ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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The Final Answerers 《最終回答者たち》

頑張れ。

 

負けるな。

 

勝って。

 

死なないで。

 

祈りは確かに、フレディの元へと届いていた。

 

だが、しかし。

 

「ごめんなさい……僕は……僕は……」

 

──僕は弱いんです。みんなの期待に応えられるほど、強くないんです。

 

その声に素直に答えられないほどに、フレディの心の余裕はなくなっていた。寧ろ、声が聞こえてくる度に彼は虚ろな無力感に苛まれてしまう。

 

操縦桿を握る手が震える。息が詰まる。声援に応えようと力を込めようとすればするほど、震えは大きくなっていく。

 

これではもはや責め苦だ。フレディが頭の片隅で声援を異物として認識しようとした、その時。

 

『フレディ』

 

音質の違う声が、フレディの耳に届く。

 

その瞬間、フレディは、これ以上ないほど俊敏な動作で振り向いていた。

 

そこに、居たのは。

 

「……ジェド兄さん……」

 

* * *

 

『大きく……なったなぁ……フレディ……』

 

「あ、あぁ……」

 

兄だ。

 

死んだ筈の兄が目の前に。

 

そこはもう、リライジングのコックピットではなかった。限りなく広く現実味の欠けた白い世界。フレディとジェド、二人だけの空間。

 

──なら、なら、僕は……

 

「負け……た………」

 

フレディの微かな呟きを、ジェドは確かに否定した。

 

『まだだ。まだ終わっていない。見るんだ、エルドラ中のみんなが、力を貸してくれている』

 

真っ白な空間に、彩りが増えた。

 

惑星エルドラの一瞬、一瞬が切り取られたかのような映像が向かい合うフレディとジェドの前に現れる。

 

地平線走る黄色い大地、白亜の塔と氷の浮かぶ海、果てを知らない広い空。

 

それらを埋め尽くすほどの数の祈りの粒子たち。

 

「無理……だよ……」

 

フレディの口から弱音が漏れ出る。

 

「僕は……僕は、弱いんだよ。一人じゃ何も出来ない……」

 

月の雷を跳ね返した実績をもつリライジングに乗っていながら、怯え、すくみ……戦うことの意味を見失いかけている。

 

目の前にいる兄ならばそんな醜態は晒すまい。例えガンプラに乗っていなくとも、月の雷を前に屈さずその両手で誰かを包み守ろうとするはずだ。

 

だから、そんなフレディに兄は愛想を尽かすと本気で思っていた。

 

しかし、兄はフレディを否定しなかった。

 

微かに首を傾げ、一言。

 

『…………それの、何がおかしいんだ?』

 

「え……?」

 

『俺だって、作戦中はカリコとザブンが頼りだったし、マイヤみたいな美味い料理も作れない。父さんみたいに、村をまとめることも……』

 

ジェドが、どこか懐かしむように視線を宙に踊らせた。だが、光を宿していた眼球は何かを悔やんでいるかのように、すぐさま伏せられてしまう。

 

数秒の沈黙の後、再びジェドが口を開く。

 

『俺たちは、一人じゃ生きていけない。それはきっと、一人一人が弱さを抱えているから……』

 

弱さ。

 

兄の口から出たその言葉を、フレディは言葉通り受け止めていいのか、ほんの一瞬迷った。

 

僕たちが、弱い?でも、それは……

 

フレディの思考を読み取ったと言わんばかりに、ジェドの言葉は強い否定から始まった。

 

『でもそれは恥じゃない。だから……だから俺たちは繋がれるんだ。俺たちはお互いの弱さを補い合って、助け合って生きていた。フレディ、お前もそうだったはずだ!!』

 

「僕が……?」

 

フレディに、その自覚はなかった。寧ろ、色んな人たちに助けてもらうばかりで……

 

でも、もしかしたら。

 

自分の何気ない行動が。信念から出た言葉が。

 

誰かの助けになっていたのだとしたら……?

 

思案するフレディを見つめながらジェドは続ける。

 

『お前は今を掴もうともがいていた。例え引き裂かれる程の痛みを伴っても……だが、今ここで諦めたら、全てが無駄になる。それとも──』

 

数秒の沈黙。

 

『あの言葉は、嘘だったのか?』

 

「あの……言葉……」

 

不思議なことに、ジェドの台詞が何を指しているのか、フレディは瞬時に理解することができた。三年前、アルスに放ったあの言葉が鮮明に蘇る。

 

──だからっ!もう大丈夫です!ありがとうございました!!

 

「違う……」

 

弱々しかったフレディの声に、熱が帯びる。

 

「嘘じゃ……ない……そうしたくない……!!」

 

首を振るフレディを見たジェドは、一瞬口角を上げ、すぐに表情を固く戻し口調を荒げ叫んだ。

 

『何のために泣いて感謝の言葉を吐いた!』

 

──伝えたいことが、あったからだ。

 

『何のために恨みを捨てた!』

 

──捨てなければ、対等になれなかったからだ。

 

この瞬間。フレディは涙で霞む視界の中でジェドの目をようやく捉えた。

 

強い、覚悟を宿した瞳。

 

弱さなど欠片も感じない眼差し。

 

僕は今、どんな眼をしているのだろう?

 

兄の激励をその身に受けても、未だに胸は晴れないままだ。

 

それでも。

 

迷い、ながら……

 

それ……でも……

 

フレディとジェドが、全く同時に口を開く。

 

『「終わらせないことを選んだのは」』

 

──僕だろう。

 

「僕、だろう……!」

 

戦場に舞い戻ったフレディの視界に映ったのは……

 

無限にも勝る数の、祈りの結晶だった。

 

「「「コア……チェンジ!!」」」

 

その絶叫は、フレディだけのものではなかった。エルドラ中の山の民たちが、心の底から叫んだ魂の合唱。

 

彼らと共に、フレディは叫んだ。

 

「「『リライジング・GO────!!』」」

 

本来ならば、承認されない筈のコマンド。

 

だが、フレディのリライジングと周囲に漂う鏡砂たちは思いもよらない形でそれに応えた。

無造作に散らばっていた鏡砂たちが一つまた一つと結合していく。

 

核《コア》となるのは、フレディに強い思いを寄せた、色付いた鏡砂。

 

鏡砂が一際強く光りその姿を変容させた。丸く色鮮やかな球形がリライジングを囲むように形成される。言うなれば、八つの擬似惑星か。

 

惑星となった光の塊がリライジングを中心に軌道を描いた、その瞬間。

 

リライジングに、黄金の光が走る──!!

 

「──────おおおっ!!」

 

勇者が吠えた。何の為に?

 

明日の為、未来の為。

 

多くの命を救い、絶望を跳ね除け……祈りを叶える為に。

 

* * *

 

何故。

 

何故、セグリを貫けない。

 

アルはリライジングに沈めた意識の中で、ただひたすらに困惑していた。

 

今放っている『グランドクロス・キャノン』は、比類なき必殺技だ。一度放てば誰にも止められない、その筈だった。

 

だが必殺技はセグリの直前で足踏みしている。

 

──何者かの妨害によって!!

 

アルが思考をそこまで巡らせたその瞬間、リライジングのすぐ近くで稲妻が走り、大きな爆発が起こった。

 

『無駄なことを……』

 

アルの言う通り爆発はリライジングが形成していたバリアによって阻まれ、戦場に何ら影響を及ぼさなかった。

 

アルは爆発を導いたであろう、羽虫の如く飛び回る敵から通信を傍受する。

 

「リライジングのバリア、損傷ありません!」

 

女の声に続いて、男が叫ぶ。

 

「いいんだ!少しでもエネルギーを削ってフレディの役に立て!」

 

──フレディ……そうか、奴が……

 

アルはシンラ達の会話から、妨害者の名前を聞き出すことに成功した。

 

『……ならばッ!!』

 

アルはリライジングのバリアを解除した。

 

全エネルギーを照射中の必殺技に注ぐ為だ。

 

そこにもう一つ、アルは策を加えた。

 

精神動揺。不安定な精神に揺さぶりをかける、スルトと一体化していた時からの"アル"自体が持つ必殺技。

 

フレディは揺らぐ。アルはそう確信していた。

 

勢いを増したリライジング・ディザスターのグランドクロス・キャノンと、アルの悪意が混ざった負の誘いが、かの水上都市に降り注ぐ。

 

* * *

 

一つ、アルに失策があるとすれば──

 

行動を起こすのが、数秒遅れていたことだろう。

 

今のフレディに、精神的動揺は通用しない。

 

それどころか、アルの精神はフレディ以上に定まっていなかった。

 

自分の肉体のサイズが急激に変わって平気なはずがない。所謂、ガンプラ化に伴う精神汚染である。かつてシンラも蝕まれたそれに、アルは飲まれかけていた。

 

故に、フレディに精神動揺を誘う筈の攻撃は、アルの弱点を曝け出すだけとなった。

 

* * *

 

『何故だ、何故戦う?!』

 

「……!」

 

金属を強引に軋ませたかのような、耳障りな声。それがフレディの脳内に明瞭に響き渡る。

 

誰だ、などという考えは浮かばなかった。

 

月の雷を放つ者。

 

フレディは研ぎ澄まされた感覚の中でそう確信していた。

 

天からの声は、さらに高く不気味な変調を辿る。

 

『守るつもりか?お前を殺そうとした者を?!』

 

「僕はまだ、生きている……!」

 

フレディに、もう迷いはなかった。

 

自分を殺そうとした者。

 

上げるべき声を上げず、下げるべき拳を下げられない、弱き者たち。

 

その弱さを含めて人なんだと。

 

たった一人で道を歩めないのは、悪ではない。

 

「だから、僕らは……手を繋ぐんだ!」

 

フレディの手が、操縦桿を強く掴む。

 

「一人は怖い……一人は辛い……耐えられない!!貴方も、そうだったんじゃないのか!!」

 

返答はなかった。だが、届くと信じてフレディは叫んだ。

 

「もう、奪わさせない……!ヒトツメだけじゃない!!貴方とも、繋がってみせる……!!」

 

フレディのリライジングが唸りを上げる。金色の装甲が輝きを増していく。

 

フレディは奇跡を起こしていた。かつてのビルドダイバーズを上回るほどの純粋な思いの力によって。

 

だが、忘れてはならない。

 

それでようやく対等なのだ。

 

大気中の威力減衰と、強化されたアルのリライジング・ディザスターのスペックは、奇跡に匹敵するまでに練り上げられている。

 

"ビルドダイバーズ以上の力"は、あくまでアルの必殺技を跳ね返す前提条件だった。

 

──ピシッ。

 

限界の力を超えた代償。または当然の帰結として、フレディのリライジングの各所に致命的なまでのヒビが入る。

 

同時に、機体の下降が再び始まってしまう。

 

モニターがけたたましく鳴り、地上との距離が残り500メートルを切ったことを警告する。

 

「諦めて……たまるか!!」

 

リライジングから溢れた翡翠色の装甲は瞬時に鏡砂へと戻り、落下していった。

 

刹那。

 

その鏡砂を、巨大な手が掴んだ。

 

同時に、フレディは耳鳴りのような微かな違和感を覚えた。

 

「──ェンジッ!!アース───ューン!」

 

否、耳鳴りではない。

 

「ドッキング──GO!!」

 

何が起こったのか、フレディには分からなかった。だが、確固たる事実としてリライジングの下降が止まる。

 

いや、それどころかリライジングは宇宙からのビームを押しのけ、着実に上昇し始めていく。

 

──"誰かがリライジングを支えている"?

 

フレディがその結論に辿り着くのにそう時間は掛からなかった。

 

誰だ?

 

今、隣にいてくれるのは誰──?

 

フレディは振り向きたい気持ちを懸命に抑え、目線を空に据えた。

 

爆音と閃光の最中。

 

フレディは、確かに聞いた。

 

遥か遠く、惑星を超えて絆を結んだ友の声を。

 

「行けっ……!フレディ!!」

 

モニターに友軍機を示すマーカーが明滅した。

 

機体名、ネプテイトガンダム。

 

ダイバーネーム──

 

「ヒロ……ト……さ……」

 

抑えきれなかった感情が、フレディの喉から嗚咽混じりの声として漏れた。

 

奇跡だけでは足りなかった。

 

絆だけでも無理だった。

 

だが。

 

その二つが合わされば。

 

"繋がり合うことで生まれた"、"奇跡"ならば。

 

「「──おおおおおおッ!!!!」」

 

フレディが叫んだ。

 

ヒロトが叫んだ。

 

二人の勇者の雄叫びはグランドクロスキャノンに更なる力を与えた。

 

出力が上がる。メーターが振り切れる。

 

均衡の崩れた必殺技同士の接着点が、遥か上空へと上がっていく。

 

膨大なエネルギーの奔流は止まることなく対流圏、成層圏、熱圏すらも超えて、無限の広さを持つ宇宙へと放たれた。

 

空が──晴れる。

 

月の雷が消滅したことを、他でもない蒼穹を取り戻した大空が証明した。

 

「…………セグリは?!」

 

フレディが振り返る。ネプテイトガンダムの背後で、水上都市は彼が愛したそのままの姿でそこに佇んでいた。

 

守れたのだ。今度こそ多くの命を。

 

作戦成功の実感と共に、役目を終えたリライジングは元の色へと戻っていく。

 

まるで魂が抜けたかのように剥がれた黄金は、光の粒子となって青空を飾り、宇宙へと登っていった。

 

その様子はさながら"宇宙渡し"の如く儚く──そして、美しかった。

 

──ありがとう。

 

 

この地に沈められた者たちの最後の声(Diver's High)

 

フレディは、彼らの感謝を静かに頷き受け取った。

 

声が消える、その瞬間。

 

にっと笑う兄の顔が、光の奥に浮かんだように見えた。

 

それと、入れ替わるかのように。

 

山の民たちの鬨の声がエルドラ中を駆け巡っていった。


使用楽曲コード:24952826,25482203,72120851,72370947

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