ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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Switch2発売まで残り一週間なので、別所ではそれを知らせる絵を投稿しました。


第12話 再会した民

 その夜、四人は小川や小道から遠く離れた、スモモの茂みの下で眠った。

 誰一人として、テーガンに居場所を告げるかもしれないし、誰かに見られたくなかった。

 寒くて不快で、服はまだ泥で湿って硬くなっていた。

 降りかかった全ての出来事に疲れ果て、四人はすぐに眠りに落ちた。

 

 真夜中を過ぎた頃、リーフが身動きした。

 月光が茂みの葉の間からかすかに差し込み、地面に影と光の斑点を作っていた。

 辺りは静まり返っていた。

 リーフは寝返りを打ち、もう一度休もうとした。

 しかし、体はまだ疲労で痛んでいたが、頭の中では様々な考えが駆け巡り、眠れなかった。

 隣では、マナスが溜息をつき、体をぴくぴくしていた。

 きっと夢に悩んでいるのだろう。

 そうなるのも無理はなかった。

 マナスは、手話と部族特有の奇妙な絵文字を使って、

 ジニとジッドに五年間も囚われていた事を語った。

 ララディンからデルへ向かう途中、スモモの魅惑的な香りに誘われて沼に落ち、捕まったのだ。

 リーフは、それ以来、マナスが味わってきた長い苦しみを想像するのに耐えられなかった。

 バルダはララド族の文字を完全に理解していたわけではなかったが、

 それでも、その恐ろしい出来事を語るには十分だった。

 マナスは奴隷のような扱いを受けていた。

 台所の壁に縛られ、ジニとジッドが次々と無力な犠牲者を捕らえ、殺し、食べていくのを、

 なすすべもなく見るしかなかった。

 ようやく逃げ出したものの、家まであと少しというところで影の憲兵団に捕まった。

 五年間、マナスは悪しき者への恐怖に苛まれながら生きてきた。

 悪夢にうなされるのも無理はない。

 リーフがララディンへの旅にどれくらい時間がかかるか尋ねると、

 マナスは指で地面に走り書きしながら、早口で答えた。

「三日だ」

 バルダは重々しく言った。

「テーガンに先に捕まらなければ」

「魔女テーガン……」

 リーフは地面に蹲り、文字と疑問符を思い浮かべて震えた。

(テーガンは今、どこにいるんだ? 何をしてるんだ? どんな命令を出してるんだ?)

 夜の闇がリーフを包み込むようだった。

 静寂は重く、不気味だった。

 今も、テーガンの子供達が揺らめく影のように忍び寄っているのかもしれない。

 長く細い手を伸ばして足首を掴み、叫びながら引きずり出そうとしているのかもしれない。

 額に汗がにじみ出た。

 恐怖で息が詰まりそうになった。

 他の人を起こさないように、じっと動かないように必死に抵抗した。

 しかし、恐怖は募り、ついには大声で叫ばなければならないような気がした。

「リーフ、トパーズを忘れましたの? トパーズは夜の恐怖から守ってくれますのよ」

「そっか、すっかり忘れてた」

 ヴァージニアに言われたリーフは、震える指を服の下にある黄金の宝石に押し当てた。

 たちまち影が縮み、激しく鼓動する心臓の鼓動が弱まった。

 息を切らしながら仰向けになり、スモモの茂みの葉の間から空を見上げた。

 月は満月の4分の3ほどだった。

 星空を背景に、クリーの誇らしげな姿が、彼らの頭上の枯れ木の枝にとまっていた。

 クリーは頭を上げ、黄色い目が月光に輝いていて、眠っておらず、油断なく警戒していた。

 奇妙な安堵感に、リーフとヴァージニアは再び横向きになった。

(ララディンまであと三日。テーガンが捕まえなきゃいいんですけどね……)

 リーフは目を閉じ、トパーズを握りしめたまま、ゆっくりと心を落ち着かせて眠りに落ちた。

 

 朝、ヴァージニア達は再び出発した。

 最初は人目につかない細い道を進んでいたが、木々や茂みが減り、

 地面が乾くにつれて、徐々に開けた道へと踏み出す事になった。

 誰にも会う事はなかった。

 時折、かつて穀物を貯蔵し、家畜を飼育していた家や大きな建物を通り過ぎた。

 しかし、どれもがボロボロになっていて、中には影の大王の印もあった。

 夕方、辺りが薄暗くなり始めると、四人は空き家を選び、そこで夜を明かすキャンプを張った。

 井戸で水袋に水を満たし、腐っていない食料があれば自由に食べた。

 ロープ、毛布、衣類、小さな掘削道具、湯を沸かす鍋、蝋燭、ランタンなど、

 他の物資も持ち出した。

 リーフは他人の持ち物を持ち出す事に不安を感じていた。

 しかし、家の中に広がる恐怖、破壊、そして絶望のあらゆる兆候に心を痛めたマナスは、

 首を振り、窓の横の壁に刻まれた小さな傷を指差した。

 それは、マナスが空き地で初めて四人を見た時、土埃に刻んだのと同じ傷だった。

 今やマナスは四人を十分に信頼し、その印の意味を告げる事ができた。

 それはララド族の鳥と自由の両方を表す印だった。

 しかし、それはララディンを遥かに超えて広まり、デルトラ全土で特別な意味を帯びていた。

 マナスは慎重に、その意味を説明した。

「これって何ですの?」

 ヴァージニアが見たこの印は、

 影の大王に立ち向かうと誓った者達――レジスタンスの間で使われる秘密の合図となっていた。

 それによって彼らは互いを認識し、敵と味方を区別していた。

 この廃屋の主人達は、死ぬか逃げ出す前に将来同じ旅人が見つけられるように印を残していた。

 それは、影の大王に立ち向かう心と未来への希望を示す唯一の手段だった。

 リーフは、彼らが大義のためなら何でも喜んで差し出そうとしていた事を理解した。

 

「本当にマナスが見つかって運が良かったよ。運命が僕達を導いているのかもしれないね」

「……それにしてもここは、本当にイイ場所ですわね。わたくしがいた元の世界とは大違い」

 

 翌朝、五人は旅を続けた。

 何を探せばいいか分かっていた五人は、至るところに自由の印を見つけた。

 崩れかけた壁や柵にチョークで書いてあり、地面に小石で印が付いて、木の幹に刻んである。

 それを見るたびに、リーフの心に希望が湧き上がった。

 デルの街がどうなろうと、

 田舎にはリーフ達と同じように影の大王に立ち向かおうとする人々がまだいるという証だった。

 しかし、マナス自身はますます深刻になり、不安になっていった。

 荒れ果てた田舎、廃墟となった家々を見るたびに、自分の村への不安は増していった。

 マナスが初めて故郷を離れたのは、影の大王が奴隷をもっと欲しがり、

 ララド族に目を付けていると、民が聞いた時だったようだ。

 影の大王は、ララド族が並外れた力持ちの勤勉な働き者で、建築の達人だと聞いていた。

 マナスは、ララディンに必ず存在するとララド族が考えていた「レジスタンス」に

 助けを求める事になっていた。

 彼らは、街のレジスタンスがとうの昔に鎮圧され、

 助けを求める望みが叶わなかった事を知らなかった。

 マナスは五年以上も街を離れていた――その間にテーガンは街をさらに荒らしていた。

 ララディンで何を見つけるか、マナスには見当もつかなかった。

 しかし、マナスは疲れ果てながらも、粘り強く進み続けた。

 三日目が終わる頃には、四人にはマナスに夜を明かすよう説得する事しかできなかった。

 

 リーフは翌朝の出来事を長く忘れる事はなかった。

 夜明けと共に五人は起き上がり、避難していた小屋を出た。

 マナスはほとんど駆け足で、彼らを先導して広い野原を横切り、

 その先の低木の茂みへと飛び込んだ。

 そこには小さく深い池があり、なだらかな丘から湧き出る小川が流れ込んでいた。

 マナスは小川を遡り、時には水しぶきを上げ、時には土手を小走りで進んだ。

 四人は苦労しながらもついていき、マナスが先を行く時には、

 揺れる赤い髪を視界に捉えないように努めた。

 マナスは一言も発しなかった。

 皆、マナスが長い間見過ごしていた場所に近づくにつれ、マナスの緊張を感じ取っていた。

 しかし、ついに岩肌から繊細なベールのように流れ落ちる滝に辿り着くと、

 マナスは立ち止まった。

「あら?」

 マナスは振り返り、小さな顔に全く表情を浮かべずに四人を待った。

 しかし、四人がマナスのところに辿り着いても、マナスは動かなかった。

「着いたのか?」

 マナスは最後の一歩を踏み出すのが怖く、何を見つけるのか不安のようだった。

 沈黙が長く続くと、ついにジャスミンが口を開いた。

「知っておくに越した事はないわ」

 マナスはしばらくジャスミンを見つめた。

 それから突然向きを変え、滝に飛び込んだ。

 四人は一人ずつマナスの後を追った。

 氷のように冷たい水にびしょ濡れになり、震えていた。

 その向こうは暗闇だった。

 最初は洞窟のような暗闇、そしてトンネルのようなさらに深い暗闇。

 そしてついに遠くに柔らかな光が見え、四人が近づくにつれて、

 その光はますます明るくなっていった。

 そして四人は丘の反対側の開口部を登り、陽光に煌めいていた。

 開口部から小石の道が伸びており、

 小さな丸い家々、工房、ホールが並ぶ美しい村へと続いていた。

 どれも曲線を描く焼きレンガでシンプルながらも巧みに作ってあった。

 建物は大きな平らな石で舗装された広場を取り囲んでいた。

 広場の中央には噴水があり、澄んだ水が陽光に煌めいていた。

 しかし、家の中には明かりがなかった。

 窓には蜘蛛が厚い巣を張っていた。

 ドアは開いたままで、そよ風に揺れながら軋み、音を立てていた。

 他には、全く何も動かなかった。

 四人は小石の道を村へと下り、生命の兆候を探し始めた。

 ヴァージニア、リーフ、ジャスミンは注意深く、ゆっくりと村を見つめたが、

 刻一刻と胸が重くなっていった。

 マナスは一軒一軒必死に家へと駆け込み、バルダは後ろを険しい顔でついていった。

 どの家も廃墟と化していた。

 中から盗まれていないものは壊れていた。

 ついに広場の噴水で二人が出会った時、マナスの顔には悲しみが浮かんでいた。

「マナスは、自分の民が影の王国に連れて行かれたか、あるいは死んだと思っている」

「多分、ここから避難しただけじゃないかな、マナス」

 リーフの言葉にマナスは激しく首を振った。

「ララド族は決して自らララディンを去るつもりはなかった。ここは昔から彼らの故郷だった」

 バルダは通りや広場に点在するゴミの山と火の灰を指差した。

「影の憲兵団の残骸だ」

 バルダは嫌悪感に唇を歪めて言った。

 自分を追いかけたのもあって、ヴァージニアは不快感を抱いていた。

「奴らはしばらく前からこの村を休憩場所として使っていたに違いない。

 それに、窓ガラスに蜘蛛の巣がびっしり張ってある。

 ララディンはもう一年以上も人が住んでいないと言ってもいいだろう」

「酷いですわね……」

 マナスは噴水の縁に崩れ落ちた。

 敷石と噴水の縁の間に挟まった何かに足が当たった。

 マナスは屈んでそれを拾い上げた。

 それは木彫りの長い笛だった。

 マナスはそれを両腕に抱え、頭を下げた。

「どうすればいいんだ?」

 リーフはマナスを見ながら囁いた。

 ジャスミンは肩を竦めた。

「一日休んで、それから進みましょう。もう嘆きの湖は遠くないわ。

 マナスが残りの道も導いてくれるわ。マナスをここに留めるものは何もないのよ」

 ジャスミンの声は平坦で冷たかったが、リーフは今回ばかりは、

 ジャスミンがマナスに何の関心も持っていないなどと騙される事はなかった。

 彼女がどれほど巧みに感情を隠しているかを、リーフは今や理解していた。

「あら?」

 突然、美しく澄んだ音が辺りを満たした。

 リーフとヴァージニアは驚いて顔を上げた。

 マナスは笛を口に当て、吹いていた。目を閉じ、体を左右に揺らしていた。

 リーフは、純粋で流れるような音色が耳と心を満たすのに、うっとりと立ち尽くしていた。

 それはリーフが今まで聴いた中で最も美しく、そして最も胸を締め付ける音楽だった。

 まるで、マナスが声に出して言えない悲しみと喪失感の全てが、

 心の底から笛を通して流れ出ているようだった。

 

「ああ……リーフったら……感動で泣いてますわ……」

 リーフの目に涙が滲んだ。

 デルでは、男らしくないと思われるのが怖くて、一度も泣いた事がなかった。

 しかし、今この場では、何の恥も感じなかった。

 ヴァージニアはそんなリーフを憐れみの目で見ていた。

 リーフは隣で動かないバルダの姿を感じた。

 近くには、ジャスミンの緑色の瞳が哀れみで曇っているのが見えた。

 フィリはジャスミンの腕の中でまっすぐに座り、マナスを不思議そうに見つめていた。

 クリーは、ジャスミンの肩に寄りかかり、まるで彫像のように動かなかった。

 全員、リーフと同じように、マナスが失った民を悼む声に心を奪われていた。

 

「ん? あれは?」

 ちょうどその時、ジャスミンの後ろ、広場の隅で、リーフは何かが動くのを見た。

 リーフは激しく瞬きした。

 最初は自分の濡れた目が錯覚していると思った。

 しかし、間違いはなかった。

 巨大な敷石の一つが傾いていたのだ。

 喉に詰まった叫び声に、リーフはむせ返るような音を立てた。

 ジャスミンが驚いてリーフを一瞥し、後ろを振り返るのが見えた。

 石は音もなく所定の位置から動いていた。

 その下には、温かい光で輝く深い空間があった。

「何かが動いてますわ!」

 リーフは赤い髪の毛と、黒いボタンのような目をじっと見つめているのをちらりと見た。

 そして、長い指と青灰色の手が素早く動き、石を完全に押しのけた。

 瞬く間に、数十人のララド族が飛び出してきて、マナスに向かって突進してきた。

 リーフとヴァージニアは驚いて口をあんぐり開け、振り返ると、

 広場の他の三隅でも全く同じ事が起こっていた。

 石が滑り開き、ララド族の人々がポップコーンのように、

 何十人も、何百人も、老若男女問わずその下の穴から飛び出してきた。

 皆が拍手し、笑い、駆け寄ってマナスに挨拶した。

 マナスは笛を落とし、喜びに顔を輝かせて立ち上がった。

 

 数時間後、水浴びを済ませ、美味しい食事でお腹を満たし、

 ワラビの柔らかいソファと毛布にくるまりながら、

 ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは、

 ララド族が僅か数年で作り上げたものに驚嘆の眼差しを向けた。

 洞窟は巨大だったが、ランタンの柔らかい光で満ちていた。

 片側には水の流れがあり、深く澄んだ池へと流れ込んでいた。

 新鮮で甘い空気が、上の家々の煙突を通り抜けて空へと続くパイプからそっと吹き込んでいた。

 地上には小屋、倉庫、集会場があった。

 彼らの頭上にあるような通りや中央広場もあった。

「この洞窟をくり抜いて、ここに隠れ里を作るなんて、相当苦労していたようですわね」

「まるで先祖がデルの城の下に掘った秘密の抜け穴みたいだ。でも、もっとずっと大きい!」

 バルダは眠そうに頷いた。

「ララド族は疲れを知らない働き者で、腕利きの建築家だと言っただろう。

 ララディンを見捨てるはずがないと言っただろう。

 でも、俺だってまさかそうとは思ってなかった!」

「それに、テーガンと影の憲兵団も疑ってないのは明らかよ」

 目を閉じて仰向けに寝そべっていたジャスミンは欠伸をした。

「影の憲兵団はまさにこの場所の上に陣取ってるのにララド族が下にいる事なんて知らないのよ」

「彼らが姿を現すまで、僕達は知らなかったんだ。笛の音を聞いたから、現れただけなんだ」

 ジャスミンは笑った。

 リーフが今まで見た中で最も穏やかな表情だった。

「よかったわ。影の大王はララド族が逃げたから、きっととても怒ってるわ。

 でも、影の憲兵団が探す時間を稼げるわね」

 リーフはマナスを見ていた。

 マナスは友人達に囲まれ、最後に会ってから経験した冒険と、

 直面した危険について語り続けていた。

 彼は洞窟の壁にチョークのようなもので落書きをしていて、書いたらすぐに消していた。

「マナスはまだ嘆きの湖へ導いてくれると思いますの?」

「導いてくれるだろう。でも、数日はかかると思う。それはいい事だ。

 そうすれば我々は休まざるを得なくなる。そして、何よりも必要なのは休む事だ」

 バルダはのんびりと体を伸ばした。

「寝る。まだ昼間だが、この下では誰にも分からないだろう?」

 リーフは頷いたが、ジャスミンは返事をしなかった。

 彼女は既に眠っていて、ヴァージニアもとっくに眠っている。

 その後、間もなくマナスは壁から背を向け、友人達と共に洞窟の中央にある広場へ向かった。

 ララド族は皆、そこへ向かっているようだった。

 リーフは彼らが何をしているのか、物憂げに考えていたが、すぐに理解した。

 柔らかな音楽が辺りを満たした。

 何百もの笛が、感謝、幸福、友、そして平和を歌い合っていた。

 ララド族は、失われたと思っていた者の帰還を祝っていた。

 マナスもその中にいて、心の喜びを笛に注ぎ込んでいた。

 リーフは静かに横たわり、音楽の甘美な波に身を委ねた。

 瞼が垂れ下がるのを感じたが、抵抗はしなかった。

 バルダの言う通りだと確信していた。

 数日ぶりに、危害や奇襲から守っている事を知り、安らかに眠る事ができた。

 機会があるうちに、できる限りの休息を取るべきだ。

 

 ヴァージニア達は、ララディンでさらに三日間を過ごした。

 その間に、四人はララド族とその生活について多くの事を学んだ。

 例えば、ララド族はいつも地下に潜っているわけではない事を知った。

 安全な時は、彼らは外で日中を過ごした。

 近くに隠された菜園の手入れをし、洞窟に空気を送るパイプや、

 村に人が近づくと警報を鳴らす警報器を点検・修理した。

 子供達に物作りや修繕を教え、ただ日光を楽しんだ。

 ララド族が決して屋外でやらなかった事の一つは、音楽を演奏する事だった。

 影の大王やそのしもべ、またその他の脅威に聞かれる可能性があったからだ。

 ララド族は地下でのみ演奏し、警報が鳴ればすぐに演奏を止めた。

 マナスが噴水の傍で笛を見つけたのは奇跡だった。

 それは何年も前に失われ、忘れ去られていた。

 ララド族がまだ秘密裏に隠れ場所を掘っていた頃だった。

 それ以来、まるでマナスを待っているかのように、その場所に横たわっていた。

 

 四日目の朝、ヴァージニア達は出発の時が来た事を悟った。

 彼らは以前よりずっと強くなり、食事も十分に摂り、十分な休息も取っていた。

 ジャスミンの傷はほぼ癒えていた。

 服は清潔で乾いており、ララド族はそれぞれに物資の入った袋を渡していた。

 ヴァージニアも、体力をかなり回復している。

 四人は重い気持ちで地上へと登った。

 もう留まる理由はなかったが、誰一人帰りたがらなかった。

 この安全で平和な時間は、これから待ち受ける試練をより一層陰鬱で恐ろしく感じさせた。

 今、ついに彼らはララド族に目的地を告げた。

 マナスは彼らに、この秘密をできるだけ長く守るようにと告げていたが、

 今、その理由が分かったのだ。

 人々は恐怖に震えた。

 ヴァージニア達を取り囲み、マナスを力一杯にしがみつき、通行を拒んだ。

 そして、バルダでさえ何を書いているのか理解できないほどの速さで、地面に落書きを始めた。

「嘆きの湖は呪われている事は知っている。そこで危険に直面する事は分かっている。

 でも、僕達は前にも危険に遭遇したんだ」

 ララド族は自分達の愚かさに絶望し、首を横に振った。

 再び地面に悪と死の印を無数に書き始めた。

 一つ一つの印は他の印よりも大きく、何度も繰り返してある。

「これはどういう意味だ? 一体、何を恐れているんだ?」

 リーフはマナスに囁いた。

 マナスは顔をしかめ、埃にはっきりとした言葉を一つ書き記した。

「ソルディーンですの……?」

 ジャスミンは眉をひそめた。

「ソルディーンって何?」

 ジャスミンが問いかけるが、マナスは説明できなかった、いや、説明しようとしなかった。

「ソルディーンが何であろうと、我々は立ち向かわねばならない」

 バルダは唸り声を上げた。

「もし追ってきたら、テーガンと対峙しなければならないように」

 テーガンの名を口にすると、ララド族は一斉に集まった。

 彼らの顔は真剣そのものだった。

 明らかに、ヴァージニア達は自分達の危険を理解していないと考えていた。

 つまり、マナスは彼らの導き手となる事を決意していたのだ。

「怖がらないで。武器はある。知恵もある。

 もしもテーガンが悪巧みをしていたら、必ず打ち倒す!」

 人々は首を横に振り、また走り書きを始めた。

 バルダはかがみ込み、書き殴った文章に眉をひそめた。

「どうやら、テーガンは倒せないようだ。

 魔女を倒す唯一の方法は血を抜く事だ。そしてテーガンは全身を魔力で覆っている。

 多くの者がそれを貫こうとしたが、皆失敗し、死んでいった」

 リーフはジャスミンを一瞥した。

 ジャスミンの目は、翼を広げて高く舞い上がるクリーに釘付けになっていた。

 リーフは唇を噛み、ララド族を見返した。

「じゃあ、テーガンから身を隠そう。隠れ、忍び寄り、絶対に見つからないようにしよう。

 でも、嘆きの湖へ行かなきゃいけない。絶対に」

 ララド族の中で最も背が高いシモーネという女族長が前に出て、地面に落書きをした。

「理由は言えない。だが、無謀ではないと信じてくれ。

 デルトラとその全ての民のために、俺達はの旅に身を捧げる誓いを立てている」

 シモーネはバルダを鋭い目で見つめ、ゆっくりと頷いた。

 それからララド族は脇に立ち、

 ヴァージニア達が村から続く曲がりくねった細い道を歩けるようにした。

 マナスは頭を高く上げて先導した。

 彼は振り返らなかったが、リーフは振り返った。

 人々はじっと立ち尽くし、密集したまま四人を見守っていた。

 彼らは胸に手を当て、ヴァージニア達が見えなくなるまで動かなかった。




次回は怪物ソルディーンと遭遇します。
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