ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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祈りを叶える為に①

決戦前夜。 ムランが衛星砲の懸念を吐露したあの日の夜。

 

フレディは夜空の下、レジスタンスの本拠地のバルコニーでシンラの話を聞こうとしていた。

 

しかし、中々本題を切り出さないシンラに痺れを切らしたフレディが問う。

 

「それで……話というのは?」

 

梁に登り、夜風に吹かれながらシンラが小さく呟く。

 

「……さっき、僕が言ったこと、覚えてるか?」

 

「えっと……」

 

フレディが、数分前のシンラの言葉を脳内で探る。

 

"フレディのリライジングで、砲撃をとめられるかはわからない……だから、僕達で撃たせる前に制圧するのが一番現実的だと思う"

 

そう。これが、衛星砲の対策として、話し合って出した結論。それは、次善の策として立候補したフレディを、リライジングガンダムに乗せるというものだった。

 

「そうだ。さっきは、あぁ言ったけど……本当のことを、フレディ。君だけに話す」

 

シンラは深呼吸した後、結論を一息で言い切った。

 

「無理なんだ。衛星砲をリライジングガンダムの攻撃で跳ね返すのは」

 

「む、無理……?それは、僕が……」

 

「違う。君が悪いんじゃ無い。理論として、だ。前提として、衛星砲もリライジングの必殺技もどちらもビームの形をとっている。ビームが水中だと弱まる事は知っているか?」

 

「え、えぇ……なんとなく」

 

フレディは、かつてビルドダイバーズが水中戦に浮き足だっていたことを頭の片隅に浮かべながら頷いた。

 

「そう。簡単に言えば、ビームは、周囲の状況によって減衰するんだ。水中よりも、大気中の方が威力は強まり……"大気中よりも、宇宙の方が強くなる"」

 

「……っ!!つまり……」

 

絶句するフレディ。シンラは躊躇なく言い切った。

 

「そうだ。宇宙から放たれたビームと、大気中……エルドラで放たれたビーム。例え砲台の性能が同じでも軍配は宇宙の方に上がる」

 

「宇宙にリライジングを運ぶのは……?」

 

「まずパイロットもそうだが、ネプテイトやARバスター分の鏡砂はない。それに、あの時はミラーグの山から、遥か上空から宇宙へ向かったんだろ?……勿論これも不可能だ。せいぜい、大気圏を突破できずに墜落するのが関の山だろう」

 

「け、けど……!!」

 

それでもリライジングガンダムの性能なら。

それを言う前に、シンラはフレディの思考を先回りしていた。

 

「そして……問題なのは、リライジングガンダムの性能だ」

 

「……?」

 

一体全体、あの守護神に何の問題があるのか?

フレディには分からなかった。

 

だが、シンラは確信に満ちた声音で、衝撃の事実を言い切った。

 

「"ありえないんだよ"。相殺するだけならまだしも、あの機体の出力で、街一つ消せる衛星砲を跳ね返すだなんて……報告にあった必殺技発射時に黄金に光るというギミックも……データ上では見つけられなかった」

 

「じゃ、じゃあ、なんで……」

 

三年前はそれが出来たのか。シンラの方を見やると、彼は項垂れながら小さく首を振る。

 

「……わからない。奇跡だったとしか、言いようがない……」

 

シンラは数秒間の沈黙の後、躊躇いを隠さずに口を開く。

 

「……僕からの話は以上だ。それを踏まえて……僕と君しかいないこの場で、もう一度聞かせてほしい。フレディ……君は……どうしたい?」

 

* * *

 

そう。これは、シンラが出した結論である。アルが衛星砲を放った場合を想定した結論である。

 

だが、我々は知っているはずだ。

 

アルが放ったのが、衛星砲では無いことを。アルがリライジングガンダムを再現するだけでなく、より強化していることを。

 

その強化は、シンラの言葉に沿って言えば……

衛星砲を、確実に跳ね返せるほどの性能と言える。

 

アルはビルドダイバーズの奇跡を、執念と技術で成し得たのだ。

 

ならば、ならば。

 

フレディの勝ち目は、既に──

 

* * *

 

──来た。

 

──僕の出番が、来てしまった。

 

眼前に迫るは、宇宙から飛来した死の光線。

 

背中に背負うは、300に近い人々の命と、兄の眠る水上都市。

 

「行けっ……!!リライジングガンダム!!」

 

操縦桿をこれでもかと握りしめ、フレディが叫んだ。機体は入力されたコマンド通り、必殺技の発射を承認する。

 

《グランドクロスキャノン》。

 

リライジングガンダムが拳を握り、発射モーションに入った。

 

───しかし。

 

「っ……!」

 

フレディは、モニターに映る機体の両腕を見て、短く喘いだ。

 

変わっていない。

 

必殺技を放つプレモーションを済ませたはずなのに。

 

機体の色が、黄金の光を帯びていない。

 

フレディは、トリガーを引くことを躊躇った。

 

だが、空から降る光は止まることなく進んでいる。迷っている時間など、初めからなかった。

 

「……いっっっけええええ!!」

 

躊躇いを振り払うかのように叫び、トリガーを引く。迫り来る光よりも、僅かに色彩の薄いビームが、フレディのリライジングから放たれた。

 

空を裂く宇宙からの光と、雲を裂く地上からの光の二つが、地表から2000メートルほど離れた場所で触れ合った。その瞬間、フレディが握る操縦桿にとてつもない負荷がかかる。

 

──重い。

 

大地そのものがのし掛かっているかのような凄まじい重量が、操縦桿をつたってフレディの両手を襲った。

 

「ぐっ……」

 

歯を食いしばり、操縦桿を少しでも前に倒そうと溢れんばかりの力を込める。

 

だが、フレディの意思とは真逆に、操縦桿はギチギチと悲鳴をあげながら、ゆっくりと、だが着実に押し戻されていった。

 

フレディが放つビーム自体も、それに連動し、少しづつ後退していく。

 

──僕じゃ、ダメなのか。

 

フレディの脳裏に、諦念の言葉が浮かぶ。

 

──フレディ……君は……どうしたい?

 

あの日のシンラの問いに、フレディはすぐに頷くことが出来なかった。

 

命が惜しかったからではない。選択するということ自体に、フレディは忌避感を覚えていたのだ。

 

ヒトツメとの共生──いや、アルスに伝えなければならないことがあると宇宙へ上がったあの時。フレディは確かに、自分の意思で動いていた。

 

だからこそ、フレディは怖くなった。

 

全てが間違っていたのではと。

 

──ヒトツメを殲滅していたら?

 

──アルスを許していなかったら?

 

──姉の言いつけを破り、遺跡の探検をしていなかったら?

 

フレディには幾度となく選び、答えを出す機会があった。他の者にはない、山の民の中で幸運なフレディだけが選び取ることが出来た選択肢。

 

なのに。僕は。それを活かせなかった。

 

エルドラを平和にするどころか……

 

誰かのために頑張っていたはずだった。でも、それは望まれてなんかいなかった。

 

処刑される時、これは報いなのだと思っていた。英雄の同行者の分際で、人々のためなどと驕り高ぶっていた自分への罰なのだと。

 

だがそれすらも……天が許す事はなかった。

 

分からない。わからない。わからない。

 

何のために戦うのか。

 

なんのためにたたかえばいいのか。

 

僕は。ぼくは。

 

「何の……ために……」

 

俯いたフレディの頬に、水滴がつたう。水滴はコックピットの床に落ち、その小さな体積を散らした。

 

──そして。

 

それに同調するかのように、コックピットの外、フレディが乗るリライジングガンダムにも不可思議な現象が起こった。

 

機体胸部中央に鎮座する翡翠色の結晶が、一粒、また一粒と鏡砂に戻っていったのだ。

 

僅かな鏡砂は、二機のリライジングが発生させた光線の余波たる暴風に乗って、流星の如く尾を引きながら、エルドラ各地に広がっていった。

 

涙を溢した、主の助けとなる為に。

 

* * *

 

「始まった……!!」

 

ムランが、窓から空を見上げながら口を開く。

 

フレディが乗ったリライジングの背中と、盟友を屠った憎き雷を、ムランは瞳孔に焼き付けていた。

 

「フレディ……っ!」

 

執務室にいるムランもまた、上空のフレディと同じように、拳を握り締め、自身の無力さに歯を食いしばっていた。

 

──なぜ、私は戦えない。

 

ムランはいつも、仲間を送り出す側だった。

 

戦地に、死地に。二度と会えなくなった友は数知れず、無事に帰って来られた者ですら、心に大きな傷を負っていた。

 

なのに、自分だけがのうのうと生き残る。

 

雷を出せない私が。

 

ガンプラに乗れない私が。

 

──子供を、戦地に送り出すような私が!!

 

ムランが己の罪に押しつぶされそうになったその瞬間。

 

上空のリライジングが、のし掛かる重量に耐えかね、がくりとその体を沈ませた。

 

「っ……!」

 

ムランは、とっさに残酷な現実から思わず目を逸らそうとしてしまった。

 

「……?なんだ?!」

だが、ムランが目を瞑るよりも一瞬前に、視界を全て覆い隠すほどの強い光が、窓の外から放たれた。

 

不定形な光は窓の隙間をすり抜け、唖然とするムランの手のひらにおさまる。

 

「これは……鏡砂……?」

 

ムランの手のひらの上で、鏡砂は仄かな発光を放っている。こんな不思議な砂は鏡砂以外に考えられない。

 

だが、ムランの頭に新たな疑問が浮かぶ。

 

何故。この鏡砂は、何故ここに。

 

最も現実的かつ、最も恐ろしいのは──この鏡砂は、フレディのリライジングを形作りながらもその力及ばず、鏡砂に戻ってしまったという可能性だ。

 

そうだとするならば、セグリは、いや、この星は終わりだ。

 

しかし、はやるムランの結論を、鏡砂は否定した。脈打つ心臓のように光を強弱させながら、必死に何かを訴えている。

 

そこに、何らかの意思があるようにムランは感じた。同時に、鏡砂が発するこの仄かな温度は、ムランがよく知る人物の物だとも。

 

「……そうか!!」

 

──ムランは、確信した。

 

これは、フレディの心の光だ。

 

今なお傷つき、自身を責めながらも、多くの生命を背負っている少年の心の欠片だ。

 

「だが、どうすればいい……?!」

 

それが分かったところで、ムランにはなす術がないように思えた。狼狽ている合間にも、限界が近いのか、鏡砂の光の鼓動は小さくなっていく。

 

「クソッ……!!何か、何か………!!」

 

その時、ムランの記憶の奥底に眠っていた、何気ない一つの会話の破片が、頭の中に浮かび上がった。

 

その一瞬の閃きを、ムランは神の啓示だと信じた。縋る気持ちで、微かな記憶を辿る。

 

あれは──確か、そうだ。

 

三年前、平和になったエルドラに、ビルドダイバーズが訪れた時。

 

彼らと楽しげに会話する見知らぬ少女を見て、ムランは疑問に思ったのだ。当然ながら、彼女は誰か?という。

 

その質問に彼は、"ヒロト"はこう答えたのだ。

 

「彼女はヒナタ。あの戦いの時、俺たちの世界で皆んなを応援してくれた……ビルドダイバーズの一員です」

 

何故。今。この会話が。

 

その時、スパークめいた衝撃が、脳の回路を駆け巡った。会話の中の、何気ない二文字がムランの頭の中で主張し始める。

 

「応………援……?いや……祈り……か?」

 

その言葉に──鏡砂は答えた。

 

光の鼓動が力強さを増し、宿す熱が弾ける。

 

「……っ!!」

 

その瞬間、ムランの中の迷いの霧が、一瞬にして晴れた。

 

「負けるなっ!!フレディっ!!」

 

ムランは叫んだ。空に向かって、フレディには聞こえないと理解してながらも、大きく叫んだ。

 

戦っているのだ。あの少年は。

 

ならば、やるべき事は一つだ。

 

後悔や、自責の念に駆られるのではなく。

 

応援、祈り──名前などどうでもいい。

 

この思いを、彼に届ける以外に何がある?

 

「頑張れっ!!フレディーーーーー!!」

ムランが叫ぶ、その最中。

 

彼の握り締める鏡砂は、砂本来の土色から、鮮やかな翡翠色へと変わり。

 

"黄金"の光を、帯び始めていた。

 

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