ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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震えるセカイ②

──まだ、まだくるのか。

 

ストラが何百回目かのトリガーをひく。エルドラGMの放った弾丸はエルドラアーミーの頭部に吸い込まれたかのように進み、頭部を破壊した。

 

エルドラアーミーはぐらりと体勢を崩しその場に倒れ、爆発。巻き起こった火炎と砂煙が、ストラのモニターを塞ぐ。

 

「10機目……!」

 

誰に言うわけでもなくストラが呟いた。

 

──作戦開始の合図から1時間経った頃、空から大量のヒトツメが"落ちて"きた。 見たこともない不思議な装備を携えた奴らは、着地するや否や、周囲の村々に散らばり襲撃を開始。

 

当然、ストラの村も例外ではなかった。ムランが考案した防衛作戦がなければ、一瞬にしてエルドラ中の山の民は全滅していただろう。

 

三年前のように遺跡の結界が使えれば良かったのだが、話はそう上手くはいかなかったようだ。

 

無線で飛び交う被害報告の中に遺跡に配置された兵士の声も含まれているのが、何よりの証拠である。

つまりこれは、山の民とヒトツメの総力戦なのだ。戦いの終わりはどちらかの首領が無力化されるか、全滅するかの二択。

 

「ストラ!危ねぇ!!」

 

逡巡し、絡まったストラの思考をカリコの無線が現実に引き戻す。

 

「……っ!!」

 

そこには、モニターにアップで映る敵機の姿があった。迷いの生じたストラに、エルドラブルートの凶刃が容赦なく襲いかかる。

 

「負けるかっ!」

 

ブルートの持つ戦斧の横薙ぎに臆さず、ストラは敢えて前に出ることを選択した。

 

──まだ、まだだ。

 

幾重にも引き延ばされたように感じる時の中で、鋭く研がれた刃が刻一刻と近づいてくる。

 

──ギリギリまで引きつけて……今だ!

 

斧の先端がエルドラGMの肩を捕えるコンマ数秒前に、ストラは両手に握る操縦桿を大きく倒した。

 

それによって、ストラの乗ったエルドラGMもまた、転倒に近い形で前方に大きく倒れる。狙いの外れたブルートの斧は、むなしく宙を切った。

 

「?!」

 

ブルートが目を見開いた──気がした。少なくとも、ストラはそう思った。

 

「……せあっ!!」

 

お返しとばかりに、ストラ機が右の拳でアッパーをお見舞いする。バネのように伸びた機体による拳は、エルドラブルートの顎部に重低音を響かせながらクリーンヒットした。

 

数秒の沈黙の後、エルドラブルートががくりと肩を落とし、斧を手放す。

 

「やるなぁ、ストラ!」

 

前方で戦うザブンが、ストラを励ました。少なくなった気力が持ち直す気配と共に、突撃してくる別のヒトツメの対処が始まる。

 

──頼む。早く、早く終わってくれ。

 

遥か遠くの宇宙に、ストラは祈りを捧げた。

 

近くのカリコやザブン、セグリで指令を飛ばすムラン──ガンプラに乗り、戦うレジスタンスたちの皆が、各々の方法で、宇宙の戦いの行方をあんじ、似たような思いを宇宙へ飛ばしていた。

 

彼らだけではない。

 

誰かの父が、母が、息子が、娘が、エルドラ中に住む、山の民全てが。

 

もしかしたら、エルドラ中の命ある全ての生命が──この戦いの終わりを望み、平和を望んでいた。

 

だが、その祈りを嘲笑うかのように──

 

惑星破壊を企む最悪の巨神が、宇宙で組み上がりつつあった。

 

* * *

 

「あ……あぁ……」

 

私は喉から漏れ出た小さな悲鳴が、自身の発したものだと認識することができなかった。

 

機体名──"リライジングガンダム"

 

エルドラの守護神たるその姿は、妬み、嫉み、怨嗟──ありとあらゆる負の感情によって黒に染まり、今や守るべき惑星に牙を剥こうとしていた。

 

操縦桿を握る手が震える。足が竦む。あの恐ろしい兵器に、どう立ち向かえばいいのか。必死で考えているのに、頭の中は真っ白のまま。それに釣られて、視界までもが白に染ま──

 

「しっかりしろ!タツカ!」

 

「……!!」

 

シンラの怒声に呼応して、私の視界が色を取り戻した。それに伴って、モニターに映る敵機と目を背けたくなるような現実が像を結ぶ。

 

だが、再度心が挫けるよりも前に、シンラがもう一度叫んだ。

 

「僕たちでやるしかないんだ!そうだろ!タツカ!」

 

「…………っ!はい!」

 

そうだ。思い出せ。出撃前、お前は背負ったはずだ。命と覚悟を。

 

ふらつきそうだった足に、力が入る。操縦桿からは、仄かな温かみが伝わってくる。

 

「よし……行くぞ!」

 

スラスターをけたたましく鳴り響かせながら、シンラがリライジング目掛け、かけ出した。

 

「……はあっ!!」

 

間合いに入った瞬間、シンラが気合いと共に神速としか言いようのない速度で刀を放つ。

 

それは先刻、ゼルトゼロの右腕を一撃で切り捨てた時以上に洗練された一撃だった。

 

『シッ!』

 

だが、アルは何処からか最低限の気合いを放ち、リライジングの右手でシンラの刀を受け止めた。

 

──ピシッ……

 

紅い刃に一筋の亀裂が入る。細かな亀裂はすぐさま刀全体に広がり、無数の破片が宇宙へと散らばった。

 

「っ……!」

 

言葉を失うシンラをよそに、刀だったものがシンラの両手をすり抜けていく。

 

「「まだだッ!」」

 

私とシンラが、寸分の狂いなく同時に叫んだ。シンラの拳と16機のファンネルが、リライジングに迫る。

 

『ちっ……』

 

苛立ちを隠そうともしない、幼稚な舌打ち。リライジングは小蠅を払うかのように、無造作に腕を振るう。

 

「この程度っ……!」

 

シンラがすんでの所でリライジングの巨うでを躱す。

 

だが、攻撃はそこで終わらなかった。腕を振るう余波で、大気のないはずの宇宙に、嵐と見紛うほどの突風が舞う。

 

巻き起こった擬似風は、シンラをファンネル諸共吹き飛ばした。コックピットもまた、激しい揺れに襲われる。

 

「が……はっ……」

 

詰めていた息を吐き出しながら、モニターが示す情報を一瞥し、私は愕然とした。

 

ゼルトゼロとの戦闘時には8割近くあったはずの機体HPゲージは、今や4割を切っていた。

 

その上、16機あったファンネルの内、6機がシグナルロスト、8機が半損。

 

つまり、私たちの必死の攻勢は、アルに煩わしいの一言で片付けられてしまったのだ。交戦とすらいえない、あの一撃で。

 

「クソッ!」

 

シンラが毒づきながら、錐揉み状に回転していた体勢を立て直した。それに伴って回転していたモニターの映像も鮮明に戻る。

 

モニターが捕らえた敵機、リライジングと一体化したアルは、ゼルトゼロの時よりも肥大化した両腕を凝視しながら、ワナワナと震えていた。

 

『は、は、ハ──』

 

その時、ノイズの混じる電子音がリライジングから発生した。不協和音はアップダウンを繰り返しながら、最終的に耳障りな声へと落ち着く。

 

『これで奪える……奪い返せる……!』

 

最早その声は、誰のものでもなかった。

 

スルトでも、アルスでもなければ──アルと断言することもできない。あえて形容するならば、復讐と怨嗟に飲まれた亡霊の声。

 

『あはぁ』

 

おもむろに、リライジングがまるで勝利宣言を行うがごとく、右の拳を高く掲げた。奴の拳が、手刀の形を取る。

 

途端、リライジングの手のひらを閃光が包んだ。閃光は火花を激しく散らしながら、巨大なビームソードの形を作る。

 

迸るエネルギーの奔流は、それが致命の一撃であることをこれでもかと主張していた。

 

「くっ……!」

 

シンラが全身のスラスターを噴かし、リライジングから少しでも離れようと走り出した。

 

だが、その抵抗すら楽しんでいるかのように、リライジングがゆっくりと右手を下ろす。

 

圧倒的なリーチを誇るビームの粒子は、一瞬にして私たちへと迫った。

 

ジュッ、と装甲の焼ける音が耳を貫く。

 

『掴まれ!』

 

機体全体がビームに飲まれる寸前、衛星の方角から轟音を響かせながら、クアドルンが飛来した。

 

シンラは勢いを殺すことなく機械の片翼に捕まり、離脱。0.1秒前までいた場所をビームソードが通り抜ける。

 

「すまん、助かった!あれは……」

 

クアドルンは、凄まじい速度を保ちリライジングの周りを旋回しながらも、余裕のない返答を見せた。

 

『分かっている!早く破壊しなければ……!!』

 

「しかし……」

 

『私たちの最大火力を、奴にぶつける……!それしか、方法は無い……!』

 

クアドルンの提案にシンラは躊躇いを振り払い、首肯しながら口を開く。

 

「……わかった、タイミングはそっちに任せる」

 

一度の呼吸を挟んだ後、クアドルンが声を振るわせながら叫んだ。

 

『……行くぞ!!』

 

咆哮を発しながら、旋回していたクアドルンが直角にも等しい角度の鋭角カーブを実行した。

 

私たちを背に乗せ、聖獣は翼で宇宙を裂きながら巨神へと突撃する。

 

リライジングは、余裕綽々と言った様子で不動を貫いていた。全てを受け入れるつもりなのか、仁王立ちで佇んでいる。

 

「おおおぉぉっっ!!」

 

シンラはクアドルンの背から飛び出し、裂帛の気合いと共に刀に黒光を灯らせた。失われた刀身を補うように、稲妻が走る。

 

同時に、クアドルンが雄叫びを上げながら体を弓なりに反らした。複雑怪奇な蒼い紋章が、聖獣の前方に現れる。

 

「ファンネル、全機フルバースト!!」

 

私の絶叫と共に、運用可能なファンネルが一斉に目を覚ます。起動した10機のファンネル達は、リライジングの後方に周り、背後を狙う。

 

コンマ数秒後。リライジングの周囲から、幾多もの閃光が放たれた。

 

シンラとクアドルンの放つ黒と蒼、2種の雷は、混ざり合って一つの大きな光となる。

 

私のファンネルも、リライジングの死角から各接続部へ一斉にビームを放つ。

 

それらの攻撃は、各々の狙い通りの場所へと辿り着き、宇宙を揺らすほどの大きな爆発となった。爆炎の中に、リライジングが飲み込まれていく。

 

「……どうだ?!」

 

攻撃の是非を問うシンラの声。

 

爆煙の中から、力強くツインアイの光が放たれ、それと共に巨大なシルエットが浮かぶ。

 

『バカな……』

 

音にならない声が、クアドルンから漏れた。

 

『これで……理解したはずだ。お前たちは、私に、勝てないと』

 

煙から出てきたリライジングは──細かな傷はあれど、ほぼ無傷に等しかった。アルは、まるでそれが攻撃の対価だと言わんばかりに、クアドルンを指差し、問う。

 

『クアドルン……お前の大切なものはなんだ』

 

『……っ!それは……』

 

クアドルンが、後方をちらりと見やる。そこにあるのは、惑星エルドラ。

 

そして──

 

「ダメだ!クアドルン!」

 

シンラの静止は、致命的なまでに一歩遅れていた。クアドルンの反応を見て、アルは歓喜に満ちた声を上げる。

 

『クク……そうか、そうだよなぁ……聖獣だものなぁ……街を守る、いい聖獣様だものなぁ、お前は!!』

 

発する言葉が、さながら歓喜と狂気の二重奏のように、嫌な熱を帯びていく。その指揮者たるアルは、フィナーレとして高らかに叫んだ。

 

『目標、"水上都市セグリ"!!お前に、お前たちに教えてやる……奪われる痛みを、悲しみを……絶望を……!!』

 

「……っ!!リライジング、エネルギー増大!」

 

モニターに映る警告を、私はそのまま叫んでいた。

 

リライジングの胸部を中心に、異常なまでのエネルギーが集まっていく。それを包み込むように、奴は腕を動かし、叫んだ。

 

『《グ ラ ン ド ク ロ ス • キ ャ ノ ン 》!!』

 

光と、音。

 

世界が、奴が、リライジングが。

 

その二つだけを、宇宙から浮かび上がらせた。

 

紫色の極光は、ある一点を目指し、青い星へと一目散に駆けた。その一点の名は、事前に奴が示した通り──

 

『止められ……なかった……ならば……もう……』

 

クアドルンが掠れ声を上げる。

 

「あ、あぁ……もう、セグリは……」

 

途切れたシンラの言葉を紡ぐように、私は小さく呟いた。

 

「"フレディ"に任せるしかない……」

 

* * *

 

此処は3年前、多くの命が失われた場所。

 

ジェド兄さんが、月の雷に飲まれた場所。

 

悲しみを乗り越えた人々が作り直した場所。

 

地平線の向こうには、夕陽に照らされた湖が淡く輝いていた。

 

なんて、なんて……美しい景色なのだろう。

 

だから──

 

これが最後には、させない。

 

フレディは"上空"から、セグリを眺めていた。

 

いや、正確には、上空にいるガンプラのコックピットから、だ。

 

最悪の結果を回避するために、セグリを守護する最後の砦として、彼はそこに立っていたのだ。

 

そして──それは来た。来てしまった。

 

紫色の光が、空に浮かぶ月の中央から降る。

 

三年前のあの日のように、悪意と殺意の渦が一直線にセグリへと向かう。

 

──それを止めるのが、僕の役割。

 

フレディは叫んだ。

 

かつて隣に立っていたあの優しい少年の、頼れる戦友の、かけがえのない仲間の力を。

 

少しでも、ほんの少しだけでも、己の身に宿す為に。

 

「フレディ、"リライジングガンダム"!! ────行きますッ!!」

 

この瞬間から世界の、この星の命運は。

 

たった一人の──

 

"ビルドダイバーズ"の手に、託された。

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