ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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何度でも立ち上がれ!!

エルドラに流星が落ちたあの日から、 丸一年が経った。

 

二転三転したあの激戦の被害は、レジスタンスやヒロトさんたちビルドダイバーズの尽力もあってそれほど大きくはならなかった。避難民の帰郷を含めた復興も、つい先日完全に終了したと報告が上がっている。

 

強硬派と穏健派、二つに分かれたレジスタンスも一つに戻り、元の派閥に関係なく協力し合いながら日々エルドラの為に再出発を果たした。

 

何もかもが元通りになったかのようにも思えたけれど、ヒトツメとの戦いは終わらなかった。

 

いや、正確に言うなら──"変わった"のだ。

 

「フレディ!ボサっとするな!」

 

チームメンバーであるユナクの声を抑えた怒声がスピーカーから漏れる。

 

つい頭に浮かんでしまうこの1年間の日々を頭の隅に追い出し、僕は謝罪を口にした。

 

「す、すいません!」

 

なるべく声を張り上げながら、僕は操縦桿を握った。

 

ここ数ヶ月の戦闘を共にした、愛機エルドラGMのモーターが唸りを上げる。

 

スラスターの激しく瞬く炎を背負いながら、愛機は黄色の大地を蹴り、敵機の元へと走った。

 

「きゅいい!」

 

仁王立ちする敵側のフラッグシップ機、エルドラウィンダムに乗ったモノが、威勢のいい言葉を発した。

 

言葉の意味はおそらく、"そう簡単にはいかない!"的な意味だろう。

 

僕も負けじと気合を込めて叫ぶ。

 

「いいや、今日こそは勝たせてもらうよ!」

 

僕とモノのガンプラはほぼ同時に抜刀し、寸分違わぬ速度でそれを振り抜いた。互いの全力を乗せた刃が激しい火花を散らし、鍔迫り合いの形になる。

 

戦闘開始序盤。首尾よく一機を倒せた僕たちは、数の有利を活かすべくもう一人の仲間に後を任せ、ユナクと二人がかりで隊長機であろうモノを襲った。

 

今日のバトルは3on3のフラッグシップ戦、隊長機一機の撃墜で勝敗が決まる。

 

これが、新しい形になった僕らとヒトツメの戦い。

 

その名も『ガンプラバトル』だ。

 

この新しい戦いのルールは少し複雑だ。

 

まず最初に、山の民側とヒトツメ側に50体分のガンプラが配られた。

 

もちろん、命の取り合いにならないよう機体に細工済みのものだ。僕らもヒトツメも、その中の一機に乗って戦場を駆ける。

 

戦闘の頻度は月に数回。互いの了承が為された場合のみ行われる。

 

勝敗の決め方は1on1のタイマンの時もあれば、陣取り合戦のような形式のものなど多種多様だ。

 

ここまではいいのだけれど、問題はこの後。

 

この戦いをただのお遊びにしない為の取り決めがある。

 

それは戦闘終了後、勝敗等に応じてガンプラを差し出したり、奪ったりしなければならないというものだ。

 

今現在、ヒトツメ陣営の所有ガンプラが52機、山の民陣営が48機。

 

これは単純な戦力の縮図であると同時に、互いが互いに要求を通す為の取引材料──いわば、通貨でもある。

 

例えば、先月の暮れ頃にヒトツメたちは彼らだけの独立した集落を僕らに要求した。

 

それを通す為に、ヒトツメ側は『ガンプラバトル』で得た3機のガンプラを山の民側に譲渡した。今この瞬間にも、ヒトツメたちは建設予定地でせっせと触手を動かしているだろう。

 

メイさんはこの戦いを『代理戦争』と呼んでいた。詳しく聞いたわけでは無いが、字面だけでその意味はわかる。

 

僕らは日常の片手間で、お互いに奪ったもの、壊されたものをガンプラに置き換えてまで争いを続けている。

 

この状態を、平和だとは誰も言わない。

 

「いいぞ!そのまま抑えるんだ!!」

 

ユナクのエルドラGMが、モノの背後に回る。体感1秒にも満たない鮮やかな機体操作だ。その証拠にまだモノに対処の動きは無い。

 

「これで……終わりだッ!!」

 

ユナクが、勝ち誇ったかのような叫びを放つ。

まだ勝敗は決していないが、それも2〜3秒の誤差だろうと思った、その時。

 

甲高い金属質の轟音が、戦場に響き渡った。ユナクの剣が発生させた……ものではない。

 

この芯まで響くような重みのある音は、斬撃ではなく打撃によるものだ。

 

「ユナクさん!」

 

叫びながら、激変したモニターの映像を凝視する。

 

が、音に一歩遅れて舞った砂煙が、僕に満足のいく情報を与えなかった。分かるものは、競り合いを続ける自機の手元と敵機のモノアイの光のみ。

 

砂煙を払ってでもユナクの無事を確認したいという焦燥感を、僕は強引に押し込めた。

 

モノは、僕が意識を逸らすその瞬間を今か今かと待ち侘びているはずだ。先刻の轟音は、明らかに敵側の攻撃。無理に動くことはできない。

 

コンマ数秒の逡巡を打ち破ったのは、頼もしき味方の通信だった。

 

「流石、ビルドダイバーズと殴り合ったというだけはあるな……」

 

砂煙が薄れ、機体のシルエットが浮き彫りになる。中から現れたのは、2機。

 

奇襲を仕掛けたであろう新たなエルドラウィンダムのナックルガードは、ユナク機の盾に沈みながら、軋んだ音を鳴らしている。

 

「きゅ」

 

「きゅ!!」

 

無言にも等しいヒトツメ流の会話を済ませたモノたちは、酷似した動作で僕たちの攻撃をいなした。

 

否、動かしたのだ。

 

僕らの機体を、自分達が戦いやすい場所に。

 

まんまと策にハマった僕とユナクは、機体同士背中を合わせ会話を交わす。

 

「無事か」

 

「はい……なんとか……」

 

だが、つい先程まで有利だったのは僕らのはずなのに、一瞬にして数の有利どころか地の利まで覆されてしまった。

 

対角線上に立った2機のウィンダムは、ジリジリと歩を進めながら、こちらを真っ直ぐと見据えている。

 

その立ち姿には、怨嗟や悪辣さは微塵も感じられない。

 

平和を求めるのが善ならば、戦いを望むのは悪だろうか?数年前の僕なら、その言葉の真意に気づかず即座に首を縦に振っていただろう。

 

でも、それは違った。

 

少なくとも、ヒトツメとして、戦闘を目的として生まれてきた彼らにとっては。

 

僕は、無自覚のうちに争いの中で生まれた彼らの存在理由を否定してしまっていたのかもしれない。

 

それに気づけたのは自分の力だけでなく、優秀な"翻訳者"がいたおかげだが──

 

「行くぞフレディ!」

 

「はい!」

 

四機のガンプラが各々の武装を敵機に向け、構えた。

 

戦場にコンマ数秒の静寂が訪れる。

 

なんにせよ、今日だけは負ける訳にはいかない。何故なら今日は、心配をかけ続けてしまった、大事な姉の晴れの日なのだから。

 

***

 

「お待たせしましたーー!!」

 

エルドラGMのマニュピュレーターを昇降機代わりに使いながら、僕は地上にいる人物に手を振った。

 

地上から空色の耳と尻尾を振りながら手を振るパルさんは、僕が着地したのを確認すると、いつも通り開口一番に労いの言葉をくれた。

 

「お疲れ様、フレディ!」

 

「きゅ!」

 

「ふふ……モノもお疲れ様!」

 

数ヶ月ぶりのパルさんとの邂逅。僕はもちろんのこと、モノにとっても嬉しいみたいだ。

 

「他の皆さんは?」

 

「カザミさんは準備してて、他の3人はセグリにみんなを迎えにいってるよ。どうする?始まる前にマイヤさんに会う?」

 

「う、うーん……」

 

別に会いたくない訳ではないのだが、カザミさんと一緒にいるだろう時間を邪魔するのは少し気の毒に思えた。それでなくとも時間的にはギリギリなのだ。感動よりも先に叱責が飛んでくる可能性は大いにある。

 

そんなふうに僕がどうしたものかと悩んでいる隙に、モノは体を跳ねさせながら村の方へと走り去ってしまった。

 

「きゅー!」

 

「あっ、モノ!」

 

「元気いっぱいだね……ガンプラバトル、してきたんでしょ?」

 

僕はパルさんに小さな頷きを返した。どちらかといえばあのリアクションは勝った方がすることだとは思うが、あれがモノなりの強がりなのかもしれない。

 

「とりあえず、僕たちも行こうか」

 

「はい!」

 

そうやって一歩踏み出したその時、一陣の風が頬を撫でた。頬に届いた冷たい感触と共に、誰かの声が聞こえた気がして、後ろを向く。

 

当然、そこには誰もいない。あるのは黄色い大地を踏み締める、僕のエルドラGMだけ──

 

改めて見た愛機の姿に、僕は何故か3年前の記憶を重ねていた。

 

どれだけ背が伸びても、地上から見上げるガンプラの大きさはビルドダイバーズの皆さんと出会ったあの時と、殆ど変わらないように思える。

 

──でもそれは、大きさだけの話だ。

 

変わってしまったもの、変われなかったものが感じられるほど僕は成長したし、してしまった。

 

「いつか……楽しいガンプラバトルが出来るようになるのかな……」

 

独り言のつもりで呟いた言葉にパルさんはすぐに反応した。

 

「できるよ、フレディなら……ううん。エルドラの民達なら」

 

エルドラの民。

 

僕にはそれが、万感の意を込めた単語に思えた。

 

ヒトツメも山の民もない。エルドラに住む、エルドラの民。僕らは、これからそれを作らなければならない。

 

何故か込み上げてくる涙を堪えて、僕は平静を装いながらパルさんに言った。

 

「僕、いつかGBNに行って皆んなでガンプラバトルをしたいです!」

 

「そ、それはどうかなぁ……」

 

歩きながら、パルさんが言いよどむ。

 

「やっぱりむずかしそうですか……?」

 

「うん。運営の人が言ってたんだけど……もしかしたらその時にはもうメタバースに──

 

そうだ。

 

僕らの再起はまだ、始まったばかり──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フレディ」

 

「……!!来てくれたんですね!」

 

蒼い毛で覆われた顎を撫でながら、男が不服そうに言う。

 

「せめて顔だけは出せとあの人がうるさくてな。自分は行かないくせに……あぁ、本日はおめでとうございます」

 

男のお辞儀に、フレディが合わせる。

 

「これはどうもご丁寧に……まぁ主役は僕じゃないですけど」

 

「親族でもこの挨拶で正解……のはずだ。はいコレ」

 

男は、フレディに三つの小包を渡した。

 

「これは?」

 

「3人分のご祝議。ささやかですが、お納め下さい」

 

「ゴシュクギ……?」

 

フレディが疑問符を浮かべたことに気づいた男は、少し言葉に迷った後後、次のように口を開いた。

 

「こっちの文化だ。詳しくはビルドダイバーズに聞いてくれ……それじゃあな」

 

「え?!も、もう行っちゃうんですか?そんな急いで何処へ……」

 

男は、フレディに背中を向けながら言う。

 

「宇宙へ……罪滅ぼしに」

 

***

 

宇宙に浮かぶ、"かつて衛星だったもの"。

 

二度の戦いで塵に等しくなったその物体の中に、小さな生命体がいた。

 

「きゅ……」

 

暗闇の中、か細い声を上げるその生命体に名前はない。

 

強いて言うなれば、"ヒトツメ"であろうか。

 

彼は、勇敢なヒトツメだった。

 

一年前のあの日、クアドルンに衛星砲落下の危機を伝えたあのヒトツメである。

 

だが、その行動ゆえに彼は避難が遅れ、この広大な宇宙の中を細かなデブリと共に彷徨うことになった。

 

「きゅ」

 

ヒトツメは、迫り来る死へのせめてもの抵抗として、最後の時を温かい思い出に浸かることを選んだ。

 

つまりは、メモリに蓄積された記憶のロード。

 

ザック…………!

 

にひひ……この毛並みは間違いなくスルトだ……!

 

やめろ!ペット扱いするな!

 

ス、ル、トーーーー!!!!

 

むぐっ!セレーナ!いきなり抱きつくんじゃない!!

 

きゅ!

 

あぁ……おはよう

 

四人の創造主に敗れ、眠りについていた自分を起こしてくれた3人の来訪者たち。

 

スルト。

 

ザック。

 

セレーナ。

 

彼らと過ごす数ヶ月に及ぶ日々は、"ヒトツメ"にとってかけがえのないものとなっていた。

 

一日分、また一日分……メモリに刻まれた何でもない日々を、擬似の脳内に並べていく。

 

ねぇ……コレって……

 

何か見つかったのか!?!

 

う、うん……ガンプラじゃないけど……

 

残酷なことに、ヒトツメの擬似脳は人間ほど高度なものではなかった。一度記憶を再生したからには、数ヶ月刻みで保存された領域分の記憶を、全て掘り起こさなければならなかった。

 

順調そうだなザック

 

こいつらのお陰だよ。な?

 

「きゅ……」

 

ヒトツメは何度も思い出した。

 

彼らの言葉たちを。

 

けれど、刻まれた幸せは音を立てて壊れていく。

 

ねぇ、スルト……?

 

どうした

 

このままじゃ……私たち……

 

口を動かす前に、手を動かせ!

 

だって……!無理だよ、もう……!これ以上、この機体に削るところなんて……!!

 

じゃあどうすればいい!!ザックを見殺しにすればよかったのか!?

 

どうかされましたか?

 

何かあったのですか?

 

昨日はずっと横になっていましたが

 

うるさい

 

あの二人は……どこへ行ったのですか?

 

──プツン。

 

それが、幸せだった記憶の幕引きだった。

 

「きゅ……」

 

ヒトツメは手慣れた動作で、もう一度記憶の同じことを繰り返そうとした。

 

人の為にその身を尽くした哀れなヒトツメに。

 

今まさに生命の危機に陥っているその生命体に。

 

記憶以外、手を差し伸べる者は誰も──

 

 

 

 

 

 

「見つけた……!」

 

光と共に、男の声が聞こえた。

 

「きゅ……?」

 

ヒトツメは、不思議に思った。

 

聞こえてきたその声が、記憶に保存されたものではなく、されど初めて聞く声でもなかったからだ。

 

その時。

 

一寸も動くことのないと思っていた体が、声のする方へ動いた。

 

ヒトツメの、これでもかと開かれた擬似瞳孔に男の影が映る。

 

毛むくじゃらの男──"スルト"の顔は、記憶のものと同一だった。

 

幻想、幻覚、考えうる幾つもの現象を頭に浮かべるよりも早く。

 

浮かんだ感情は、"恐怖"だった。

 

あの日が繰り返される?

 

同じ痛みが待っている?

 

だが、それでも──

 

ヒトツメは、スルトに向かって手を伸ばした。

 

色褪せた宇宙に、自分の心を重ねたから?

 

色づいた世界に、呼ばれた気がしたから?

 

何故そうしたのか、結論は出なかった。

 

ただ一つ、確かなことは──

 

僕は、僕は……

 

──ヒトツメとして生まれた、"僕"は。

 

もう一度、信じてみようと思ったのだ。

 

彼と一緒に描く、明日を───。

 




約1年間のご拝読ありがとうございました。
本作品は完結済み作品となりますが、あとがき兼反省会を1話分投稿するかもしれません。

その際、ご質問等に返答させていただきます。この展開どうなってんだよ!などありましたらどしどし送っちゃって下さい!
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