この世界でもお金を稼げるのでしょうか……?
もっとも、ヴァージニアは修道女なので、金銭には無関心ですが。
「はー、これでわたくし達はオケラになりましたわね」
「今、幸運を祈ってくれてもいいのよ」
ジャスミンはリンゴの木々の間を縫うように進みながら不満を漏らした。
「さっきまで、蜂に刺されて死ぬって脅してたじゃない。なのに、お金を返してくれないのよ」
「あの人がどんな苦労をしてきたかなんて誰にも分からないだろう?
もしかしたら、余所者を疑うのも無理はないのかもしれない。
蜂を除けば、あの人はここにはまるで一人ぼっちのようだ」
「どうやら目的について話していたみたいだよ」
リーフは果樹園の端に着き、曲がりくねった並木道に続く門を潜りながら言った。
「あの人はいくつかリンゴを育てなきゃいけないみたいだ」
「あるいは、リンゴで何かを作るか」
バルダは門を閉め、古い森に立てた「女王バチ」という看板に頷いた。
「俺がデル城にいた頃、
女王バチのアップルドリンクは衛兵や曲芸師達の間で非常に重宝していた飲み物だった。
飲んだ者は皆、力を得る。どうやらここで作っているらしい。
あの頃の友が作ったものらしい。間違いなく女王バチ本人だ」
「あの人が帰らせる前に一杯か二杯くれればよかったのに」
四人は皆、疲れ果て、小道を低い声で話しながら、重々しく歩いていた。
次の目的地はうごめく砂である事は分かっていた。
しかし、どうやってそこへ辿り着くのかは謎だった。
四人の心の中には、金も食料も毛布も鞄もない、リーフの父親が描いた地図と武器、
そしてボロボロの服しかない、という考えが渦巻いていた。
そして、デルトラのベルトも。
リーフは心の中でそう思った。
しかし、ベルトは、その力の全て、そして今やその全長に沿って三つの石が煌めいていながら、
四人の腹を満たす事も、風雨から彼らを守る事もできなかった。
ヴァージニアの奇跡も、まだ何も使っていない。
「オパールは未来を垣間見せてくれるのよ。
きっと、これから先がどうなるか教えてくれるわよね?」
ジャスミンが言うが、リーフはオパールに触れようとはしなかった。
流砂の幻影がまだリーフを悩ませていた。
二度とそれを体験したくはなかった。
「助けが必要だと知るのに、未来を見る必要はない」
リーフは真っ直ぐ前を見つめながら言った。
「そ、そうですわ。今はしっかり休まなきゃいけませんわよ」
「あ、ちょっと待って! 荷車の音と足音が聞こえるわ。声も聞こえるわ。
この先にはもっと大きな道があるのよ」
案の定、数分もすると、曲がりくねった道は広く真っ直ぐな街道にぶつかった。
四人は用心深くその両側を注意深く見渡した。
右手から馬車が近づいてきて、数人の男女がその脇を歩いていた。
「どうやら他にもこっちに向かう人がいるようだ。
一見無害そうだが、それでも彼らが通り過ぎるまで待つのが賢明だろう。
ここからかなり離れるまでは、あまり詮索する余裕はない」
「そうですわね」
四人は木々の間にしゃがみ込み、馬車が近づいてくるのを見守った。
馬車は古びてガタガタで、引く馬も年老いて、のろのろと歩いていた。
しかし、人々は――馬車の脇を歩く人も、車内でガタガタと揺られている人も――
まるで世の中は万事順調であるかのように、互いに語り合い、笑い合っていた。
リーフは馬車が通り過ぎるたびに「リスメア」という名を何度も口にするのを聞いた。
リスメアが町である事は明らかで、人々はそこへ到着するのを心待ちにしているのだった。
リーフの気分は高揚した。
「このリスメアで祭りか市場を開いているに違いない」
「こんなご時世にお祭りでも? 信じられませんわ」
ヴァージニアは故郷の日本で起こったパンデミックの情報を思い出す。
ヴァチカンからあまり離れなかったが、耳では聞いていた。
日本では恐怖に駆られて祭りを自粛していたが、
海外では逆に祭りを強行して「あいつが犯人だ」と魔女裁判紛いの事を起こしていたとか……。
「だが、もしリスメアがこの道の左手にあるなら、うごめく砂へ行く道中にある。
それに、俺達には町が必要なんだ。大きければ大きいほどいい」
「どうして?」
広々とした田園地帯の方がずっと好きなジャスミンが囁いた。
「町なら人混みに紛れて、新しい物資を買うお金を稼げる。あるいは物乞いをする事もできる」
「物乞い?」
リーフは恐怖に駆られて叫んだ。
バルダはリーフをちらりと見て、口角に険しい笑みを浮かべた。
「大義のためには、プライドを捨てなければならない時もある」
リーフは詫びるように呟いた。
バルダがデルで何年も物乞いに変装していた事を、どうして忘れていたのだろうか。
荷馬車がかなり過ぎ去ると、四人は木々の間からこっそりと出て、荷馬車を追いかけ始めた。
少し行くと、リーフは地面に何かが落ちているのに気づいた。
それは張り紙だった。
不思議に思ったリーフがそれを拾い上げると「リスメア」と書いてあった。
リーフはバルダ、ジャスミン、ヴァージニアにその張り紙を見せた。
「必要なお金を稼ぐチャンスだ。ゲームに出場する。そして必ず勝つ!」
「えっ、ほ、本気ですの?」
「ああ、本気さ!」
数日後、リスメアが見えてきた時、リーフは以前ほど希望を抱いていなかった。
道は長く、疲れ果て、酷く空腹だった。
道端に実っているベリーだけが四人が見つける事ができた唯一の食料でしかも数も少なかった。
先に街道を通った旅人達が、茂みをほとんど根こそぎにしていた。
歩けば歩くほど、街道は混雑していた。
他にも多くの人々がリスメアに向かっていた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンと同じように、旅の準備を怠っている者もいた。
服はぼろぼろで、食べるものもほとんど、あるいは全くなかった。
飢えと疲労困憊に陥り、絶望のあまり道端に倒れている者もいた。
一行は休憩を挟みながら、何とか旅を続けていた。
同行者とはできるだけ口を利かなかった。
人混みに隠れている方が安全だと感じていたものの、
どこから来たのかと聞かれるのは避けるのが賢明だと考えていた。
しかし彼らは耳を澄ませ、この10年間、毎年この競技会が開催されている事をすぐに知った。
競技会の名声は高まり、広く知られるようになった。
今では、希望に満ちた出場者達がリスメアに一攫千金を夢見て、各地からやって来るのだ。
四人はまた、競技会開催中は影の憲兵団を町で滅多に見かけない事も知り、安堵した。
「民衆があれほど愛するものに、邪魔をするなんて、よくもまあ」
リーフは背の高い赤毛の女性が男に言うのを耳にした。
その男は、ブーツの紐を締めようと屈み込むと、ボロボロのシャツから筋肉が浮き出ていた。
「金貨千枚だ。いや、百枚でもいい!
それが俺達にとって、故郷の皆にとって、どれほど大きな違いになるか考えてほしい」
男は紐を結び終え、背筋を伸ばし、歯を食いしばって前方の街を見つめた。
「今年は少なくとも決勝に進出できるぞ、ジョアンナ。そう感じる」
「あんたはかつてないほど強くなったよ、オーエン」
「でも、去年はあの小悪魔ブリアンヌに負けちゃったよ……」
オーエンは大きな腕をジョアンナの肩に回した。
「ブリアンヌに負けたからといって、自分を責める必要はない。
何しろ、あいつはチャンピオンになったんだ。
リーズの人々があいつを鍛えるためにどれほどの努力をしたか、考えてみろよ」
「あいつは女王様のように振る舞っていたらしいよ。
食事を余分に与えて、訓練以外の義務はなかった。人々はあいつが救世主になると思っていた。
なのに、あいつはどうしたと思う? 金を手にするなり逃げ出したんだよ。信じられるかい?」
「当然だ。金貨千枚は大金だ、ジョアンナ。大会で優勝した後、故郷に戻る者はほとんどいない。
大抵は富を分け与えたくないから、急いで持ち去って、どこか別の場所で新しい生活を始める」
「でも、オーエン、あんたはそんな事はしないよね」
ジョアンナは激しく抗議した。
「あたしもそうしない。あたしが助けられるうちは、民を苦しめるような事はしない。
むしろ、自分からうごめく砂に行くよ」
リーフは最後の言葉に身を硬くし、
ヴァージニア、ジャスミン、バルダが聞いていないかとちらりと見た。
ジョアンナとオーエンは肩を並べ、群衆を圧倒するように闊歩していった。
「バルダさん、どういう意味ですの?」
「この辺りの人々にとって、うごめく砂は有名な悪夢だ。
デルの人々にとって沈黙の森がそうであるように」
バルダの顔は険しく、疲労の皺を深く刻んでいた。
ただでさえ危険が多いこの世界を、ヴァージニアは脱出したくてたまらなかった。
「もっと大事なのは、ジョアンナやオーエンのような連中と競争しようとして、
時間を無駄にしているのかどうかを見極める事だ。今の俺達だと……」
「やるしかなさそうですわね」
「今更そんな事を言っても無駄よ!」
ジャスミンが苛立ちながら口を挟んだ。
「競技会に出ようが出まいが、とにかく街に入らなきゃ。食べ物を手に入れなきゃ。
たとえ盗まなきゃいけないとしても。他に何ができるっていうの?」
リスメアは人で溢れかえっていた。
狭い通りには屋台が所狭しと並び、隙間なく立ち並び、
店主達は売り物を叫びながら、鋭い目で商品を見張っていた。
騒音は耳をつんざくほどだった。
音楽家、踊り手、火吹き芸人、曲芸師達が街角の至るところでパフォーマンスを披露し、
通行人が投げる小銭を受け止めるために帽子を前に並べていた。
中には、蛇や犬、踊る熊、さらにはヴァージニア達が見た事もないような奇妙な生き物まで、
動物を連れた者もいて、注目を集めようとしていた。
騒音、匂い、鮮やかな色彩、そして混沌は、既に空腹で頭がくらくらしていたリーフを、
さらに気を失い、吐き気を催させた。
よろめきながら歩くリーフに、群衆の中の顔が次々と迫ってくるようだった。
街道で見覚えのある顔もあったが、ほとんどは見慣れない顔だった。
至るところに物乞いの人々が背中を丸めて座り、
やつれた顔を上に向けて懇願するように両手を差し出していた。
中には目が見えない人や、手足のない人もいた。
ただ飢えている人もいた。
ほとんどの人は彼らに全く注意を払わず、まるでゴミの山のように踏み越えていった。
「おい、お嬢ちゃん! 黒い鳥の君! こっちへ来なさい!」
しわがれた叫び声は、すぐ近くから聞こえてきた。
四人は驚いて辺りを見回した。
脂ぎった長い髪をした太った男が、ジャスミンに急いで手招きしていた。
四人は何の用だろうと思いながら、人混みをかき分けて男の方へ歩み寄った。
近づくと、男が小さなテーブルに座っているのが見えた。
テーブルは床まで届く赤い布で覆ってあり、男の後ろの壁には松葉杖を立てかけていた。
テーブルの上には、止まり木、絵の描かれた木製の鳥の籠、
そして色鮮やかな鳥と貨幣の絵で飾られたルーレットを置いてあった。
それは明らかに賭博のようなものだった。
「金儲けしたいのかい、お嬢ちゃん?」
男は人混みの喧騒の中で叫んだ。
ジャスミンは眉を潜め、何も言わなかった。
「わたくし達は遊びに来たんじゃありませんのよ。無料なら話は別ですけど」
「そんなもので俺が生きていけるわけがないよ。ルーレット一回で銀貨一枚、それが値段だ。
だが、お前の友達に遊ばせるつもりはない。今は誰も遊べない。
俺の鳥が死んだんだ。ほらな?」
男は死んだ鳩の足を掴み、男達の鼻先で振り回した。
ジャスミンは無表情で男を睨みつけると、男は悲しそうに口を噤んだ。
「悲しいだろう? 修道女にとっては残念だけど、俺にとってはもっと悲しい。
ルーレットを回すには鳥が必要なんだ。それがゲームなんだ。鳥に勝つんだ、分かるだろ?
下宿に鳩があと2羽いるんだが、今取りに行ったら順位が下がる。半日分の稼ぎがなくなる。
そんな余裕はないだろう?」
男は小さな目を細め、ジャスミンを上から下まで見下ろした。
「お前と友達はお腹の中で美味しいものでも食べているみたいだな。じゃあ俺が手伝ってやるよ」
男は死んだ鳩を地面に投げ捨て、テーブルの下に蹴り入れて、クリーを指差した。
「お前の鳩を買い取るよ。いくらで売る?」
「クリーは売り物じゃないわ。それと、クリーは鳩じゃなくて鴉よ」
ジャスミンは首を横に振ってきっぱり言い、立ち去ろうとしたが、
太った男はジャスミンの服の袖を掴んだ。
「お嬢ちゃん、背を向けるなよ。お願いだから、可哀想なフェルディナンドにも背を向けるなよ」
クリーは頭を横に傾け、フェルディナンドを注意深く見つめた。
それからテーブルに飛び乗ると、フェルディナンドのすぐ傍まで歩み寄り、
頭を左右に動かしながら、じっと男を観察した。
しばらくして、フェルディナンドは大きな声でガーガー鳴いた。
ジャスミンはリーフ、バルダ、ヴァージニアを一瞥し、フェルディナンドに視線を戻した。
「クリーが言ってるんだけど、今日だけ手伝ってくれるならいくらくれる?」
「話しかけてくるのか?」
フェルディナンドは信じられないといった様子で嘲笑した。
「まあ、そんなの毎日見られるものじゃないよ」
フェルディナンドはポケットから小さな缶を取り出し、開けて銀貨を一枚取り出した。
「日没までルーレットを回してくれたら、これをあげると伝えてくれ。それでいいかい?」
クリーはジャスミンの腕に飛び戻り、またガーガー鳴いた。
ジャスミンはゆっくりと頷いた。
「銀貨一枚で、クリーはルーレットを30回回してくれるわ。
もっと回してほしかったら、また払いなさい」
「それは強盗だ!」
「それがクリーの頼みなのよ」
フェルディナンドの顔はくしゃくしゃになり、両手で顔を埋めた。
「ああ、なんて残酷なんだ! 生きようと必死の、哀れな者にも残酷だ。最後の希望は消えた。
俺も、鳥達も飢え死にするだろう」
肩が震え、フェルディナンドはすすり泣き始めた。
ジャスミンは肩を竦めたが、どうやら全く動じていないようだった。
リーフは、壁に立てかけたフェルディナンドの松葉杖を一瞥し、酷く落ち着かなかった。
「それは酷い話だ、ジャスミン。やめてくれないか?」
「彼は演技をしているのよ。10倍は払えるのよ」
ジャスミンは小声で言い返した。
「クリーがベルトに小銭でパンパンになった財布を持っていると言っていたわ。
テーブルを覆っている布で隠してあるの。ちょっと待って」
案の定、しばらくしてフェルナンデスは指の間から顔を覗かせ、
ジャスミンが考えを変えるつもりがないと分かるとすすり泣くふりをやめ、顔から手を離した。
「分かった。鳥にしては、厳しい交渉相手だ。止まり木に乗せてやれ」
「まずは金をくれ」
バルダが慌てて口を挟んだ。
フェルディナンドは怒ったような視線をバルダに向け、
それから大きな呻き声と溜息をつきながら、缶から取り出した銀貨をジャスミンに渡した。
満足したクリーは止まり木に飛び乗った。
「脇に寄れ。お客さんのために道を空けろ」
四人は言われた通りにしたが、何が起こっているのか見守るために近くに留まっていた。
誰もフェルディナンドを信用していなかった。
近くの屋台から漂ってくる食べ物の匂いにリーフはよだれを垂らしたが、
クリーが無事にジャスミンの腕に戻るまでは、銀貨で何も買えない事は分かっていた。
「回せ、回せ!」
フェルディナンドは雄叫びを上げた。
「鳥に勝て! ルーレットを一回回すごとに銀貨一枚! 参加者全員が賞品をゲット!」
フェルディナンドがルーレットの周りに描かれた銀貨の数字を指差し始めると、
小さな群衆がフェルディナンドのテーブルの周りに集まり始めた。
「銀貨二枚で一個だ! それとも銀貨三枚がいい? それとも四枚がいい?
そうだ、紳士淑女の皆さん、男の子も女の子も。銀貨四枚で一個だ!」
人々はポケットの中を探り、銀貨を探し始めた。
フェルディナンドのずんぐりとした手がルーレットを回り、指は次々と数字を突いた。
「でも、四枚で止まる必要はない! 今日は幸運な日だ!
銀貨五枚、六枚、あるいは十枚が当たるかもしれないぞ!」
フェルディナンドは髪をかきむしり、目をぐるりと回した。
声は金切り声に変わった。
「銀貨十枚で一個! 参加者全員に賞品を!
どうして俺はこんな事をするんだ? 俺は気が狂っているに違いない!」
何人かがお金を差し出し、前に押し寄せた。
リーフは落ち着かずに動き回った。
「銀貨をゲームに使った方がいいんじゃないか。お金が倍になるかもしれない。
いや、もっといいかもしれない!」
「あるいは、その方が可能性が高い。銀貨を失って、価値のない木の鳥だけが残るかもしれない」
「もしルーレットが銀貨じゃなくて鳥で止まったら……」
リーフは納得できなかった。
特に、クリーが初めてルーレットを回し、くちばしで鋭く叩いた時、
ルーレットは滑らかにくるくると回転した。
髪をなびかせた、熱意に満ちた表情の女性は、不安そうに見守っていたが、
ルーレットが止まり、銀貨が2枚当たった事を示すと、喜びの叫び声を上げた。
「鳥に勝った!」
フェルディナンドは叫び、金の入った缶をかき回して女性に賞品を手渡した。
「なんてこった!」
フェルディナンドはクリーの方を向き、拳を振り上げた。
「もっと頑張れ! 俺を破滅させてしまうぞ!」
群衆は笑い声を上げた。
別の人が前に出て、クリーは再びルーレットを回した。
2番目は最初よりもさらに幸運で、3枚の銀貨を獲得した。
「この鳥はもう駄目だ!」
フェルディナンドは絶望のあまり叫び声を上げた。
その後、フェルディナンドは客の金をなかなか受け取る事ができなかった。
人々はフェルディナンドのテーブルの前に群がり、自分の番を待ちわびていた。
クリーは何度もルーレットを回した。
そしてどういうわけか、最初の二人ほどの幸運を持つ者は誰もいなかった。
ルーレットは鳥の絵で止まる事が多くなり、
がっかりした人達は木製の鳥を握りしめながらこっそりと立ち去った。
マーカーが銀貨の絵を指す事は稀で、
もし指すとしても大抵は「1」か「2」と書かれた銀貨だった。
そんな事が起きるたびにフェルディナンドは大騒ぎし、勝者を祝福し、破産したと言い、
クリーを下手くそだと怒鳴りつけ、次回はもっと大きな賞金をくれると心配した。
しかし、金箱の中の銀貨の山はどんどん大きくなっていた。
数分おきにフェルディナンドは静かに硬貨を数枚取り、ベルトの財布にしまい込んだ。
それでも人々は運試しをしようと押し寄せてきた。
「財布が膨らんでいるのも無理はないわね」
ジャスミンはうんざりして呟いた。
「どうしてみんなあいつに金をあげるの? 明らかにとても貧しい人もいるのよ。
あいつの方が自分達よりずっと勝っているのがわからないの?」
「フェルディナンドはプレイヤーが勝った時だけ騒ぐんだ。負けた人は無視して、すぐに忘れる」
「ギャンブルの常套手段ですわね」
「クリーは29回も回したのよ。あと一回やったら、クリーを連れて帰るわ。
もうこれ以上続ける気はない。フェルディナンドも、ルーレットも好きじゃない。賛成?」
バルダとヴァージニアは頷き、リーフも頷いた。
いくらお金が必要だったとしても、フェルディナンドをこれ以上助けるつもりはなかった。
「おい、あれを見てくれ」
バルダは、道沿いの少し先にある建物の高いところに掲げられた旗を指差した。
「あそこに住処と食料があるかもしれない。生活費を稼ぐために働かせてくれるかもしれない。
少なくとも試してみる事はできる」
クリーは最後にもう一度ルーレットを回した。
痩せた顔で目の下に深い影を落とした男のルーレット回しは、
ルーレットが減速するのを必死に見守っていた。
鳥の絵のところで止まり、フェルディナンドが小さな木の飾りを渡すと、
クリーは口を震わせ、骨ばった肩を下げてそっと立ち去った。
ジャスミンはテーブルに歩み寄り、クリーに腕を差し出した。
「30回転が終わったわ、フェルディナンド。もう行かなくちゃ」
しかし、汗と貪欲さで光るふっくらとした顔のフェルディナンドは、
小さな目をジャスミンに向け、激しく首を振った。
「行かせちゃ駄目だ。あの鳥が必要なんだ。今までで一番いい鳥だ。
この群衆を見てみろ! 連れて行けないぞ!」
フェルディナンドは腕を伸ばし、ずんぐりとした手でクリーの足を掴もうとした。
しかしクリーは間一髪で止まり木から飛び降り、テーブルの端に着地した。
「戻ってこい!」
フェルディナンドはクリーに手を伸ばしながら囁いた。
クリーは頭を下げ、鋭い嘴でテーブルを覆っている赤い布を摘まんだ。
布を脇に引っ張ると、群衆は息を呑み、怒りの叫び声を挙げ始めた。
というのも、テーブルの下の地面にはペダルがあり、
ワイヤーがテーブルの天板から車輪まで伸びていたからだ。
「あいつは思い通りにルーレットを止めたり回したりできるんだ!
あいつは足で漕いでいる。ほら、ズルをしているじゃないか!」
群衆は怒りに駆られて前に押し寄せた。
クリーは慌ててジャスミンの腕に飛び乗った。
フェルディナンドはルーレットをかき上げ、飛び上がってテーブルをひっくり返した。
木製の鳥と銀貨の入った缶が地面に落ちる中、フェルディナンドは踵を返し、
驚くべき速さで通りを駆け抜けた。
ルーレットを脇に抱え、不正な金の残骸を引きずっていた。
客の中には、あちこちに転がる金を拾おうと立ち止まる者もいた。
大半は怒りながら、逃げるフェルディナンドを追いかけ、猛スピードで走り去った。
リーフは口をあんぐり開けて、二人を見送った。
「フェルディナンドの足には何の異常もないじゃないか!
松葉杖を置いてきぼりにして、走っているじゃないか!」
「やっぱりイカサマですわね」
「客があいつを逮捕するといいが。クリーのせいにして俺達を裏切らなかったのは幸いだった」
「フェルディナンドに前払いさせたのも幸いだったわ」
ジャスミンは道を見回し、小銭を探していた。
しかし、群衆が地面を綺麗にかき分けていて、見つけたのは木の鳥一羽だけだった。
ジャスミンはそれを拾い上げ、他の宝物と一緒にポケットにしまった。
彼女にとって、どんなに小さなものでも役に立つのだ。
ヴァージニアは異世界人なので、それっぽい会話もナレーションも入れました。
次回はリスメアの競技会に参加します。