ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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烈日の涙①

「クソッ、なんつー逃げ足だよ!」

 

先行したハルマから、あまり意味のない通信が届く。

 

彼の言う通り、リライジングはおろかそれを追ったクアドルンたちも、既に目視することができない程小さくなっていた。

 

私が口を開くよりも先に、シンラが言葉を発する。

 

「マサキから連絡は?」

 

「ないな……シグナルロストはしてないし、無事……だとは思う」

 

ハルマが、次第に言葉の結びの発声を小さくしていく。先行したマサキとクアドルンだけでリライジングを相手にするのは不安なのだろう。

 

一緒に出撃した仲間の安否を装甲値──所謂HPで判断するのは、ガンプラバトルの常識中の常識だ。しかし、敵が一撃必殺を山程蓄えている今回のような場合は、それだけを判断材料にするのは難しい。

 

「そうだ。ハルマ、あの燃えるやつでビューと飛んでいけばいいじゃないか。ついでに僕たちも運んでくれよ」

 

シンラの言う"燃えるやつ"や"飛んでいく"も私にはよく分からなかったが、本人たちの間ではしっかり伝わったようだ。

 

半ば呆れたようにハルマが口を開く。

 

「あのなぁ……!アレはめちゃくちゃ燃費悪いの!辿り着く頃にはフレームだけになってるよ!」

 

「あぁ……そうだったそうだった。あんまりにもあんまりだから、自分で使う時は変えたんだっけな……」

 

「お、お前っ!負けた癖に!」

 

そのくだけたやり取りに、私は少々面食らってしまった。まさかシンラにこんな軽口をかわせる人がいたなんて

 

「あ、あの……!お二人はどういった関係なんですか?」

 

心の中で浮かんだ疑問を、私は無意識のうちに言葉に出していた。

 

それに対し、二人はほぼ同時に口を開く。

 

「邪魔者」

 

と、シンラが言い、

 

「……悪党?」

 

と、ハルマが言った。

 

ここで、推理はさらに複雑化したと言える。

 

シンラが歪んでいることに今更言及するつもりはないが、友人に悪党などと評価を下す人間は居るまい。私の命の恩人であるハルマが言うのだから尚更だ。

 

「というか、タツカ。僕は君とこいつが知り合いだなんて聞いてないぞ」

 

ぶっきらぼうに言い切るシンラの言葉に、私は息が詰まる。

 

「へ?いや、だって……」

 

私とシンラがGBNで離れたのは喧嘩した時の一度きり。だから、シンラは私とハルマが出会った期間を正確に推測できることになる。

 

じゃあ何故その時に説明しなかったのか。

 

あの時は精神的にも時間にも追い詰められてて、そもそもシンラも泣いてて──でも、ハルマはシンラの知り合いで私はそれを知らずに知り合って──?

 

こんがらがった私の頭は、あまりこの場にふさわしくない言葉を出力した。

 

「私たち、結構複雑な関係……?」

 

「嫌な言い方をするな」

 

ため息混じりにシンラが呟く。

 

絵に描いたような不機嫌さに笑いそうになるのを堪えながら、私は小さな反撃を試みた。

 

「でも、人に教えてもらう前に自分が曝け出すのが礼儀だと思うんです」

 

含みを込めた言い方になってしまったが、それは私の本心であることには変わりない。

 

共に戦ってきた(期間にすれば僅か一ヶ月程度だが)にも関わらず、私はシンラのことを知らなすぎる。

 

私たち二人の関係は少々歪だ。正直、この戦いが終わった後どうなるか予想できないほどに。

 

だからこそ、知りたい。

 

彼のことを、彼が見た世界のことを。

 

もっと多く、もっと深く。

 

エルドラを守るという目標を遂げた私が、シンラの相棒を続けるにせよ、別れるにせよ………

 

一人の人間としてこの世界で生きていく為に。

 

「あぁ、わかったわかった。戦いが終わったら全部説明してやるから」

 

私は、言質はとったぞと誰に言うわけでもなく小さく呟いた。

 

* * *

 

「衛星……基地……?これが……?」

 

疑問符を浮かべるハルマの視線の先には、ようやく目の前に迫った衛星基地がある。

 

だが、約一週間ぶりに見たその容貌は、多くの共通点を残しながらも、大きく変化していた。

 

膨れ上がった風船に無数の穴が空いたかのように、衛星の至る所から紫色の光が漏れている。

 

面妖なまでにライトアップされた衛星基地に、私たちが圧倒されていた、その時。

 

「衛──が─く!!止め──れ!」

 

ノイズ混じりの通信が、私とハルマのコックピットに響き渡った。考えるまでもなくマサキからの通信だ。血気迫る声色で必死に何かを訴えている。

 

「お、おい!マサキ!」

 

「まさか……もう……」

 

この瞬間。おそらく、私とハルマの脳裏には、撃墜の二文字が浮かんだだろう。

 

しかし、その通信がマサキ自身の救命を意味するSOSではなかったことを、私たちはすぐに理解した。

 

ガコン。

 

静寂に包まれた宇宙の中、上がるはずのない音を私の耳がとらえた。同時に、衛星砲を中心に漏れ出ていた光が収束する。

 

次の瞬間、衛星砲は衛星の名を捨て、ただの巨大な砲台になっていた。

 

つまり、"衛星"と"砲台"の二つに分離したのだ。

 

穴の空いたマサキの言葉が、脳内で組み上がっていく。

 

『衛星砲が動く!!止めてくれ!』

 

言葉をそのままの意味で捉えるならば、アルは衛星砲の発射を失敗し、無理に動かした反動で砲台が外れた──そう言う解釈もできる。

 

だが、その希望的観測はすぐに否定された。

 

「奴め……!射角調整用のスラスターを……!」

 

シンラの言葉通り、巨大砲台は小さな噴射炎を後方から発生させた。

 

球根のような形をした砲台は、ブシュッという頼りない音を響かせ、僅かだが、それでも着実に前へ前へと進んでいく。

 

「まさか……!」

 

はやる焦燥感を抑えつつ、私はウィンドウを開き、予測エンジンを起動した。

 

本来ならば、砲弾や投射物の軌道を予測する為のもの。

 

お世辞にも凝っているとは言えない数字と文字のレイアウトが示した結果は、至極簡素なものだった。

 

曰く。

 

『対象物、11分51秒後に大気圏突入。』

 

このまま行けば、アレは間違いなくエルドラに落ちる。それが為された瞬間、あの惑星に何が起こるのか……ガンプラの民は、例外なくその瞬間を映像で思い描くことができる。

 

──意趣返しのつもりか!

 

私はそう叫びたかった。

 

しかし、気が強い心象の中の絶叫とは対照的に

、私の口から漏れ出たのは……小さな、とても小さな呟きだった。

 

「どう……すれば……」

 

誰も、動けなかった。

 

ハルマも、シンラもただ動き続ける砲台を見つめることしか、出来なかった。

 

優先されるべきは巨大砲台のエルドラ落下だ。

 

しかし、リライジングを放っては置けない。

 

マサキとクアドルンの負担は言わずもがな、奴がグランドクロスキャンノンを打てないという保証はないのだから。

 

私たちかハルマのどちらかが救援に向かい、残された方が砲台をエルドラ到達前に破壊する。

 

それ以外に、この状況を打開する方法はない。

 

しかし、どうやって。

 

あの砲台は、"月の雷"発射を想定して作られているのだ。内部、外部共に堅牢な作りをしているはず。

 

そもそもガンプラ1機程度で壊せるようなものなら、ビルドダイバーズは苦戦していない。

 

必殺技を使う──いや、ダメだ。

 

いまスロットに収まっているのは、スルトを治療する為だけの攻撃力のない技だ。

 

ならば、フレディにもう一度リライジングを動かしてもらう──?

 

いや、破壊できる可能性は高いが、どうやって連絡するつもりだ。

 

八方塞がりの状況を覆そうとすればするほど、思案はある種の逃避行の域まで達してしまう。

 

一つの道見つけたかと思えば、それがすぐに行き止まりの"ハズレ"だと気づく──時間制限つきの、思考の迷宮に囚われたかのように。

 

解体するのなら、爆弾?いや、そんな便利なものがストレージに入っているはずが無──

 

藁にもすがる思いで、私は手を動かした。

 

「…………あ」

 

当然ながら、爆弾は無かった。

 

──だが、微かな希望はそこにあった。

 

ストレージの文字を目で追いながら、私はハルマに向かって叫んでいた。

 

「ハルマさん!どうやって宇宙に上りました!?」

 

私の予想外の発言に、ハルマが少し間抜けな声を出す。

 

「……えぁ?!今聞くことか?」

「聞くことです!早く!」

 

せっつかれたハルマは、混乱収まらぬ表情でポツポツと呟き始めた。

 

「ファイナルフェイズ……シンラなら分かると思うけど、一年前戦った時のデカいアレを、マスドライバーで打ち出した……けど、運送用に改造したから戦闘なんてとても……」

 

「あるんですね、この宙域に!」

 

ハルマは、こくりと静かに頷く。

 

「タツカ、一体、何をするつもりだ?」

 

シンラが、戸惑いを隠さずに問う。

 

成功率は、限りなく低い。だが、条件は奇跡的に揃っている。

 

私は、震える手を無視し、確信に満ちた声音でその策を言い放った。

 

「アカバネさんからもらった設計図に、MAクラスの機体がありました!ハルマさんが乗り捨てたガンプラを鏡砂に変えて、それを建造します!」

 

「そうか……!その手があったか!」

 

実際には、鏡砂の変換効率を知っているのはシンラだけだ。だが、その当人が今納得したのだから、成功する可能性は高い。

 

「ならこいつを持ってけ。それがありゃ、FFの場所まで一っ飛びだ」

 

ハルマはそう言うと、バルバトスのバックパックの接続を解除した。

 

無重力空間に投げ出された蒼い機械は、私のコックピットと通信し、一つのメッセージを送る。

 

《ドッキングしますか?YES /NO》

 

「これは……?」

 

ハルマが、自虐的な笑みを浮かべながら言う。

 

「"希望"…………なんてな。お前らのバックパック、ボロボロだろ?時間がないんだ、少しでも早く動けた方がいい」

 

確かに、衛星砲がエルドラに到達するまで、もう十分を切ってしまっている。

 

時間はあればあるほどいい……だが、私の目に一回りも二回りも小さくなったような見える、ハルマの機体の背部が映る。

 

「でも、ハルマさんの機体は……」

 

「大丈夫だって!俺ぁ、死なねぇからよ!そうだよな!シンラ!」

 

「……そうだな」

 

そのシンラの細やかな呟きには、万感の意が込められているように感じた。その中には、当然のように信頼も含まれている。

 

ならば、私のやるべきことは一つだ。

 

私の背後に、微かな振動が発生する。宙に投げ出された私たちのバックパックは、ハルマの言葉通り崩壊寸前だった。

 

ありがとう──心の中でそう呟いてから、ハルマに提示されたメッセージのYESボタンを押す。

 

瞬間、背中に頼もしい重みが加わった──気がした。

 

「行け!シンラ!タツカ!二人で世界を救ってこい!」

 

ハルマの言葉に共鳴したかのように、X字に配置されたスラスターが、猛々しいサウンドと共に揺れる炎を吐き出した。

 

言うなればクロスボーンならぬ、クロスファイヤ。

 

「行きま──」

 

「待ってくれ」

 

操縦桿を傾けようとしたその時、シンラが口を開いた。そのまま少しだけ首を後ろに動かし、叫ぶ。

 

「ハルマ!!」

 

 

 

数秒の沈黙。

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

刹那、膨張したエネルギーが、私とシンラ、二人の背中を叩いた。クアドルンの加速に勝るとも劣らない感覚が、体を包み込む。

 

流れていく視界の片隅。

 

ハルマのバルバトスが、静かに親指を立てた。

 

***

 

私たちは、リライジングを追跡した時以上の距離を、瞬間移動じみた速度で一気に駆け抜けた。

 

途中でリライジングが落とした背部翼や装甲を拾い、実質的に鏡砂を補充する。

 

ハルマが使った巨大装置は、デブリ漂う宙域の中、要塞にも見紛うほどの存在感を醸し出していた。

 

彼がリライジングへの接近に使わなかったのも頷ける。

 

この時点で、タイムリミットまで残り7分27秒。

 

「タツカ!設計図のアップロードを!」

 

言われるがままに、ウィンドウを開き、設計図を実体化。同時進行でシンラはFFに手を触れ、鏡砂の変換作業を始める。

 

モニターに建造の進行度が映る。

 

10%、20%……私は固唾を飲んで伸びていく数字を見守った。

 

タイムリミットまで5分を切った、その時。

 

建造の進行度を示す数字が、99と98%の間で止まった。

 

「クソッ、足りない!!」

 

「え……」

 

鏡砂が足りない。後、1〜2%ほど。

 

「あと一握り……ほんの少しなのに……!!……何か……何か無いのか……!!」

 

シンラの視界と同調したモニターが、目まぐるしく動く。だが、映るのはデブリばかりだ。大した戦闘もしておらず、リライジングの装甲を回収した今、鏡砂に変えられる物など──

 

いや、ある。

 

鏡砂でできた"物質"が、まだ一つだけある。

 

「……ありました」

 

「本当か!何処だ、ど……こ……」

 

シンラの言葉が不自然に途切れた。こういう時だけ、無駄に察しがいいのが恨めしい。

 

「やめろ……!言うな、タツカ!!」

 

泣きそうなまでに震えたシンラの声に、思わず苦笑してしまう。

 

それでも私は、彼が口を開くより一歩先に自身のひらめきを口していた。

 

「私を……鏡砂に変えてください」

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