ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「作戦の確認をしよう」
ハンドルを握る私の横でシンラはウィンドウを出して喋り始めた。
「敵機は三。トラックが一台。都合のいいことに今は夜だ。この暗がりを利用してタツカは車に乗り込んで、運転手を無力化してくれ」
「簡単に言ってくれますね……」
肩をすくめた私にシンラは懇願するような目線を送った。
「君を信用してのことだよ。無力化したらクラクションでもなんでもいい、何か目立つ行動をするんだ。」
「そしてその間にあなたが石板を操作して……」
「僕達はガンプラを手に入れる……完璧だね」
私はそこまで聞いて一つの疑問が思い浮かんだ。
私が彼から離れたら、誰がガンプラとなった彼を操縦するのだろうか。
「操縦は?」
「機体を動かすぐらいなら、なんとかなるだろう。隙を見てそっちに行くから急いで搭乗してくれ」
思った以上に無茶苦茶な作戦だ。いや、作戦と言うのもおこがましいかもしれない。
「そう上手くいくといいですけど……」
私が呟くと、地平線の先に建造物が現れた。目標の遺跡だ。盛り上がった岩場の麓には、件のトラックが見える。
3機のガンプラは巨大な布を使い、せっせと鏡砂をトラックの後部へ運んでいた。
「よし……降りるぞ」
私達は車を岩の裏に隠し、作戦を開始した。
* * *
星明かりが、荒野を薄く照らしている。
明かりは地形がかろうじてわかる程度のものだったが、トラックのハイビームがこれでもかと存在を主張してくれるおかげで、目標を見失うことなく近づくことが出来た。
シンラは既に遺跡の方へと向かっている。
暗がりのせいで目で追うことはできないが、すぐに辿り着くだろう。
「はぁ……何も夜通しやらなくたっていいのになぁ……」
レジスタンスの一人が、運転席から降りてきた。
背伸びをし、欠伸を噛み殺している。
レジスタンスが降りた側とは反対のほうの運転席に慎重に近づき、中に人が居ないか確認する。幸いなことに、トラックの近くにいるのは一人だけのようだ。
私はトラックの荷台に戻り、「ごめんなさいっ!」
と心の中で叫びながら、レジスタンスの後頭部をダッシュの勢いのままぶっ叩く。
「ふぐぅっ」
彼の顔面は地面に鈍い音をたててめり込んだ。
気を失った彼をトラックの助手席に乗せて、私は運転席に座る。
「クラクション…クラクション……」
私はそれらしきボタンをひたすら押しまくった。
その中の一つに確かな感触を感じるものがあった。クラクションだ。
ラッパのような甲高い音が、夜の荒野に響きわたる。
レジスタンスのガンプラはすぐにその異音に気づいた。
「どうした?何があった!応答しろ!」
スピーカーから、野太い声が聞こえてきた。
村で村長と話していたのと同じ声だ。
私はなるべく音を出さないように口を押さえてうずくまり、身を小さくした。
「おい……?聞こえているよな……?」
一機のガンプラが少しづつ近づいてくる。
暗がりの中光るモノアイは一層不気味に見えた。
「……早くしてっ!お願い……!」
心の中でシンラに悪態をつく。
だが足音はどんどん近づいてくる。
敵機は既にトラックの目の前まで到達しており、ゆっくりと片膝立ちの体勢へと移行していた。
「嘘……?!間に合わ……!!
敵機が片膝をついた瞬間、闇に紛れた巨大な影が現れた。
影は敵機の頭部を掴み、後ろからねじ伏せる。
衝撃で。砂煙が宙に舞う。
影がこちらへと手を伸ばした。
「乗れ!タツカ!」
「遅い!!」
私は急いでトラックから駆け降り、機体へと飛び乗った。
* * *
「な、なんだ!アイツ!いきなり現れたぞ!!」
「隊長が一瞬で……!!」
遺跡からガンプラが2機、こちらを見下ろしている。カーソルがエネミーと認識して片方の機体をロックオンした。
表示された機体名は「エルドラGM」
見た目は陸戦型ジムの改造機だ。灰色と水色に塗られた装甲に、左腕に装備している円形のラウンドシールド。
ここまでは共通の装備のようだが、武器が各々違っていた。
見下ろしている機体の片方は西洋剣らしきソード、もう片方は特徴的なシルエットのビームライフル。
足元の隊長機はその二つに加え、バズーカのような物を装備してある。
それに比べて……
「なんで武器がないんですか?!」
私達にはこれといった武器がなかった。
全くなし、素手である。
「鏡砂が足りない見たいでね……装甲もここに来る時と同じだ。」
そう言われてウィンドウを確認すると機体のHPは既に7割を切っていた。
「な……!?」
「まぁ……なんとかするだろ?タツカ?」
投げやりなセリフに思わず息が詰まる。
「っ〜〜〜〜!!やってやりますよっ!!」
私は操縦桿を握りなおし、Gラグナを動かした。
右腕で隊長機を押さえつつ、背部にマウントしてあったバズーカらしき物を強奪する。
「いっけぇえええ!!」
勢いよく打ち出された弾頭は一直線に敵機へと飛んでいき、見事命中した。しかし。
「え?何あれ……?」
弾頭が敵機に着弾した瞬間、無数の糸のように拡散し、敵機を包み込んだ。
身動きの取れなくなった敵機が、なんとかもがいて抜け出そうとしたものの、足を踏み外し落下する。
「ネットガンだったのか……」
ネットガン。いや、この場合だとネットバズーカか。ともかくこの武器は網で敵を捕えることに特化した武器らしい。
ならば話は早いと、未だ動くことなくあわてふためいているもう一機にターゲットを変え、引き金を引いた。
しかし、ウィンドウはEMPTYを示す。残弾なし。この武器は特殊な構造が祟ったか、弾数は少ないようだ。
「なら……!」
私は足元の隊長機からパイロットが脱出したのを尻目で確認すると、脚部を操作して隊長機の胸部を踏みつぶした。
「クソッォ……!!」
ようやく状況を飲み込んだ、最後の1機が動き出した。
私は隊長機の肩部にマウントされていた剣を抜き放つ。
敵機はスラスターの加速に落下の速度を上乗せして、剣を中段に構えながら、こちらへ突進してきた。
「よくも隊長をッ!!」
音割れした甲高い絶叫がコックピットを通して私の耳に入ってくる。
まさに半狂乱と言った状態だ。しかし、隊長はついさっき離脱したのを確認している。
コックピットを潰して見せたのが悪かったか。
このまま暴れられては何かの間違いで逃げた隊長が潰されてしまうかもしれない。
私は敵機の突撃に突撃で返すことにした。
機体をジャンプさせて、相手の突進の軌道に重なるようにスラスターを噴かす。
両者共に速度を上昇させ、カメラアイから漏れ出るわずかな光が夜の荒野に流線となって描かれた。
両者共に剣の間合いに入る。
だが、敵機が剣を振りかざしたその瞬間、私は姿勢制御を行い、敵機の足元を潜り抜けた。
鍔迫り合いになると思っていたであろう敵機は、スピードを落とさずに地面に激突する。
「何ッ?!」
私が遺跡のある岩場にのぼったことで、両者の位置は互いの位置を交換する形でリセットされた。
これなら隊長及び、私が気絶させたトラクターの運転手に危害が及ぶことはないだろう。
「逃がさない!」
予想通り、敵機は方向転換し、勇ましく空中に駆け出した。
だが、そのモーションは上昇している以外、先程となんら変わりない。
(フェイント……?いや………)
私は賭けに出ることにした。ウィンドウを操作した後、地面を蹴り、滑空の形を取りながら落下する。
敵機はウィンドウが指し示す通りに動いている。
それは先程の突進から割り出したモーションの予想経路。
私はそれに合わせるように機体の拳を突き出した。拳は面白いように敵機の頭部へと減り込む。
「なっ……!」
驚いた敵をそのままに、落下の速度を落とさず、地面に叩きつけてフィニッシュ。
首なしガンプラの完成である。
「お疲れさん」
シンラが労いの言葉をかけてきた。私は「どうも。」とだけ返す。
静かで何もない荒野に、立ち昇る煙が二つ。
私が撃墜したガンプラから発生しているものだ。
100メートルほど離れた背後ではネットガンに捕えられた機体がある。
つい先程までは網から逃れようともがいていたが、パイロットが諦めて脱出したらしく、ガンプラはモノアイを消灯させ、沈黙していた。
私はレーダーをディスプレイに映す。レーダーには小さな丸い点の表示が四つ。パイロット 3人と、私が気絶させたトラックの運転手だろう。
シンラもそれを認識し、別々に逃げまどう3人のレジスタンスの位置を捕捉すると、
「よし、ここからは僕に任せてくれ」
と、意気揚々と宣言した。促されるまま、私は彼にコントロール権を渡す。
ラグナは少し身を屈めたかと思うと、次の瞬間、一番離れていたレジスタンスの隊長目掛け大きく跳躍し、隊長から数十メートル離れた前方に着地する。
踵を返して逆方向に逃げようとする隊長をシンラは器用に捕まえると、スピーカーの音量を最大にして、荒野に叫んだ。
「君たちの隊長は預かった!返してほしければこちらの要求に従え!!」
人質を取っての交渉。私はシンラが任せてくれと言った理由を察すると、コックピットの壁に背中を預けた。
戦闘が終わった安堵感からか、急な眠気が襲って来た。そもそもが深夜の時間帯である。
漏れ出る欠伸を噛み締めながら、ぼんやりとディスプレイやら操縦桿やらを眺めると操縦桿がまるで生きているかのようにガチャガチャと音を鳴らしながら動いている。
シンラが機体を動かす時には自動操縦の判定がされるようだ。
(私……いらなくない?)
私が私として目覚めたあの時から、成り行きで彼と共に行動しているが、そもそも彼がスルトと合流したら私はお役御免であったはずなのだ。
(あー……だめだ………眠………)
シンラとの出会いから、エルドラへの転移。
レジスタンス、ヒトツメ……ビルドダイバーズ……
今日一日で起こった波瀾万丈とそれに伴って詰め込まれたあまりにも多い知識。
考えなくてはならないことは山ほどあったが、迫り来る眠気に私は屈してしまった。