「幡中?」
「……はっ、はたなか? ……あっ、いや、俺か。あのう、もう一回言ってくれない?」
訝しげに俺を見る恋ちゃんが名前を呼んでくる。その可愛らしい声に、宇宙の彼方へ飛ばしていた意識をハッと現在母なる大地在住の俺の元へと呼び戻した。
意識の戻った俺は一時的に挙動不審となり、自分を見失う。直ぐ戻ったけど。
急に反応を返してきた恋ちゃんに驚き、その小鳥の囀ずりのような可憐で可愛らしい声に再び驚き、表情が動いたことで改めて思い知ったその美貌に
だから、俺は恐る恐るもう一度彼女に質問内容を尋ねた。
「……なんで、幡中は、ずっと、私を、見てるの? 今度はちゃんと聞き取れた?」
「おう! バッチリ!」
恋ちゃんは少しだけムッと眉を寄せてから、ゆっくり一語づつ区切って語り掛けてきた。そのあとちゃんと話を理解したか聞いてくる。
流石にそこまで丁寧に言われれば、よっぽどのバカでもなければわかるだろう。そもそも俺は驚きで内容が入ってこなかっただけなんだ。バカじゃないから理解力には一切問題はない!
今度こそ質問が頭に入った俺は、勢いよく恋ちゃんに肯定を返した。
「そう、良かった。それでなんでなの?」
「えっと……そのう……」
彼女はムッとしていた表情を元に戻して問い詰めてくる。
「クネクネしてないで言って?」
「はい! お前と友達になりたかったからです!」
「本当は?」
俺が恥ずかしがってちょっともじもじしてるのを見た恋ちゃんは、急に笑顔で圧力をかけてきた。彼女みたいな子供が、しかも前日まで人形みたいに微動だにしなかった人物が出していい雰囲気ではない。
そんな恋ちゃんにビビった俺はハキハキと理由を答える。けれども恋ちゃんは俺の答えを信用しないで問い詰めてきた。
「……ウソじゃないよ?」
「本当に?」
ジトッとした目に睨まれながらも精一杯答えた俺を、彼女はまだ信用しなかった。
「……うっ、ウソじゃないって」
「…………」
嘘じゃないのに!ホントなのに!このコ、信じてくんないよぉ~!そりゃあ、それが全部じゃないけどさぁ?正直に言ってんだから信じてくれてもよくない!?
確かこんな感じだった泣き言を内心で漏らしながら必死で信じてもらおうとする俺を、とうとう無言になった恋ちゃんが見詰める。その冷ややかな視線に耐えられなくなった俺は破れかぶれで叫んだ。
「お前がっ!かっ、かわいかったからですぅ……」
「やっと本当のこ…………えっ!?」
叫びつつも尻すぼみになっていく俺の言葉を聞いた恋ちゃん。
恥ずかしさで小さくなってる俺を見て理解が追いついたのか、彼女は話している最中に一旦フリーズし、顔を真っ赤にして驚いていた。
――――
そこからは大変だった。叫んだ俺に気付いた先生がやってきて、顔を真っ赤にしたまま驚いた表情で再び微動だにしなくなった恋ちゃんを発見し、俺が何かしらのいたずらをしたと勘違いされて叱られたし、何をしたのかと問い詰められた。
そうやって涙目になってる最中に恋ちゃんが再起動して先生に驚かれたり、それに気付いた園児たちが寄ってきても恋ちゃんが俺にべったりくっついて彼、彼女らを拒んだり、そのせいで教室中の園児が泣き出したりと混乱の嵐だった。
最終的には俺と恋ちゃんは園長室に隔離されて、園長先生に監視されながら帰りまで過ごす事となる。
そしてその間に俺と恋ちゃんは改めて自己紹介をして、そこで初めて俺はちゃんとした彼女の名前を知ることとなったのだった。