「はぁ~しんど……」
現在ミケちゃんにお使いという名目で自宅を追い出された俺は、ある目的のために最寄りの駅へと向かって歩いていた。
ゲーム配信で三徹した後の脳ミソはたっぷりと睡眠を取っても疲れを残し、頭の奥にずーんと重石が乗っていると錯覚させている。そんな微妙に回らない頭で体に命令を出して無理やり足を動かしていると駅が見えてきた。
ひっきりなしにバスが行き来するロータリーを横目に階段を上り、偶然隣に立つビルに入るコーヒーショップの客と目が合ってしまい恥ずかしく思いながら駅舎へと入る。そのまま進み、平日休日関係無くどの時間に来てもまあまあの人が利用している改札前に着くと、俺はミケちゃんからのお使いを果たすために仁王立ちをした。
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ラフな格好で何をするでもなく改札の前に陣取っている若い男という怪異に、行き交う人々が奇異の視線を浴びせながら改札を通っていく。その怪異たる俺はポケットから流れてきた全っ然流行ってないアイドルソングに気付き、それを垂れ流しているスマホを取り出した。
届いていたメッセージを開くと『もうすぐ着くよ』とだけ書かれていて、俺はそれに対して、なんかのオマケでダウンロードしたキモいキャラがのたうち周りながらサムズアップしているスタンプを送り、画面から目を離して再び仁王立ちに戻る。
しばらくするとホームに電車が入ってきたのか、ホームの方に人の気配が多くなった気がする。
『フッ、そろそろ……か……』とか内心で呟き中二病の極みみたいな遊びをしながら、一発でコイツ尊大だなと感じる謎のポーズを取って待っているとパラパラと人がやって来た。
ホームから改札を見た人々は一様に改札前の怪異に驚き、二度見してから一番遠い改札を選んでそそくさと抜けて行く。流石に人が多ければ迷惑なので止めていたけど、今回降りてきた人は疎らだったのでそのまま続行。
笑うだけで何も言わない駅員たちに窓口から見られながら待つこと暫し、ようやく目的の待ち人が現れた。
その少女は地味な格好に大きめのボストンバックを持ち、だて眼鏡にマスクというお忍び芸能人っぽいんだかそうじゃないんだか分からないような微妙な変装で現れ、改札前で謎ポーズを取る俺を見るとたじろぎ、一歩後ずさる。
しかし、直ぐに眉をへにゃりと曲げるとマスク越しでも分かるくらい顔を赤くしながらこちらへとやって来た。
「なにやってるの!?羽金くん!」(小声)
「はははッ!貴様を待っていたのだ、ありがたく思うとよいぞ?」(超小声)
「それはわかってるんだよぉ~」(蚊の鳴くような声)
周囲を気にしながら小声で叫ぶ彼女に俺も小声で返事をすると、少女はガックリと肩を落としながら恥ずかしさで泣きそうになっている。周りからクスクスと忍び笑いが聞こえてくる中、その様子に俺もちょっと悪いことしたかな~なんて思っていると、突然彼女に手を掴まれ引っ張られた。
「もう!羽金くんのおバカ!早く行こう」(小声)
「わ、悪かったって。寝が足りてなくてテンションおかしかったんだよ。だから許してぇ、
強引に引き摺られてたたらを踏んだ俺は、転けないように着いていく。そして、耳まで赤く染めながら早歩きをする
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誕生日はミケちゃんより遅くて俺よりは早い。恋ちゃんは俺より少しだけ早いから、必然的に俺が一番年下になる。
まあ、全員同い年ではあるのだが。
晴ちゃんとの出会いもまた小学生の時で、当時ちょっとした理由でクラスで孤立してた俺と恋ちゃんに、ミケちゃんと一緒に話しかけて来てくれたのが最初。
ボブに濃い茶髪で地味に見えるように化粧をしているから気付かれにくいが、結構な美少女でもある。
かなりの常識人でいつも俺たち幼馴染連中に振り回されているけど、一度腹を決めると周囲の反対など振り切っちゃうタイプ。
そんな晴ちゃんが反対を押しきって始めた仕事のせいで、ウチのマンションで一人暮らしをしているのだが、家に居ることは少ない。いつもレッスンだの営業だの実家に帰省だのと忙しそうにしてる。
「――ねぇ~ゴメンて。許してよ晴ちゃんさま~」
「別に怒ってないよ。恥ずかしかっただけ」
「マジ?ならよかったわ。あ、ちょい待ってミケちゃんからだ」
「ッ~!?通知音その曲使ってるの!?」
「え?そうだけど?あと、お豆腐買ってきてだって」
「なんで!どうして!?」
「それ通知音とお豆腐のどっち?」
「通知音の方だよ!」
「ああ、そっち。何でってそりゃ、晴ちゃんの曲だからじゃん。全然流行ってないから他人と被んないし便利よ?」
「うるさぁいッ!失礼な事言うな、このおバカッ!」
とまあこんな風に幼馴染でご近所の現役高校生、晴ちゃんが始めた仕事はアイドルだ。
……ちなみに俺が言った通り、枕詞に売れないという言葉が付くタイプのそれであった。