しかし、ヴァージニアはきな臭さを感じているようで……。
群衆の頭上高くはためく旗に導かれ、四人はチャンピオンの宿屋へと向かった。
ドアを開けると、驚いた事に、四人はとても小さな狭い部屋にいた。
たくさんのフリルとリボンを飾った鮮やかな緑のドレスを着たふくよかな女性が、
隅の机の後ろから立ち上がり、腰の大きな鍵束を重々しく鳴らしながら、
慌ただしく四人の方へと歩み寄ってきた。
「こんにちは! 私はマザー・ブライトリー、皆様の主人です。
失礼ですけど、ここにお迎えする前に、
あなた方はこの競技会に出場される方かどうかお伺いしなければなりませんわ」
「出場される方でしたら、喜んで参加させていただきます。
しかし、この辺りはよそ者で、入り方が分からないのです」
「それなら、まさにうってつけの場所に来られたのですね!」
マザー・ブライトリーは満面の笑みを浮かべた。
「ここは競技会の公式宿です。
ここで競技者として登録すれば、明日の競技会が始まるまで滞在できます」
「わたくし達には銀貨が一枚しかありませんわ。
もしかしたら、生活費を稼げるかもしれないと思っていましたのよ」
女性はヴァージニアに向かって両手をパタパタとさせ、首を横に振った。
「仕事? 馬鹿げています!
ゲームでベストを尽くすためには、休んで食事を摂らなければなりません。
銀貨一枚しか持っていないなら、銀貨一枚が支払う代金です。
チャンピオンの宿では、競技者は自分が払える分だけ支払うのです」
四人がそれ以上言う前に、マザー・ブライトリーは急いで机に戻り、
四人に続いて来るように手招きした。
マザー・ブライトリーは座り、大きな本を開いたまま引き寄せ、ペンを手に取った。
「名前と町は?」
マザー・ブライトリーはバルダを一瞥しながら、きびきびと尋ねた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは、
ゲームに参加する際には本名を名乗るのは賢明ではないと決めていた。
しかし、こんなに早く偽名を考えなければならないとは思っていなかった。
マザー・ブライトリーはペンを構え、眉を上げて待っていた。
「ああ……私の名前はベリー。ブッシュタウンの出身です」
バルダはどもりながら言った。
女性は少し眉をひそめながら書いた。
「ブッシュタウンの事は聞いた事がありません」
「北の方です。私の友達、バーディーと、リリィと、そしてチェリーも、そこから来ました」
バルダは不安そうにジャスミン、リーフ、ヴァージニアをちらりと見た。
三人はバルダを睨みつけていたが、マザー・ブライトリーは頷き、
どうやら満足そうに書いていた。
その後、マザー・ブライトリーは小脇に抱えた本を飛び上がりながら言った。
「どうぞ、ついてきてください!」
物事は急速に動いていた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは、かなりぼんやりしながら、
マザー・ブライトリーの後について別の部屋に入った。
そこには大きな秤、長い物差し、短い物差し、そして大きな盾が置いてあった。
マザー・ブライトリーは腰の束から鍵を取り出し、戸棚の鍵を開けた。
「武器をください」
「申し訳ございませんが、チャンピオンの宿では武器の持ち込みは禁止されています」
(わたくしは奇跡が使えるんですけどね……)
リーフとバルダは渋々ながら剣のバックルを外し、
ジャスミンはベルトに差していた短剣、ヴァージニアはメイスを手渡した。
マザー・ブライトリーは武器を戸棚にしまい、承認するように頷いた。
「心配しないでください。ここは安全です。出発前に返します。さあ、寸法を測りましょう」
マザー・ブライトリーはヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンの体重を順番に量り、
身長を測り、その詳細を全てノートに書き留めた。
その後、四人の筋肉を触り、手足を注意深く観察すると、満足そうに頷いた。
「あなた達は食事と休息が必要ですが、
それ以外は皆、強いので、きっと上手くやっていくでしょう。
初めてあなた達を見たとき、私もそう思いました。
最後に一つ。あなた達の特別な才能。それは何でしょう?」
マザー・ブライトリーは頭を傾けて待っていた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは顔を見合わせた。
四人はマザー・ブライトリーが何を言っているのかよく分からなかった。
「ええと、わたくしは……応急処置ならできますわ」
「流石!」
マザー・ブライトリーはヴァージニアの偽名の横に「応急処置」と書いた。
「私は……登れます」
ジャスミンはようやく躊躇いがちに言った。
「高いところでバランスを取ったり、ブランコに乗ったり、ジャンプしたり……」
「素晴らしいわ、バーディー!」
マザー・ブライトリーはジャスミンの偽名の横に「身軽さ」と書き、バルダの方を向いた。
「あなたは、ベリー? 推測してみましょう。あなたの才能は力でしょう。そうでしょう?」
バルダは肩を竦めて頷いた。
マザー・ブライトリーはにっこりと笑って、また書き始めた。
それからリーフを見た。
「それで、チェリーは?」
リーフは顔が熱くなるのを感じ、自分が赤くなっているのに気づいた。
(バルダ、どうしてこんな変な名前をつけたんだ? それに、僕の才能って……)
「素早さだ。俺の友は足がとても速くて、ジャンプしたり、しゃがんだり、
身をかわしたりするのが誰にも負けないんだ」
「完璧!」
マザー・ブライトリーは「ブッシュタウンのチェリー」の名前の横に
「素早さ」と書きながら叫んだ。
「応急処置、身軽さ、力強さ、そして素早さ。あなた達四人は、きっと素晴らしいチームね。
ちょっとここで待っていなさい。私はすぐに着くわ」
マザー・ブライトリーは再び部屋から出て行った。
四人は顔を見合わせ、突然の運命の変化に当惑していた。
「リスメアに人が集まるのも無理はない」
「デルトラの人達がここにいないなんて驚きだ」
「でも少なくとも、しばらくは無料で食事と寝床がもらえますわね」
「競技に参加する気があるならな。
この競技会は、俺達が想像する以上に難しく、あるいは危険なものになるかもしれない」
「私達が経験してきた事ほど危険な短距離走や短距離跳躍の競技はないわ。
一番大変なのは、バルダが私達につけたあの変な名前に返事をする事ね」
「ああ」
「他に何か思いつく事はありませんの?」
「頭に浮かんだ事をそのまま言っただけだ。
もし躊躇っていたら、あいつは俺が嘘をついている事に気づいたよ」
その時、マザー・ブライトリーが再びカサカサと音を立てて部屋に入ってきた。
マザー・ブライトリーは赤、緑、青、黄の四色の布切れを持ってきた。
彼女は黄色いバンドをヴァージニアの手首に、赤いバンドをバルダの手首に、
緑のバンドをリーフの手首に、そして青いバンドをジャスミンの手首に巻き付けた。
バンドには偽名が書いてあり、その下に身長と体重を記してある。
「寝る時でも、リストバンドを外さないように。
リストバンドは公式競技者としての証で、特別な才能を示し、
食べ物や飲み物、そして競技会への入場権を与えてくれるのよ。
さあ、旅の終わりには、きっと食事をして休みたいと思うでしょう。銀貨をお願い」
ジャスミンは銀貨を渡し、代わりに77という数字を書いた鍵を受け取った。
「これはあなたの部屋の鍵よ。本当に幸運な数字よ。大切に保管しなさい」
三人が頷くと、ジャスミンは躊躇い、何かを決断しようとするかのように下唇を軽く噛んだ。
そして突然、三人は振り返り、緑のフリルをざわめかせながら三人に身を乗り出した。
「さて――全ての競技者に言うわけではありませんがあなた方は競技会に馴染みのない方々です。
そして、私はあなた方に好感を抱いています。
どんなに親しい人でも、決して信用してはいけません。
それから、ドアは常に鍵をかけてください――特に夜間は。事故は……起こしたくないのです」
(怪しいですわね。こいつ、わたくし達を嵌めようとしているのでは?)
ヴァージニアはマザー・ブライトリーの様子を見て、何かに気づいた。
明らかにこの大会には、罠があるのだ……と。
マザー・ブライトリーは唇に指を当て、それから向きを変えてまた急いで立ち去り、
四人に続いて来るように合図した。
不思議に思いながら、四人はマザー・ブライトリーの後を追って廊下を進み、
広いダイニングルームに着いた。
そこには、リストバンドをつけた大勢の人々が、美味しそうに食事をしたり飲んだりしていた。
食事客の多くは顔を上げてじっと見つめ、
好奇心、挑戦、疑念、あるいは威嚇といった表情で見つめていた。
ほとんどは大柄で、いかにも逞しそうに見えたが、小柄で痩せた男女も何人かいた。
リーフは顎を上げて誇らしげに辺りを見回し、緊張も恐怖もしていない事を示そうと決意した。
中央のテーブルに、街道で見かけた背の高い二人の戦士、ジョアンナとオーエンが座っていた。
その時、リーフはハッとした。
二人のすぐ近くに、しかし一人で座っているのは、リーフの知っている別の人物だった。
それは、リーフ達がネズミの街へ向かう途中、
トムの店で見かけた、浅黒い肌の傷だらけの男だった。
男の鋭い目は新参者達に釘付けだったが、彼らに気付いた素振りは見せなかった。
「好きなものをどうぞ、お召し上がりください」
マザー・ブライトリーは部屋の端にある長い椅子を指差した。
そこには弱火で温めた料理が並んである。
「食べて、それから休んで。明日のために全力を尽くして。
あなた達には大きな期待をしているわ! 私にはあなた達は決勝進出者のような風格があるわ。
それに、これまで多くの選手が決勝に進み、また決勝に進んでいくのを見てきたわ」
マザー・ブライトリーは声を落とそうともせず、
リーフは他の選手達の視線がさらに鋭くなるのを見てそわそわした。
皆、マザー・ブライトリーの言葉を聞いていたのだ。
一方、ヴァージニアは今もなお、この大会に怪しさを感じ、警戒し続けていた。
「さあ、持ち場に戻らなければ。
もう遅くなってきたけれど、新しい選手が今から来るかもしれないわ。
明日は鐘が鳴って朝食の時間よ。一時間後の二度目の鐘が、競技会への招集よ」
マザー・ブライトリーは立ち去ろうとしたところ、リーフはこう言った。
「ちょっと待ってください。どの種目に挑戦すればいいんですか?」
「ご存知でしょう? 誰と戦うかは、自分で選べないわ」
「どういう事だ?」
「戦うのは、あなたのために選ばれた者、
つまり、あなたの身長、体重、そして特別な才能に見合った者とよ。少なくとも最初はね。
もちろん、最初の試合で勝てば、最後は色んな競争相手と戦うわ。
ああいう競技はいつも最高に盛り上がるのよ。
素早さ、対、力。身軽さ、対、知識。知恵、対、重さ。大きい、対、小さい。
勝負は何時間も続く事もあるの。
二年前の決勝戦は、丸一日と一晩続いたわ――ああ、血みどろの戦いだったわね。
負けた方は、足が粉々に砕け散ってしまったの。
でも、もちろん、慰めとして金貨百枚を渡したわ。本当に素晴らしい試合だったわ!」
マザー・ブライトリーは嬉しそうに頷き、小走りで立ち去った。
ドアがマザー・ブライトリーの後ろでカチッと閉まった。
「ねえ、チェリー。この大会、やめません?」
「どうしてなんだ、リリィ?」
ヴァージニアがリーフの隣に座りながら言った。
彼女はマザー・ブライトリーの態度を見て、
明らかにこの大会は何かを隠していると感じ取ったのだ。
「大会で優勝しただけで金貨千枚とか、この世界には相応しくありませんわ」
確かにヴァージニアの言う通り、この世界は影の大王によって荒廃している。
そんな中で、大会で優勝すれば簡単に(とは限らないが)金貨千枚が手に入るのは、
明らかにおかしいとヴァージニアは思ったのだ。
それに、マザー・ブライトリーの言葉によれば二年前の決勝戦で足を失った選手もいたらしい。
いくら命懸けの戦いとはいえ、報酬は不相応だと思ったのだろう。
二人が話をしているうちに、いつの間にか、傷だらけの男はいなくなっていた。
「そうだね、リリィ。だからベリー、バーディー、ここを出た方がいいと思う」
しかし、ジャスミンは首を横に振った。
「食べるまで帰らないわ。とてもお腹が空いてるの。フィリも同じよ」
ヴァージニア、リーフ、バルダは顔を見合わせた。
食事するのは、とても魅力的だった。
「マザー・ブライトリーが銀貨を持ってるから、それで一食分は十分払えるよ」
それから、四人は改めて座る場所を見つけ、感謝の気持ちを込めて食事を始めた。
料理は実に美味しかった。
テーブルには女王バチのアップルドリンクのジョッキが並んでおり、
四人はその泡立つ甘さを次々とジョッキで飲んだ。
食事に集中していた四人は、最初は互いにほとんど口を利かなかった。
しかしリーフの首筋がぞっとした。
何十もの視線がまだ自分に向いているのがわかった。
他の競技者達は、リーフがどれほど危険な相手になるかを見極めようとしていた。
「心配する必要はない。もうすぐ行くから」
四人が食事を終える頃には、食堂はほとんど空になっていた。
ようやく空腹を満たしたリーフとヴァージニアは、眠気が強くなってきた。
バルダとジャスミンも欠伸をしていたが、皆、宿屋に留まる事はできないと分かっていた。
仕方なく四人は立ち上がり、入ってきたドアに向かった。
一歩一歩、誰かが監視している事に気づいていた。
「ここから出られるのは嬉しいけど、
マザー・ブライトリーに考えが変わったなんて言うのは気が進まない」
リーフは落ち着かない様子で呟いた。
「怒られるから? どうでもいいじゃない」
「……む?」
バルダはドアを押したが、びくともしなかった。
外から鍵がかかっているようだった。
「あっちじゃない」
背後からゆっくりと低い声が聞こえた。
「寝室と練習場はあっちの向こうだよ」
振り返ると、オーエンの大きな姿が見えた。
オーエンは部屋の奥にある別のドアを指差していた。
「寝室も練習場もいらないわ。宿を出たいの」
オーエンはしばらく呆然とジャスミンを見つめたが、首を横に振った。
「お前達は競争相手だ。出て行けない」
リーフは、オーエンはきっと鈍感なのだろうと思った。
「考えが変わったんだ、オーエン。もう競技会には出場したくない。
リスメアを出て、自分達の道を進みたいんだ」
しかし、オーエンは再び首を横に振った。
「考えを変える事はできない。お前達の名前は名簿に載っている。リストバンドも持っている。
食堂で飲食も済ませた。奴らはお前達を帰らせないだろう」
「つまり、俺達は閉じ込められたのか」
「俺達はここにいたいだけだ。自分達を囚人だとは思ってない。
だが、もちろん、自由に出入りできるわけではない」
別れの挨拶として頷き、オーエンは背を向けて四人のもとを去った。
ジャスミンは怒りに燃え、拳でドアを叩いた。
ドアは震え、枠がガタガタと音を立てたが、誰も出てこなかった。
「それじゃあ、どうしますの?」
「静かに部屋に行こう。今は疲れてるから、頭がぼんやりしてる。
眠って、目が覚めたら脱出方法を見つけるから気にするな」
部屋は静まり返り、皆が食堂の奥のドアへと大股で歩き、出て行くのを見つめていた。
階段を上った寝室への案内標識があった。
到着すると、四人は77号室を探しながら、ドアが並ぶ迷路のような廊下を歩き始めた。
敷物が足元を優しく包み、廊下は明るく静かだったが、
歩いていくうちにリーフはだんだんと居心地の悪さを感じ始めた。
突然の隙間風が足に冷たさを突き刺し、首の後ろがチクチクする。
背後でこっそりとドアが開き、敵意に満ちた視線がリーフを睨みつけているのが目に浮かぶ。
何度か振り返ってスパイを捕まえようとしたが、何も見えなかった。
「そのまま歩き続けろ。馬鹿どもに見させておけばいい。そんなことが俺達に関係あるか?」
「誰かが私達の後をつけてるわ」
ジャスミンは息を切らして言った。
「感じる。あの女は競技会が始まる前に、誰かが私達を邪魔しようと決めたんじゃないかと思う」
リーフは無意識に剣に手を伸ばしたが、
もちろん武器はなかった――マザー・ブライトリーの戸棚にしまってあった。
ヴァージニアの奇跡も、攻撃的なものではない。
四人の傍らのドアには65と66の番号が書いてあり、前方に廊下の曲がり角があった。
「もうすぐ俺達の部屋だ。そこに着けば安全だ」
四人は足を速めた。
あっという間に廊下の曲がり角に着いた。
角を曲がると、四人は短い行き止まりの廊下に出た。
突き当たりが77号室だと分かり、そこへ向かって歩き始めた。
その時、明かりが消えた。
クリーが警告の叫び声を上げた。
暗闇の中、リーフは体をよじり、横に飛び上がり、壁に体を押し付けた。
肩にかすかな衝撃を感じ、バルダの叫び声が聞こえた。
ヴァージニアも何とか身体をよじらせる。
ドスンと音を立て、ガチャンと音を立て、苦痛に苛まれるようなヒューという音が聞こえた。
ガサガサ、ガサガサという音と、走る足音が聞こえた後、静寂が訪れた。
「リーフ! バルダ! ヴァージニア! いる!?」
「いるよ!」
「いますわよ!」
リーフとヴァージニアが答えると、ほっとしたようにバルダも呟いた。
そして、消えたのと同じくらい突然、明かりが再び灯った。
突然の眩しさに目を覆いながら、リーフはバルダとヴァージニアに目をやった。
バルダはよろめきながら立ち上がり、ポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出した。
ヴァージニアはふらふらしていた。
バルダの後ろにはジャスミンが立っていた。
髪は乱れ、左手はフィリが服の下に隠れている場所を守るように差し出していた。
右手には、普段は隠している二本目の短剣を持っていた。
その先端は赤く染まっていた。
ジャスミンは激しく眉をひそめ、廊下を振り返っていた。
リーフはジャスミンの視線を追うと、赤い滴が床の隅まで続いているのが見えた。
「よかった! 血を流したと思ったけど、確信はなかった。
これで私達が簡単に狙われる相手じゃないって事が分かるわ。
暗闇の中、背後から襲ってくるなんて卑怯者!」
「どうやら鍵を盗まれたみたいだ。代わりに、これをそのまま残していった」
バルダは厳しい表情で言った後、持っていた紙をリーフ達に見せた。
「命が惜しければ、明日は勝つ、えっと、最後の文字が読めませんわ」
「な、だと思うよ」
四人は辺りを見回した。
廊下は静まり返っていて、どのドアも開いていなかった。
「それで、どうすればいいんだ?」
しかし、リーフは既に答えを知っていた。
怒りがこみ上げてくるのを感じていた。
ジャスミンの目に炎が燃え上がり、ヴァージニアがぐっと拳を握り締め、
バルダの顎が頑固に引き締まっているのが見えた。
「誰が攻撃してきたにせよ、それは間違いよ」
ジャスミンは、誰が聞いていても聞こえるほど大きな声で言った。
「もうこの勝負からは逃げたりしませんわ」
「後悔するのは俺達じゃない!」
バルダも同じくらい大きな声で付け加えた。
四人は77番のドアにゆっくりと歩いた。
バルダがノブを回すとドアが開き、四人はその奥にある小さくて小綺麗な部屋に入った。
部屋は明るく、床には派手な色の絨毯を敷いていたが、格子窓のおかげで牢獄のようだった。
家具といえば、真っ赤なカバーをかけたベッドが四つと、小さくて重い戸棚一つだけだった。
「鍵を盗んだ奴は、きっと、僕達を恐れて、一晩中眠らせようとでも思っているんだろうな」
「だったら馬鹿だな。ぐっすり眠れる。何も恐れる事はない」
バルダは戸棚に肩を預け、それをドアに押し付けた。
安堵して二人はベッドに倒れ込み、眠りについた。
バルダが言った通り、四人はぐっすり眠った。
夜の闇の中、ドアの外から小さな音が聞こえても、邪魔される事はなかった。
誰も部屋に入ってこなければ起こされないという安心感に、二人は眠り続けた。
しかし、バルダが言ったように、四人は酷く疲れていて、考えが鈍っていた。
襲われる危険ばかりを考えていた彼らは、一つの事を忘れていた。
鍵はドアを開ける事ができるように、鍵をかける事もできるのだ。
朝、目覚ましの鐘が鳴り、戸棚をどけると、扉はしっかりと鍵がかかっていた。
正体不明の敵は、四人が競技会で優勝していない事を別の方法で証明しようとしていた。
そして、四人が競技会に参加する事を阻止しようとしていたのだ。
長い間、彼らは叫び、ドアを叩き続けたが、誰も来なかった。
バルダは激怒し、ドアに突進して肩で叩き壊そうとしたが、木材は厚く、鍵も重かった。
「はぁぁぁっ!? わたくし達をこんな目に遭わせるなんて卑怯ですわよっ!!」
ついにヴァージニアは大声で叫んだ。
「こんな事態を予想していなかったなんて、馬鹿だった」
バルダは息を切らして言った。
ジャスミンは黙っていた。
リーフはジャスミンがパニックと戦っている事を知っていた。
ジャスミンにとって、閉じ込められる事は最悪の拷問だった。
しばらくしてジャスミンは飛び上がり、窓辺に駆け寄り、
格子を揺らしながら、虚空に向かって大声で叫んだ。
しかし、風が彼女の叫びをかき消し、聞こえないように吹き飛ばした。
「クリーは格子を通り抜けられますの?」
ジャスミンは首を横に振ったが、その質問から何か思いついた。
彼女はベッドから毛布をひったくると、格子の隙間から半分ほど押し込んだ。
すると、毛布は旗のように風になびいた。
二度目の鐘が鳴った。
時間がゆっくりと過ぎていく。
リーフは歯を食いしばった。
敵は、自分達がこんなに簡単に騙された事に、どれほど笑っている事だろう。
突然、ドアをノックする鋭い音がして、取っ手がガタガタと音を立てた。
四人が叫び声を上げると、すぐに鍵を鍵穴に差し込む音が聞こえた。
ドアが勢いよく開き、マザー・ブライトリーが現れた。
マザー・ブライトリーは鮮やかな赤いドレスに、
緑と青のリボンで結んだサンボンネットを被っていた。
頬は紅潮し、息も酷く切れていた。
「ちょうど競技会に出かけようとしていたところだったのに、
窓から毛布が一枚はためいているのが見えたのよ!
信じられない思いで、すぐに駆けつけたのよ」
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは急いで何が起こったのかを説明した。
マザー・ブライトリーは恐怖と落胆のあまり、何度も叫びながらそれを聞いていた。
「ああ、私の宿でこんな事が起きて本当に恥ずかしい!
この騒動があなた達に影響しない事を願うわ。
少なくともあなた達は決勝に進出できるだろうってみんなに言ったのよ」
「でも、もう遅すぎないか?」
マザー・ブライトリーはきっぱりと首を横に振った。
「とんでもない! ついてきなさい」
クリーとフィリを部屋に残し、ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは、
マザー・ブライトリーの後について階段を下り、誰もいない食堂へ向かった。
そこでマザー・ブライトリーは四人に食事と、
女王バチのアップルドリンクが入った大きなマグカップを出した。
「これを食べて強くなりなさい。あなたの悪意に満ちた敵に、
マザー・ブライトリーのお気に入りは無視できないって教えてやるわ!」
四人が腹いっぱいに食べ、飲み終えると、彼女は彼らを宿の奥にあるトレーニングルーム、
屋根付きの通路を通って競技場へと案内した。
競技会の開会式はまだ続いており、多くの人が新参者達に視線を向けた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは顎を上げて、視線や囁き声を無視した。
「幸運を!」
マザー・ブライトリーは囁くと、そそくさと立ち去った。
競技場は広大な円形の砂場で、周囲には幾重にも高くそびえる椅子が並んでいた。
椅子は人で埋め尽くされ、
その多くが競技会のシンボルである金メダルを掲げた赤、緑、青の旗を振っていた。
砂の上に集まった競技者達は両手を掲げ、精一杯戦う事を誓った。
背の高いジョアンナとオーエンが立っていた。
リーフの立っている場所からそう遠くないところに、傷だらけの見知らぬ男もいた。
ぼろぼろの布切れをスカーフのように首に巻いていた。
(あれって日よけですの? それとも、昨夜廊下でジャスミンが刺した傷を隠すためですの?)
ヴァージニアは拳を握りしめ、自らの手を挙げた。
あらゆる疑念と恐怖は消え去った。
今はただ怒りだけが残っており、そう簡単には負けないという決意を見せつけるつもりだった。
宿でのリーフとヴァージニアの会話は原作には当然ありませんが、
ヴァージニアの勘の鋭さ(?)を再現するためにも入れました。
次回は競技会で試合を行います。