音楽が終わってダンスが終了してもギャラリーからは拍手もなく、辺りは静まり返っていた。先生たちは驚いた顔で固まっていてプログラムの進行どころではなく、保護者の方は衝撃から復帰するとハッとした表情で撮影した映像を確認し出す。
やがて隣同士や周囲で確認を取り合うと、数名の保護者が申し訳なさそうな様子で先生たちに話しかけに行った。
彼らが話をしているあいだ、園児達は場の異様な雰囲気に動揺して、怖がって泣きそうになっていたりいなかったりと騒がしくしている中、俺と恐らくこの状況の原因たる恋ちゃんは通常営業だった。
「どうしたんだろ? お前わかる?」
「わかんない。興味ないし。もう戻っていいかな……」
「まだダメなんじゃね? 先生たちなんにも言ってないし」
「……もうやだ。座りたい」
「座るくらいはいいと思うよ」
全身から倦怠感を滲み出し、投げやりな態度の恋ちゃんと一緒に地面に座るとブーたれながら俺に寄り掛かってきた。
別に体力的に疲れているとかではなく精神的な負担が大きかったのだろう。直前まですげぇ踊るの嫌がってたし。
俺が恋ちゃんに寄り掛かられた幸福感に気持ち悪くニヤニヤしていると、何らかの交渉をしていた先生と保護者たちがそれぞれ戻って行くのが見えた。なんだろうと疑問に思っていると、先生がマイクを握り園児たちに向けてアナウンスを始める。
「えー。多くのお父さんお母さんから、みんなのダンスをもう一度見たいってお願いがありました。だからみんなもう一度ダンスをしましょう!」
年を経た今の俺なら、状況を合わせればどういう話し合いが持たれたのかがなんとなく察せる*1アナウンスがされると、お調子者や先ほど失敗した子達が歓声を上げる。
「えぇ~ヤだぁ~」
その反応に大人たちが胸を撫で下ろしているようだったが、寄り掛かっている恋ちゃんは俺にしか聞こえないくらい小さい声で不満を漏らす。また、多数派ではない大人しい子、運動が苦手な子達も静かに暗い顔をしていた。
俺個人としては踊るのも吝かではなかったのだが、こうして恋ちゃんが嫌がっているとなれば話しは別。俺は堂々と立ち上がり、自信を持って宣言する。
「せんせ~、俺イヤだから見てるね~! お前も行こうぜ!」
「えっ、……うん」
「ちょっ、羽金くん!?」
そう
結局、残った大多数のやる気に満ち溢れている子達だけでダンスを踊る事になり、保護者達も無事に我が子を映像に納める事が出来たみたいだった。
一部残念そうにしてた親も居たが、頑張って踊ってた我が子を録り逃した自分が悪いと諦めて欲しいと切実に思った。
決して最初に逃げた俺が悪い訳では無いから、そこは間違えないでいただきたかった。
――――
恋ちゃんの手を引いてやって来た俺に俺の両親は呆れた顔をしていたけど、彼女のご両親に引っ付きながらとんでもなくかったるそうにお遊戯を見ている恋ちゃんを見て、説教するのを諦めたようだった。
一応、他人に迷惑かけんなよ?分かってんな?おおん?という主旨の一言はいただいたのだが、それに対して俺が居酒屋の酔っぱらいが酔ってないと言い張るが如く、絶対に分かってないと他人に捉えられる返答をしたためにそれ以上は何もなく、気づけばいつの間にか俺そっちのけで恋ちゃんのご両親と談笑していたのだった。
後年、両親からこの時の話をされ、母親からは
「こいつはバカかサイコパスのどっちかだと思った。バカの方で良かった」
と安心され、それに父親も重く頷きながら同意される事となる。
大変俺に対して失礼な話だった。バカじゃねーよッ!どっちかって言ったらアホだよッ!
――――
これ以降も学力と運動の双方で俺は恋ちゃんに挑み続けて負け続けた。運動の方ではある程度歳を取ったら体格差で負けることはなくなったのだが、そこは置いておいて……。
恋ちゃんとの格の違いというやつを分からせられていた。一方的にだけど。
そして恋ちゃん自身は全然そんなこと気にした様子もなくボンヤリしていた。
まあ、俺が勝負だ!なんて彼女に宣言したこともないので気にしないのも当然であった。
で、負け続けた俺も俺で恋ちゃんに対して劣等感を抱くなんてこともなく、可愛くて頭も運動もできるとかコイツ、エリーゼ*2かよ最高だな!とか呑気に思っていた。
頭の出来という違いはあれど、俺たちは双方共にそんな感じでぼやぼやしているのだった。