ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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これが5月最後の投稿です。
嘆きの湖は別のゲームだったら恐怖判定をしそうですよね。
そもそもデルトラの世界自体が、そういうのがたくさんあるのですが。
こんなところにヴァージニアを飛ばした影の大王も影の大王ですよね。


第13話 ソルディーンという怪物

 午後も半ばを過ぎる頃には、道は荒れ、丘陵地帯はより険しくなっていた。

 枯れ木々は、白く色褪せた枝を青白い空へと突き出していた。

 ヴァージニア達の足元では草がパチパチと音を立て、低い茂みは埃っぽく乾燥していた。

 茂みの中では足音が響き、木の根元の暗い穴からはカサカサという音が聞こえたが、

 生き物の姿は見えなかった。

 空気は重く静まり返り、息苦しいようだった。

 五人は食料と水を求めて立ち止まったが、ほんの少しの間座っただけで、そのまま先へ進んだ。

 足音が心地よくなく、誰かに見られているような気がした。

 

 太陽が沈むにつれ、マナスはますますゆっくりと歩き始めた。

 まるで無理矢理動かされているかのように、足を引きずっていた。

 四人は一列になってマナスの後ろを重々しく歩き、

 ひび割れや穴だらけで石が散乱し、危険な地面を見つめていた。

 誰に言われなくても、旅の終わりが近づいている事を皆が悟っていた。

 

 ついに、五人は二つの険しい岩山の麓が交わり、細いV字型になっている場所に辿り着いた。

 その隙間から、赤く染まった空と、危険信号のように輝く夕日の燃えるような球体が見えた。

 マナスはよろめきながら立ち止まり、岩の一つに寄りかかった。

 彼の肌は埃のように灰色で、小さな黒い目は恐怖で虚ろだった。

「マナス、湖は……」

 リーフは長い間、口を開かなかったため、声がかすれていた。

 彼は唾を飲み込み、再び話し始めた。

「湖はこの岩の向こうにあるのか?」

 マナスは頷いた。

「それじゃ、これ以上来る必要はないな。君は俺達をここまで導いてくれた。それだけだ。

 今すぐ友のところへ帰りなさい。彼らは君の帰りを心から待っている」

 しかしマナスは唇を引き締め、首を横に振った。

 そして石を取り、その岩に何かを書いた。

 今回はリーフは、ララドの男が書いたものをバルダが読むのを待つ必要はなかった。

 リーフは以前にもこのメッセージを目にしていた。

『あなた達は二度も私の命を救ってくれました。私の命はあなた達のものです』

 リーフ、ヴァージニア、ジャスミン、そしてバルダは同時に口を開き始めたが、

 何を言ってもマナスの考えを変える事はできなかった。

 それどころか、四人の議論はマナスを強くしているようだった。

 呼吸が落ち着き、顔色が戻り、鈍い目は決意に輝き始めた。

 ついに、マナスは行動を起こす事を決意した。

 マナスは急に方向転換し、岩の隙間へと駆け寄ろうとした。

 瞬く間にマナスは視界から消えた。

 三人はマナスを追うしかなかった。

 マナスと互いの身体にできる限り近づきながら一列になって狭い通路をよろめきながら進んだ。

 四人は集中していたため、峠の端に辿り着いた時、

 目の前に広がる光景には全く予想だにしていなかった。

 すぐ下には、分厚い灰色の泥の土地が囲む濁った湖があった。

 その土には、虫食い穴らしきものが点在していた。

 湖の中央では、ぬるぬるした岩から水が滲み出し、絶え間なく滴り落ちて池に流れ込み、

 ゆっくりと油のような波紋を水面に浮かべていた。

 湖の向こうには、まるで幽霊にとりつかれたかのように、

 捻じれた不毛の粘土の峰々が聳え立っていた。

 緑豊かな植物は一つも見当たらなかった。

 水滴の音と、かすかに泥がグジュグジュと音を立てる音だけが聞こえ、湿気と腐敗臭に満ちる。

 そこは、苦味と醜悪さ、悲惨さ、そして死に満ちた場所だった。

 

「なんて酷い事を……!」

 リーフとヴァージニアの胃がむかむかした。

 そこはまさに、嘆きの湖と呼ぶに相応しい場所だった。

 魔女テーガンがドールの街――ジャスミンが「庭園のよう」と言った街――を、

 そう名付けたのだった。

 隣でバルダが静かに呪いの言葉を吐き、ジャスミンがフィリとクリーに囁くのが聞こえた。

 マナスはただ、生まれてこの方、ずっと聞いてはいたものの、

 実際に目にしていなかったその恐怖を、震えながら見つめていた。

 テーガンの嫉妬と邪悪さが露呈した。

 声高に訴えた民衆に、恐ろしい罰を与えた悪しき存在……それが、テーガンである。

 

「ベルトは温かいか?」

「もっと近づかなきゃ」

 マナスは不思議そうにリーフをちらりと見た。

 二人は低い声で話していたが、マナスは何を言っているのか聞き取れた。

「とりあえず、早く伝えなくちゃ」

「ここに隠れてる特別な石を探してるんだ。でも、見つけても誰にも言わないでくれ」

 マナスは胸に手を当てながら頷いた。

 五人はゆっくりと最後の岩を下り、湖を取り囲む泥沼に辿り着いた。

「この泥沼は危険かもしれないわ」

 ジャスミンはあの沼を思い出しながら呟いた。

「わたくしがあなたの腕を掴みましたし……」

「確かめる方法は一つしかない」

 バルダはそう言って、前に出た。

 細かい灰色の粘液に足首まで沈んだが、それだけだった。

 他の者達も用心深くバルダに加わった。

 背中の袋を落とし、湖の岸辺まで共に歩いた。

 足跡には深い穴が残った。

 リーフはしゃがみ込み、指先で水に触れた。

 すぐに、腰のベルトが温かくなった。

 心臓がドキドキと音を立てた。

「どうしましたの?」

「宝石はここにある。きっと、水面のどこかにあるはずだ」

 足首が痒くなり、リーフはうっかり手を地面につけて掻こうとした。

 指先がぬるぬるしたゼリーのようなものに触れた。

 下をちらりと見て、嫌悪感と恐怖で叫び声を上げた。

「あっ……あああ……!」

 ウネウネした生き物が苦手なヴァージニアは、恐怖のあまり固まった。

 リーフの足首を、巨大な青白い蟲が覆っていた。

 蟲は既にリーフの血を吸い、腫れ上がり、黒ずんでいた。

 リーフは飛び上がり、激しく足を蹴って蟲を振り払おうとした。

「静かにして!」

 ジャスミンが叫ぶと、前に飛び出し、リーフの足を掴んだ。

 嫌悪感で口を歪め、身悶えする蟲を一つずつ引き剥がし、払いのけた。

 腫れ上がった蟲は灰色の泥の上、そして水の中に散らばり、リーフの胃がむかむかした。

 様々な形や大きさの、這い回る飢餓どもが、ぬかるみの中から這い出て、

 落ちていく蟲を掴もうとしたのだ。

 突然、泥沼は身をよじり、這い、隠れ場所から這い出てくるぬるぬるした怪物達で活気づいた。

 怪物達はミミズを奪い合い、引き裂き、数秒のうちに旅人たちの足に巻きつき、

 貪るように上へと這い上がり、温かくむき出しの肉を貪り食おうとした。

 

 ジャスミンは最早リーフを助ける事ができなかった。

 今、リーフの耳には、ジャスミンのパニックに陥った叫び声、バルダの叫び声、

 そしてリーフ自身の叫び声が響き渡っていた。

 マナスとヴァージニアは叫ぶ事ができず、よろめき、

 とぐろを巻く怪物達に覆い尽くされそうになっていた。

 目を持たない怪物、音を立てない怪物達。

 希望はない。

 間もなく五人は圧倒され、生きたまま食べられてしまうだろう。

 

 突然、フィリが悲しそうな叫び声を上げた。

 空から襲ってきたクリーは、ジャスミンの腕に止まった怪物たちを引き裂き、

 足や翼に巻きつきながら引きずり下ろした。

 そして突然、何かの合図を受けたかのように、怪物達は凍りついた。

 数百匹の怪物は地面に落ち、泥の下に潜り始めた。

 瞬く間に、怪物達は皆、姿を消した。

 

「た、助かりましたの……?」

 不気味な静寂が訪れた。

 ジャスミンは全身を震わせながら、

 まるでまだぬるぬるしたものが体中を這っているのを感じているかのように、

 必死に脚、腕、服を掻き始めた。

 しかし、リーフとヴァージニアは呆然と立ち尽くしていた。

「何が起こったんだ?」

「ど、どうしましたの……?」

「多分、俺達の肉はまずいんだ」

 バルダは震える笑い声で言った。

 彼は振り返り、かき混ぜられた泥の中に膝をついたマナスに手を差し出した。

 その時、リーフは湖の中央から泡の列が彼らの方へと動いているのを見た。

 速い動きだった。

「バルダ、ジャスミン、ヴァージニア!」

 リーフは叫んだ。

 しかし、リーフが警告を口にした途端、五人の傍らの油っぽい水が波立ち、

 巨大で醜悪な怪物が深みから浮かび上がった。

 その皮膚からぬるぬるしたものが滴り落ちた。

 針のように鋭い歯が並ぶ、大きく口を開けたその口には、水と蠕虫と泥が渦巻いていた。

 背中と脇腹からは、鋭い棘が光り輝き、目の下の肉からは細い槍のように突き出ていた。

 その肉は、貪欲で終わりのない飢えに燃えていた。

 棘に襲いかかり、リーフの血が凍るようなシューという咆哮を上げながら、

 岸辺に体を投げ出した。

 リーフはそれが、ソルディーンだと知っていた。

 

「と、とにかく倒しますわよ!」

「ダメだ!」

 ヴァージニアが正気に戻って慌ててメイスを振り、

 ソルディーンを攻撃しようとするが、リーフが彼女の前に立つ。

「殺しちゃダメだ。あの怪物からは……何かを感じるんだ」

「でも!」

 ヴァージニアが言うと、ソルディーンはバルダとマナスを食べようと襲い掛かってきた。

 バルダとマナスは倒れ、泥の中を必死に這いずりながら逃げようとしていた。

 しかしソルディーンがすぐそこまで迫っていた。

 恐ろしい顎が一瞬にして閉じ、そして大きく開いた。

 それはまるで巨大で残酷な罠のようだった。

 

「このままでは食べられますわよ! 二人を助けますわよ!」

「あああ、もう!」

 リーフは自分が何をしているのかほとんど分からず、

 その生き物に向かって叫びながら前に突進し、剣をその巨大な棘のある首に突き刺した。

 ソルディーンが身体を振り回すと、剣はリーフの手から離れた。

 武器はぬるぬるした皮膚からぶら下がり、震えていた。

 刃はソルディーンにとって棘のようだった――刺すような刺激に過ぎなかったが――

 ソルディーンは抵抗する事に慣れていなかった。

 ソルディーンは今、空腹であると同時に、怒りに満ちて、

 口を大きく開けてリーフに飛びかかった。

 リーフは飛び退き、ほんの数分前に落とされたままの泥の上にまだ横たわっている袋の上に、

 重そうに倒れ込んだ。

てぃやぁぁぁぁぁっ!

 ヴァージニアは勢いよくメイスを振り下ろす。

 しかし、ソルディーンの強靭な鱗に阻まれてしまい、

 ソルディーンは思い切り身体を振り回してヴァージニアを転ばせた。

 バルダとジャスミンが恐怖で起きろ、逃げろと叫んでいるのが聞こえた。

 しかし、逃げるには遅すぎた。

 武器も持っていなかった。

 あの恐ろしい顎、あの針のような歯から身を守るものは何もなかった。

 

「こうなったら、やるしかない!」

 リーフは袋を二つ、紐を掴んで捻り、掴み上げた。

 渾身の力を込めて振り回し、ぽっかりと開いた口に、喉の奥まで投げつけた。

 ソルディーンは息を詰まらせ、大きな頭を左右に振りながらのけぞった。

 尻尾が激しく動き、水が泥の泡と化した。

 剣が首から飛び出し、空中で回転し、リーフの足元に突き刺さった。

「逃げるぞ!」

「ええ!」

 リーフは剣を掴み、跳ね起き、走った。

 命からがら逃げ、仲間に続くよう叫びながら、ヴァージニアもまた走った。

 逃げられる時間はあと僅かだと分かっていた。

 ソルディーンはすぐに袋を飲み込むか、吐き出すだろう。

 岩場に辿り着いて初めて、リーフとヴァージニアは振り返った。

 バルダがマナスを腕に抱き、隣によじ登ってきた。

 ジャスミン、フィリ、クリーもすぐ後ろをついてきた。

 そしてソルディーンは嘆きの湖へと滑り落ちていった。

 ソルディーンは再び、濁った深みへと滑り落ち、視界から消えていった。

 

 暗闇が訪れた。

 五人は岩の上に留まり、湖から離れようとはしなかったが、

 いつまた暗い水に襲われるかと怯えていた。

 ジャスミンの食料はなくなり、バルダの物資もなくなった。

 リーフがソルディーンに投げつけた袋は、偶然にも彼らの袋だったのだ。

 五人は惨めに身を寄せ合い、残った毛布と泥とミミズの味がする湿った食事を分け合った。

 水がズルズルと滑り、水音を立て、岩から滴り落ちる水音が彼らの神経を張り詰めさせた。

 

「せめてわたくしが、たくさんの奇跡でも使えたらいいんですけど……」

 満月が昇り、湖を幽玄な光で満たす中、彼らは話し合い、計画を立て、

 どうすべきかを決めようとした。

 もしあの濁った水の底の泥の中に宝石があるとしたら、

 一体どうやって見つけられるというのだろうか。

 ララディンに戻って適切な道具を手に入れ、湖の水を抜く事もできる。

 しかし、作業には何ヶ月もかかるだろうし、誰も生き残って達成できる思っていなかった。

 泥の怪物であるソルディーン、そしてテーガン自身がいるのだから。

 

 片方はソルディーンを湖の片側の水辺に誘い込み、

 もう片方は反対側の宝石を狙って飛び込むという方法もあった。

 しかし、心の中では皆、そんな作戦は失敗に終わると分かっていた。

 ソルディーンが水面の動きを感じ取り、向きを変えて攻撃してくるだろう。

 

 時間がゆっくりと過ぎていくにつれ、五人は次第に沈黙した。

 五人の目的は絶望的に思えた。

 この場所に漂う重苦しい悲しみが、五人の魂にまで染み込んでいた。

 トパーズが満月の時に最も輝きを増す事を思い出し、リーフはそれに手を置いた。

 心が澄み渡り、希望がリーフの中に膨らんだ。

 しかし、偉大な考えも素晴らしい知識も浮かばなかった。

 ただ一つの確固たる思いだけがあった。

 五人はどんな犠牲を払ってでも、この悲しみと戦わなければならない。

 決して勝てない、あるいは敗北は確実だという思いと戦わなければならない。

 五人には絶望から救い出す何か、希望を与えてくれる何かが必要だった。

 

 リーフはマナスの方を向いた。

 マナスは頭を下げ、両手を膝の間に組んで座っていた。

「笛を吹いてくれ、マナス。こんな時と場所とは違うんだ」

 マナスは驚いてリーフを見ると、バッグの中を手探りして木製の笛を取り出した。

 彼は少し躊躇い、それからそれを口に当てて吹き始めた。

 音楽は軽快な波のように高まり、静まり返った空気を美しさで満たした。

 笛は涼しい木陰を流れる透き通った水、緑豊かな葉の中で歌う鳥達、

 遊ぶ子供達と笑い合う友人達、太陽に向かって顔を上げる花々を物語っていた。

 リーフは、肩から重荷が下りていくような気がした。

 バルダ、ジャスミン、ヴァージニアの顔、そしてマナス自身の中にさえ、希望の光が見えた。

 今、五人は自分達が何のために戦っているのかを思い出したのだ。

 

 リーフは音楽をより深く感じようと目を閉じた。

 そのため、何かが静かに岸に向かって押し寄せ、

 湖面の泡がゆっくりと砕ける様子は見えなかった。

 しかし、突然、音楽は止まった。

 リーフは目を開け、驚いてマナスを見た。

 マナスは硬直したまま、フルートを口に当てたままだった。

 目は恐怖で大きく見開いており、潤んだ目はまっすぐ前を見つめていた。

 リーフはゆっくりと振り返り、何を見ているのか確かめた。

 ソルディーンだった。

 背中から泥水が流れ出し、まだら模様の皮膚の穴やこぶから粘液が滴り落ちた。

 ソルディーンは岸に滑り降り、泥水に大きな溝を作った。

 想像していたよりも遥かに大きかった。

 今、ソルディーンが突進すれば、届くだろう。

 恐ろしい顎で、一撃で粉砕できるだろう。

 それでもソルディーンは攻撃しなかった。

 ソルディーンは五人をじっと見つめ、待ち構えていた。

「下がれ。ゆっくりと……」

「動くな!」

 うなるような空虚な命令が聞こえ、五人はその場に凍りついた。

 驚き、恐怖、そして混乱に襲われ、五人は見つめた。

 自分が怪物だとは信じられなかった。

 しかし、ソルディーンは既に燃えるような目を震えるマナスに向け、再び口を開いた。

「演奏しろ!」

 マナスは無理やり唇と指を動かした。

 ついに音楽が再び始まった。

 最初は躊躇いがちで弱々しかったが、次第に力強さを増していった。

 ソルディーンは目を閉じ、完全に動かず、半分水の中に、半分水の中にいるような姿勢だった。

 醜悪な彫像のように、ソルディーンは五人と向き合っていた。

 泥と粘液が混ざり合った塊が、ソルディーンの皮膚でゆっくりと乾いて筋を描いていた。

 リーフは脚に軽い感触を感じた。

 マナスは足で彼を軽く突いて、目で合図を送っていた。

「逃げるチャンスだ」

 マナスの目は告げていた。

 岩を登り、ソルディーンが気を取られている間に峠を抜けて戻れ、と。

 リーフとヴァージニアは躊躇ったが、ジャスミンは苛立たしげに首を横に振った。

「行って!」

 ジャスミンの眉間のしわがリーフに告げた。

「あなたは生きて、ベルトを守って!」

 しかし、遅すぎた。

 ソルディーンの目が再び開き、今度はリーフに釘付けになっていた。

「どうしてこんな禁じられた場所に来たんだ?」

「嘘をつくな。嘘をついたらすぐにバレる。そしてお前を殺す」

 笛の音色は、まるでマナスが突然息切れしたかのように、震え、止まった。

「演奏しろ!」

 ソルディーンはリーフから視線を逸らさずに叫んだ。

 マナスは震えながら、従った。

 リーフは決意を固め、顎を上げた。

「特別な宝石を探しに来たんだ」

 柔らかく揺らめくフルートの音に負けじと、リーフははっきりと言った。

「16年以上も前に、空からこの湖に落ちてきたんだ」

「時間については何も知らない。だが……宝石の事は知っている。

 いつか誰かがそれを探すだろうと分かっていた」

 リーフは喉が詰まりそうになりながらも、無理矢理続けた。

「どこにあるか知っているか?」

「私のものだ」

 ソルディーンは唸り声を上げた。

「これは私の宝物だ。この辛く孤独な場所で、この苦悩の中で私を慰めてくれる唯一のものだ。

 何も見返りを求めずに、お前にそれを渡すとでも思っているのか?」

「だったら、それを早く言いなさい!」

「俺達の力で賄えるなら、払う。ここから出発して、何でも探し出す――」

 ソルディーンは囁き、微笑んでいるように見えた。

「探す必要はない。石を与える代わりに――仲間をよこせ」

 ソルディーンは大きな頭をマナスの方に向けた。

「はぁっ? どうしてマナスを食べようとしますの?」

「あの小さな男を私によこせ。あの男の顔と、あの男が奏でる音楽が好きなんだ。

 私と一緒に湖に入って、嘆きの岩の上に座れ。

 終わりのない日々も、孤独な夜も、ずっと私のために演奏してくれるだろう。

 生きている限り、私の痛みを和らげてくれるだろう」

 リーフはジャスミンが鋭く息を吸うのを聞き、辺りを見回した。

 マナスが立ち上がり、前に出ようとしていた。

「ダメだ、マナス!」

 バルダは叫び、マナスの腕を掴んだ。

 マナスは顔色は青ざめていたが、頭は高く上げていた。

 彼はバルダの腕を振りほどこうとしていた。

「彼は私に会いたがっている。行かせてやれ」

「許さない!」

 ジャスミンは叫び、マナスのもう片方の腕を掴んだ。

「マナスを生贄にしようだなんて、許さないわ!」

「そいつを私によこせ。さもないと殺す」

 ソルディーンは唸り、背中の棘が逆立った。

「お前をバラバラに引き裂き、泥の怪物が肉を食い尽くして骨だけになるまで傷つけてやる」

 リーフの体内に怒りの波が燃え上がり、炎のように燃え上がった。

 彼は飛び上がり、マナスの前に飛び出し、正面からマナスを守った。

 ヴァージニア、バルダ、ジャスミンが両脇を守った。

「ならば、やれ!」

 リーフは叫び、剣を抜いた。

「だが、もしそうすれば仲間も殺してしまう事になる。

 お前は大きすぎて、他の者なしでは我々の一人を倒す事はできない!」

「やってみなさい!」

 ソルディーンは咆哮し、前に突進した。

 リーフは攻撃に備えたが、次の瞬間、獣は蛇のように身をよじり、

 目の下の剣のような棘が三本、リーフの脇の下を通り抜け、服を裂き、マントを突き破った。

 ソルディーンの頭を軽く投げ飛ばすと、リーフは転倒する。

 2秒間、リーフは宙ぶらりんになり、マントの締め付ける紐が喉に食い込み、息を切らした。

 耳鳴りがし、目の前に赤い靄が広がった。

 リーフはすぐに意識を失うだろうと分かっていた。

 マントは二重に結ばれており、解く事はできなかった。

 リーフは最後の力を振り絞り、体をひねり、身を起こし、棘の1本を両手で掴んだ。

 たちまち、首を締めていた締め帯が緩んだ。

 息を切らしながら、リーフは背骨の上に座るまで体を起こした。

 そして、背骨に沿って進み、獣の目のすぐ下まで来た。

 服は引き裂かれ、ソルディーンの滑らかで畝のある皮が裸の肌に当たる感触に身震いした。

 それでもリーフはしがみつき、剣をしっかりと握りしめたまま体をしっかりと抱き寄せていた。

「ソルディーン、僕をここに引きずり込め。泥とぬめりの中に引きずり込んで溺れさせてくれ。

 だが、僕がいない間に仲間は逃げ出す。そして、死ぬ前にお前の目に剣を突き刺してやる。

 この湿った場所で、半分目が見えなくても人生を楽しむのか?

 それとも、お前の視力はお前にとって何の意味も持たないのか?」

 怪物はじっと動かなかった。

「ソルディーン、仲間を助けてくれ。マナスは長く苦しい目に遭って、今、やっと自由になった。

 僕達のためにここに来たんだ。絶対にマナスをさらわないと言え。どんな犠牲を払おうとも!」

「お前は……奴のためなら死ぬだろう」

 ソルディーンはついに唸り声を上げた。

「奴は……お前のためなら死ぬだろう。そしてお前達全員が大義のためなら全てを捨てるだろう。

 私は覚えている……覚えているような気がする……私も……ずっと昔。とてもずっと昔……」

 ソルディーンはよろめき始め、うめき声を上げ、頭を振った。

「何かが……私に……起こっている。私の心は……燃えるように……澄み渡る。

 見える……別の時代、別の場所の光景。お前は私に何をしたんだ? どんな魔法を……?」

 その時になって初めて、リーフはデルトラのベルトと、そこにあるトパーズを、

 その獣の皮膚に押し付けている事に気づいた。

「これは魔法じゃない。君が見ている真実だ。君が見ているものは全て、現実だ」

 ソルディーンの目は、月光で輝いていた。

 最早、貪欲な獣の目ではなく、耐え難い苦しみに満ちた生き物の目だった。

 リーフは突然、あの巨人の黄金の目を思い出し、理解した。

「ソルディーン、助けてくれ。マナスを解放し、宝石を渡してくれ。

 かつての君の姿のために。失ったもののために」

 苦痛に満ちた目は暗くなり、そして閃光を放ったように見えた。

 リーフは息を呑んだ。

 混乱と恐怖に駆られたヴァージニア、バルダ、ジャスミン、

 そしてマナスは岩の近くで動く勇気もなかった。

 

「……ああ」

 ソルディーンが湖に滑り込み、岸から離れていくと、リーフは四人の視線を感じた。

 自分の命が一糸乱れぬ事を悟った。

 ソルディーンはいつ気が変わっても、我慢できなくなり、怒り狂い、

 油まみれの水に投げ込み、怒りに任せて引き裂くかもしれない。

 その時、リーフは恐怖と疑念を忘れさせる何かを感じた。

 デルトラのベルトがリーフの肌で温かくなってきた。

 もう一つの宝石が、すぐ傍にある事を感じた。

 ソルディーンは、嘆きの岩にもう少しで辿り着くところだった。

 水がその滑らかな表面に深い亀裂と穴を刻んでいた。

 柔らかな月光の下、それはまるで、悲しみに顔を伏せ、

 両手の間から涙をこぼす女性のように見えた。

 リーフは片方の手で握った、そこにあってはならないものを見て、心臓がドキドキと高鳴った。

 それは巨大な、濃いピンク色の宝石だった。

 滴る水の流れに、岸辺からは完全に隠れていた。

 こんなに近くても、とても見えにくかった。

「持って行け」

 ソルディーンは小声で言った。

 もしかしたら、ソルディーンは既に約束を後悔していたのかもしれない。

 リーフが手を伸ばして宝石を隠し場所から引っ張り出すのを、

 ソルディーンは見かねたように顔を背けた。

 

「……これは?」

 リーフは岩から手を離し、それを開いて、見つけた宝石を見つめた。

 すると、ゆっくりと、彼の興奮は混乱へと変わった。

 これが彼らが探していた宝石の一つである事に疑いの余地はなかった。

 腰に巻いたベルトはあまりにも温かく、湿った服が湯気を立てていたからだ。

 しかし、デルトラのベルトの宝石にピンク色のものがあったとは思い出せなかった。

 しかし、この石は確かにピンク色で、見ているうちに色が薄れていくようだった。

 それとも、単に光が変わっただけだろうか。

 薄い雲が月を覆い、煙のベールを通して月が輝いていた。

 星さえも暗くなっていた。

「どうしたんだ?」

「何でもない! とにかく、戻るぞ」

 リーフは体を捻り、岩の上に集まっているヴァージニア、バルダ、ジャスミン、

 マナスに合図を送った。

 四人が腕を上げ、勝利の叫び声を上げるのが見えた。




この宝石は確かにデルトラのベルトの宝石ですよね。
次回は嘆きの湖のボス、魔女テーガンと対決します。
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