ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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嘆きの湖のボス、魔女テーガンと対決します。
今日が楽しみすぎて、また早起きしました。


第14話 魔女テーガン

 ソルディーンが岸へ泳ぎ戻ろうと振り返る中、リーフは宝石の色を思い出す。

 エメラルドは緑、アメジストは紫、ラピスラズリは銀の斑点が入った青、

 オパールは虹の七色、ダイヤモンドは氷のように透明、ルビーは赤色……。

 

「おかしいな……なんでルビーが赤くないんだ?」

 いくつかの言葉がリーフの心に飛び込んできた。

 まるで『デルトラのベルト』のページが目の前に開かれているかのように、

 はっきりと目に浮かんだ。

 

 幸福の象徴、血のように赤い大いなるルビーは、

 悪の存在、あるいは不幸の脅威に晒されると、その色は薄れていく……。

 

 ルビーは赤い、リーフは思った。

 しかし、ルビーは悪がいる場所では青白くなる。

 そして、赤が青白くなる時、それはピンク色にしか見えなかった。

 リーフの手にある宝石はルビーだった。

 その豊かな色は湖の悪によって失われていた。

 しかし、この数瞬の間に、さらに色褪せてしまったに違いない。

 今、それは彼の掌ほどしか濃くなかった。

 恐ろしい恐怖がリーフを襲った。

「ソルディーン! 邪悪が近くにいる!」

 リーフが警告する。

 しかし、その瞬間、空がギザギザの光の筋で裂けたように見えた。

 恐ろしい轟音と共に、悪臭を放つ黄色い煙が亀裂から噴き出し、湖を泥沼と化し、

 上空を濃く窒息するような煙で満たした。

 そして煙の真ん中、水面上に浮かぶのは、そびえ立つ人影だった。

 緑色に輝くその姿は、まるで生きているかのように、

 乱れた銀色の髪をパチパチと音を立てて美しく嘲笑う顔の周りを漂わせていた。

 

「テーガン!」

 まるで湖全体がその名に呻き声を上げているかのようだった。

 まるであらゆる生き物、岩さえもが縮み上がり、震えているようだった。

 魔女は嘲笑し、左手の小指をソルディーンに突きつけた。

 すると、黄色い光の槍がソルディーンの目の間を直撃した。

 ソルディーンは悲鳴を上げ、苦痛に身をよじり、転げ回った。

 リーフは激しく横に投げ出され、大きなルビーはリーフの手から空高く舞い上がった。

 リーフは恐怖に叫び、湖の渦巻く水へと飛び込みながらも、無駄に宝石を掴もうとした。

 宝石は大きな半円を描いて落下し始めた。

 息を切らし、泥の泡の中でもがきながら、リーフは宝石が涙を流す岩の深い割れ目に落ち、

 視界から消えていくのを恐怖に震えながら見守った。

「お前に宝石は渡さないよ!」

 怒りに震える声でテーガンは叫んだ。

「あたしの地に踏み込んだお前! あたしの奴隷一匹を解放したお前!

 あたしの子供二人を殺し、あたしを嘲笑ったお前! そして、異世界から来たお前!」

「またわたくしを異世界人と言いましたわね……!」

 あの巨人は、ヴァージニアを異世界人だと見抜いた。

 テーガンがヴァージニアの素性を知ったのも、当然であるだろう。

「……そうさ。あたしはお前らを追いかけてきた。お前らの匂いを嗅ぎつけた。

 さあ、見るがいい!」

 テーガンは再び手を挙げ、リーフは湖の端に流されていくのを感じた。

 悪臭を放つ水が目、鼻、口へと流れ込んだ。

 リーフと同じように命を懸けて戦っていた名もなき者達が、

 リーフの顔と体に打ち付けられ、押し潰された。

 半ば溺れ、リーフは岸辺に打ち上げられた。

 リーフは咳き込み、窒息しながら、滲み出る泥と泡の中を這っていった。

 ヴァージニア、バルダ、ジャスミン、マナスがこちらに向かって走ってくる事に、

 半ば気づいていなかった。

 四人はリーフを引き上げ、岩に連れて行った。

 しかし、テーガンは既にそこにいて、五人の行く手を阻んでいた。

 銀色の髪を煙になびかせ、緑色に輝く彼女の体。

「お前はあたしから逃げる事はできない! 決して逃げられないよ!」

 バルダはテーガンに飛びかかり、剣をテーガンの心臓に突きつけた。

「お前が血を一滴流せば、お前は滅びる!」

 バルダは叫んだ。

 しかし、刃が触れる前に横に逸れ、バルダが泥の中に投げ飛ばされると、

 テーガンは甲高い笑い声を上げた。

 ジャスミンがバルダを助けようと飛びかかった瞬間、クリーは悲鳴を上げた。

 しかし、ジャスミンはさらに勢いよく投げ飛ばされ、

 リーフとマナスをも巻き込んで転がり落ちた。

 二人は泥の中で無力に転がり、立ち上がろうともがいた。

 

「えぇいっ!」

「ぐっ……!」

 ヴァージニアはテーガン目掛けてメイスを振り下ろし、彼女の腕に傷つける。

 美しい顔が仮面のように変わり、その下に潜む邪悪な恐怖を垣間見たリーフは、

 胃がむかむかした。

「……お前はあたしの足元で、泥の中を這いずり回っているよ」

 クリーは再び悲鳴を上げ、テーガンに向かって飛びかかり、翼で叩こうとした。

 テーガンは初めてクリーに気づいたかのようにクリーの方を向き、貪欲な目を輝かせた。

「クリー! テーガンから離れて!」

 テーガンは笑い、五人の方を振り返った。

「あの黒い鳥は、あたしが楽しむために取っておくよ」

「あなた――マナスの苦しみを何も知りませんの?」

 テーガンは歯をむき出しにし、憎悪と勝利に満ちた目で五人を掻きむしった。

「お前達はあたしのコレクションになるんだ。

 いよいよ、これまで大切にしてきたものを全て忘れ去るよ。

 自らの醜さに絶望し、寒さと暗闇の中で蛆虫を餌にしながら、

 お前はソルディーンと共に永遠に泥沼と粘液の中を這いずり回るのさ!」

 テーガンは左手を頭上に高く掲げ、拳を固く握りしめた。

 それはガラスのように硬く、緑色に輝いていた。

 クリーがテーガンの頭の周りを無益に、荒々しく飛び降りると、黄色い煙が渦巻いた。

 ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミン、そしてマナスはよろめきながら逃げようとした。

 五人の恐怖に笑いながら、テーガンは小指を掲げ、攻撃の構えを取った。

 骨のように白い指先が、薄暗い中で輝いていた。

 

 突然、黒い矢のように、クリーは煙の中から飛び出した。

 鋭い嘴が、鋭い音と共に、死にそうなほど青白い指先を何度も突き刺した。

 テーガンは怒りと衝撃と苦痛に叫び声を上げ、鳥を振り払い、投げ飛ばした。

 しかし、指先の傷口からは既に赤黒い血が溢れ出し、ゆっくりと地面に滴り落ちていた。

 信じられないというように、テーガンは目を見開いた。

 体は震え、身悶えし、まだテーガンを取り囲む煙のように黄色く変色した。

 テーガンの顔は醜悪な霞となり、五人の恐怖の目の前で溶けては再び形を変えた。

 そして、甲高いヒューという音と共に、テーガンは縮み、崩れ落ち、

 太陽に放置された腐った果物のように崩れ落ち始めた。

 泥の中にうつ伏せになったリーフは、恐ろしい光景を覆い隠し、

 恐ろしい音をかき消すために、両腕で頭を覆った。

 背後の湖で、ソルディーンが勝利か恐怖か、咆哮する声が聞こえた。

 その時、低く恐ろしい轟音と共に、地面が震え、揺れ始めた。

 湖の水が増水し、岸に打ち寄せるにつれ、氷のような波がリーフの背中を打ち付けた。

 再び深みに吸い込まれるのではないかという恐怖に、

 リーフは身を投げ出し、水しぶきの中を盲目的に這い進んだ。

 かすかに、ヴァージニア、ジャスミン、バルダ、マナスがリーフを呼ぶ声が聞こえた。

 指先が岩に触れ、最後の必死の力で渦巻く泥から体を這い、しっかりとした地面に降り立った。

 リーフはそこにしがみつき、痛む喉で息が嗚咽した。

 そして突然、全てが静まった。

 

「案外呆気なかったですわね」

 ヴァージニアはテーガンが消えた方を見て呟く。

 彼女の顔は少しだけ青くなっていた。

 肌がヒリヒリするのを感じながら、リーフは頭を上げた。

 バルダとマナスが彼の傍に横たわっていた。

 青白い顔色だったが、生きている。

 ジャスミンは少し離れたところにしゃがみ込み、

 手首にクリーを、びしょ濡れでみすぼらしいフィリを腕に抱えていた。

 テーガンが立っていた場所には、岩の上に黄色い染みだけが残っていた。

 クリーはテーガンの呪文を止めようとしただけで、

 テーガンの体の中で唯一守られていない場所、邪悪な魔法を使う指先を傷つけたのだ。

 しかし、これで終わりではなかった。

 何かが起ころうとしていた。

 リーフはそれを感じていた。

 雲は消え、満月が輝く白い光で大地を満たした。

 空気さえも揺らめいているようだった。

 そして静寂、まるで大地が息を呑んだかのようだった。

 リーフはゆっくりと振り返り、後ろを振り返った。

 嵐は湖をほぼ空にしていた。

 今はただ、月明かりに輝く浅瀬の広い流れに過ぎなかった。

 無数のぬるぬるした生き物が、その縁や平らになった岸辺に山のように打ち上げられていた。

 ソルディーンはその中央、しだれ岩の傍にいた。

 彼は微動だにせず、頭を上げて、まるで初めて見るかのように月を見つめていた。

 リーフが見守る中、長く囁くような溜息が漏れた。

 するとソルディーンはあっさりと姿を消し、その場所には背が高く、

 黄褐色の髪のたてがみを持つ金色の男が立っていた。

 しだれ岩は震え、上から下まで割れた。

 二つに割れた岩は、きらきらと輝く細かい塵の雲となって崩れ落ちた。

 輝く雲の中から一人の女が現れた。

 彼女も男と同じように金色だったが、髪は夜のように黒かった。

 高く掲げた彼女の手には、巨大な赤い宝石が握ってあった。

 リーフはよろめきながら立ち上がった。

 彼は叫び、衝撃と信じられない思いと喜びで叫びたかった。

 しかし、声を出す事はできなかった。

 男と女が手を繋ぎ、水面を渡りながらリーフに向かって歩き始めるのを、

 ただ見つめる事しかできなかった。

 そして、二人が歩きながら、未だに自分達の幸せを信じられないような、

 不思議な目で周囲を見回すと、全てが変わり始めた。

 大地は乾き、足元には草や花が咲き誇った。

 五人の足跡から色と生命が広がり、見渡す限りの死地を絨毯のように覆った。

 捻じれた切り株やむき出しの岩は、あらゆる種類の木々へと変わった。

 険しい峰々からは粘土が崩れ落ち、輝く塔、美しい家々、そして噴水が姿を現した。

 清らかで甘美な鐘の音が空に響き渡った。

 湖の周囲では、生き物達が溶けては再び形を変えていた。

 黄金色の人々が大地から立ち上がり、長い眠りから覚めて、呟き、泣き、笑っていた。

 鳥達は羽をふわふわと膨らませ、喜びの歌を歌いながら飛び立っていく。

 虫達はさえずり、動物達は辺りを見回し、跳ねたり、跳ね回ったり、

 草むらに駆け込んだりしていた。

 

「魔女テーガンの呪いが解けましたのね!」

 リーフは、ヴァージニア、バルダ、ジャスミン、そしてマナスが自分の後ろに立つのを感じた。

 かつてソルディーンだった男と、彼と長い苦しみを共にした女は、もうすぐそこにいた。

 それでもリーフは自分の目が信じられなかった。

「まさか!」

「もし違うなら、みんな、同じ夢を見てる事になる」

 リーフの知らない陽気な声が言った。

 振り返ると、マナスがニヤリと笑っていた。

「マナス、話せるようになったのか!」

 驚きのあまり、リーフ自身の声はかすれ、甲高い声になった。

「もちろんだ! テーガンが死んだから、呪いが全て解けたんだ」

 マナスは陽気に言った。

「この場所で勇敢な黒い鳥に感謝するのは、

 ララディンとドールの人々だけではないはずだ、信じてくれ」

 ジャスミンの手首に誇らしげに腰掛けたクリーは、甲高い声を上げ、胸を張った。

 

「そして、あなたに感謝している」

 深く静かな声はリーフにとって初めて聞いたものだったが、どこか懐かしいものがあった。

 リーフは振り返り、かつてソルディーンだった男の、落ち着いた深い灰色の瞳と目を合わせた。

「以前は敵として会っていた。今、ついに友として会えた」

 男の灰色の瞳が温かくなった。

「私はナニオン。こちらは――妻のエセナ。

 私達はドール族の長であり、あなたに自由を与えてもらった恩義がある」

 女は微笑んだ。

 その美しさは、眩い夏の空の美しさのようだった。

 リーフは目を奪われ、瞬きをした。

 そして、エセナが自分に手を差し伸べている事に気づいた。

 掌にはルビーがバランスよく置かれていた――深紅に輝き、豊かだった。

「きっとあなたにはこれが必要なのよ」

 リーフは唾を飲み込みながら頷き、エセナの手から宝石を受け取った。

 指先が温まり、腰のベルトも熱くなった。

 リーフは素早くベルトを外そうとしたが、

 マナス、ナニオン、エセナが見守っていたため、躊躇った。

「もし秘密だとしても、私達が守る」

 マナスは甲高い声で言った。

 まるで自分の声にまだ驚き、驚いているかのように、マナスは咳払いをした。

「守るわ。百年もの間、私達は死よりも悲惨な半生を送ってきた。

 国土は荒廃し、魂は囚われていた。あなたのおかげで、私達は自由よ。

 あなた達への恩義は決して忘れない」

 バルダは険しい笑みを浮かべた。

「もしかしたらそうかもしれない。もし俺達の冒険が成功すれば、お前が必要になるだろうから」

 バルダはリーフに頷くと、リーフはベルトを外し、目の前の地面に置いた。

 マナスは息を呑み、ボタンのような目を見開いた。

 しかし、口を開いたのはナニオンだった。

「デルトラのベルトだ! でも……デルからこんなに遠く離れて、どうやって手に入れたんだ?

 七つの宝石はどこだ? 一つしかない!」

「二つだ」

 リーフはルビーをトパーズの横のメダルに嵌めた。

 輝く鋼鉄を背景に、ルビーは真紅に輝いていた。

 幸福の象徴、ルビー。

 男は貪欲にもその光景を飲み込んだ。

 しかし、エセナとナニオンは寄り添い合い、二人の黄褐色の顔は月明かりの下で青ざめていた。

「そうなってしまったのね。私達が恐れていた事。テーガンが私達を闇に落とす前に約束した事。

 影の大王が来たのよ。デルトラは永遠に失われたのよ」

そんな事はありませんわ!

 ヴァージニアは激しく叫んだ。

 ナニオンはヴァージニアの怒りに驚き、ヴァージニアを見つめた。

 それから、ゆっくりと微笑んだ。

「君の言う通りだ。勇敢な魂が生き、絶望しない限り、どんな希望も失われない」

 リーフはベルトを持ち上げて身に着けた。

 それは前よりも重く感じられた。

 ほんの少しだが、リーフの心を幸福で満たすには十分だった。

 谷から叫び声と歌声が響き渡った。

 人々はナニオンとエセナを遠くから見つけ、彼らに向かって駆け寄ってきた。

 エセナはリーフの腕に優しく手を置いた。

「しばらく私達と一緒にいて。ここで休息し、ごちそうを食べ、ゆっくり休みなさい。

 ここでこれからの旅に備えて力を回復できるわよ」

 リーフはヴァージニア、バルダ、ジャスミン、マナスを一瞥し、

 四人の表情から自分がそうするだろうと予想した。

 ドールは美しく、空気は甘美だったが……。

 

「ありがとう。でも、僕達はララディンで待ってるからね」

 五人は別れを告げ、エセナとナニオンが人々に挨拶するために振り返った後、去っていった。

 耳元で鈴の音が鳴り響く中、彼らは岩をよじ登り、隙間を押し分け、

 来た道をゆっくりと戻り始めた。

 幸せは五人の後ろにも、そして前にも広がっていた。

 ララド族の人々の喜びは、彼らには想像する事しかできなかった。

 数日の休息、リーフは思った。

 仲間達と、物語を語り、笑い、音楽を奏でる数日間。

 そして――また旅に出て、また冒険が始まる。

 

 二つの宝石が見つかった。

 そして三つ目が彼らを待っていた。




次の土曜日は、三つ目の宝石が待っています。
ですが、トラブルが待っているようで……。
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