俺とみんなの過去と現在   作:曽良紫堂

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幡中羽金6

 後に分かることなんだけど、花岳恋という人物はIQが少なくとも141以上ある、いわゆるギフテットとか呼ばれる天才だった。

 小学生のある時、彼女の両親から試しにと知能検査を受けさせられた恋ちゃんは、検査後呼ばれて迎えに行った俺に酷くうんざりした感じでヒソヒソと

 

「なんか簡単すぎてつまんなかったからさ、途中から問題考えてる振りして別のこと考えながらテキトーに答えたんだ。お母さん達には内緒だよ?」

 

 なんて言ってきた。

 後日、IQ141なんて結果が出て周囲がお祭り騒ぎをしてた中、俺は手を抜いてコレってことはホントはもっと……?と心底面倒臭そうにしてる恋ちゃんに戦慄を覚え、顔を盛大に引き攣らせたのだった。

 

――――

 

 後年に判明する正確な数値の分からない恋ちゃんの高IQの事なんて、全く知るよしもない幼稚園生時代の俺は、彼女に良いところを見せたいというピュアッピュアな下心の一心で様々な事で恋ちゃんに挑戦した。

 

 先ずは以前不覚を取って彼女に教えてもらったお勉強。あの日以来俺は家に帰ると親にねだって買って貰った計算ドリルをやったり、英会話の音声を聞いたり真似したりと勝手に自己研鑽を積んだ。

 その結果かなり楽々と問題を解けるようになって自信の付いた俺は、今度こそ恋ちゃんが分からない所を教えて良いところを見せる!というつもりで意気揚々とお勉強の時間に挑んだのだが、やはり恋ちゃんは問題をチラッと流し見ただけでスラスラと解いていってしまったので、俺の出る幕などなかった。

 

「分からないとこないか……?」

「ないけど?」

「……ふ、ふーん。やるじゃんか」

「……ありがとう?」

 

 

 

 一応、一応ね。やっぱ確認って大事じゃん?もしかしたら教えるところあるかも知んないからさ!

 

 

 ……とか幻の希望にすがりながらも、まあ学力が上がったのでヨシとするかなんて強がって失意にプルプルと震えていると、恋ちゃんから「ここ間違ってるよ?」と間違いを指摘され止めを刺される事になる。

 急に机に撃沈した俺を、おろおろしながら揺すって来た恋ちゃんの困り顔がひっじょーに心苦しく可哀想だったので、直ぐに気持ちを切り替えて元気を出した。

 

――――

 

 学力が敵わないのならば運動能力ならと、次に目を付けたのはお遊戯のダンスだった。

 当時流行っていた子供向けアニメの踊りを運動会で披露することになり、先生のお手本を皆で真似して練習する。楽しそうに滅茶苦茶なダンスをしている皆を教える先生たちはとても苦労していたけど、中でも一際苦労をかけたのが恋ちゃんだった。

 俺もダンスをするのは恥ずかしくとも我慢して何とか練習はしたのだけれど、恋ちゃんは断固拒否の構えで座り込んでいる。

 

 近くを通りかかる先生が入れ替わり立ち替わり恋ちゃんを説得にかかるのだが、恥ずかしがった彼女は頑固だった。ほんのりと頬を染めて座り込みを断行している。

 

 遂にお前の担当なんだから何とかしろという先生達からの圧力*1を感じ、俺も交渉を持ちかけたけれど全て拒否されその日は終わったのだった。

 それからというもの練習の時間に全く練習しない恋ちゃんと、それを説得する先生たちプラス俺という光景が運動会まで続く。

 

 俺はと言えば、題材が普通に普段から視聴していたアニメのダンスだったので、家でも毎日録画したアニメを見るついでに練習していたため振り付けは完璧だった。

 

 そして時は流れて本番になりダンスを披露する時間が来た。朝から説得していた俺の影に隠れるように恋ちゃんは配置へ着く。

 直前まで渋っていた恋ちゃんも流石に多くの保護者が見ている前で意地を張ることは出来ないようで、俺の説得に応じ踊ることになったのだが、聞けば本当に一回も練習をしてないとのこと。

 それを聞いて俺は恋ちゃんに踊れなくて恥をかかせるというのも忍びないと思い、俺の影に隠れてそれっぽい動きをしてればいいよと言って彼女の盾となることに決めた。

 

 まあ要らない気遣いだった訳だけども……。

 

――――

 

 音楽がかかりポップな歌が始まると俺は集中した。先ずは大きく手を広げて……なんて振り付けを思い出しながら体を動かす。周りを盗み見ると、出だしのタイミングを逃した子もいれば、いきなり滅茶苦茶に踊りだす子も居たが、概ね皆ちゃんと踊れていた。

 見学している保護者達も笑顔で動画を撮ったりしている。その中には俺の両親や恋ちゃんの両親もいてこっちに手を振っていた。

 

 そんな親たちに対して恋ちゃんの姿を遮ってスマンなとか思っていたのだけど、俺たちの親以外の反応がどうにもおかしかった。ある保護者は口をあんぐり開けたり、ある保護者は自分の子供そっちのけでこっちにカメラを向けてたりするのだ。

 おかしな反応をする保護者達が気になって疑問に思っていると、どうやらその視線は俺の後ろに注がれている様だと察する。

 

 俺の後ろには恋ちゃんしかいないはずなので、彼女が何かやらかしたのかと後ろを振り返ると、えらく上手に踊る恋ちゃんが居た。

 

 気だるそうな表情を隠さないまま音楽に乗って、振り付けを完璧かつ優雅に踊る恋ちゃんの踊りは、同じ振り付けのはずなのに俺たちとは全く違う物に見えるという不具合を現実世界に起こしていたのだった。

*1
被害妄想

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