「もう!もうホントに羽金くんは!ほら行くよ!お豆腐買うんでしょ?」
「ゴメンて。別にさ、思った事を言っただけで全然悪気はなかったんだよ?」
「なおさら悪いよ!っていうかそんな事思ってたの!?」
「……まあ、その……ね?」
「そこは茶化してよぉ~……」
私がガックリ肩を落とすと羽金くんは「冗談冗談」と笑いながら肩を叩いた。冗談にしてはわりとホントに否定しづらそうにしてたから、きっと本心なんだろうな。
自分がまだまだ駆け出しで人気が薄いという事を自覚は理解してるけど、こうやって客観的にその事実を知るとやっぱりクルものがあるなぁ。
でも、私がこんな思いをするのは、大体私に人気が無いのが原因だけど、羽金くんが分かりやすすぎるのもいけないと思うんだ。乙女心はデリケートなんだから、こういう時はもっと上手く考えてることを隠して欲しいと思う。
私は私を迎えに来てくれた羽金くんとスーパーに向かっている道中、内心でそんな理不尽な怒りを彼に転嫁してた。もちろん思うだけで全く本気ではないし、態度にも言葉にも出さないように気を付けてる。だけど、そんな事を思ってしまうくらい、私は少し疲れているのかもしれない。
――――
色々話をしながら道中にあるスーパーへ入ると、羽金くんは目的のお豆腐がズラリと並ぶコーナーの前でうんうんと悩み出した。
「うーん、どれが良いかな~。やっぱ高い方が旨いよな~。つーか、どんだけの量を買えばいいんだ?」
「そういえば何でお豆腐買わないといけないの?いつも十分食材ストックしてるのに」
「うん?ああ、なんか予定より一人多くなったから豆腐足りなくなったんだって。どうせ
「快くんも来てるんだ」
「多分ね。ミケちゃんからちゃんと聞いた訳じゃないけど」
快くんは小学生の頃に転校してきた男の子だ。羽金くんとは幼稚園の時に一緒だった友達らしいんだけど、恋ちゃんとはよく小競り合いをしていて、羽金くんをだしにしていつもからかって遊んでる。恋ちゃんは羽金くんの事に関しては直ぐムキになるから、よく快くんに付け入られていた。
快くんも忙しいと聞いてたけど時間が空いたのかなって考えていると、お豆腐を選んでた羽金くんが話しかけてきた。
「
「えっ?……特にないけど」
「じゃあさ、結構疲れてる?」
「いや、どうしたの急に?」
「だって何か不機嫌じゃんか。いつも俺がふざけ倒してもやれやれって感じで許してくれる晴ちゃんが不機嫌なの、わりと珍しいよ?」
「…………!」
お豆腐から目線を逸らさないで何気なく言われた一言に私は驚く。
「一応気を付けてたんだけど、態度に出てた?」
「うんにゃ、別に普通」
「ならどうして……」
「勘……ですかねぇ」
「かん……」
「ほら、俺たち付き合い長いしさ。そんくらいはみんなも分かると思うよ?」
「……そうかな?」
「そうだよ?きっとそう。で、何かあるんでしょ? だいじょ~うぶ!特別に羽金さんが豆腐を選んでいる間に聞いてあげようじゃないか!」
ミュージカルみたいな芝居がかった口調でそう言って大袈裟に両手を広げた羽金くんは、私に向かって笑い掛けた。
それを見ていた周りのお客さん達が驚きながらもクスクスと笑っていて、私も釣られてつい笑ってしまう。
そのお陰で、何となく最近燻ってた気持ちが晴れた気がした。
「ふふっ……。もうホント羽金くんってば、恥ずかしいんだから」
「なにおうっ!晴ちゃんったら、超失礼なんですけどぉ……!」
――――
羽金くんは口では私に売れないとか流行ってないとか言ってからかってくるけど、なんだかんだ曲はちゃんと買って聞いてくれてるし、ライブも恋ちゃんとか都合の合う人を連れて見に来てくれる。けらけら笑いながら言うことと違う事をする、まるで天の邪鬼みたいな人。
そして、私がアイドルをやるって言った時に一番反対して、今は一番応援してくれてる人。
天領晴海にとって幡中羽金という人物は、昔からとっても優しい幼馴染で、いつも私を笑顔にしてくれる大切なファン第一号なのだった。