に突き刺さろうとしていた。
メリバットには、どう見ても油断した敵の意表をついた泥臭い逆転劇にしか見えなかった。
「し、シンラ殿は一体──」
何が見えているのか、メリバットがそう問いただそうとしたその瞬間、まるで雷に打たれたかのようにユナク機の動きが停止した。
一切の間を置かずに、モニターのシステムメッセージはWINNER!! TATUKA!!という文字をデカデカと映し出した。
それと同時に、格納庫が揺れるほどの歓声が上がる。
「え!?な、何で?!」
困惑するメリバットをよそに、シンラは腕を組みながらメリバットの横に立った。
「タツカはファンネルを打ち出す時に、一つだけ空へ向かわせず、背後に隠した。ユナクの視界に入らないよう、ふわふわとタツカ機の背中を漂わせ……」
小さな手を、自慢げに動かす。シンラの語りはその姿も相まってまるでヒーロー番組を再現する子供のようだった。
「気を見計らって、上から二度ぱーんと狙撃。一発目は砂煙に。二発目はユナク機の脳天に……ね」
説明し終えたシンラにメリバットは何度も頷く。
「ははぁ……だから、"アングルが悪い"と……ん?でもそれならタツカ殿はファンネルが一つ少ない状態でユナクとやり合って……?」
「まぁ、そうなるな。言っただろ?行ったって無駄になるって」
胸を張るシンラに、メリバットが向き直り勢いよく頭を下げる。
「お、お見それしました……」
「その賞賛は僕じゃなくタツカに言ってやれ。……さ、休憩終了!手を貸してくれ!メリバット君」
「は、はい!」
ご機嫌になったシンラとメリバット二人の作業は、周囲が絶句するほど早く進んだ。