「羽金、寝ちゃったの?」
急にわたしに力無くもたれかかってきた羽金の頭を、コントローラーを放棄してペチペチと優しく叩きながら声をかける。しかし、彼は静かに寝息を立てながらウンともスンとも言わない。
「あ~もう、やられちゃった」
無駄に6画面もあるモニターの一つでは、わたしの操作するキャラがモンスターによって無残になぎ払われクエストが失敗していた。まあ、何回でも受けられるクエストだし惜しくはない。
他のモニターを見れば、今私と羽金がしている配信のコメントが流れていて、視聴者がそれぞれ好き勝手にコメントしている。
『寝落ちは草』
『クエスト失敗してんじゃん』
『はぁ~、羽金さんつっかえ』
『貶しながらもさん付けでリスペクトは忘れないリスナーの鑑w』
『今来たけど配信時間ヤバない?』
適当に垂れ流しているだけの配信にそこそこの視聴者がついていて、こんな風にコメントもされている。収益化はしていないので収入にはならないけど、暇潰しとしてはそこそこ面白い物だなと思う。
しばらく流れているコメントを読んでいたけど、いい加減もたれ掛かっている羽金が重くなってきたので、ゲームで高ぶっていた頭脳が冷静になった私はコメントに反応しつつゲーミングチェアから降りた。
「よいしょっと。よく考えれば寝ちゃったのは仕方ないよね、3徹しながらゲームしてたんだし。同じ時間徹夜して元気な私はなんなんだって聞かれても、前にも少しだけ話したけど、ちょっと特殊な体質なだけだよ。ポチッとな」
コメントと会話しながらチェアから降りた私は、羽金が座る座面の横にあるボタンを押す。すると静かなモーター音と共に自動でチェア全体が動きだし、ゆっくりとフルフラットになっていく。
「なにそれって、ただのゲーミングチェアだよ。特注したやつだけどね」
動いている間にチラッとコメントを見ると、ボタン一つでフルフラットになるゲーミングチェアとそれを突然動かした私に驚いているコメントが書き込まれていた。
別に大した物でもないのにな、と思いつつ話しているとチェアの動きが止まる。
私は各部に問題が無いのを確認すると防音室の外から毛布を持ってきて、チェアの上でグッスリと寝ている羽金にそれを掛けた。
「じゃあ、この通り羽金が完璧に寝落ちしたから今回の配信は終わりね。私も寝る。……え?もちろん一緒に添い寝するけど?あー、誰と添い寝しようが私の勝手でしょ。じゃあおしまい。じゃあね」
私は視聴者に羽金と寝ると言ってから煩くなったコメントを無視して配信を閉じた。カメラも止まっているのを確認して防音室の外に置いてあるPCの電源を落とす。
そうして一通りの作業を終えた私は、羽金が寝ている毛布の中に潜り込み彼に抱きついた。周りがとても静かだから、抱きついた私の全身に彼の体温が伝わり、鼓動の音が大きく響いてくる。
そのことに安心感を得た私は、きっと彼は起きたらすごく慌てるんだろうなと想像しながらゆっくりと目を閉じた。
――――
私、
なんで一緒に暮らしているのかについて端的に言えば、羽金は私のモノだから。
……いや、それは過言かも知れない。う~ん。いやいや、でもなぁ~。
別に完全に独占している訳ではなくて、必要性があれば他人に貸す事もあるんだよ? 彼本人の意向だったり、数少ない私の友人の為ならば尚更。なんせ私は物わかりのいい幼馴染みだからね。
ただ、彼が彼の一番は私だということを忘れなければそれでいい。最終的に一緒に何が何人居ようとも構わないけれど、必ず私の隣に居て欲しい。
重い想いかも知れないけど、私はいつも、いつでも、そしてこれからも、そう考えながら羽金との日々を送っている。
――――
では、改めてもう一度言う。
私、
そして、一応親が決めた婚約者でもあるのだった。