ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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祈りを叶える為に②

ノザトは牢屋に備えられた格子戸から、フレディの戦いを覗いていた。

 

「意味わかんねぇ……」

 

「本当に、そう思ってるのか?」

 

「なんだ、起きてたんすか……」

 

牢屋の隅、ノザトが居る場所とは対角線上に位置するベットの上で、声を発する者──ユナクがいた。

 

「で?どうなんだ?」

 

珍しく食い下がるユナクに、ノザトは言いようのない苛立ちを覚えた。勢いよく立ち上がり、牢屋中に響くほど声を荒げながら言う。

 

「ええ、思ってますよ!何であんな機体に乗って一目散に死のうとしてんだか!他人のためにってか?ばっからしい!」

 

「……なら何故、お前はあの二人を庇い、ここにいる」

 

「それは……」

 

あの二人、とは言うまでもなくシンラとタツカのことだ。セグリ襲撃時、ノザトは自身の非を認めた上で、疑惑を持たれていた2人の存在をその非の中に上乗せした。

 

つまり、存在しない罪をノザトは背負ったのだ。そう自覚しているにも関わらず、ノザトはユナクの問いに答えることができなかった。

 

今度は言葉が紡げないことに苛立ち、ノザトはどかっと座り、足を組んだ。返答が為されないと悟ったユナクは、追撃とばかりに口を開く。

 

「……お前は覚えているか?レジスタンスが分裂する前……パイロット候補が受けた、あのブリーフィングを」

 

「……さぁ」

 

口ではそう言いながらも、ノザトの脳内には彼の言う"あの"光景が映像として浮かび上がっていた。

小さな部屋に集められた数人のエルドラGMパイロット候補たちと、教壇に立つ英雄、"ビルドダイバーズ"。

 

「ガンプラを動かす力の根源は、"思い"なのだと……パルとかいう少年がそう言っていた……なら……俺たちは何を込めた?憎しみや、哀しみを俺たちはガンプラに乗せていた。そして……どうなった?」

 

ノザトは無言で足元を見つめた。ジャリ、という耳障りな音を立てながら繋がれた鎖が存在を主張する。

 

「……あの女に負けて、随分としおらしくなってんじゃないすか?」

 

ユナクがシュミレーション恥をかいたと知っていたノザトは、反撃のつもりで言葉を発した。しかし、それは意外なことに最も容易く受け流されてしまう。

 

「ふふっ……そうかもしれん……あんなに叩きのめされたのはいつぶりだったか……」

 

ユナクの口角が僅かに上がる。意外に感じたノザトは皮肉ではなく、純粋に思ったことを口にした。

 

「……楽しそうっすね」

 

「あぁ、そうだ。楽しかったんだよ、あのバトルは。負けて悔しいはずなのに、何処か清々しかった……」

 

夢見心地、とでも形容すべきユナクの顔は、しかして言葉を募るたびにきつく歪んでいく。

 

「俺たちは強かった。無敵とさえ思った……だが、同時に……誰かを幸せにすることもなかった。過去に縛られた、自分たちも含めて」

 

「……なにが言いたいんすか」

 

ノザトの問いに、ユナクは視線の移動で答えた。格子戸の外、巨大な守護神の背中に羨望の眼差しを向けながら、口を開く。

 

「きっと……あれこそが……俺たちが、目指すべきだった……」

 

ノザトは釣られて、背後を振り返った。

 

そこに映るは恐ろしい破滅の光に立ち向かう、小さな巨人の姿。

 

──あぁ、まただ。

 

喉が詰まる。目頭が熱くなる。記憶の底に眠った暖かいものが溢れ出してくる。セグリ襲撃時、窮地に陥ったノザトを救ったあの二人の背中を見た時のように。

 

──いや、もっともっと昔に……俺は同じ体験をしている。戦地に向かう父と母の背中を見送った、あの時に。

 

それは、ちっぽけな正義だった。

 

矮小で、脆弱なチカラ。

 

捨てる事は容易く、保つことは難しい──ちっぽけで、それでいて……

 

何者にも変え難い──尊い力。

 

ノザトは、ユナクが手を合わせ、遥か上空の守護神を拝んでいることに気付いた。

 

祈りだ。彼は恨みやしがらみを捨て、純粋に平和を祈っているに違いない。

 

「……俺は、自分のために祈りますよ。そうだ……誰かのためじゃなく、死にたくないから。それだけのために……祈ります」

 

──そう言っている割には……様になってるじゃないか。

 

ユナクはその感想を口には出さず、ただ見守った。一方、ノザトは手を合わせ目を瞑りながら祈った。

 

それは、彼が憎んでいたはずの、聖獣信仰の伝統的な祈祷の形だった。

 

二人の祈りがなされたその瞬間──

 

遥か上空で、鏡砂が白銀の光を発していた。

 

* * *

 

──しくじっちまったなぁ……

 

瞳を覆う血液を認識しながら、ストラが声にならない声で呟いた。

 

ストラの乗るエルドラGMは身体中に痛々しい巨大な傷が刻まれ、膝をついていた。倒れていることを除けば、パイロットであるストラの傷も似たようなものだった。

 

「うっ……くっ……」

 

やっとの思いで、ストラは寝返りを打ち、体を仰向けに変えた。

 

改めて確認したエルドラGMのコックピットは吹き抜け同然にまで大破していた。ストラの眼前に、雲ひとつない青空が広がる。

 

「うぉわぁぁ!ヤバいヤバいヤバい!」

 

カリコとザブン、二人の絶叫が耳に入るのとほぼ同時に、大地を揺るがすほどの衝撃が宙を伝った。

 

その衝撃に耐えかねたのか、ストラ機が前方へ腰を曲げる。

 

「あ……っ」

 

コックピットから切り取られた空の様相が、一瞬にして変化した。

 

青空だった筈の場所は、下卑た紫のグラデーションによって塗りつぶされ、禍々しく照らされている。

 

その中央には世界を二分するかのような一筋の光。

 

それが先程の絶叫の原因なのは、疑いようがなかった。

 

確信するのと同時に、ストラは三年前のあの日をフラッシュバックしていた。

 

こことは違う場所で、今と同じ三人で見た、月の雷の映像を。

 

その時だった。ストラの額に向かって上空から柔らかな光が降りてきた。

 

光はストラと接触し、不思議な触覚を残しながら、コロコロとコックピットの床に転がる。

 

「なん……だ?」

 

おもむろに、ストラが光に手を伸ばす。

 

手と光が接触した、その瞬間。

 

ストラは、全てを理解した。

 

その確信を補強するかのように、光を通して覚えのある声が聞こえてくる。

 

「頑張れっ!!フレディーーーーー!!」

 

並々ならぬ絶叫をあげているのは、セグリにいるはずのムランに間違いない。普段は冷静な彼が、柄にもなく必死に叫んでいる。

 

ストラはコックピットの外、セグリ上空のビームのせめぎ合いを一瞥した。

 

まだ、決着はついていない。

 

──三年前とは違う。俺にも、出来ることがある。

 

ストラは、ビームの地表側の方へ視線を移した。

 

「あそこに……フレディがいる……」

 

ストラの喉から、音が漏れた。

 

「フレディが……戦ってる……!」

 

掠れた声が、徐々に力を増していく。

 

「なら、俺が……!倒れてるわけにはいかないよなぁ……!!」

 

びくともしなかった体が、嘘のように軽い。血溜まりを踏みつけ、ストラはゆっくりと立ち上がった。

 

「ストラ……大丈夫なのか?!それに、今の声……」

 

カリコが、訝しんだ声を出す。

 

幸いな事にヒトツメ達もセグリの状況に気を取られたようで、絶え間なく続いていた侵攻が今この瞬間だけ止んでいる。

 

チャンスは今しかない。

 

「二人とも……頼む……!声を……力を貸してくれ……!早くフレディに届けなきゃ……!!」

 

ストラは、自分でも何を言っているのかわからなかった。仮に、二人に理論的な説明を求められたのならば、ストラは満足な言葉を紡げなかっただろう。

 

だが、ここに居る二人は、ストラに全幅の信頼を寄せ、不明瞭だった説明から100%の正解を導き出した。

 

「なるほどな……」

 

ザブンが呟き、回線窓の先のカリコと同時に頷く。肺を最大限に膨らせたザブンが、勢いよく叫んだ。

 

「いっけぇ!!フレディ!!」

 

カリコも、それに同調した。

 

「月の雷なんざ、ぶっ飛ばしちまえ!!」

 

二人は、遥か遠くの少年のために叫んだ。

 

──使ってくれ、フレディ……俺たちの思いを、祈りを……!

 

思念と肉声の両方でストラが祈った、その瞬間。

 

傍らの鏡砂が、青空めいた爽やかな光を纏い羽ばたいていった。

 

* * *

 

レジスタンス本部内、ガレージと呼ばれていた"元"ガンプラ置き場のモニター。

 

そこには、外の様子が映されていた。正確には、セグリ最高高度に設置された端末から供給された、上空付近の映像。

 

セグリに残った勇敢な整備兵たちは、その映像が現実のものなのか判断できずにいた。

 

なぜなら映し出されていたのが、己の手で調整した最強の機体が、宇宙からの砲撃によって刻一刻と追い詰められていく姿だったからだ。

 

「勝てるわけがない!!」

 

堪えきれなくなった誰かがそう叫んだ。

 

「もう無理だよ、逃げようよ!メタ爺ちゃん!まだ間に合うかもしれない!!」

 

数日前、シンラと共に作業をしていた青年メリバットは、大袈裟な身振り手振りを披露しながらそばに居る腰の曲がった人物の耳元で叫んだ。

 

「ふん、今更何処へ逃げるつもりだ、我が孫よ」

 

メタ爺と呼ばれたご老体──メタクーリは、メリバットとは対照的に、一切動じることなく前方の巨大モニターを凝視している。

 

「爺ちゃんだって分かってんだろ……!!あの機体じゃ……リライジングガンダムじゃ、月の雷は跳ね返せないってあぁ言ってるそばから!」

 

メリバットの言葉を証明するかのように、映像に映されたリライジングの背中が深く沈む。

 

「……うっさいわい」

 

「うっさいわいって俺は爺ちゃんを心配びで」

 

メリバットの言葉が、不自然な形で収束した。その原因は、彼の口の中に差し込まれた、大型のスパナ。

 

「うっさいと、言っておろうが!」

 

スパナから手を離し、大声を上げるメタクーリは数歩前進した後、大きく口を開く。

 

「問おう、愚かなる孫よ!お前は、何故勝てないと判断した?そうだ、足らぬからだ。性能が、スペックが!!」

 

メタクーリは、もがもがと口を動かす孫を無視してさらに言葉を続ける。

 

「だが!今生の全てを遺跡研究に費やした儂には分かる!そんな数字は無意味に等しいと!!」

 

彼の言う遺跡研究こそが、御年60を超えるメタクーリが、レジスタンスの重要ポストに抜擢された理由だった。

 

彼は言葉通り、生涯を通して創造主様の作った遺跡や鏡砂の全てを明らかにしようと邁進し、その結果、聖獣クアドルンに次ぐ古代の知識を手に入れていた。

 

もし、フレディが自宅で古文書を発見しなかった場合、その役目はこのご老人が果たすことになっていただろう。

 

故に彼は、フレディという少年に年甲斐もなく嫉妬を抱いていた。

 

英雄として扱われたこと──ではなく、自身が追い求めていた"夢"を、寸前で掠め取られたと感じたからだ。

 

行き場のない嫉妬に加え、単純かつ純粋な彼は強硬派の誘いに乗ってしまった。

 

無論、彼も耄碌しているわけではない。孫よりも小さな子供を処刑するとなれば彼も黙ってはいなかった。

 

だが、行動を移すには──否、大人の責任を果たすにはあまりにも遅すぎた。

 

スルトの命令によって牢屋に繋がれたメタクーリは、特等席でフレディの処刑を見ることになってしまう。

 

その時、彼は己の愚行を恥じ、そして祈った。

 

あの少年が、無事に家族の元に帰れますようにと。

 

そして処刑は──失敗した。

 

周知の通り、タツカがエルドラGM、メタクーリが携わった鏡砂の結晶に乗って止めたからだ。

 

その時メタクーリは、安堵と共に今まで蓄えた知識と、昂った感情の両方で悟った。

 

曰く。

 

「鏡砂とは何か!祈りの結晶である!!……お前のいうスペックに、INORIなんてものがあったか?」

 

ガレージ中を震わせるほどの大声で、メタクーリは叫んだ。

 

数値化されることのない、純粋な、思いの力。

 

そして、それが集まれば……

 

──奇跡は、起こり得るのだと!

 

そんなメタクーリの胸中を、見抜いたかのように──その光は、どこからともなく現れた。

 

「ほぅら"言ってるそばから"、祈りの結晶のお出ましだ……」

 

メタクーリはニヤリと笑い、その光をむんずと掴んだ。その瞬間、半世紀を共にしていたかのような信頼感が、彼の掌に心地の良い重さとして伝わる。

 

メタクーリは光を強く握りしめ、そのまま

上へ放り投げた。

 

「行けぃ!少年よ!遥か古代から紡がれ……我らが託したその力で、この星を、世界を救え!!」

 

拳を突き上げ、メタクーリが叫んだ。

 

隣にいたメリバットもまた、スパナを片手に叫ぶ。

 

「か、勝ってくれ!俺を……世界を守ってくれぇ!!」

 

その二つの叫びは、ガレージ中に伝播して行った。

 

一人、また一人と声を上げ拳を突き上げ光に向かって応援を飛ばす。

 

そこに勝利を諦めた者はいなかった。

 

ご老体によって放り投げられた鏡砂は、空中で何十と回転しながらも──声援を受け、強く、熱く。さながら紅蓮の炎のように輝いた。

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