ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

2 / 60
本日より、オリキャラのヴァージニアをメインとした異世界転移二次創作小説を書きます。
原作小説を第一部から第三部まで通しでやりますので、かなり長くなりますが、
どうぞお付き合いしてください。
とはいっても、これはプロローグなので、ヴァージニアは出てきません。


沈黙の森
第0話 デルトラのベルト


 ジャードは、城の大広間に群がる群衆の中に人知れず立っていた。

 彼は大理石の柱に寄りかかり、疲れと混乱から瞬きをしていた。

 真夜中、叫び声とベルの音でジャードはベッドから起きた。

 ジャードは着替えた後、ホールに向かって押し寄せる貴族の群衆に加わった。

 

 「王は死んだ」と人々は囁いていた。

「若き王子はすぐに戴冠するだろう」

 ジャードはそれを認める事ができなかった。

 デルトラ国王は、金色のローブを着て髭を長く編んでいたが、

 数週間、謎の熱病で寝たきりの後、亡くなった。

 二度と彼の低く響く声が城の廊下で聞こえる事はなく、

 二度と彼が宴会場で笑いながら座る事もないだろう。

 オルトン国王は妻と一緒に亡くなった。

 二人とも、謎の熱病にかかっていた。

 それは、つまり……これからはエンドンが国王になる、とジャードは思った。

 彼は首を振り、それを信じ込ませようとした。

 

 ジャードとエンドンは幼い頃からの友人だった。

 エンドンはデルトラの王子、ジャードは彼がまだ4歳の時に王に仕えて亡くなった、

 信頼の厚い召使いの息子だった。

 ジャードは若い王子が独りぼっちにならないように、エンドンの仲間として接した。

 彼らは兄弟のように一緒に成長した。

 一緒に教室で授業を受け、憲兵をからかい、キッチンの料理人にお菓子をもらうように言い、

 一緒に広大な緑の庭園で遊んだ。

 

 二人には秘密の隠れ場所があった。

 城の門の近くにある、巨大な空洞の木である。

 ジャードとエンドンは五月蠅い年老いた乳母のミンと、

 国王の主席顧問官で背が高く痩せていて気難しいプランディンから身を隠していた。

 プランディンはジャードもエンドンも嫌っていた男だ。

 ジャードとエンドンは一緒に弓の練習をし、「大空めざせ」と呼ばれるゲームをした。

 これは、最初に木の洞の一番上の枝に矢を射た人が勝つというゲームである。

 二人は秘密の暗号を作り、それを使って教師のミンやプランディンの鼻先で

 メッセージやジョーク、警告を互いに伝え合った。

 

 エンドンとジャードが成長するにつれて遊ぶ時間は減り、日々は仕事と義務でいっぱいだった。

 二人は多くの時間を、王族が従う何千もの法律や慣習を学ぶ事に費やした。

 長い髪を金色の紐で編んだり撚ったりしている間、

 エンドンは辛抱強く、ジャードはそれほど辛抱強くはなかったが座っていた。

 彼らは、赤く熱した金属を剣や盾に打ち込む事を学ぶのに何時間も費やした。

 デルトラの初代国王は鍛冶屋であり、彼の技術を受け継ぐのが王の決まり事だった。

 

 毎日午後遅くになると、彼らには貴重な自由時間が1時間あった。

 エンドンとジャードが許されなかった唯一の事は、城の庭園を囲む高い壁を登る事と、

 門を潜って向こうの街に行く事だった。

 何故なら、デルトラの王子は国王や王妃と同様に、決して市民と交わらなかったからだ。

 これはルールの重要な部分だった。

 

 ジャードは時々、それを破りたくなった。

 しかし、真面目で規律を重んじるエンドンは、

 不安げに、壁をよじ登る事など考えないようにと懇願した。

「それはダメだ。プランディンはジャード、君が僕に悪い影響を与えていると心配している。

 彼は父にそう伝えている。君がルールを破れば、城を追い出される。

 僕はそんな事は望んでいない」

 ジャードもそれを望んでいなかった。

 彼は、エンドンがいなくなると酷く寂しくなるだろうと分かっていた。

 そして、城を離れなければならないとしたら、どこへ行くのだろうか。

 城は彼が知っている唯一の家だったので、彼は好奇心を抑え、

 壁の向こうの街は、王子にとっても、彼にとっても謎のままだった。

 

 水晶のトランペットの音が、ジャードの考えをかき乱した。

 彼は他のみんなと同じように、ホールの後ろの方へ振り返った。

 エンドンは、金で縁取られた淡いブルーの制服を着た二列の王室衛兵の間に入っていった。

 しかしジャードの姿はなく、代わりに主席顧問官のプランディンがエンドンに忍び寄っていた。

 ジャードはこっそり、プランディンを嫌悪の目で見た。

 顧問はいつもより背が高く、痩せていた。

 長い紫色のローブを着て、金色の布で覆われた箱のようなものを持っていた。

 歩く時、頭を前に突き出すので、まるで巨大な猛禽類のようだった。

 

 エンドンの目は悲しみに曇り、宝石をちりばめた高い襟の堅い銀色のジャケットを着て、

 彼はとても小さく青白く見えた。

 しかし、彼は教えられたように、勇敢に頭を上げた。

 彼は生涯、この瞬間のために訓練してきた。

「私が死んだら、息子よ、お前が王になるだろう。義務を怠ってはならない」

「僕は怠りません、父上。時が来たら、正しい事をします」

 しかし、ジャードもエンドンも、その時がこんなに早く来るとは思っていなかった。

 国王は非常に強く健康だったので、永遠に生きるかのようだった。

 

 エンドンはホールの正面に着き、壇上への階段を上っていた。

 頂上に着くと、彼は振り返り、顔の海を見つめた。

「彼はとても若い」

 ジャードの近くにいた女性が息を切らして言った。

「シーッ。彼はお世継ぎなのよ」

 女性がそう言うと、不安そうにジャードの方をちらりと見た。

 ジャードは彼女の顔は分からなかったが、彼女が自分を知っている事に気付き、

 彼女の友人が愚かだったとエンドンに告げるのではないかと恐れ、すぐに目を逸らした。

 しかし今、水晶のトランペットが再び鳴り響き、群衆から低く興奮したざわめきが始まった。

 

 プランディンは玉座の横の小さなテーブルに荷物を置き、

 金の布を払い除けてガラスの箱を見せ、それを開けてキラキラと光る何かを取り出していた。

 群衆は溜息をつき、ジャードも息を呑んだ。

 ジャードは幼い頃からベルトについて聞いていたが、実際に見た事はなかった。

 そして、その美しさと神秘の全てを備えたそれがここにあった。

 数千年もの間、山脈の向こう側を支配していた邪悪な影の大王の侵略から

 デルトラを守ってきた古代の品々だ。

 プランディンの骨ばった指の間にぶら下がったベルトはレースのように繊細で、

 その長さに沿ってはめ込まれた七つの巨大な宝石は美しい装飾品のように見えた。

 しかしジャードは、ベルトが最も強い鋼で作られており、

 それぞれの宝石がデルトラを守る魔法の中で特別な役割を果たしている事を知っていた。

 

 「誠実」を司るトパーズは、沈む太陽のような黄金色。

 「真実」を司るアメジストは、デル川の岸辺に咲く菫のような紫色。

 「純潔」と「力」を司るダイヤモンドは、氷のように透明で輝いていた。

 「名誉」を司るエメラルドは、若草のような緑色。

 「神力」を司るラピスラズリは、夜空のように銀色の点が点在する群青色。

 「幸福」を司るルビーは、血のように赤かった。

 そして、「希望」を司るオパールは、虹の七色の如く輝いていた。

 

 プランディンがベルトをエンドンの腰に巻き付けるために身を屈めると、群衆は息を呑む。

 指は留め具をいじり、プランディンはかなり後ろに立っていた。

 プランディンはほとんど恐れているようだ、とジャードは不思議に思った。

 すると突然、留め具がパチリと閉まった。

 プランディンは後ろに飛び退き、パチパチという音がして、

 同時にベルトが光で爆発したように見えた。

 宝石は火のように燃え上がり、虹の輝きで城を照らした。

 人々は叫び声を上げ、目を隠して背を向けた。

 エンドンは両腕を上げて立っていたが、点滅して飛び交う光にほとんど隠れていた。

 彼は最早悲しそうな目をした少年ではなかった。

 魔法のベルトは、エンドンをデルトラの真の世継ぎと認めたのだ。

 エンドンだけが、その神秘、魔法、そして力を使う事ができるのだ。

 

 ジャードは突然考えた。

 エンドンや父親はそれを使うだろうか。

 父親はずっと昔に定められたルールに従う事以外何もしなかっただろうか。

 

 ジャードは宝石の炎がゆっくりと消えて瞬く輝きを放つのを見ていた。

 彼は若き国王がベルトを外してプランディンに渡し、

 プランディンが微笑みながらそれをガラスケースに戻すのを見ていた。

 ジャードはベルトがこれからどうなるかを知っていた。

 ルール通りなら、それは城の塔の最上階の部屋に戻る。

 部屋のドアを三つの金の錠で施錠し、ドアの外には金の制服を着た三人の憲兵が配置される。

 そして、人生は以前と同じように続く。

 プランディンと他の政府関係者が王国に影響を与える全ての実際の決定を下す。

 国王は儀式や祝宴に出席し、大広間で道化師や曲芸師を見て笑い、弓術や鍛冶の技を練習した。

 髪を編む間、そしてある日は顎髭を編む間、何時間も座っていた。

 数え切れないほどの書類に署名し、王家の印章が刻まれた指輪で印を押した。

 

 彼はルールに従った。

 数年後、国王はプランディンが選んだ若い女性と結婚する。

 貴族の娘で、彼女もまた城の壁の中で一生を過ごした。

 彼らはエンドンが死んだ時に彼の代わりとなる子供を設ける。

 そしてその子供もまた、ベルトを一度だけ着用し、再び封印される。

 

 今、人生で初めて、ジャードはこれが良い考えなのだろうかと疑問に思った。

 初めて、ベルトがどのように、そして何故作られたのか疑問に思った。

 ジャードは初めて、そのような良き力を塔の部屋で放置する事の賢明さを疑い始めた。

 その力が守るべき領域は、高い壁の外に見えず横たわっているのに。

 

 ジャードは気づかれないように大広間から抜け出し、城の図書館へと階段を駆け上がった。

 これは彼にとってまたしても初めての事だった。

 ジャードは勉強が好きではなかったが、知る必要のある事があった。

 そして、図書館はジャードがそれを見つけられそうな唯一の場所だった。

 

 何時間も探した後、ジャードはついに、役に立つかもしれない本を見つけた。

 それは色褪せた淡いブルーの布で覆われ、外側の金色の文字は擦り切れていました。

 しかし、中のタイトルはまだはっきりと残っていた。

 この本はジャードとエンドンが教室で読んだ素晴らしい手描きの本とは似ても似つかなかった。

 図書館の棚にある他の多くの重い本とも似ても似つかなかった。

 それは小さく、薄く、とても埃まみれだった。

 まるで誰かが忘れ去ってほしかったかのように、

 図書館の一番暗い隅の書類の山の中にしまっていた。

 

 ジャードはその古い本を慎重にテーブルに運び、最初から最後まで読もうとした。

 一晩中かかるかもしれないが、邪魔されるとは思っていなかった。

 誰もジャードを探しているわけではない。

 エンドンは大広間から礼拝堂に真っ直ぐ行くだろう。

 そこには、蝋燭に囲まれて横たわる父親の遺体がある。

 エンドンは規則に従って夜明けまで一人で見張りをするだろう。

 可哀想なエンドン、とジャードは思った。

 彼が母親のために同じ事をしてからまだ数日しか経っていない。

 

 今やエンドンは、ジャードと同じようにこの世に独りぼっちだ。

 しかし少なくとも、エンドンとジャードはお互いがいて、

 死ぬまで友人で、ジャードはできる限りエンドンを守ろうと思っていた。

 何から守るのか、その疑問は鋭いナイフのようにジャードの心を突き刺した。

 何故、ジャードは突然エンドンを恐れ始めたのか、デルトラの国王を脅かすのは何なのか。

 ジャードは苛立たしく首を振り、暗闇を明るくするために新しい蝋燭に火をつけた。

 しかし、魔法のベルトを閉じ込めた時のプランディンのかすかな笑顔の記憶は、

 思い出した悪夢の影のようにジャードの心に漂い続けた。

 ジャードは眉をひそめ、頭を本に下げ、最初のページを開き、読み始めた。

 

 太古の昔、デルトラは七つの部族に分かれていた。

 部族はそれぞれが地中深くから採った宝石、特別な力を持つお守りを持っていた。

 影の王国の支配者「影の大王」がデルトラに貪欲な目を向ける時が来た。

 部族は分裂し、単独では侵略者を撃退できず、侵略者は勝利を収め始めた。

 

 ある時、七部族の中からアディンという英雄が生まれた。

 アディンは剣や鎧、馬沓を作る鍛冶屋で、強さ、勇気、賢さに恵まれていた。

 

 ある夜、アディンはベルトの夢を見た。

 それは、絹のように薄く打ち延ばした七つの鋼鉄のメダルが細い鎖で繋がれたものだった。

 メダルには、部族の宝石が一つずつ取り付けられていた。

 その夢が予知夢だと気づいたアディンは、

 何ヶ月もかけてこっそりと夢の中のベルトに似たものを作った。

 その後、アディンは王国中を旅して、各部族にその部族のお守りをもらうように説得した。

 

 部族は最初は慎重だったが、自分達の土地を守りたい一心で、一つずつ同意した。

 宝石がベルトの一部になるにつれて、その部族は強くなっていった。

 部族の人々は影の大王に見つからないように、時が来るまで隠れ続けた。

 

 そしてついにベルトが完成し、アディンが腰に巻くと、ベルトは太陽のように光り輝いた。

 それから、全ての部族が彼の元に結集して大軍を結成し、

 彼らは力を合わせて影の大王と彼のしもべ達を自分達の土地から追い払った。

 

 こうして、アディンはデルトラの初代国王となり、長く賢明に国を統治した。

 アディンは人々の信頼が力の源である事と、影の大王が滅んでいない事も忘れなかった。

 影の大王は非常に狡猾で、怒りっぽく、嫉妬深く、千年は瞬きのようなものである。

 そのため、アディンは常にベルトを身に着け、決してそれを見失わなかった。

 

 ジャードは読み続けたが、読めば読むほど、ますます悩むようになった。

 ポケットには鉛筆と紙が入っていたが、メモを取る必要はなかった。

 本の言葉が脳に焼き付いているようだった。

 ジャードは予想以上に多くの事を学んでいた。

 デルトラのベルトだけでなく、ルールについても。

 

 ベルトを最初に外したのは、アディンの孫、エルステッド国王だった。

 中年になって裕福な暮らしで太り、鉄が腹部に痛々しいほどに食い込んでいる事に気づいた。

 エルステッドの主席顧問官は、

 ベルトは特別な機会にのみ着用すればよいと述べて、彼の不安を和らげた。

 その後、エルステッドの娘、アディーナ女王は父のやり方を真似て、

 治世中にベルトを着用したのは五回だけだった。

 彼女の息子、ブランドン国王は三回だけ着用した。

 そしてついに、ベルトは後継者が王位に就いた日にのみ着用するのが慣習となった。

 

 主席顧問官の勧めで、ブランドン国王はララド族の建築士に、

 デルの街の中心にある丘に大きな城を建てさせた。

 王族は古い鍛冶屋の鍛冶場から城に移り、時が経つにつれて、

 彼らに危害が及ばないその壁の中に留まるのを慣習とした。

 

 ジャードがついに本を閉じた時、彼の心は重くなった。

 蝋燭の火は消え、窓からは夜明けの最初の光が見えていた。

 ジャードはしばらく座って考えていた。

 そして、本をシャツの中に滑り込ませ、エンドンを探しに走っていった。




次回からヴァージニアが登場します。
とはいっても、デルトラの世界は危険なので……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。