ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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投稿した話に感想が届いてびっくりです。
某TV番組を見たから、それを参考にしたんですけどね。


第8話 囚われのララド族

 ヴァージニア、リーフ、バルダはジャスミンを追って木々の中へと登っていった。

 沈黙の森での経験を経て、地上に身を隠すのは自然な事のように思えた。

 ただ、まだヴァージニアだけは隠れるのが苦手だった。

 何しろ、大きな服を着ているので、ばれやすいからだ。

 

 ヴァージニア、リーフ、バルダはできるだけ高く登り、ようやく足音が耳に届いた。

 音が大きくなったため、ヴァージニアは安全で快適な場所を見つけた。

 リーフの魔法のマントに身を包み、さらに厚い葉の天蓋に隠れながら、

 影の憲兵団が空き地に歩き始めるのを見守った。

 

 四人は枝にへばりついてじっとしていた。

 影の憲兵団が通り過ぎるまでのほんの僅かな時間だろうと四人は思った。

 そのため、下にいる影の憲兵団が立ち止まり、

 武器を落とし、地面に身を投げ出すのを見て、四人の心は沈んだ。

 部隊は休憩場所としてこの空き地を選んだようだ。

(……まさか、ずっとここにいるつもりですの……?)

 ヴァージニアの表情には絶望が浮かんだ。

 恐らく、ここに何時間も留まるつもりだろう。

 空き地には影の憲兵団が次々と入ってきた。

 すぐにそこは灰色の服でいっぱいになり、荒々しい声が響き渡った。

 そして、最後の部隊が見えてくると、靴の音と共に鎖のカチャカチャという音が聞こえた。

 

 影の憲兵団は捕虜を護送していた。

 リーフは首を伸ばして見てみた。

 捕虜は今まで見た誰とも違って見えた。

 とても小柄で、しわが寄った青灰色の肌、細い脚と腕、ボタンのような小さな黒い目、

 そして頭のてっぺんから赤い髪の房が突き出ていた。

 首にはきつい革の首輪があり、そこから鎖かロープを留める留め具がぶら下がっていた。

 彼は疲れ切ったように見え、手首と足首に重くのしかかる鎖が肌に生々しい跡を残していた。

 

「誰ですの、こいつは?」

「奴らはララド族を捕らえたらしい」

 バルダは息を切らしながら、もっとよく見えるように動いた。

「ララド族って何?」

 リーフはその名前を以前に聞いたか読んだことがあると思ったが、

 どこで聞いたか思い出せず、バルダに尋ねた。

「ララド族は建築を得意とする部族で、アディンやデルトラの王や女王が愛していたらしい。

 作った建築物は堅牢で有名だった」

 リーフは、両親に勉強させられた小さな青い本『デルトラのベルト』で

 その名前をどこで見たかを思い出した。

「デルの城を建てたのはララド族だ。けれど、とても小さい」

「蟻は小さいが、蟻は自分の体重の20倍の重さの物を運ぶ事ができる。

 大切なのは身体ではなく、心だ」

「静かにして。影の憲兵団がこっちの話を聞いてるみたいよ。

 いつでも私達の匂いを嗅ぎ付けてくるかもしれないわ」

(……そうですわね。わたくしもあいつらから逃げてた時、そう思ってましたから)

 しかし、影の憲兵団は明らかに長い距離を歩いていて疲れていた。

 四人は空き地の真ん中に置いた鞄から取り出した食糧以外には何も興味がなかった。

 影の憲兵団は、空き地の脇で囚人を乱暴に地面に押し倒し、水の入ったボトルを投げつけた。

 それから、彼らは食事に注意を向けた。

 

(なんで、こんなに汚い食べ方をするの……)

(不快ですわ……)

 ヴァージニアとジャスミンは、影の憲兵団が彼らの食べ物を貪り食い、

 飲み物を口に吹きかけ、それが顎を伝って地面にこぼれるのを見て、嫌悪感を覚えた。

 しかし、リーフはララド族の男を見ていた。

 その男の目は、空き地の草の上に散らばっている食べ物の残り物に釘付けだった。

 明らかに、彼は飢えていた。

「ガリガリで空腹だそうだ!」

 影の憲兵団の一人がララド族の男の方に半分かじった骨を指差しながらくすくす笑った。

「ほら、ガリガリ!」

 影の憲兵は囚人が座っているところまで這って行き、骨を差し出した。

 飢えた男は身を竦めたが、食べ物に抵抗できず、前に屈み込んだ。

 影の憲兵は骨で彼の鼻を強く殴り、それを奪い取った。

 他の影の憲兵は大笑いした。

 

この、けだもの!!

許しませんわ!!

 ジャスミンは怒りのあまり、警告をすっかり忘れて叫んだ。

 ヴァージニアも怒りを自制できずに、思わず大声で叫んでしまった。

「静かにしろ。相手は数が多すぎる。俺達はまだ、何もできない」

 バルダは厳しい声で囁いた。

 ヴァージニアは悔しさのあまり、ぐっと拳を握り締めた。

 影の憲兵団は、もう食べられなくなり、飲めなくなるまで食べたり飲んだりした。

 それから、灰色の幼虫の群れのように無造作に一緒に寝そべり、

 仰向けに寝そべり、目を閉じて、いびきをかき始めた。

 

「今のうちに助けますわよっ」

 四人はできる限り静かに枝から枝へと登り、ララド族の捕虜の真上に辿り着いた。

 捕虜は肩を竦め、頭を下げてじっと座っていた。

(寝てるのかしら?)

 驚かせて目を覚ます危険を冒すわけにはいかない。

 もしも叫んだら、全てが台無しになってしまう。

 ジャスミンはポケットを探り、乾燥したベリーの茎を取り出した。

 彼女は慎重に木から身を乗り出し、動かない捕虜の目の前に茎を投げた。

 捕虜が鋭く息を吸う音が聞こえた。

 彼は茎が横たわっている上の澄んだ空を見上げたが、もちろん何も見えなかった。

 捕虜の長い灰色の指が慎重に伸び、獲物を掴んだ。

 これがまた影の憲兵団の残酷な冗談ではない事を確認するために辺りを見回し、

 茎を口に押し込み、貪欲にベリーをむしり始めた。

 捕虜の鎖がかすかにカチャカチャと鳴ったが、

 彼の周りでいびきをかいている人影は動かなかった。

「よし」

 ジャスミンは息を吐き、注意深く狙いを定め別のベリーの茎を捕虜の膝に真っ直ぐに落とした。

 今度は捕虜はまっすぐ見上げ、四つの顔が捕虜を見下ろしているのを見て、

 捕虜はボタンのような目をショックで大きく見開いた。

「静かになさい」

 ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンはすぐに指を唇に当て、彼に黙るように警告した。

 捕虜は音を立てず、見知らぬ人たちが木から慎重に彼に向かって降りてくるのを見ながら、

 口にベリーを詰め込んだ。

 四人は既に、影の憲兵団を起こさずに捕虜を鎖から解放する見込みがない事を知っていた。

 彼らには別の計画があった。

 それは危険だったが、それで十分だった。

 ヴァージニア、リーフ、ジャスミンは囚人を捕虜の慈悲に任せる事を拒否し、

 バルダはそれほど説得する必要はなかった。

 バルダは四人の中でララド族を知っている唯一の人物であり、

 影の憲兵団に囚われているという考えはバルダにとって恐ろしいものだった。

 ジャスミンが木の上から見守っている間、

 リーフ、バルダ、ヴァージニアは小柄な男の傍の地面に滑り込み「恐れるな」と合図した。

 捕虜は震えながら頷き、驚くべき事をした。

 細い指先で地面にアルファベットの「M」のような奇妙な跡をつけ、

 尋ねるようにリーフ達を見上げた。

 

「何ですの?」

 困惑したリーフとバルダは、お互いに視線を合わせ、それから捕虜の方を振り返った。

 異世界出身のヴァージニアは首を傾げている。

 捕虜は四人が自分の言っている事を理解していない事に気づいた。

 彼の黒い目は恐怖に震え、彼はすぐにその傷を払いのけた。

 しかし、彼はまだリーフ達を信頼しているようだった。

 あるいは、自分が置かれている状況より悪い状況はないと思っていたのかもしれない。

 影の憲兵団が獣のようにいびきをかきながら眠り続ける中、

 彼は素早く静かにリーフのマントに包まれた。

 リーフ達は、鎖諸共彼を連れて行くしかないと決めていた。

 四人は、きつく巻いたマントが鎖がカチャカチャ鳴って

 敵の警戒を防いでくれる事を期待していた。

 鎖のせいで小柄な男は本来よりも重かったが、

 バルダは彼を持ち上げて片方の肩に担ぐのに苦労はなかった。

 四人は、そのような重荷を背負って木のところに戻るのは不器用で危険だと分かっていた。

 しかし、捕虜は道の入り口のすぐ近くに横たわっていた。

 四人がしなければならなかったのは、そこに辿り着いて静かに忍び寄る事だけだった。

 それは四人全員が覚悟していた危険だった。

 そして、恐らく夢を見ている影の憲兵団の一人が、ちょうどその瞬間に、

 ひっくり返って腕を振り回し、隣人の顎を打たなければ、全て上手くいっただろう。

 殴られた影の憲兵団は叫び声と共に目を覚まし、誰が自分を殴ったのかと慌てて辺りを見回し、

 リーフ、バルダ、ヴァージニアが逃げていくのを目にした。

 影の憲兵団は警報を鳴らした。

 数秒後、空き地は怒り狂った影の憲兵団で賑わった。

 彼らは眠りから目覚め、囚人がいなくなっている事に激怒した。

 

「早く逃げますわよ!」

 影の憲兵団は獣のように吠えながら、

 リーフ、バルダ、ヴァージニアの後を追って道を駆け下りていった。

 全員がパチンコと「火ぶくれ弾」という猛毒の弾丸を携行していて、

 走りながらパチンコに火ぶくれ弾を取り付けていた。

 狙いを定めて火ぶくれ弾を投げつけると、前を走る者達が無力になり、

 苦痛に叫びながら倒れるだろうと四人は知っていた。

 リーフ、バルダ、ヴァージニアもそれを知っていた。

 そして恐らくララド族の男も知っていたのだろう。

 バルダの肩にぶつかり、絶望に呻いた。

 しかし道は曲がりくねっていて、狙いがはっきりせず、

 リーフとバルダとヴァージニアの足は恐怖に苛まれ、ずっと先を進んでいた。

 

「きゃっ!」

「ヴァージニア!」

 しかし、足が遅いヴァージニアは、服の裾に引っかかって転んでしまう。

 そこに影の憲兵団が放った火ぶくれ弾がヴァージニアの身体に命中しようとした時、

 ヴァージニアは身体をねじらせてギリギリで攻撃をかわす。

 しかし、火ぶくれ弾が掠ったためにヴァージニアは僅かな火傷を負ってしまった。

「くっ、熱い……!」

 ヴァージニアは痛みで足を止めそうになるが、

 足を止めたら影の憲兵団に殺されるのが目に見えていた。

 既に、リーフは息を切らしていた。

 峡谷での試練で衰弱し、敵を追い抜くのに必要な力は残っていなかった。

 影の憲兵団は休む事なく何日も何晩も走り続け、獲物がどこに隠れていようとも、

 その匂いを嗅ぎ分ける事ができた。

 ヴァージニアが命懸けで鬼ごっこをしたのも当然である。

 遥か後ろで、ドスンと音を立ててガタガタと音を立て、

 倒れる影の憲兵団の怒った叫び声が聞こえた。

 感謝の気持ちで胸が躍り、ジャスミンが木々の間を抜けて、

 道に枯れ枝を落として追っ手を遅らせていたのだろうと推測した。

 

 ジャスミンはフィリと一緒に隠れて安全に過ごす事ができた。

 影の憲兵団は空き地に見知らぬ人がいた事を知るはずがなかった。

 しかし、仲間が困っているのを見て何もしないのはジャスミンのやり方ではなかった。

 リーフは驚いて、ジャスミンがすぐ前方で軽やかに地面に飛び降りるのを見た。

 ジャスミンがリーフ達にどれほど近いのか、リーフは知らなかった。

「助けてくれたんですのね、ジャスミン!」

「ええ。奴らの道を欺いたわ」

 リーフ達がジャスミンのところまで来ると、ジャスミンは嬉しそうに言った。

「道沿いの六ヶ所でトゲのある蔓が枯れ枝に絡みついているの。これで奴らの足が遅くなるわ!」

 ジャスミンの目は喜びで輝いていた。

「分かりましたわ。早く逃げますわよ!」

 カーブを曲がると、リーフは前方にカーブのない長い道がある事に愕然とした。

 それは矢のように真っ直ぐにずっと続いて遠くに消えていくようだった。

 影の憲兵団にとってこれ以上に明確な狙いは望めなかった。

 四人がこの地点に着くと、すぐに火ぶくれ弾が飛び散り始めるだろう。

 敵がどれだけ遠くにいようとも、はっきりと見えるからだ。

 リーフとヴァージニアは絶望と戦いながら、胸が痛む中で心臓がドキドキしていた。

「脇へ!」

 バルダは急に道から反れながら囁いた。

「これが唯一のチャンスだ!」

 ここの木々は細く、枝は繊細に垂れ下がっていて、登るのには役に立たない。

 木々の間には弾力のある草の絨毯が広がり、野生のスモモの茂みがあちこちに点在し、

 ふっくらとした紫色の果実が新鮮な緑の葉の間で輝いていた。

「これは、スモモですの?」

「どうしたんだ、ヴァージニア」

 リーフは、スモモが野生で育っているのを見た事がなかった。

 彼は突然、ここを静かに散策し、芳醇な香りのする果実を摘み、

 茂みから直接食べたらどんなに気持ちがよかっただろうと考えた。

 間違いなく、リーフとバルダ、ジャスミン、そしてヴァージニアはそうしただろう。

 もし途中で影の憲兵団と捕虜に出会わなければ。

 だから、午後を楽しむ代わりに、リーフ達は命からがら逃げていた。

 リーフはバルダの肩に揺れる荷物をちらりと見た。

 ララド族の男はもう呻き声を上げておらず、マントのひだの中にも動きはなかった。

 気を失ったのかもしれない。

 飢えと恐怖で死んだのかもしれない。

(まさか、もう手遅れ……?)

 ヴァージニアにそんな考えがよぎる中、突然、地面が傾き始め、

 リーフは足取りが道からは見えなかった小さな谷へと向かっているのに気づいた。

 そこにはスモモの茂みがさらに大きく、密集して生えていた。

 空気はスモモの豊かな香りで満たされていた。

 

「もしかして、わたくし達、追っ手を撒きましたの?」

 ジャスミンは走りながら匂いを嗅いだ。

「そうよ。ここは隠れるには最高の場所だからね!

 この果物の匂いが私達の匂いを隠してくれるわ」

 四人は頭上まで伸びた茂みの真ん中に押し入った。

 茂みは四人を完全に隠していた。

 四人は静かに、薄暗い緑の陰を忍び足で進んだ。

 足元の地面は湿っていて、どこかで水が流れる音が聞こえた。

 スモモが小さな輝くランタンのように至るところにぶら下がっていた。

 四人が隠れてからほんの数分経った頃、ジャスミンは立ち止まり、警戒するように手を上げた。

「聞こえるわ。私達が道を離れた場所に近づいているのよ」

 じっとしゃがみ込み、注意深く耳を澄ますと、

 リーフはついに、ジャスミンの鋭い耳が先に聞いたもの、走る足音を聞いた。

 音はどんどん大きくなり、そして足音がよろめいた。

 影の憲兵団の最初の一団が道の真っ直ぐな部分に来た。

 リーフは、影の憲兵団が前方をのぞき込んでいて、誰もいないのを想像した。

 一瞬の沈黙があった。

 影の憲兵団が空気を嗅ぎ、互いにぶつぶつ言い合っているのを想像して、リーフは息を止めた。

 笑い声か呪いの言葉か、どちらかの大きな耳障りな音がした。

 そして、圧倒的な安堵と喜びに、命令と共に部隊全体が振り返る音が聞こえた。

 数秒後、影の憲兵団は来た道を戻って行進していた。

 

「奴らは諦めたんだ。我々が追い抜いたと思っているんだ」

「あら、安心ですわね」

「いや、罠かもしれない」

 バルダは厳しい口調で呟いた。

 行進する足音は次第に小さくなり、四人は数分間じっと動かずに待っていたが、

 静寂を乱すものは何もなかった。

 ジャスミンの囁きで、フィリは一番近くの木まで走り去り、幹を駆け上った。

 すぐにジャスミンは戻ってきて、小さく喋り始めた。

「大丈夫よ。フィリには見えない。本当にいなくなったわ」

 ジャスミンは立ち上がり、伸びをしながら言った。

 リーフはジャスミンの横に立ち、安堵して強張った筋肉をほぐした。

「やれやれ、やっとお休みできますわね」

 リーフは傍らの茂みからスモモを摘み取ってかぶりつき、

 甘くて美味しい果汁が乾いた喉を冷やした。

 ヴァージニアもスモモを一口食べて体力を回復した。

「もっと先にもっといい果物があるわ」

 ジャスミンは前方を指差しながら言った。

「まずは俺が背負ってる荷物がどうなっているか見ないとな」

 バルダはマントをほどき、すぐにララド族の男を腕に抱きしめた。

「死んだのか?」

 リーフが静かに尋ねると、バルダは首を横に振った。

「意識を失ってるだけだ。それもそのはず。

 ララド族は強いが、飢え、疲労、恐怖に永遠に抵抗できる者はいない。

 友がどれだけ長く影の憲兵団の捕虜になっているのか、

 あるいは食事も休息も与えられずに重い鎖に繋がれてどれだけ歩いたのか、

 誰にも分からないだろう?」

 リーフは好奇心を持って小柄な男を見た。

「あんな人は見たことがない。地面に描いたあの印は何だったんだ?」

「分からない。目覚めたら聞いてみよう」

 バルダは呻きながら、再びララド族の男を抱き上げた。

「奴は俺達に少々迷惑をかけてきたが、それでも会えた事は幸運だった。

 ここからは奴が俺達を案内してくれるだろう。

 奴が住んでるララディンは嘆きの湖のすぐ近くにある。

 もっと快適に座れる場所を見つけて、この鎖を外そう」

 

 四人は茂みを抜けて進んだ。

 小さな谷に進んでいくにつれて、その場所はますます魅惑的に見えた。

 柔らかい苔が厚い緑の絨毯のように地面を覆い、垂れ下がった花が至るところに群がっていた。

 鮮やかな色の蝶がスモモの茂みの周りを舞い、細い木の繊細な葉を通して差し込む太陽は、

 触れるもの全てに優しい緑がかった金色の光を放っていた。

 リーフはこれほどの美しさを見た事がなかった。

 彼はバルダの顔を見て、バルダも同じ気持ちだと分かった。

 ジャスミンでさえ、すぐに温かい喜びで辺りを見回していた。

 ヴァージニアは、こんな危険な世界にも癒しの地はあると確信した。

 

 四人は小さな空き地に着き、ありがたく苔の上に腰を下ろした。

 そこでバルダはジャスミンの短剣を使ってララド族の男の首からきつい革の首輪を切り、

 鎖の鍵を壊した。

 鎖を引き離しながら、

 バルダは男の手首と足首の擦れて生傷になっている部分を見て顔をしかめた。

「それほど酷くはないわ」

 ジャスミンはさり気なく男の傷を調べた。

 彼女はポケットから小さな瓶を取り出し、蓋を緩めた。

「これは私が作ったものよ。お母さんのレシピで作ったの」

 ジャスミンは傷ついた部分に淡い緑色のクリームを軽く塗った。

「肌を早く治してくれるの。沈黙の森ではよく役に立ったわ」

 リーフはジャスミンをちらりと見た。

 ジャスミンは下を向いて、瓶の蓋を締め直しながら、酷く眉をひそめていた。

(どうやら、ジャスミンはホームシックみたいですわね。

 ジャスミンはクリーや森、そこでの暮らしが恋しいみたいですわ。

 リーフが家や友達、両親を恋しく思うのと同じように。

 ……わたくしにはもう、両親はおりませんけど……)

 ヴァージニアは胸が痛くなるのを感じて、教会を思い浮かべた。

 教会は小さいけれど安全で、自分の宝物でいっぱいだった。

 リーフは暖炉の前で過ごした夜を思い浮かべた。

 友達と通りを走り回った事。

 父親と一緒に鍛冶場で働いた事さえ。

 

 突然、リーフは温かい家庭料理が食べたくなった。

 暖かいベッドと、おやすみなさいと慰めてくれる声が欲しかった。

「ちょっと、リーフ!」

 リーフは自分自身に腹を立てて飛び上がった。

 どうしてこんなに弱々しく、子供じみているのだろう。

「探検に行くよ。食べるためのスモモと、火のための木を集めるんだ」

「待ちなさい、リーフ!」

 リーフはバルダ、ジャスミン、ヴァージニアの返事を待たずに、

 空き地の端まで大股で歩き、二本の木の間の隙間を通り抜けた。

 ここのスモモの茂みは、リーフがこれまでに見たものよりもさらに実がいっぱいだった。

 リーフはそれらの間を歩き、マントを袋のように使って、摘んだ香りの良い果実を入れた。

 枯れた枝はほとんどなかったが、そこにあるものを集めた。

 夜が来たら、小さな火でもありがたい。

 リーフは地面に目を凝らして歩き続けた。

 ついに、これまで見たものよりも遥かに大きな、良い平らな木片に辿り着いた。

 湿気があり、苔が生えていたが、

 火が十分に燃え上がればすぐに乾いて燃えるだろうとリーフは知っていた。

 喜んでリーフはそれを拾い上げ、背筋を伸ばして、自分がどこにいるか見回した。

 その時、リーフは目の前にとても驚くべきものを見た。

 それは看板だった。

 古くて、壊れて、傷んでいたが、明らかに人が作ったものだった。

 

 これ

 ならし

 はいる

 

 看板の横、木の枝からぶら下がっている金属の鐘。

(なんて奇妙なんだ)

 リーフは看板の向こうの茂みを覗き込み、驚いて飛び上がった。

 正面には滑らかで明るい緑の芝生が広がっていた。

 そして芝生の向こうの遠くに、小さな白い家らしきものがあった。

 煙突からは煙が漂っていた。

「バルダ、ジャスミン、ヴァージニア!」

 ヴァージニア達がリーフの方へ走ってくるのが聞こえたが、

 リーフはその小さな家から目を離す事ができなかった。

 三人がリーフのところまで来ると、リーフは指差し、三人は驚いて息を呑んだ。

「ここに人が住んでいるとは思ってもみなかったぞ!」

「なんて幸運な!」

「お風呂!」

 リーフは嬉しそうに叫んだ。

「温かい食事! それに、一晩泊まれるベッドもあるかも!」

「……」

 バルダとヴァージニアは、じっとその看板を見ていた。

 よく見てみると、看板が半分だけになっているのに、二人は気付いていた。

「ちょっとお待ちなさい。この看板、罠かもしれませんわよ」

「そうだぞ。ここには魔女テーガンがいるかもしれないんだ」

 もしかしたら罠かもしれないと、バルダとヴァージニアはリーフとジャスミンに警告した。

「罠?」

「でも……もう鳴らしちゃったよ!」

 リーフは手を伸ばして鐘を鳴らした。

 鐘は明るく歓迎の音を立てリーフ、バルダ、ジャスミンは茂みを抜けて緑の芝生に駆け出した。

 数歩進んだところで、何かが酷くおかしい事に気づいた。

 リーフは必死に引き返そうとしたが、もう遅かった。

 既に膝まで、太ももまで、腰まで沈んでいた。

 素晴らしい平らな芝生だと思っていた緑の芝生の下には、沼があった。




この世界にはやっぱり異種族がいますよね。
ヴァージニアは忍者じゃないのでかくれんぼは苦手だし鬼ごっこも命懸けです。
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