ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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魔女テーガンの子供達から逃れるため、ヴァージニア達は立ち向かいます。
幻想的だけど、やっぱりここは危険な世界です。


第10話 脱出劇

 リーフは、バルダとジャスミンの目を眩ませている魔法を解かなければならないと思った。

 ヴァージニアは奇跡の力で守られていたため、幻覚の魔法は効かなかった。

 

「もしかしたら、リーフ、トパーズを使えばいいかもしれませんわ。

 あいつらの逆さ言葉が分かったように」

「そうか!」

 父親が持っていた小さな青い本『デルトラのベルト』の、

 ぼんやりと覚えている文章が頭の中に浮かんだ。

 リーフは目を閉じて、その本のページを頭の中で思い浮かべるまで集中した。

 

 トパーズは強力な宝石で、満月になるとその力が増す。

 身に着ける人を夜の恐怖から守り、霊界への扉を開く力があり、心を強くし、浄化する。

 

「……心を強くし、浄化する、つまりは!」

 リーフはトパーズをしっかりと握った。

 巨人の最後の問題を何とか解いた時、自分の手はトパーズを握っていた事を思い出した。

 ドッジが見た目とは違う人物だと気づいた時、彼はトパーズを綺麗にしていた。

 リーフは説明する気もなく、バルダとジャスミンの手を掴みトパーズに触れるまで引っ張った。

 驚きと苛立ちで息を呑んだ彼らの声は、ほとんど瞬時に、恐怖が混ざった悲鳴に変わった。

 彼らは目を見開いて部屋を見回し、ついにリーフが見ているものを見て、

 台所から聞こえてくる言葉を聞いた。

「生肉だぞ! 新しい生肉だぞ!」

「美味いシチューだ! 美味いシチューだ!」

「……正直、私はあいつらもあの家も好きじゃなかったわ。フィリも同じ気持ちだった。

 でも、それは私達が森で育ったからで、世界を知らなかったからだと思ったわ」

「俺は――どうして俺は、こんなに馬鹿だったんだろう?」

「魔法でみんな、はっきり見えなくなったんだ。

 でも、トパーズが僕達の心を強くしてくれたから、魔法を打ち破ったんだ」

 バルダは首を振った。

「道中で俺達を見失った後、影の憲兵団が俺達を探さなかったのは不思議だと思った。

 今なら分かる。奴らは俺達がどこに隠れているか考えていたに違いない。

 奴らは、俺達が最後には沼に迷い込み、ジニとジッドに捕まる事を知っていた。

 奴らが立ち去る時に笑っていたのも不思議ではないな」

「どこまでも邪悪ですわね、影の奴らは」

「ジニとジッドは不器用で鈍い。

 そうじゃなかったら、犠牲者を捕まえるのに魔法や薬は必要ないからだ。チャンスはある……」

「脱出方法さえ見つけられればね」

 ジャスミンは飛び出し、滴る石に指を走らせながら独房の壁を捜し始めた。

 ヴァージニアは慎重に、辺りを探索している。

 バルダはよろめきながら立ち上がって後を追おうとしたが、

 リーフの腕を掴んで体を支え、顔色も青ざめていた。

「あれは奴らの呪いの飲み物だ。眠るほど飲んだわけではないが、弱っているようだ」

 ジャスミンが部屋の反対側から手招きしながら名前を呼んだ。

 ヴァージニア、リーフ、バルダはできる限り早くジャスミンのところへ急いだ。

 

「ドアはここじゃないかしら」

 ジャスミンはドアを見つけた。

 それは壁の一部のように見えた。

 細い亀裂だけがその輪郭を見せていた。

 必死の希望に満ちた顔で、その亀裂に指を差し込み、引っ張った。

 ドアは音もなく開いたが、四人はその向こうを見て、希望は消えた。

「なっ……!」

 ドアは出口に通じておらず、天井まで積み上がった物置に繋がっていた。

 あらゆる衣服が湿気で汚れ、カビ臭くなっている。

 錆びた鎧、兜、盾もあった。

 放置されて鈍くなっている剣や短剣が積み重なって積み重なっていた。

 宝石が溢れている箱が二つ、金貨と銀貨が山積みになっている箱が二つあった。

「な、なんて事をしたんですの……」

 四人は恐怖に震えながら見つめ、

 これらが過去にジンとジッドに捕らえられて殺された全ての旅人の持ち物だと気づいた。

 彼らを倒せるほど強力な武器も、彼らを倒せるほど賢い戦士もいなかった。

「壊れた看板が多くの人を沼に誘い込んだみたいね」

 ジャスミンが息を切らして言った。

 リーフは厳しい表情で頷いた。

「これは巧妙な罠だ。怪物達は鐘の音を聞くと、落ちた者を引っ張り出すために駆け下りてくる。

 犠牲者は感謝して、ジニとジッドが見せたいものだけを見る。

 だから怪物達は戦わず、大人しく家にやって来る……」

「薬漬けにして、殺して、食う」

 バルダは歯を食いしばって言った。

「俺達も危うくそうなりそうだった」

「もしここから抜け出す方法を見つけなければ、今もそうなるかもしれないわ」

「ああんもう、注文が分からないし質も悪い料理店ですわね!」

 その時、四人はベルがかすかに鳴る音を聞いた。

 誰かが壊れた看板を読んで、沼の罠に捕まりそうになっていた。

 一瞬、彼らは凍りついて立ち尽くした。

 すると、リーフの頭が再び動き始めた。

「暖炉に戻って、横になれ!」

 四人は自分の場所へ急いで戻り、カップから薬漬けの飲み物を空にして床に伏せていた。

 

「ダクニ イシラタア ドッジ!」

 ジニが台所から金切り声を上げるのが聞こえた。

「タレイ ニテヲ ナワ!」

「ダウソチゴ!」

 ジッドは興奮して呟いた。

「カノル テネダマ ハラ ツヤノカホ?」

 鍋の蓋が閉まる音と、走る足音が聞こえた。

 ヴァージニア、ジャスミン、バルダ同様、

 リーフもジニが様子を見に来た時は気を失ったふりをしていた。

 ジニの足がリーフを突いたのを感じても動かなかった。

 彼女が満足そうに呻いて立ち去ると、リーフは目を細めてまつげの間からジニを見た。

 ジニは向きを変え、ドアに向かって足早に歩いていた。

 リーフに見えたのは、黒い剛毛に覆われた病的な緑がかった白い肉の塊と、

 三本の短い角が生えた禿げ頭の後ろだけだった。

 ジニの顔は見えなかったが、とても嬉しかった。

「カノル テネダマ ハラ ツヤノカホ?」

 ジニは独房を出て、ドアをバタンと閉めながら大声で叫んだ。

 リーフは身震いしながら、台所にいるジニの足音と、

 またドアがバタンと閉まる音を聞いて、静寂が訪れた。

 ジニとジッドは二人とも家を出ていった。

 

「また、誰かを罠にかけたのか」

 バルダはよろめきながら立ち上がり、ドアへと急いだ。

「ララド族の男に違いないわ」

 ジャスミン台所に駆け込み、リーフ達もすぐ後に続いた。

 呪いが解けた今、四人は台所を新たな目で見た。

 そこは暗く、悪臭を放ち、汚らわしかった。

 石の床は古い汚れで固まっていた。

 古い骨が至るところに散らばっていた。

 最も暗い隅には、カビの生えた藁の小さなベッドがあった。

 その上の壁の輪に結ばれた擦り切れた縄から判断すると、

 ごく最近まで何らかのペットがそこで寝ていたようで、噛み砕いて自由になったようだ。

 四人は、これら全てをちらっと見ただけだった。

 彼らの注意は、沸騰している大きな鍋、粗く切った玉ねぎの大きな山、

 そして油まみれのテーブルの上に用意された二本の長く鋭いナイフに向いていた。

 リーフは胃がむかむかしながら見つめていた。

 そして、恐怖で鋭くなった耳が、家の奥から小さなこっそりとした音を拾い、飛び上がった。

 誰か、あるいは何かが動いている。

 ヴァージニア達もそれを聞いていた。

「急いで脱出するぞ!」

 

 四人は外に忍び込み、ようやく新鮮で綺麗な空気を吸う事ができて、安堵の息をついた。

 彼らは用心深くあたりを見回した。

 四人が見たと思っていた穏やかで小さな古民家は、

 実際には窓のない、陰気で巨大な四角い白い石造りの家だった。

 花壇は玉ねぎとアザミの花壇でしかなかった。

 荒れた草が四方に広がり沼の目印である明るい緑の帯に繋がっていた。

 遠くにジニとジッドの姿が見えた。

 二人は怒って叫びながら、何かが落ちた沼の塊に長い棒を突き刺し、

 緑色の粘着物質をかき乱してから見えなくなるまで沈んでいった。

 

「間に合いませんでしたの……?」

 悲しみの波がリーフとヴァージニアを襲った。

「どうやら、沈んでしまったようだな……」

 バーダは言った。彼の顔には痛みが表れていた。

「そうか、それなら。私達は留まる理由がないわ。

 だから、いつでも奴らが振り向いて私達を見るかもしれないのにどうしてここに立ってるの?」

 リーフはジャスミンをちらりと見た。

 ジャスミンは反抗的にリーフの視線を返し、唇を固く結び、顎を上げた。

 そしてジャスミンは向きを変え、家の周りを素早く歩き始め、見えなくなった。

 リーフはバルダとヴァージニアがジャスミンについていくのを手伝った。

 家の裏側は正面と全く同じで、ドアが一つで窓はない。

 四方八方に裸の草が広がり、同じ明るい緑の帯で終わっていた。

 その向こうには森があった。

 しかし、沼はジニとジッドの領土全体を堀のように取り囲んでいた。

「渡る道があるに違いない! 奴らがここから決して離れないなんて信じられない」

 ジャスミンは目を細めて緑の帯を眺めていた。

 突然、ジャスミンは家のほぼ反対側の、少しまだら模様の部分を指差した。

 その場所は岸辺の巨大な岩で示されていた。

「あそこよ!」

 ジャスミンは叫んで走り始めた。

 リーフはできる限り速く、バルダを肩に乗せて、ジャスミンの後を追った。

 ヴァージニアは何とか追いつこうとしていた。

 

 ようやくジャスミンに追いつくと、ジャスミンは沼の端の岩の傍に立っていた。

 リーフは今、この場所で緑色の粘着物質がまだらに見える原因が分かった。

 堀の真ん中に、赤い模様のついた淡い緑の葉の束が浮かんでいた。

 沼地の植物の葉かもしれない。

 葉の端はまっすぐで、触れ合うとパズルのようにぴったりと合う。

 葉と葉の間に隙間があるところには、沼の粘着物質の明るい緑色が不気味に見えた。

 リーフはよく見ると、葉の赤い模様が最初に見えたよりもさらに奇妙である事に気づいた。

 数字、文字、記号だった。

 リーフはジャスミンの腕を掴んだ。

「間違いない! ここには道が隠されてる! あの葉っぱの下には飛び石がある」

「でも、どれ?」

「よく確かめないと。あの葉っぱの塊は流砂の真ん中にある。

 どの葉っぱが固くてどれがそうでないかを調べるのに十分な長さのものは何もない。

 飛び込んで間違いがない事を信じるしかない」

「トパーズだ、リーフ。多分、それが君の役に立つだろう」

 家からはくぐもった怒号が聞こえた。

 三人が振り向くと、ちょうど裏口が勢いよく開いて壁にぶつかるのが見えた。

 誰かが飛び出してきて、草むらを踏みながら三人に向かって歩いてきた。

 リーフはそれが誰なのかを見て驚いて叫んだ――ララド族の男だった。

「溺れてないわ! どうやら助かったみたい!」

 ジャスミンの声に漂う安堵感から、どれほど無関心に見えても、

 実はこの小さな囚人の運命をとても気にかけていた事がはっきりと分かった。

 彼女は既に短剣を抜いて、ララド族の男を助けるために急いでいた。

 今のところ、ララド族の男はこれまで以上に助けを必要としていた。

 ジニとジッドがララド族の男を追って、怒りに叫びながらドアを突き破ってきた。

 ジニは斧を掴み、ジッドは長い棒を前に突き出し、走りながら激しく左右に振り回していた。

 振り回すたびに、流砂に浸かったままぬめりを垂らしている先端のフックは、

 逃げるララド族の男を掠め、一瞬の隙を突いて外れた。

 このままでは、いつ攻撃がララド族の男に当たるか分からない。

 

「早く助けますわよ!」

「ああ!」

 リーフは剣を抜いて走り出し、バルダは岩の傍で揺れながら立っていた。

 ヴァージニアはメイス、ジャスミンは短剣を構えて、ララド族の男を助けようとしていた。

「まずは集中攻撃しますわ!」

「そこかっ!」

「そこね!」

 リーフは剣、ジャスミンは短剣でジニの防御の弱い部分を突いた。

 ジッドはジャスミン目掛けて棒を振り下ろすが、バルダがジャスミンを庇う。

「うぐっ!」

「今、治しますわ!」

 バルダの苦痛の声が響くが、すぐにヴァージニアが駆け寄り、奇跡の力を使う。

 その後、バルダはジニに剣を振り下ろすが、防御が固く、攻撃が通じない。

 続けてジニもジャスミンに攻撃を試みるが、ジャスミンは機敏な動きでかわした。

 リーフ、ジャスミン、ヴァージニアが次々と攻撃を繰り出すが、ジニの防御力は高い。

「そこかっ!」

 しかし、その流れを断ち切ったのはバルダだった。

 バルダの力強い一撃がジニの防御を打ち破ってついに撃破した。

 ジッドがすぐにジャスミンを狙うも、再びバルダがジャスミンを庇う。

 ヴァージニアは奇跡でバルダを回復し、戦況を整える。

 

「いきますわよ、ジャスミン!」

「ええ! ヴァージニアもね!」

 ジャスミンの素早い斬撃がジッドを切り裂き、ヴァージニアの光の攻撃も命中する。

 ジッドは反撃を試みるがジャスミンはその攻撃を軽やかに避ける。

 そして、リーフが全力で渾身の一撃を放つと、ジッドの防御を打ち破る。

 四人は魔女テーガンの子供、ジニとジッドを倒すのだった。

 

「早くララド族の男を助けますわよ……!」




次回は異民族を助けに行きます。
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