ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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震えるセカイ①

「クアドルン、作戦を変えよう」

 

シンラの言葉を聞いて、クアドルンは不服そうに返した。

 

『……私はまだ大丈夫だ』

 

「だが全快ではないだろ?前衛は僕たちに任せてくれよ」

 

本来ならば、クアドルンの先導で衛星基地を攻略する手筈だった。だがそれは、消耗がないという前提のもと。大気圏突破時に予想外の傷を負ったクアドルンには荷が重いと言わざるを得ない。

 

それに対して私とシンラの消耗はゼロ。ナノラミネートアーマーが、ヒトツメの主力兵装であるビームの殆どを無力化してくれたお陰だ。

 

無論、相手もそれを承知の上で襲ってきたのだから、私たちが受けるべきダメージはクアドルンが余分に負ったことになる。

 

と、いう旨をシンラは遠回しに伝えた。クアドルンは渋々といった表情で頷く。

 

『うむ……了解した』

 

「よし、なら──」

 

シンラがクアドルンの背から立ちあがろうとした、その時。

 

「九時の方向!敵影あり!」

 

シンラの言葉を遮るようにして私は叫んだ。

 

モニターが敵機の情報を示す。敵機を表す赤点は、流星と見紛うほどの凄まじい速度でこちらに向かっている。

 

「早速お出ましか……!」

 

刹那、巨大なデブリを粉砕しながら、敵機の姿が現れた。

 

ガンダムゼルトゼロ。醜悪な英雄の模倣品。

 

ゼルトゼロは獲物を捉えた猛禽類の如く喰らい付き、巨大な右腕で私たちをクアドルンの背から掻っ攫っていった。

 

間一髪、シンラの刀が間に合い、巨椀との鍔迫り合いの形に持ち込む。

 

しかし、その趨勢はゼルトゼロに傾いていた。このままではすぐに押し切られる。

 

「ゆけっ!GSファンネル!!」

 

私の絶叫と共に、シンラの背から放たれた2対の大剣は、弧を描きながらゼルトゼロの首元に迫った。ゼルトゼロの意識が大剣に向く。

 

ゼルトゼロは、左背部のアームに備えられた巨大な盾でそれを防いだ。流石の反応速度だが、シンラが体勢を立て直す隙はできた。

 

「行け!クアドルン!」

 

バックステップでゼルトゼロと距離を取りながらシンラが叫ぶ。

 

「こいつはきっと基地を守る最後の砦だ!僕たちがこいつを引きつけている間に、衛星砲を……!」

 

『了解した!』

 

クアドルンが威勢よく叫ぶ。翼が淡い光に包まれた瞬間、爆発的な加速で衛星基地の方へと飛んでいった。

 

そんなクアドルンのことなど目もくれず、ゼルトゼロが大剣を跳ね飛ばす。

 

ファンネル回収のコマンドは既に入力していたので、役目を果たした大剣はシンラの背に向けて飛び、合体。

 

ゼルトゼロは初めて体験した武装に困惑しているようだ。警戒心を隠そうともせずに、こちらを凝視している。

 

「追わないんですね……」

 

 

私の小さな呟きを、シンラは何故か大声に出して返した。

 

「僕たちに用があるのさ……いや、正確には僕たちが取り返したスルトに、かな」

 

その瞬間、大量の火花が目前に舞った。

 

一瞬にして距離を詰めたゼルトゼロの大槍による一撃が、シンラの刀と激突したのだ。

 

私は目で追うことが全くできなかった。

 

「そぉら!ビンゴだ!」

 

シンラが嘲るように言う。挑発か、はたまた強がりなのかはわからない。

 

だが、ゼルトゼロの神経を逆撫でしたことは確実だった。軋む大槍から、奴の憤怒がありありと伝わってくる。

 

「そんなに怒るなよ、アル……」

 

今度は囁くようにシンラが口を開く。明らかな挑発だ。途端、ゼルトゼロのスラスターが、溢れんばかりの炎を吐き、唸りを強めた。

 

『……黙れ』

 

それはスラスターの轟音にかき消されなかったのが不思議なぐらい小さな呟きだった。

 

だが、粘着質をはらんだ声は、これでもかと耳にべっとりと張り付く。

 

合成音声と聞き違うほどの、あまりにも無機質な声。

 

だが、それでいて内なる激情を隠そうともしていない。

 

 

そして、その二面性を持ち得た声は──信じられないことに、スルトの声柄と同じだった。

 

私は確信した。声の主、ゼルトゼロのパイロットはアルだ。

 

「はあっ!」

 

シンラが短く叫ぶと、刀を槍の側面に滑らせた。

 

ノーダメージで互いの位置を入れ替えた2機は、互いを牽制し合いながら、ジリジリと歩み寄っていく。

 

「行くぞタツカ……今度こそ……」

 

どうやらシンラも、私と同じ結論に至ったようだ。

 

作戦目標であるスルトの体の奪還。数日前はまんまと煮湯を飲まされたが、今度はそうはいかない。

 

シンラが刀を体の正中線に構えた。基本に忠実なお手本のような構え。

 

ゼルトゼロもまた、何かを察し大槍を据えた。

 

溢れる怒りを抑えきれないのか、その機械の体は痙攣に苛まれている。

 

戦場で訪れた一瞬の静寂。

 

両者は互いを数秒見つめ合った後、一息で距離を詰めた。

 

スラスターの吐き出す炎が、二筋の光芒となって尾を引き──重なる。

 

* * *

 

ゼルトゼロとの接敵から十分後、クアドルンは衛星基地に辿りついていた。

 

過去の記憶を頼りに、入り組んだ衛星基地を躊躇いなく進む。

 

何度か基地内部の崩壊によってルート変更を余儀なくされたものの、ヒトツメとの接敵もなく見覚えと苦い記憶のある部屋に到着した。

 

そこは、かつてクアドルンがアルスを仕留め損なった部屋。崩壊と改造によって様相を変化させていたが、それで欺けるほどクアドルンの記憶は衰えてはいなかった。

 

『………』

 

感傷に浸るのも程々にして、クアドルンはまた進み始めた。上下左右に設けられた道の中から、衛星砲につながる道を選択。翼をたたみながら、狭い通路を駆け抜けていく。

 

『む……?』

 

ふと、クアドルンはささやかな違和感に気づいた。

 

──ヒトツメがいない。一匹たりとて。

 

大気圏付近の兵力が全てだった可能性はある。あの尋常ならざる量はビルドダイバーズやマサキと共に戦った最終決戦に匹敵するほどだったのだから。

 

だが、伝え聞くところによると、タツカ達が衛星基地を調査した時は僅かに巡回兵がいたそうだ。

 

それに、そもそもの話、初期の作戦はヒトツメの大群がエルドラに降下する前に叩くというものだったはず。

 

衛星砲ばかりに気を取られてしまったが、ヒトツメ用のガンプラを製造しているのだから、整備兵の一匹も見ないのはおかしい。

 

何か大きな見落としをしているのではないか?

 

クアドルンは根拠のない焦燥感に駆られた。

 

傷つけられた羽の痛みすら忘れて、一目散に衛星砲内部へと向かう。

 

聖獣のスピードを持ってすればたどり着くのに時間はそうかからなかった。整備用の通路から漏れる僅かな光の中に体を躍らせる。

 

『……っ!』

 

眼前に広がる光景に、クアドルンは目を剥いた。

 

──衛星砲は、修復されていない。

 

一目見るだけで、それは明らかすぎるほどに明らかだった。

 

円柱状の砲台を形作る壁面は酷く灼け、ところどころに行き場を失った電流が走っている。

 

衛星砲を災厄たらしめたエネルギー炉──、衛星の地中、基地の根本から伸びているはずの

その部分は、空洞になっており、炉は完全に消失していた。

 

これでは、強引に発射することすらできない。

 

『杞憂だった……?いや……』

 

衛星砲が無いならば、それに越したことはない。

 

だが、確信を得てもなお、クアドルンは嫌な胸騒ぎを拭うことが出来なかった。

 

──カツン。

 

『誰だ!!』

 

背後からの異音に振り返った瞬間、サッと移動する影をクアドルンは捉えた。

 

薄暗い空間ではあったが、球に近い形をしたその影は、間違いなくヒトツメの斥候タイプだ。

 

クアドルンは罠の可能性を頭の片隅に入れながら、通路に消えていった影を追う。

 

ヒトツメは素早かった。入り組んだ基地内を縦横無尽に駆け抜けていく。

 

最高速度自体はクアドルンの足元にも及ばないが、地形はヒトツメの味方をしている上に、クアドルンは満身創痍。両者の差は思うように縮まらない。

 

それでも、クアドルンはエルドラの守護者たる自負を燃料に、逃げるヒトツメを脇道のない一直線の通路に追い詰めた。

 

『逃さん!』

 

クアドルンの叫びが、通路を震わせる。

 

「きゅいっ!」

 

ヒトツメは悲鳴らしきものをあげながら、唯一の逃げ道である部屋に逃げ込んだ。だが、その部屋は行き止まりだとクアドルンは記憶している。

 

ヒトツメが入ったのは、物置小屋のような、ごちゃごちゃとした部屋。出入り口が一つになっている部屋の中央に、ヒトツメは佇んでいた。右往左往しながら必死になって逃げ道を探しているように見える。

 

『もう逃さんぞ』

 

クアドルンがヒトツメを啄む。咥えられたヒトツメは触手を忙しなく動かした。

 

「きぃ……!」

 

『抵抗しても無駄だ……!お前の仲間は何処だ!』

 

「きぃ!きゅぃ!!」

 

ヒトツメは尚も触手を動かす。クアドルンはそれが、抵抗とは違う意志を含んでいることに気づく。

 

『なんだ……なにを……』

 

ヒトツメが触手で指す方向に、クアドルンは視線を動かした。瓦礫として認識していた物体が像をなす。

 

それは、ここにあるはずのない物体だった。

 

ゴミのように捨てられた、アルにとっては余り物の部品たち。

 

だが、クアドルンにとって、それは。

 

空に憧れた少年の翼であり、正義を手にした少年の盾であり、生まれ変わった少女の写し身であり──

 

共に戦った彼らと、彼らのした選択を踏みにじる、最悪の兵器だった。

 

『……っ!!まさか……!!』

 

クアドルンはこの宇宙に生を授かって初めて、戦慄というものを体験した。

 

衛星砲など目ではない!

 

このままでは、それ以上の災厄が訪れてしまうと!!

 

* * *

 

『お……おおおぉぉぉ!!』

 

アルが吠えた。それは、大槍と背中のランチャーを壊され、その身一つになってしまったが故の虚勢だった。

 

それとは対照的に、私たちは無言で奴を追い詰める。

 

今までの戦いの成果か、あるいはただのゾーン状態か、私とシンラは言葉を介さずとも互いの意思を伝えられるようになっていた。

 

私がファンネルで隙を作る。すかさずシンラが刀で一撃を入れる。

 

シンラが刀でゼルトゼロの巨腕を弾く。私のGSファンネルが、その腕を切り落とす。

 

──今だ!タツカ!

音のない声が、私の頭に響いた。その瞬間、私は右手をアイテムストレージに閃かせ、左手でコマンドを入力し、必殺技を発動させた。

 

右手で入力したのは、所持アイテムの具現化。それによって、スルトの魂がこもった結晶が、シンラの目の前に現れる。

 

左手で入力したのは、パルマフィオキーナ:ブレイクブースト。スルトの体を奪い返す為の必殺技。

 

『いくぞ!スルト!』

 

『了解です、シンラ様!!』

 

シンラは宙に浮かぶスルトの結晶を掴み、それとは反対の手でゼルトゼロの胸を穿った。

 

引き裂かれた装甲の隙間から、山の民のような毛並みを持つスルトの体が姿を現す。

 

だが、その首の上にはアルによって歪められた顔が乗っている。

 

シンラは間髪入れずに、光る右手で結晶をスルトの体に押し付けるようにかざした。

 

すると、結晶は翡翠色をした膨大な量のデータの羅列に変わり、その渦がアルの体を包みこんだ。

 

『うっ……』

 

スルトの体に苦悶の表情を浮かばせていたアルの顔が、突如スッと憑き物が取れたかのように安らかになる。

 

その変化を一瞥したシンラはすぐさまスルトの体を握り、自身の胸部に近づけた。

 

モニターから姿が消えると、横たわったスルトが、私の背後に現れる。

 

私は操縦桿を投げ出した。その瞬間、シンラとの意思の接続のような何かプツンと途切れた感覚が訪れたが、今は頭の片隅にでも置いておけばいい。

 

「スルトさん!スルトさん!」

 

目を伏せたままのスルトの体を揺らしながら、私は必死になって呼びかけた。数秒とはいえ、真空空間に投げ出されたのだ。何かがあってもおかしくはない。

 

「うっ…… 」

 

幸いなことに、スルトはすぐに呻き声を返した。ゆっくりと開かれた瞼の奥の瞳はまだ焦点が定まっていないのか、忙しなく動いている。

 

「スルトさん、スルトさん!聞こえますか!?」

 

「あ……ま……だ……」

 

不鮮明な言葉をなんとか聞き取ろうと、私は耳をスルトの口に近づけた。

 

「まだ……だ……終わって……ない……」

 

スルトがそう発した瞬間、コックピットが激しい揺れに襲われた。体勢を崩し、横たわるスルトに覆いかさぶる形になる。

 

「……っ?!」

 

何が起こったのかは、モニターを見てすぐに分かった。

 

動いている。ゼルトゼロが。奴は唯一無事な左腕を振りかぶって、シンラに攻撃したのだろう。

 

シンラは咄嗟に回避したものの、その回避はコックピットに激しい揺れとして伝わったというわけだ。

 

「なんで……!どうして……」

 

虚無となったコックピットを見せつけながら、ゼルトゼロは亡霊の如く揺らめいている。

 

ありえない。ガンプラが操縦者なしに動くだなんて──

 

いや、違う。例外はある。

 

現に、私は今、その例外に乗っているではないか。

 

『コアチェンジ……』

 

亡霊が声を発した。プラネッツシステムを使って、これまでのダメージをなかったことにするつもりだ。

 

「タツカ!もう一度だ!今度こそけりをつける!」

 

「は、はい!」

 

私が立ち上がり、操縦桿を握ったのと同時に、周囲に爆炎が舞った。

 

「ちいっ!」

 

シンラが舌打ちをしながら、爆炎を避ける。

 

爆炎の正体はミサイルだった。シンラが、なおも追尾するミサイルを刀で叩き割る。

 

──まずい。コアガンダムの支援機が到着してしまったのか?

 

私の甘い考えは、爆炎の中を突き進んできた"モノ"によってすぐさま否定されてしまう。

 

「う、ウォドム?!」

 

円状の頭部に武装や足を生やした見間違えようのない独特なシルエット。原型機との違いは、リボンのような紺色の装甲と、同じ色の脚部増加装甲が追加されているのみ。

 

「……っ!ラァ!!」

 

シンラが、いつの間にか抜いていたレールガンのトリガーを引く。

 

銃弾はウォドムの装甲に達し──いとも容易く弾かれた。

 

「なっ……!」

 

茫然としたシンラの隙を、ウォドムは見逃さなかった。シンラの胸部目掛け、矢継ぎ早にハイキックを仕掛ける。

 

「させるかっ!!」

 

私の絶叫と共に放たれた2対のWファンネルは、防御壁を展開し、ハイキックをかろうじて受け止める。

 

だが、それによって生まれた凄まじい反発力までは相殺できず、私たちは強いノックバックに襲われた。

 

「ぐぁっ……!」

 

背中を強く打ち付けたシンラが喘いだ。運悪く、吹き飛ばされた場所にデブリが鎮座していたのだ。

 

コックピット後部に強い衝撃が起こる。横たわったままのスルトの体が滑り、投げ出されたが、私は自分が倒れないよう、操縦桿を握るのが精一杯だった。

 

「ぐっ……!」

 

私たちがダメージに顔を顰めている間に、ウォドムはゼルトゼロに近づく。

 

いや、ウォドムだけではない。ガンプラとしてはかなり小さいシルエットが宙に浮かんでいる。

 

どれだけ注視しても、その正体は分からなかった。腕とも足と言える部品のほかに、肩や翼や尻尾などがゼルトゼロの周囲を漂っている。

 

ウォドム含めたその影たちは、ゼルトゼロの周囲に陣形を組む。

 

そして、アルが叫んだ。

 

一言一言、噛み締めるかのように。

 

私たちは、それをただ聞くことしかできなかった。

 

虚無のコックピットから発せられる、人ならざる者の、あの呪詛を。

 

"り"

 

 

 

"ら"

 

 

 

"い"

 

 

 

"じ"

 

 

 

"ん"

 

 

 

"ぐ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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