ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
「スルト、コアガンダム!!新型のヒトツメを……排除するっ!!」
雷鳴の如く駆け出したコアガンダムは、背部のビームサーベルを瞬時に抜き放ち、ジャンプをまじえた上段切りを放った。
シンラはそれをすんでのところで右手に握る刀を横にして受け止める。
実体を持たないビームサーベルに対し、こちらは刀身のある刀。本来なら、鍔迫り合いは発生せず、2人の武器はすり抜ける。
だが、シンラの刀は特別性だ。特殊なコーティングの効果ににより、ビームサーベルとの鍔迫り合いも理論上は可能になっている。
「く……そっ……!!」
しかし、シンラは競り合うことを嫌い、弱々しい悪態をつきながら刀を思いっきり振り抜いた。
吹き飛ばされたかと思われたコアガンダムは、空中でひらりと回転し、余裕のある着地。
「息切れがひどいですね……随分お疲れのようですが」
スルトはそう言いながらつい先程、不意打ちで切り落としたシンラの左腕を踏み締めた。
ついでとばかりに、抜刀中のビームサーベルを突き刺す。
焼け爛れた装甲が黒い液体となって、大地に染み込んだ。
「皮肉が……言えるほど……成長したのか……スルト……」
実際、シンラの息切れは酷いものだった。
MS状態の彼に酸素が不必要なのはいうまでもないが、連戦に次ぐ連戦の疲れが、シンラの人間としての本能を刺激した。なんとかして疲れを癒そうと、忘れかけていた人間としての習性を再起させる。
だが、どれだけ呼吸の真似事をしようとも、今の体は休まらない。必要なのは酸素ではなく、装甲を回復させる鏡砂なのだから。
もちろんありふれているものではないし、目の前の敵ガンプラを鏡砂を変えようにも、戦闘しながらできるほど簡単なものじゃない。
「貴方が成長していないんですよ……周りを見てください」
スルトの続けた皮肉につられて、シンラは周囲を見渡した。
視界に広がるのは、武器を抱えた無数の巨人達。
エルドラGMによる包囲網だ。彼等はジリジリと歩を進め、輪を小さくしていく。
「たった一人で無茶をして、他人に尻拭いをさせる……三年前から、何も変わっていない」
コアガンダムが、突き刺していたビームサーベルを抜き、空に掲げた。
「私は変わったぞ!仲間も……!力も手に入れた!」
シンラは、ガンプラとしては小ぶりなコアガンダムが、大きくなったように感じた。
錯覚ではない。これはプレッシャーだ。
他者を見下すことで得られる、圧倒的なまでの自尊心。
精神の状態が戦闘の勝敗に直結することは、ままある。
実際の軍隊がメンタルトレーニングを採用し、体と同じかそれ以上に心の強度を鍛えているのが何よりの証拠だ。
だが。
「少し……調子に乗りすぎだ」
シンラの呟きはとても、とても小さなものだった。
だが、それは確かにスルトの耳に入っていった。
「そうやって、私を苛立たせようなどと……その強がりは、かえって情け無いだけですよ」
「…………そうだな」
(………?)
スルトは一抹の違和感を感じた。
数年前の彼ならば、ここで引き下がることは無かったはずだ。
「……まぁいい」
包囲網は既に半径10メートルのところまで縮まっている。
スルトは小さな疑問を頭の中から消し去った。
(あとは奴の体を適当に切り刻んで、拘束するだけの簡単な仕事だ。)
そう思いながら、コアガンダムが一歩を踏み出す。
その時だった。後方遥か彼方、セグリ内部から爆発音が鳴ったのは。
「何っ……?!」
爆発からコンマ数秒後、レジスタンス達のガンプラに通信が入る。
「で、伝令!調整中のエルドラGMが何者かによって強奪され……!処刑が阻止されました……!!」
「なんだと……!」
スルトを含めた全レジスタンスに動揺が走る。
包囲網が崩れることは無かったが、伝令役の隊員は一つ、大きなミスを犯した。
「派手にやったな……タツカ……!」
伝令役は誤って、レジスタンス内だけに通じる専用回線ではなく、オープン回線の方で伝令を伝えてしまったのだ。
レジスタンス達と同じように通信を受け取ったシンラは、作戦の首尾を理解し、そこでようやく先ほどの言葉に違和感を抱く。
「処刑……?」
「……っ!」
シンラの言葉で、スルトは彼に通信が聞かれたことを理解した。
彼の言葉は無視して、動揺するレジスタンス達に指示を飛ばす。
「案ずるな!本部にはまだ仲間が残っている……!我々の役目は、目の前のヒトツメを排除することだ!!」
スルトの言葉を境に、レジスタンス達は再び気を持ち直した。
「ヒトツメ呼ばわりか……仲間を騙すのが君のリーダー像なのか?」
「……っ!!黙れえぇっっ!!」
搭乗者の絶叫と共にコアガンダムが地面を蹴り、勢いよく駆け出した。
一瞬にして間合いを詰めたスルトは先ほどの以上のスピードでサーベルを切り払う。
シンラもそれに何とか食らいつく。
サーベルと刀が、青と赤の混じった火花を散らしながら、空気を震わせた。
「くっ……」
「そうだ……貴方は私に勝てない……!」
ビームサーベルが刀を押し除けつつ、シンラの頭部に迫る。
サーベルから発せられた熱量が、少しずつ、だが確実にシンラの体、ラグナの頭部アンテナをジリジリと炙った。
「いや……それは……どうかな……」
シンラは強がりはしたが、スルトの言葉は何ら的外れではなかった。
このままでは、眼前に迫るサーベルにその身を切り刻まれ、拘束されるだろう。
となると……残されたのは……
「"アレ"を使うしか………」
奥の手、切り札、言い方は数多くあるが、シンラにはそれがあった。
だが、それはやたら滅多に使えるような代物でもない。
使えるのは一度きり。それに、代償もある。
しかも、その代償を払うのは……
「スルト……君に……聞きたいことがある」
躊躇いながら、シンラはその言葉を口にした。
返答など求めてはいなかったが、スルトは律儀に回線を使った。
「減らず口が……!」
もう一段、シンラの刀がサーベルによって沈む。
「あぁそうか……なら、勝手に聞くよ……」
一呼吸置いた後、シンラが呟く。
「"月の雷は何色だった"?」
「……な……に……?」
シンラの口から発せられたフレーズの意味を、スルトは全く理解できなかった。
しかし、シンラはすぐにこう続ける。
「あぁ、そっか、音声入力だっけ……」
シンラは息を、大きく吸って、続く言葉を吐こうとした。
これから起こす災いの犠牲者達へ、出来る限りの懺悔を込めて。
「アヴァランチレックスバスター。シュート」
その瞬間、空が光った。
より具体的に言えば、地球で言う月、空に浮かぶこの惑星の衛星であろう物体に重なるよう、シンラはそれをセッティングしていた。
アヴァランチレックスバスター。
目覚めた遺跡に保存されていた、ビルドダイバーズが使っていたであろうガンプラ。
それをアースアーマーという支援機に吊るし、砲口をセグリに向けたのだ。
放たれた巨大なビームは、重量に引っ張られたように落ち、セグリを守るバリアに衝突する。
バリアに弾かれたビームは無数に散らされ、何一つ傷つけることなく消滅した。
シンラの逆転の一手は、呆気なく散った。
だが、その一撃は。
月から撃たれたように見える、その紫がかったビームの一撃は。
「つ……」
エルドラの民の脳裏に焼きついた、"三年前の災厄"を、思い起こすには充分だった。
「月の雷だあぁぁっ!!」
コアガンダムの後方で、包囲網を作っていたレジスタンスの1人が、そう叫んだ。
他の機体も、叫びこそしないものの、セグリの上空を確かめるように動いたり、セグリの方向へ走り出す者もいた。
整えられた隊列が、醜く歪む。
「待て!これは……」
スルトがそう言い切る前に、シンラは駆け出していた。
コアガンダムが後ろに振り返った瞬間、横をすり抜け、一目散に絶叫の聞こえた方へと向かう。
「隙だらけだ!」
「しまっ……!」
咄嗟に盾を構えたエルドラGMだったが、速度の乗った刀による突きは、構えられた盾を唸る蛇のように躱し、外縁部を掠めながらエルドラGMのモノアイを突いた。
その勢いのまま、シンラはエルドラGMにタックルをかまし、両者共に倒れ込む。
大地に投げ出された巨人達が、その巨体で土煙を巻き上げた。
「包囲網が……!」
レジスタンス達が唖然としている最中、ガキン、ガキンっと、二度三度、甲高い音が土煙の中で鳴った。
土煙が少しづつ薄くなり、影が映される。
見えるのは両腕、両脚をもがれたエルドラGMと、それに刀を突き立てるシンラだった。
「動くな!全員、武器を全て捨てろ!」
刀身をコックピット付近でちらつかせながらシンラが叫ぶ。
たじろぐレジスタンス達を見てシンラは舌打ちをした。
「早くしろ!コイツが……コイツがどうなってもいいのか!!」
すがる思いを悟られないよう、声を意識的に荒げるシンラ。
刀身の背で、派手な音がなるようコックピットを叩くと、レジスタンス達はようやく自分達が脅迫されていることに気付いたようで、二、三歩後退りをした。
しかし、武器は捨てようとしない。
彼等は指揮官であるスルトの指示を待っていた。
元より、シンラもそのつもりだったので、今度は名指しで叫ぶ。
「スルト!お前に言っているんだ!!早く武装解除をさせろ!!」
「くっ……ぬぅ……」
「スルト殿っ!!この悪魔の要求を飲んではなりません!!今のうちに、私ごとこのヒトツメを……!!」
シンラは知る由も無かったが、この人質に取られているこの兵士は、つい先ほどスルトが救った隊員だった。
その隊員の持つ、自己犠牲すら厭わないほどの忠誠心。
シンラはそれに心の中で悪態をつく。
先ほどのセリフで、スルトは言い分ができたからだ。
人質をとる卑怯なヒトツメを倒すため、隊員は名誉の殉職を遂げた。スルトはリーダーとして、涙ながらにその判断をくだした……
という否定のしようがない、美談にもできる言い分が。
だが。
「……っ、レジスタンス各員に告ぐ。武装を……直ちに解除せよ」
スルトは思ったよりも簡単に要求を飲んだ。
エルドラGMが武装をパージし始め、鈍重な武器達がどすん、どすんと音をたてて地面に放り出される。
スルト自身もまた、ビームサーベルやスプレーガンを捨てた。
「これでいいだろう!!早く彼を離せ!」
「まだだ!君達にはセグリに撤退してもらう!!」
図々しい気もするが、シンラが無事に帰るためにはこうでもするしかない。
もちろん、タツカが作戦を成功させている前提の上でだが、先程の通信でこちらが有利な方向に進んでいるのは分かる。
「ふざけるな……!私たちが撤退したところで、貴様は彼をどうするつもりだ!」
「この距離なら、歩いてセグリに帰れるだろう!分かったことを聞くな!」
「だが……」
「あぁ、そうかい!!なら仕方がないな!!」
スルトの言葉にわざと大声を被せ、シンラは大袈裟に刀を大地に突き刺した。
「これは交渉じゃない、脅迫だ!もう一度、月の雷を撃ってもいいんだぞ!」
月の雷というフレーズを聞いた途端、レジスタンス達は驚くほど分かりやすい狼狽を見せた。
当然だが、これはハッタリだ。スルトもそれは重々承知だろう。
そもそもシンラが撃ったのは、月の雷にできる限り色だけを近づけた別物であり、それに加えてあのアヴァランチレックスバスターには、一発分の鏡砂しか使っていない。
だが、もし。
もし1%、いや限りなくゼロに近い可能性だとしても、レジスタンスを率いるリーダーとしてセグリを危険に晒す判断が出来るのか。
賭けとも言えぬ、無謀な挑戦。
スルトの下した判断は。
「……全機、撤退せよ」