ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「だ……の……に……ばれる……」
自分の寝言によって、うっすらとした自意識が完全に覚醒した。体を起こすと、自分がフカフカのベットに横たわっていたことに気づく。
そこは私の見覚えのある部屋だった。
分厚い本が散らばっているこの部屋はレジスタンスから身を隠した時と何も変わっていない。
体を伸ばしてから下の階に降りると、村長さんの娘、マイヤさんがお皿に料理を盛り付けていた。
私はおはようございます、と礼儀を慮って深々とお辞儀しようとしたが、彼女はそんな私を見てクスッと朗らかな笑みを浮かべながら、
「何言ってんの、もうお昼よ。」
と言った。
マイヤさんにシンラは何処に行ったのかと尋ねると、彼女は一枚の紙切れをくれた。
曰く、彼から渡すように頼まれていたとのこと。
だいぶ大雑把ではあるが、村の地図のようだ。
村の離れには丸で囲われた場所がある。傍にはひらがなで、「ここ」とだけ書かれていた。
「怪我はもう大丈夫?」
「ええ、おかげ様で」
「よかった」
彼女はそう言いながら、テーブルの脇に置かれていた弁当箱を風呂敷で包み、籐かごにいれて私に持たせてくれた。
「コレ、シンラくんと食べてね。」
なんていい人なんだろう。傷の手当てをしてくれた時も感じたが、コレが母性というものだろうか。
テーブルに並べられた料理は見覚えがないものばかりだったが、どれも香ばしい匂いを発しており、弁当への期待がグンっと高まる。
「ありがとうございます!」
感謝をできるだけ込めたお礼と、それはもう見事なお辞儀をし、早くシンラの元へ向かおうと私はドアを開けようとした。
その時だった。私は視界の隅で僅かに動く物体に気づいた。そちらの方へ視線を向けると、そこにあったのは窓だった。
「覗き………?」
エルドラに……いや、この村にある家の窓は、窓と呼称するには少し頼りない。カーテンのように遮る物はなく、開閉できるようなものでもない。どちらかといえば穴と言った方が正確だろう。
そんな窓穴は当然、覗こうとすれば覗き放題である。別に覗かれたって困るようなことはしていないのだが、私含めこの家には女性しかいないのもまた事実。
私はドアノブに伸ばしていた手を引っ込め、窓に忍足で近づいた。
窓の外で人の気配がするのを察知してから、バッ、と勢いよく身を乗り出す。
そこまでしてから、この家に用のある人だったどうしようという不安が頭をよぎった。
しかし、体はもう窓の外へと飛び出さんとしている。
こうなったら発するべきセリフは一つだ。不審者にも、一般人にも使えるあのセリフ。
「こんにちわ!!」
私のあいさつ兼威嚇は意外にもすぐに返答がなされた。つまりは覗きではなく、一般人。
だが。
「きゅるる」
返された言葉は機械音としか言いようのないものだった。
それだけではない。言葉を発したのは、エルドラ人でも、私のよく知る姿の人間でもなかった。
それは目玉のような体から、うねうねとした触手を無数に生やした謎の機械生物。
「わ……ぁっ?」
目に飛び込んできた予想もしない人物(?)に私の脳はたっぷり3秒間のフリーズを要した。
「ちょっと"モノ"!!ノックしってっていつも言ってるでしょ!」
いつのまにか私の後ろに立っていたマイヤさんは、窓の向こうの機械生物に、まるで粗相を起こした子供を叱るように怒鳴った。
機械生物ーー改め、"モノ"は「きゅ……」と、唸りながら俯いている。
「驚かせちゃってごめんね、この子はモノ。えーっと、一応、ヒトツメ……だけど、悪い子じゃないよ」
そこで私は村長さんの言葉を思い出した。
レジスタンス……遺跡で戦闘した「スルト派」と敵対している「フレディ派」は戦闘意思の無いヒトツメの保護をしている。
確かそう言っていたはずだ。
つまりは目の前にいる"モノ"こそが保護されているヒトツメなのだろう。
「きゅる!きゅるる」
モノが身振り手振りでこちらに何か伝えようとしてきた。私はポカンとその様子を眺めていたが、そばに居たマイヤさんには伝わったらしく、
「ついてきて、だって」
「わ、私?」
「きゅる。」
モノは頷き、私に触手を差し出した。
うねうねと動く紫色をした触手は触るのに少しだけ躊躇したが、
私がそれをただただしく握ると、モノは嬉しそうにして私の手を優しく握りかえした。
* * *
モノと一緒に村の中を歩いてわかったことが二つある。
一つ、私のような人……「ガンプラの民」は想像の何倍もに神格化されていたこと。
村長さんは私たちのことを説明してくれては居たようだが、それでも何もしていない私達をビルドダイバーズと重ねて、英雄視する人は多かった。
正直な話、あまり気分のいいものではなかった。
チヤホヤされたと言えば聞こえはいいが、彼らが見ていたのは「私」ではなく、「ビルドダイバーズ」だった。
だがそれはビルドダイバーズの功績がそれほど多大なものだったと飲み込んで、私は黙って彼らの目線に耐えた。
二つめ、モノはとても村人と仲が良かった。
モノもヒトツメな事には変わりないのだから、もう少し差別感情というか、そういった目線を向けられるかと思ったが、そんなことは無く、
村人がモノに挨拶する、彼らが私に気づく、私が質問攻めに合う……そんな流れがほとんどだった。
特に農作業をしていた 3人の子供。彼らはそれぞれ「アシャ」「トワナ」「フルン」と名乗った。
彼らはモノと仲が特別いいらしく、トワナとフルンの男児二人は、モノが歩いてきた事に気づくと、やっていた農作業をほっぽり出して、泥だらけの体でモノに飛びついた。
モノもそれ嫌がる事なく、むしろ喜んで受け入れていた。
二人に遅れて近づいてきたトワナは私に気付き、
「お姉さん……だぁれ?」
と私を見ながらいった。その目にはちゃんと、私が映っていた。
その直後に畑の管理者らしき人が、農作業をほっぽり出した二人を怒鳴り散らしたため、結局簡単な自己紹介しかできなかった。
管理者も私に気づくと杖をつきながら、私達に近づいてきた。彼はジリクと名乗り、なぜか私に簡単な質問をした。曰く、
「この村がヒトツメに襲われたら……?」
「あぁ、儂の畑は村の出入り口に近いから心配でな……アンタなら……どう守る?」
「……片方の道を塞いで……いや、それでも、私一人じゃ無理ですね」
「……無理?」
「えぇ、守りやすい地形ではありますけど、私一人じゃ……少なくとも四人は必要でしょうね」
「……爆弾を使うとか方法は色々あるだろう」
「それこそ無理な話ですよ、村に被害が出ますから」
「……そうか」
ジリクさんはそれを聞くと、背を向けて畑仕事へと戻った。
何か失礼なことを言ってしまっただろうか……。
ここは嘘でも、絶対守ってみせます!!と、啖呵を切るべきだったか。
いや、それはあまりにも不誠実だろう。
悶々とした思いが脳内を巡る。
しかし。
「アンタの連れがいるのはその御神体の少し先だ」
ジリクさんは振り向いて、指を指した。
その顔に、負の感情はなかったと思う。
私はお辞儀をして
「ありがとうございますーー!!」
と叫んだ。
* * *
御神体と呼ばれた大きなガンプラ用の盾の前でモノが止まった。
「……?どうしたの?」
「きゅる……」
モノの目線の先にあったのは、先日見かけたレジスタンスのトラック。
傍には小さな洞穴があり、少しだけ光が漏れ出している。
あそこに、シンラとレジスタンスがいるのだろう。だとしたらヒトツメを狩っているレジスタンスにモノが近づこうとしないのも納得だ。
「ありがとう、モノ。助かったよ」
「きゅ!」
モノは可愛らしい返事を返した後、手(?)を振って私を見送ってくれた。
「……よし!」
私は意を決して、洞穴の中へと入っていった。
洞穴の中は思ったよりも手狭で、地面には拳大の岩がゴロゴロと転がっているため非常に歩きづらい。
よく見れば穴の横幅もやたらめったで歪だ。整備されているとは思えない。無理矢理重機で掘り上げたように見える。
洞穴に入ってすぐに、見慣れた黒い小さなガンプラが見えた。
「おはようタツカ。」
「……何持ってんですか、それ」
挨拶を無視されたシンラは少しムッとした表情を浮かべたが、すぐにいつもの人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。
「見てわからないかい?」
「ムチ……」
「御名答。色々、有り合わせで持ってきたんだがね、無駄だったよ。」
シンラが顎で洞穴の奥を指し示す。
ランプで照らされた洞穴の最奥には、レジスタンスの四人がロープで縛られていた。項垂れているのが 3人と、こちらを睨みつけてくる隊長。
私は彼の視線に気づかないふりをしながらレジャーシートを敷いた。
マイヤさんに持たせてもらった弁当を開いていると、シンラが鞭をシートの脇に置き、真ん中に陣取った。
「……乱暴したんですか?」
「まさか!する前になんとかなったよ!」
そういう問題じゃないだろう、そう叫びたい気持ちを抑え、私は違う質問をする事にした。
「一体、何が知りたかったんです?」
「色々あるけれど……一番の収穫はこれかな」
シンラがウィンドウを開き、こちらへと向けた。
マップはスケルトン上になった都市の内部構造を映しており、その他にも都市部の裏道などが手に取るようにわかるようになっていた。
「レジスタンスの本拠地、水上都市セグリだ。トラックの内部データから引っ張ってきた。」
「凄いですね……丸わかりじゃないですか」
「他にも色々情報は手に入れたけど……これだけでお釣りがくるぐらいだ」
「そうですね……フレディさん、無事だといいですけど……」
その時だった。静けさを感じる洞穴に、誰かの腹の音が鳴った。
「タツカ……?」
「違いますよ、失礼な!」
訝しげな視線を向けてくるシンラを小突きながら音のした方を探った。当然だが、私以外に腹の音を出すなんて、レジスタンスの中の誰かなのは確定しているが、私が視線を向けた瞬間に顔を逸らした人物がいた。
真ん中に座る隊長である。
「食べます?」
「なっ?」
間の抜けた声を出す隊長。
私は取り皿に料理を盛った。四人分ともなると私の分を入れてもどうしても少なくなってしまうがそこは我慢してもらおう。
「待ってくれよ、僕の分は?」
「アンタ食えないでしょ」
隊長の前に私が座る。
本当なら手縄を外してあげたいがそこまでするとシンラは怒るだろうし、何より隊長が暴れないという保証はない。
玉ねぎを小さくしたような料理、 衣が付いているので唐揚げだろうか、を箸でつまみレジスタンス全員の顔の前に一人ずつ持っていく。
「いただきます!」
「お、おい!待て!食うな!」
唯一反抗の意を示す隊長。部下を諌めようと必死になって叫ぶ。
彼の階級はこの中で一番高いのであろうが、空腹の前に部下はあっさりと彼の命令に背き、バクバクと料理に喰らい付いていく。
「食べないんですか?」
「ふざけるな……貴様のような怪しい奴から施される筋合いなど……」
「じゃあ食べちゃいますね」
「うっ……」
「……やっぱ欲しいんじゃないですか」
口では何とでも言えるだろうが、やはりこの惑星の人々も無意識というものはあるようで、隊長の目線は料理に釘付けになっていた。
どうしたら素直に食べてくれるだろうか、と思案していると、シンラが私の肩にひょいと乗り隊長の耳元で悪魔のごとく囁いた。
「毒なんて入っちゃいないさ、安心してくれよ」
「だ、だからといって……」
「施される筋合いはない……か。いやはや全く大した根性だよ……そこで、だ。」
「な、なんだ……」
「交換条件といこうじゃないか……僕たちはセグリに行きたい……そこで君達に協力して欲しい」
「何だと?!冗談じゃない!!」
激昂する隊長。当たり前だ。自分の本拠地に敵を招き入れる人間がいるとするなら、それは裏切り者だけだろう。
いくら空腹とはいえ裏切って欲しいなどという願いが通じるわけもなく、それどころか料理にかぶりついたレジスタンスの部下達が揃って青ざめる。
これでは私が裏切りを促すために弁当を分け与えたようではないか。人の善意を踏み躙りやがって……と、肩に乗る悪魔の行動に思わず眉根を寄せてしまう。
それに気づいたのかは定かではないが、シンラは言葉を付け足した。
「何も裏切れって言ってる訳じゃない。大人しくするし、捕虜扱いでも構わない。どちらにせよセグリに戻ったら僕達のことは報告するんだろ?」
「それは……そうだが……」
唸る隊長にシンラはさらに捲し立てた。
「なら一石二鳥じゃないか!僕達はセグリへ行ける。君達はご飯を食べて、本部に戻れる。君達の機体の損失は僕達のせいにすればいい……良い話だろ?」
「む……うむ」
隊長の瞳孔がほんの僅かだが、確実に揺れ動いた。瞼によって瞳孔がほんの一瞬隠される。
もう一度開かれた瞳には迷いは感じられなかった。
「………わかった。だが、勘違いするなよ。貴様らに心を許した訳ではないからな」
「それで良いよ。な、タツカ?」
「え、えぇ……まぁ」
「じゃあ手錠つけるね」
「は?」
私の手首に鈍く輝く丸い輪っかがはめられたかと思うと、息もせぬ間に視界が暗転した。