俺とみんなの過去と現在   作:曽良紫堂

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幡中羽金9

 運動会が終わってから園は通常営業に戻った。

 

 お遊戯でのダンスの練習がなくなった園児たちは、今日も今日とて元気に園庭を駆け回り、キャッキャキャッキャと遊び回っている。

 園児達が放つ喧騒を尻目に、俺と恋ちゃんは教室の入り口に並んでぴったりくっついて腰掛け、さながら光合成をする植物かのように日光浴に勤しんでいたのだが……。

 

「なあ~幡中~、そんな奴ほっといて俺と遊ぼうぜ!」

「いやー、その。えーっと……」

「…………ッチ」

 

 そんな中、俺と恋ちゃんはちょっとした災難に見舞われていたのだった。

 

 

――――

 

 

 事の起こりは運動会が終わってから数日後、俺と恋ちゃんの通う幼稚園に新たなるお仲間が転入してきた事であった。

 

「今日から新しいお友だちが増えます!みんな仲良くしてあげてね~?」

(かい)です!よろしく!」

 

 その日、朝っぱらから先生に紹介された男児の名は夜塔(やとう)(かい)といい、光の加減のせいなのか若干赤みがかって見える短髪で気の強そうなイケメンくんだった。

 そのまま紹介も終わり自由時間ともなると、彼は積極的に教室の子達に話しかけに行き、直ぐに仲良くなると一緒に外に遊びに出かけていく。

 俺と恋ちゃんはそんな元気な彼らをポケーっと見送って、いつも通り教室の隅で向き合っていた。そうやって初日は何事もなく終わったのだ。初日は……。

 

 

 翌日、既に彼はクラスの中心人物になっていた。驚きのコミュニケーション能力である。

 

 俺が教室に入れば誰も彼もが、快くん!快くん!と彼を遊びに誘っている場面に出会すのだ。朝から目を丸くする俺を誰が責められよう。

 圧倒的コミュ強に(おのの)きながら、先に登園していた恋ちゃんの元へ向かう。恋ちゃんの周囲は、この空気に馴染めない大人しめな子達の避難場所と化していて、いつもよりも人口密度が高い。

 俺は気配を殺しながら人垣を避けて、いつになく大人気の恋ちゃんの元に着くと、朝から元気なグループに目を付けられないよう大人しくすることにしたのだった。

 

 俺だって面倒事は避けられるなら避けたいからね!

 

 

――――

 

 

 先生が行う、朝礼のような出席確認のような緩~いお話が終わると、快くんご一行様は主人を置いて外へ駆け出していく。

 快くん待ってるからね~、なんて男の子に遅れて出ていく女の子達の声が響く中、件の彼は教室に取り残されている者達を見やった。

 

 彼は自身の圧倒的コミュ強のオーラに恐れ戦く陰キャども*1に対して優しく微笑み、柔らかいトーンで話しかける。穏やかに進む会話に、怯えていた防波堤ども*2も次々と絆されていき、彼の取り巻きへと取り込まれていった。

 

 俺は一連の流れを端から見ていたのだが、その光景はあたかも警戒心の強い小動物をあっさり手懐けているかのような、とても鮮やかな手際であった。

 

 

 そうしてものの十分程で教室中の小動物達を手懐けた彼が、最後にターゲットにしたのが俺と恋ちゃんだった。

 

「おはよう!まだちゃんとした挨拶してなかったよな?俺、快って言うんだ。よろしくな!」

「お、おう。俺は幡中羽金っていうんだ。よろしく」

「…………」

 

 籠絡した子達を外へと先行させた快が、彼らに対する態度とは打って変わって、快活さを全面に出しながら話しかけてくる。その変わりように俺は戸惑いつつも無難に挨拶と自己紹介をしたが、お隣の恋ちゃんは胡散臭い物を見る目で快を睨み、何も言わなかった。

 

「こ、コイツは花岳恋。ちょっと大人しいだけで悪い子じゃないから、あんま気にしないでくれな?ほら、お前も挨拶」

「……………………よろしく」

「……………………ふーん。……まあいい。幡中も一緒に遊ばないか?これからサッカーするんだよ」

 

 

 

 先生ッ!場の空気がすこぶる悪いです!助けて!そんな微笑ましそうに見てないでヘルプッ! 

 

 

 自己紹介も何もなく快を見つめる恋ちゃんに俺は若干焦りながら、代わりに彼女の紹介をした。俺からすれば恋ちゃんが友達づくりを苦手としているのが分かっているので問題ないのだが、彼からすれば挨拶したら無視され睨まれ見つめられるとか、喧嘩を売られているのと変わらない。

 故に、俺が間に入って場を取り持とうとしたのだけど……。

 

 俺が快に恋ちゃんを紹介しているあいだ、彼女はスッと俺の腕を掴んで身を寄せる。

 快は話を聞きながらも、その様子をまじまじと観察し、俺に促された恋ちゃんが長い沈黙の末に挨拶すると、彼女に対してニヤケて嗤う。そのまま恋ちゃんを無視して俺を遊びに誘うのだ。

 明らかにからかっているような快の態度に恋ちゃんの眉間に皺が寄った。快もまた恋ちゃんの態度に、面白いオモチャを見つけたとばかりに笑みを深める。

 

 そして、そんな相性がいいのか悪いのか分からない彼女らに挟まれた俺は、ほとほと困り果てていた。

 

 その後、恋ちゃんが全く乗り気じゃないので、遊びの誘いを丁重にお断りすると、快はしつこく誘うでもなく「そうか、またな!」と言って教室を出ていく。

 俺は彼の潔さに肩透かしを食らった気分になりながらも、不機嫌になった恋ちゃんのご機嫌取りをして過ごしたのだった。

 

 

――――

 

 

 その日以降、快は何かにつけて恋ちゃんを挑発するように俺を遊びに誘い、恋ちゃんが静かにキレるという事を繰り返すようになった。

 その過程で彼女は俺を己の所有物だとアピールするように抱きつくなど、物理的な距離が近くなった事で俺は超絶ハッピーな気分だったのだが……。

 

「幡中は私と一緒に日光浴してるの。お前はさっさとどっか行け」

「いや、ちょっと……」

「俺は幡中に聞いてるんだよ。お前は誘ってないぜ?」

「ホント……その……」

「お前は幡中の他にも遊ぶ相手がいるだろ。ほらお友だちが呼んでるぞ?快く~んって。良かったな、友達が多くて」

「あぁ~!お前は幡中しか友達いないもんなぁ!」

「うっさいッ!私の事はいいんだよ!早くどっか行け!このアホウが!」

「ねえ……俺を挟んでケンカしないでぇ~……」

 

 ニヤニヤと煽る快と、子猫にちょっかいかけられて怒る母猫みたいな恋ちゃんに挟まれた俺は、こうやって毎日のようにじゃれ合いに巻き込まれる。

 この頃から恋ちゃんは感情をより(あらわ)にするようになって、前よりもよくお喋りをしてくれるようになったのが個人的に嬉しかったのだけども、代わりに口が悪くなったのが悩ましいところなのであった。

 

 

「はっは~!知らないね~!」

「……ッチ!コイツ~!」

「…………なんか仲いいね君ら」

 

 

 まあ、こうして恋ちゃんと快は喧嘩友達として、なんだかんだ仲良くなっていく事になるのだった。

*1
失礼すぎる表現

*2
とてつもなく失礼な表現




お気に入り登録ありがとうございます。

今回で書き貯めた分が無くなったので、今後は書けたら投稿します。
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