ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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懺悔の時②

GBN内、固有の土地名すらない、辺境の地に佇む納屋の薄暗い地下室。

 

「タツカ。時間だ」

 

背後から届いたシンラの声。間髪入れずに私は口を開く。

 

「待って……後少し……後少しだけ……」

 

眼前に広がるのは、宙に浮かんだ複数のホロパネルだ。メッセージボックス。最大手のGBN掲示板。果てにはクリエイトミッションの感想欄や動画サイトのコメント欄。

 

それらに広がる無数の文字を全て読み終えているにも関わらず、私はすがる気持ちで"彼ら"からの返信を見つけようとしていた。

 

再読み込みを挟めば望む文字が現れるはず、と何の根拠のない行動をもう何度も繰り返している。

 

「気持ちはわかるけどな……もう諦めろ」

 

「で、でも……」

 

「……時間だと言っただろ。作戦開始時間はずらせない。レジスタンスに迷惑をかけたいか?」

 

「う……」

 

シンラが口にしたのは至極真っ当な正論だった。もう衛星基地への出発時刻まで三十分を切っている。あっちに戻ることを考えたら遅すぎるくらいだ。

 

それでも私の足は動くことをしなかった。シンラはため息をつき、言う。

 

「"彼ら"……"ビルドダイバーズ"が現れなくても、僕たちで解決する。そう事前に話していたはずだ」

 

何十回目かの最読み込みで、メッセージボックスに『NEW!』の文字が現れた。努力が報われた気がして、ほんの一瞬顔が晴れる。しかして、その希望はすぐに落胆へと変わった。

 

宛名はアカバネと書かれている。

 

『届いてるかはわからんが、頑張れよ。私の機体でエルドラとやらを救ってやれ』

 

メールの内容は以上だ。私は遅まきながら大きな勘違いをしていたことに気づく。

 

「タツカ」

 

シンラが私の名を呼んだ。改めて、振り返り彼の顔を見つめる。そのSDめいた可愛らしいデザインの目には、確かな覚悟の炎が灯っていた。

 

私は思い違いをしていた。エルドラに行った当初はビルドダイバーズの代わりとして扱われるのに辟易していたのに、頼られた途端慌てて彼らに縋るなど、虫がいいにもほどがある。

 

シンラと衝突したあの時、決めたはずだ。私は私自身の意思でエルドラを、そこに住む人々のために戦うと。

 

私は自分の頬を両の手で叩いた。緊張と不安で揺らいだ覚悟を、もう一度、この手に宿す為に。

 

「すいません、切り替えます」

 

「そうしてくれ、相棒」

 

シンラは言葉と共に、側にあったレバーを下げた。それによって、ファンタジー成分の多いGBNには似つかわしくない、近代的な円形ゲートの形をとった転移装置が唸りを上げ起動。後はここを潜るだけでエルドラに行ける。

 

「行こう、タツカ」

 

シンラが装置の前で立ち止まり、いつもの調子で口を開いた。装置に近づきながら、私も返事をする。

 

「……えぇ。頼りにしてますよ」

 

息を合わせたわけでもないのに、私たちはほぼ同時に装置へ足を踏み出した。視界が歪み、体が装置の奥へ奥へと引っ張られる。

 

歪んでいた視界は段々と像をなし、煌々と光る光の粒が尾を引きながら数を減らしていった。

 

「来たか!」

 

エルドラに転移した私の耳に最初に入った音は、見知ったムランのものだった。隣で実体化したシンラが間髪入れずに叫ぶ。

 

「すまん、遅れた!早速準備に入る!」

 

そう言って走り出したシンラの背中に、今度はムランが叫ぶ。

 

「兵士は全員出撃させた!残りの鏡砂は全部使ってくれて構わない!」

 

「そりゃありがたい!すぐ戻る!」

 

小さな背中は巨大な門を潜り、先の暗闇に飲まれすぐに見えなくなった。

 

私は召喚台から降り、石造りのタイルを踏みしめた。鏡砂で隠されていたはずの床は、全体の半分ほど露出してしまっている。

 

それは否応なしに戦闘の匂いを醸し出していた。かつて古の民が祈りや願いを込めたはずの鏡砂は今、全て兵器、いやガンプラに変換されてしまったのだ。

 

言いようのない感情を抱く私に、ムランが切り出した。

 

「作戦の最終確認だ。君たちが宇宙に上り、衛星基地を攻略する間、地上の残存したヒトツメは最後の抵抗をするだろう」

 

私は昨日のブリーフィングを脳内で出力しながら答えた。

 

「だから、セグリを除いた山の民の居住地に、あらかじめガンプラに乗った兵士を配置しておく……」

 

私の言葉にムランが首肯した。

 

「もう配置は完了している。タツカ。クアドルン。エルドラは私たちに任せて派手に暴れてくれ」

 

「はい!」

 

『了解だ、ムラン。エルドラを……セグリを頼んだぞ』

 

私とクアドルンがそれぞれ返事をした。ムランは小さく頷き、門の先を見てつぶやく。

 

「……よし、後はシンラを待つだけ……」

 

「……すいません、最後に一つ聞いていいですか」

 

会話の区切りをぶったぎった私の質問に、ムランが疑問符を浮かべた。

 

「……?まだ何か……」

 

「……今、セグリにいるのは何人ですか」

 

ムランはレジスタンスの長で、実質的な都市の管理者ではある。しかし、都市の人口を突然聞かれたとて普通ならば答えられないだろう。事実、ムランはほんの一瞬言い淀んだ。

 

しかし、私はムランのその反応に、ある種の確信を得た。質問に答えられないのではなく、答えられるが、それをすることに躊躇しているのだと。

 

──おそらく、宇宙に上がる私たちの為に。

 

だがそれは要らぬ遠慮というものだ。私の目線にムランは何かを察したのか、咳払いをしてから私が求める情報を吐きだす。

 

「…………輸送できなかった負傷者が117。退去に応じなかった住民が176。それと……拘束中の強硬派含めた非戦闘員が50……いや、私を含めたら51だ」

 

──344人。

 

それが、今のセグリにいる人々、救うべき人々、そして……作戦失敗で、最初に犠牲になるだろう人々の数。

 

脳内でその数を割り出した瞬間、私の右手が小さく震えた。左の手でそれを抑えたが、震えは止まるどころか更に左手へと伝播していく。

 

「待たせた!」

 

見計らったかのようなタイミングで、シンラが部屋に脱兎の如く突入してきた。その勢いを落とすことなく、大きく宙に飛び跳ねくるりと一回転。

 

その瞬間、床に散らばっていた鏡砂が光芒と化し、一斉に彼の元に集まった。

 

一瞬の閃光が周囲を包むのとほぼ同時に石畳がドォン──と悲鳴を上げる。

 

「……危なっ」

 

私は小さく呟いていた。無意識のうちに口の端が僅かに上がる。その眼前には、神獣クアドルンと並び立つように、相棒である黒の巨人が佇んでいた。

 

「乗れ!」

 

スピーカー越しのシンラの声が聖獣の間にこだました。機械らしいトルク音を鳴らしながら膝立ちになり、一歩分の距離を空けた場所に巨大な手が差し出される。

 

私は、無言でその一歩を踏み出した。作戦開始を告げる小さくも大きな意味を持つ一歩。

 

手の震えは気づかぬうちに止まっていた。

 

 

 

* * *

 

「よぉし!準備完了!」

 

ザブンの乗ったエルドラGMが、どういう意図でプログラムされたかわからないガッツポーズを見せた。それを見たカリコが大慌てで叫ぶ。

 

「ばかっ、早く離れろ!」

 

「おお、いけね!」

 

通信越しの二人のやりとりは、一見すると子供のじゃれあいのように見える。

 

一瞬でもそう思ってしまったストラは、自虐的な笑みを浮かべた。

 

次の瞬間、東側から爆発が起こり、村の生命線たる二つの通路の片割れが、崩れ落ちた瓦礫によって封鎖された。

 

「うひゃー!危ねぇ!」

 

「ばっ、作戦前に機体壊れたらどうすんだよ!」

 

二機のエルドラGMはガシャンガシャンと並走しながら、搭乗者の会話を繋ぐ。

 

「そん時はほら、オメェの機体に乗ればいいだろ」

 

「それ意味ねぇだろ!」

 

ケラケラと高い声で笑いながら、カリコが叫んだ。そのまま、ついでのようにストラのエルドラGMに通信を繋ぎ、間延びした声でいう。

 

「ストラぁー!まだ作戦開始まで結構時間あるから休んでてていいぞー」

 

僅かに逡巡した後、ストラは短く答えた。

 

「……いいんだ。ここにいたい」

 

「そっか……あんまり気張りすぎんなよー」

 

カリコ達はそれ以上何も言わずに村の方へと

帰って行った。爆破用装備から通常戦闘用装備に変更するためだ。

 

一人、村唯一となった通路で、ストラはモニターに映る黄色の大地を見晴らしながら、背後の故郷で過ごした記憶を辿っていた。幼少期の些細な思い出や、直近数年間の激動の毎日を。今や、その記憶の中にしか存在しない人も含めて。

 

「ジェドさん。見えてる?俺、今ガンプラに乗ってるんだよ」

 

誰にいうわけでなく、小さく呟く。

 

「今になって……ジェドさんたちの凄さが分かったよ。ガンプラに乗っても、ヒトツメは怖い。背丈が同じになっているのにさ……ジェドさんたちは生身で戦ったってんだから、敵わないや……」

 

一応、ストラはレジスタンスの兵士として登録されている。そういう意味では、生前のジェドと同じ立場であると言えるだろう。今エルドラGMに乗れているのも、適正試験に合格しているからだ。

 

だが、それはセグリの復興のために少しでも貢献したいという思いからだ。

 

ヒトツメが復活し、エルドラGMが戦闘に使われるようになってからは余程のことがない限り操縦桿を握ることはなかった。

 

しかし、全てが取り返しのつかない事態になってから、ストラはある一つの疑惑を抱くことになる。

 

『俺は逃げたかっただけなんじゃないのか?戦いから、レジスタンス同士の争いから……いや……それ以前に適正試験を受けたのだって、ジェドさんの死を受け入れられなかったからじゃないのか?』

 

セグリの復興の作業中、ストラは何度もジェドの声を聞いた。当然の如くそれは幻聴である。

 

だが、ストラは信じずにはいられなかった。

 

"あの時"セグリにいた何人かは、レジスタンス極秘の地下シェルターに入り、生き延びているのではないか?

 

復興を進めれば、ひょっこりとジェドが現れるんじゃないか?あの無二の優しさに溢れた声で、背後から「ストラ」と呼んでくれるのではないか──と。

 

体の良い妄想だ。頭ではそう理解できていることが、ストラ自身を苦しめた。

 

セグリの復興作業が終わると、文字通り逃げるようにして村に帰ってきた。ジェドが遺した、『村のみんなを頼む』という言葉を言い訳にして。

 

無論、それを悪だと断じることはできない。

 

事実としてストラは村に帰った後もパトロールをはじめレジスタンスとして励んでいたし、それがなければタツカやシンラとの出会いは無かった。

 

我儘を言って年長者に呆れられていたあの頃とは明確に違う。今のストラの行動を責める者も、責められる権利のある者もいない。

 

だが、ストラは──心の底で誰かに導いて欲しいと思っていた。思いっきり叱られたかった。突拍子もない発想をすぐ行動に起こし、他でもないジェドに咎められたかった。

 

それが間違いだと気づいたのは、フレディが処刑から逃れ、帰ってきた時だった。

 

あの時のフレディはハッキリ言って常軌を逸していた。世界の悪意に殺されかけた者が、何故世界の為に動けるのか?ストラは不思議でたまらなかった。

 

「分かったんだよ……いや、思い出したんだ。俺はフレディになれないって」

 

誰かのために戦える者は英雄だ。誰もがそんな精神を持ち得てる訳じゃない。

 

だが、英雄の傷を。英雄の苦悩を。共に分かち、背負うことは出来るはずだ。それもまた、闘うことには変わりない。

 

「フレディ。俺も戦うよ。一緒に悩むよ。一緒に傷つくよ。だから……」

 

ストラが拳を握りしめ、天を仰いだその瞬間。一筋の風が吹く。

 

空に浮かぶ雲を、黒点が裂いていた。

 

エルドラGMのモニターはその正体を正確に分析し、完全復活した聖獣クアドルンという分析結果をストラに示した。

 

作戦開始の合図だ。

 

エルドラ最後の戦いが今、始まる。

 




6周年おめでとう!

キャラの精神をボロ雑巾にしている奴に言う資格はないかもしれないけれど……!

とにかくおめでとう!

追記
バン◯イさん!HGクアドルンを下さい!6年間待ちました!ガトーの二倍も!!お願い……!
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