でも、やっぱり命がけの戦いだそうで……。
競技が始まった。
全てのペアが同時に戦い、どちらかが立っていられなくなるまで戦い負けたペアは立ち去った。
勝者は数分間の休憩の後、別の勝者とペアを組んで再び戦った。
持久力は、力、素早さ、身軽さ、そして狡猾さと同じくらい重要だと考えられていたからだ。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、そしてジャスミンは、
リスメア競技会では公正な競技などという考えは通用しない事をすぐに知った。
競技者達は凶暴な怒りで戦い、噛みつき、引っ掻き、頭を突き合わせ、
相手の髪や目を引っ掻き、殴り、蹴りつけた。
武器の使用以外は何も禁じられていなかった。
(何だか前に故郷で読んだ漫画にそっくりですわね)
ヴァージニアはそんな戦いぶりを見て、故郷を思い出した。
群衆は歓声を上げ、旗を振り、お気に入りの選手を応援し、
上手く戦えない選手にはブーイングを送った。
菓子、温かい食べ物、女王バチのアップルドリンクを売る人達は、
客席の間の通路を行ったり来たりしながら、売り文句を叫びながら商売をしていた。
敗れた選手達が次々と競技場を去り、落胆し、怪我を癒していくにつれ、
苦戦するペアの間隔は開いていった。
試合は毎回より激しくなったが、リーフ、バルダ、ジャスミンはどの試合でも生き残った。
ライバル達の多くとは異なり、彼らは命がけの戦いに慣れていた。
沈黙の森で初めて出会ってから、彼らは皆、多くの事を学んでいた。
しかし、幼い頃の訓練さえも、今となっては役に立っている。
リーフがデルの危険な街路で幼少期を過ごしたのも、無駄ではなかった。
バルダがマザー・ブライトリーに語ったように、
リーフは敵をかわしたり逃げたりするのが最も得意で、
機転を利かせて自分よりも遥かに大きな敵を翻弄する事ができた。
リーフはまだ幼かったが、鍛冶屋で父親と一緒に働いていたため、
体は強く、筋肉は激しい運動に慣れていた。
少年時代からバルダは宮殿の衛兵として訓練を受けていた。
彼らはデルトラ最強の戦士達だったが、影の大王の魔法でとうとう敗れた。
長年、バルダはその訓練の一環として格闘技や仲間との闘いを続けてきた。
鍛冶場の門の外で乞食に変装していた時でさえ、バルダは力強さを保ち、
リーフと共に街を歩き、リーフを危険から守っていた。
そしてジャスミンはどうだっただろうか。
ジャスミンは小柄で華奢だったが、
仲間の中でジャスミンが直面したような状況に直面した者も、
ジャスミンが生きてきた人生に出会った者もいなかった。
抜け目のないマザー・ブライトリーは、その細い腕の強さと、緑の瞳の決意を見抜いていた。
しかし、ジャスミンの敵はジャスミンの小ささを弱さと勘違いし、その代償を払った。
しかしヴァージニアだけは、元々訓練をしていなかったのか、この四人の中で唯一敗れた。
ヴァージニアの奇跡は、この競技会では役に立たなかったのだ。
(あーあ、こんなだったらワソともっと競えばよかったですわ)
ヴァージニアはワソと競い合っていた事を思い出す。
修道女のヴァージニアは運動をする必要がないのだが、太るのを気にしていたため、
日本から来た鬼、ワソと取っ組み合いの格闘技をしていた。
「せいっ!」
「やあっ!」
ヴァージニアとワソはお互いに殴り合う。
腕力も素早さも明らかに鬼のワソの方が強いがヴァージニアはそれを何とか受け流そうとした。
武器を使わないのは、格闘技の意味がないからだ。
「ヴァージニア、全然動いてないんだけど?」
「激しく動くより、軽く動く方がわたくしにはお似合いですわよ」
ヴァージニアは軽くワソを押すが、ワソは踏ん張り、ヴァージニアを投げようとする。
攻撃を見切ったヴァージニアは反撃としてワソを投げようとするが、
ワソはその隙を突いて、逆に投げ飛ばして尻をつかせた。
「痛い~! 流石は鬼ですわね、ワソ」
「シスターに格闘技で負けるはずがないよ」
「何を言ってますの! シスターは格闘技も学ぶものですわ!」
ヴァージニアの言う通り、一部の修道士はモンクとして格闘技を学ぶ事がある。
彼女はそれを真似て格闘技を学んだのだが、今のヴァージニアの腕前は素人でしかない。
得意なメイスを自ら封印したのだから、それは当たり前なのだが……。
(ワソ……今頃、どこにいるんですの)
未だに安否の分からないワソを、ヴァージニアは心配していた。
太陽は空に沈みかけていた。
明日、最後の戦いに挑む八人の決勝進出者を発表した時、彼らは既に太陽の影に沈んでいた。
リーフ、バルダ、ジャスミンもその中にいた。
ジョアンナとオーエンもいた。
残りは、背が低く筋肉質なグロックという男、その素早さで観客を驚かせたネリダという女、
そしてリーフ達が初めてその名前を知った傷だらけの男、ジョーカーだった。
「こんな陰険な人物に相応しい名前だ」
バルダが呟くと、ジョーカーは無表情で前に出て、歓声を上げる群衆に向かって両腕を掲げた。
「あいつと戦うなんて、考えたくもないな」
リーフもそうだった。
しかし、リーフはさらに不安な事を思いついた。
「まさか、みんな決勝進出者になるとは思ってなかった。ヴァージニアは負けちゃったけど」
「悪かったですわね」
「もし互いに戦わなきゃいけないとしたら?」
「まあ、誰が勝つか決めて、後は戦うふりをするだけよ。
いずれにせよ、明日の他の試合もそうしなきゃ。
相手に勝たせて、怪我をさせないようにしなきゃ。
決勝進出だから、もう金貨百枚ずつ確実に手に入れてる。
必要なのはそれだけ、いえ、それ以上よ」
バルダは落ち着きなく動いた。
明らかに、ズルをして負けるという考えは、
ズルをして勝つという考えと同じくらいバルダを苛立たせていた。
「そんなの卑怯じゃないか」
「それと何の関係があるの?」
リーフはバルダとは違い、ゲームの主催者や観客を欺くという考えに動揺していなかった。
デルの街では、仲間同士の名誉こそが全てであり、生き残る事が唯一の決まりだった。
しかし、リーフの心の一部――警告のメモと鍵のかかった扉への怒りがまだ燻っていた部分――
は、ジャスミンの計画に反発した。
「勝とうとしなきゃ、ライバルにバレちゃう。奴らの脅しに屈したと思われてしまう」
ジャスミンは嫌悪感を露わに鼻で笑った。
「あなたはバルダと同じくらい馬鹿よ!
自分のプライドのために、私達を危険に晒すなんて、もう我慢できないわ!」
ジャスミンは背を向け、立ち去った。
その晩、決勝進出者達は食堂で食事を共にした。
マザー・ブライトリーは、フリルのついた赤いドレスを纏い、にこやかに微笑んでいた。
奇妙な食事だった。
前の晩まで賑やかで騒がしかった部屋が、今は空っぽで、反響する音だけが響いていた。
ヴァージニアを含めた敗退した選手達は既に追い出されたようだった。
リーフは彼らの様子が気になった。
多くの選手が怪我を負い、ほとんど金欠だったからだ。
ジャスミンはまだ怒っていた。
彼女はほとんど口にせず、水だけを飲んでいた。
「あの女王バチのアップルドリンクは私には濃すぎるわ。考えただけで吐き気がするわ。
競技場の空気はあのドリンクの臭いでいっぱいだったし観客席の人達も一日中飲んでいたのよ」
バルダは眉をひそめた。
「奴らに売るべきじゃなかった。大量のエネルギーが必要な戦士のためのものであって、
ただ座って見ているだけの人達のためのものではない。血を求めるのも無理はない」
ちょうどその時、マザー・ブライトリーが小さな鐘を鳴らした。
そしてヴァージニアもまた、こっそりと奇跡で戻ってきていた。
「リリィ! どうし……」
「皆さん、部屋に戻る前に一言お願いします」
決勝進出者全員がマザー・ブライトリーの方を向いた。
「今夜は悪戯やトラブルは避けたいので、私が皆さんの鍵を預かり、ドアに鍵をかけます。
朝、起床の鐘が鳴ったらすぐに開けます」
部屋は完全に静まり返った。
マザー・ブライトリーは辺りを見回し、ふっくらとした顔で真剣な表情を浮かべた。
「ですから、ぐっすり眠って、体力を回復してください。
明日は、弱気になったり、やる気を失ったりする素振りを見せてはいけません。
観客は――そう、決勝日はいつも大盛り上がりです。本当に大盛り上がりです。
決勝進出者の成績が振るわないと、攻撃され、引き裂かれる事はよくあります。
皆さんには、こんな目に遭ってほしくありません」
リーフの胃がひっくり返ったようだった。
ヴァージニア、ジャスミン、バルダに目を向ける勇気もなかった。
こうして、大会主催者は決勝進出者全員が最後の最後まで全力を尽くせるようにしていたのだ。
彼らの武器は群衆だった。
群がり、心を一つにして行動し、最高潮に興奮し、血に飢えた群衆。
朝、アリーナに到着した時には、既に暖かくなり始めていた。
かき集めたばかりの砂の片側には太陽が照りつけ、反対側は深い影に包まれていた。
椅子は人でいっぱいで、観客は興奮に沸き立っていた。
八人の決勝進出者は手を挙げ、全力を尽くすと誓いを新たにした。
それから、一人ずつ前に進み出て、
笑顔のマザー・ブライトリーが掲げる編み籠からカードを選んだ。
リーフは自分のカードを見つめ、心臓が口から飛び出しそうになった。
そこに書かれた数字は3だった。
リーフはバルダとジャスミンに目をやり、ほっとした。
バルダが1番、ジャスミンが4番を掲げているのが分かった。
つまり、少なくともこの試合では、二人は対戦しないという事だ。
(僕の対戦相手は誰だ?)
リーフは辺りを見回し、傷だらけのジョーカーがバルダに向かって歩いてくるのを見て、
胸が締め付けられる思いだった。
ジョーカーはカードを高く掲げ、誰もが1の数字が分かるようにしていた。
巨漢のオーエンは2枚目の4を引いて、既に子供のようなジャスミンと並んで立っていた。
グロックとジョアンナは二人とも2のカードを引いていた。
こうして残ったのは俊敏なネリダだけだった。
そして案の定、ネリダはそこにいて、
リーフとペアになった事を示す3のカードを見せながら、リーフに向かって急いでいた。
4組の対戦相手がカードを捨て、互いに向き合うと、観客は大歓声を上げた。
ネリダは自分の手を見下ろし、それからリーフを見上げた。
「正直に言うと、ちょっと怖いのよね。どうして決勝まで来たのか、自分でも分からないの。
それに、あなたはマザー・ブライトリーのお気に入りよね?」
リーフはぎこちなくネリダを見つめ返した。
彼は前日に何人かの女性と対戦しており、
彼女達を危険な相手としか考えないのは賢明ではないと学んでいた。
それに、ジャスミンの活躍を見た事がある者なら、
女性だからといって戦士を侮ってはいけないと分かっているはずだ。
しかし、ネリダはとても優しそうに見えた。
リーフと同じくらいの背丈だが、鹿のようにほっそりと優雅で、大きな黒い目をしていた。
「あの……観客の皆さん。僕達は……」
「もちろん! 私は全力を尽くさなければならない事は分かっているし、
あなたがしなければならない事を責めたりはしないわ。
私に何が起ころうとも、私が既に勝ち取った金貨百枚は、貧しい家族に渡すわ。
マザー・ブライトリーが約束してくれたのよ」
「怖がらないで」
リーフは穏やかに話し始めた。
しかし、その時、開始の鐘が鳴り響き、
蛇のようにネリダの足が彼の顎先を捉え、仰向けに倒れた。
観客は笑い、ブーイングを浴びせた。
リーフは慌てて立ち上がり、間抜けに首を振った。
耳鳴りがした。
ネリダの姿は全く見えなかった。
彼女は驚くべき速さでリーフの背後に飛び込んできた。
ネリダはリーフの膝の裏を激しく蹴り、リーフは苦痛に喘ぎながらよろめき、前に倒れた。
彼女は瞬く間にリーフの周りを駆け回り、彼の足首、膝、腹、背中を飛び跳ね、蹴りつけた。
リーフはまるで混乱したように腕を振り回しながら、常にネリダの手が届かないところにいた。
(まさか、僕を馬鹿にしてるのか?)
群衆は嘲笑し始め、リーフの馬鹿げた偽名「チェリー」を連呼し、笑い始めた。
怒りの波がリーフの頭を少しだけすっきりさせた。
ネリダが速いなら、リーフも速い。
リーフはネリダから飛び退き、ネリダはリーフの方を向くようにした。
用心深く、二人は互いの周りを回り込んだ。
そして、突然、リーフは前に飛び出し、ネリダの腰を掴んで地面に投げつけた。
ネリダは倒れ、喘ぎながら横たわった。
片腕は力なく、無力だった。
リーフにできる事は、ただネリダを戦闘不能にする事だけだった。
しかし、砂の上でもがき苦しむネリダの目から涙が溢れてきた。
「お願い……」
ネリダの態度にほんの一瞬、リーフは躊躇った。
次の瞬間、ネリダの「無力な」腕が前に飛び出し、リーフの足首を掴んだ。
そして、ネリダが飛び上がり、リーフの足を地面から引き剥がすと、群衆は歓声を上げた。
リーフはよろめき、砂の上に倒れ込み、何も分からなくなった。
一方、バルダとジョーカーは互いに押し倒そうと格闘していた。
実力は互角だった。
バルダは背が高かったが、ジョーカーの筋肉は鉄のように硬く、意志はさらに強かった。
左右に、前後に、二人は揺れ動いたが、どちらも失敗せず、屈する事もなかった。
(ジョーカーがどこから来たにせよ、苦闘の人生を送ってきたのだろうな)
多くの苦しみを味わってきた。
バルダは傷だらけの男が初めてバルダを見た時、店のカウンターの埃に残した印を思い出した。
影の大王に立ち向かうと誓った、レジスタンスの秘密の印を。
「ジョーカー、ここで何をしてるんだ?
もっと重要な仕事があるのに、どうして俺と戦ってるんだ?」
「どんな仕事だ?」
ジョーカーは息を切らして言った。
輝く肌に長い傷跡が白く浮かび上がっていた。
「俺の仕事は――今――お前を粉々に砕く事だ――ブッシュタウンのベリー!」
名前を口にしながら、ジョーカーは唇を歪めて険しい笑みを浮かべた。
明らかに、バルダはそれが偽りだと確信していた。
「お前の友のチェリーは倒れ、二度と起き上がらないだろう。
ほら、後ろだ。群衆の声が聞こえるか?」
バルダは集中力を保とうと必死で、周囲を見ようとせず、人々の叫び声に耳を塞ごうとした。
それでも、まだ熱狂的な叫び声が聞こえていた。
「ネリダ! ネリダ! 蹴り飛ばせ! そうだ! もう一度! 奴を仕留めろ!」
ジョーカーの握りが強まり、体重が移動した。
バルダはよろめいたが、ほんの少しだった。
「そう簡単にはいかないぞ、ジョーカー!」
バルダは歯を食いしばり、戦い続けた。
ジャスミンは、オーエンの巨大な体が自分の周りを旋回するのしか見えず、
オーエンが突進してくる時の獰猛な呻き声と、
飛び退く時の自分の心臓の鼓動しか聞こえなかった。
彼女の頭は足並みを揃えて動いていた。
前日に戦った相手は皆、ジャスミンよりも大きかったが、
オーエンほどの大きさと体重を持つ者は一人もいなかった。
もしこの巨漢の熊のような腕に捕まれば、押し潰されてしまうだろう。
ジャスミンは、巨大な獣の頭の周りをブンブン飛び回る
蜂のようにならなければならない事を知っていた。
オーエンを苛立たせ、疲れさせ、ミスを犯させなければならない。
しかし、オーエンは愚かではなかった。
ジャスミンは自分の計画を知っていた。
長い間、ジャスミンはオーエンの手の届かないところに留まり、回転し、飛び上がり、
彼の足首と膝に鋭く痛ましい蹴りを入れていた。
オーエンの顔は汗でびっしょりだったが、視線は揺らがなかった。
ジャスミンは再びオーエンから飛び退いた。
彼女は長い間、オーエンを太陽に向かせようとしていた。
そして、もう少しで成功させるところだった。
(あと少し……)
その時、突然、オーエンの表情が変わった。
オーエンはジャスミンの肩越しに、恐怖に満ちた目で見ていた。
(もしかして、はったり?)
ジャスミンの背後で恐ろしい音がした。
誰かが苦しみに窒息する音だ。
「グロック! グロック! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」
群衆が叫ぶ中、オーエンは前に飛び出した。
ジャスミンはすぐに脇に避けたが、オーエンが自分を見ていない事にすぐに気づいた。
オーエンはジャスミンがそこにいる事を忘れていたのだ。
ジョアンナは地面に押さえつけられ、倒れていた。
そしてグロックはジョアンナの上に跪き、大きく毛むくじゃらの手でジョアンナの首を掴み、
震え、締め付けながら、野蛮な歓喜に歯をむき出していた。
その時、オーエンがグロックに覆いかぶさり、グロックをぼろ布の束のように押しのけた。
見ていた人々は興奮して悲鳴を上げた。
衝撃と怒りに燃えたグロックの唸り声は、地面に重く叩きつけられた瞬間に途切れた。
オーエンはジョアンナの傍らに倒れ込み、ジョアンナを抱きしめた。
ジョアンナが動かなかったため、ジャスミンは最初、ジョアンナが死んだと思った。
しかし、オーエンがジョアンナの名前を呼ぶと、まぶたが瞬き、手探りで傷ついた喉を触った。
オーエンは安堵の呻き声をあげ、頭を下げた。
ジョアンナ以外の何者にも意識がなかった。
そのため、グロックがよろめきながら立ち上がり、自分に向かってくるのを感じなかった。
ジャスミンの鋭く警告的な叫び声も聞こえなかった。
興奮のあまり高まる群衆にも耳を貸さなかった。
次の瞬間、グロックが握り締めた拳を、
まるで二つの大きな石のようにオーエンの首筋に叩きつけた。
オーエンは叫び声も上げずに倒れ込み、二度と動かなかった。
バルダとジョーカーは依然として格闘を続け、どちらも振り切れないほどの力で抵抗していた。
競技場は二人きりだった。
バルダはぼんやりと、二人が去った事に気づいていた。
屈強な三人の役員に押さえられながら、
グロックは依然として殺意に満ちた怒りをぶちまけていた。
「グロックは狂っている!」
ジョーカーは憎悪のこもった唸り声を上げた。
「それは、俺達も同じじゃないか? どちらかが勝てば、必ず奴と戦わなければならない。
そのために金貨1000枚も払うのか?」
バルダは息を切らして言った。
「お前は?」
ジョーカーは暗い目を輝かせながら言った。
「俺自身の目的のために、俺はこうする運命にある。
だがお前は――お前は違う。十分な立ち回りを見せた。
今、どちらかが倒れても、自由に自分の道を行く事ができる。よく考えろ!」
バルダは考え、言葉に詰まった。
それはほんの僅かな躊躇いだった。
長きに渡りバルダを支えてきた集中力に、ほんの僅かな隙間ができたのだ。
しかし、ジョーカーにはそれで十分だった。
ひねりを加え、強烈な突きを食らったバルダはバランスを崩し、よろめいた。
ジョーカーが拳をバルダの顎に叩きつける。
バルダは明るい光の点を見、地面がバルダに向かって迫ってきた。
数秒後、バルダは砂の上にうつぶせに倒れ、呆然とした。
頭がぐるぐると回り、全身が痛み、群衆がジョーカーの名を叫ぶ声が聞こえていた。
痛みの中で、バルダはジョーカーが自分を騙したのか、
それとも大きな恩恵を与えてくれたのかと自問した。
(もしかして、俺が負けたのはジョーカーのせいか、それとも俺のせいか……?)
残る決勝進出者は四人。
ネリダ、ジョーカー、グロック、そしてジャスミン。
オーエンを別の相手が倒したのに、ジャスミンが勝者と宣言していたからだ。
ジャスミンはリーフとバルダの様子を知る時間がほんの僅かしかなかった。
二人とも具合が悪かったが、心配そうに見守るマザー・ブライトリーは、
ジョアンナやオーエンのように、すぐに回復するだろうと告げていた。
怪我はそれほど深刻ではなく、敗北しても大した事はないだろう。
ジャスミンはリーフ達が安全な場所にいると確信し、
競技場の中央でグロック、ネリダ、ジョーカーと合流した。
「どうぞ、女王バチのアップルドリンクです」
黒髪の若い給仕は、女王バチのアップルドリンクのマグカップを運んだ。
彼は、こんなに素晴らしい人達に料理を振る舞う事に明らかに興奮していた。
給仕はジョーカーにお盆を差し出し、
ジョーカーは感謝の言葉を述べながらマグカップを受け取った。
「どうして先に、あいつに料理を出すんだ?」
「ご、ごめんなさい……」
グロックは激怒して叫び、お盆から別のマグカップをひったくり、傾けて中身を空けた。
若い給仕は明らかに驚き、怯え、息を切らして謝罪の言葉を口にした。
「大丈夫だ。取り乱すなよ」
給仕は真っ赤に顔を赤らめ、お盆をネリダとジャスミンに差し出した。
ネリダはマグカップを取り、一気に飲み干した。
しかし、ジャスミンは首を横に振った。
「ありがとう。でも、女王バチのアップルドリンクは好きじゃないの。水だけで十分よ」
給仕が見つめる中、グロックはそのマグカップを掴んだ。
「俺にとってはなおさらだ!」
グロックは高らかにそう言い、女王バチのアップルドリンクを勢いよく飲み干した。
彼はジャスミンの方を向き、手の甲で滴る口を拭った。
「次のラウンドで俺と対戦しない事を祈るぜ、水飲みのバーディーめ。
お前の骨を卵の殻みたいに砕いてやる。俺は……」
奇妙な表情がグロックの顔に浮かんだ。
そしてまさにその時、隣にいたネリダが奇妙な溜息をつき、膝を曲げて地面に倒れ込んだ。
グロックはネリダと、手にした空のマグカップを見つめ、喉に手を当てた。
「毒だ!」
グロックは嗄れた声で言った。
よろめきながら振り返り、震える指で盆を持った若い給仕を指差した。
「お前は……」
若い給仕はお盆を落とし、踵を返した。
グロックが意識を失って地面に倒れる頃には、若い給仕は既に群衆の中に紛れていた。
人々は叫びながら指差し、彼らに向かって走ってきた。
ジャスミンはジョーカーを見つめた。
「あいつの事を知ってたのね!」
「何て馬鹿な事を言うんだ」
ジャスミンは目を細めた。
「他の選手が邪魔をしなければ、決勝で私とだけ戦えば、きっと勝てると思っているのね。
でも、それは間違っているわ、ジョーカー」
若い給仕は顔を背け、ジョーカーには見えなかった。
審判達が彼らのところに来た。
彼らはグロックとネリダを揺さぶり、わめき散らし、叫んでいた。
ジョーカーの返事を聞いたのはジャスミンだけだった。
「どうなるか見てみよう」
オーエンとの戦いが熊との戦いだとしたら、これは狼と対峙するようだ。
ジャスミンはそう思いながら、ジョーカーと競技場の中央で互いの周りを回り合った。
痩せこけた、狡猾な狼だ。
この男は本当に危険だと、本能がそう告げていた。
今まで人間を恐れた事がないのに、ジョーカーを恐れた。
だが、その理由は分からなかった。
理由を探し、そして見つけたと思った。
ジョーカーは生きようが死ようが構わない。
そう思ったジャスミンは、思わず恐怖に震えた。
ジョーカーの目に小さな火花が散るのを見て飛びかかってきたジョーカーを間一髪でかわした。
準決勝の試合を奪われ、
お気に入りのグロックが再び戦えない事に憤慨した観客を、険悪なムードが包んだ。
ジョーカーが獲物を一瞬の隙で逃すと、ブーイングと罵声が轟いた。
彼らはこの回り込みと身のかわしにうんざりしていた。
息を切らしながら、ジャスミンは再びジョーカーに向き直った。
ジョーカーの口元は嘲るような笑みを浮かべた。
「バーディーめ、今さら自慢するな!
お前は恐怖を克服できずに、群衆の前で良い芝居すら見せる事ができない。
家に帰ってママの膝に頭を隠せ!」
白熱した怒りの炎がジャスミンの体を駆け巡り、恐怖を焼き尽くした。
ジャスミンはジョーカーを見上げ、
ジョーカーがジャスミンの変化を察知して笑みが消えるのを満足げに見た。
ジョーカーの口元は緊張し、目には警戒の色が浮かんでいた。
「おじさん、疲れたでしょ? 骨の髄まで疲れているのよ」
そして、そう言うと同時に、ジョーカーはそれが真実だと悟った。
バルダとの長きに渡る格闘で、ジョーカーの体力は消耗し、反射神経も鈍っていた。
そうでなければ、何故攻撃した時にジャスミンを見逃したのだろうか。
「捕まえられるものなら捕まえてみなさい!」
ジャスミンはニヤリと笑い、逃げるように半ば振り返った。
不意を突かれたジョーカーはよろめきながら一歩前に出た。
くるりと振り返り、蹴りを入れ、またくるりと振り返り、蹴りを入れた。
掴みかかると、ジャスミンは飛び退き、ジョーカーを宙に放った。
ジャスミンは何度も何度も跳躍し、攻撃を続けた。
彼女は激しい快感と共に、ジョーカーの苦痛と怒りの呻き声と、観客の歓声を聞いた。
観客の興奮は高まり、ジャスミンも同様に高まっていた。
試合は延々と続き、ジョーカーはジャスミンに触れる事ができなかった。
競技場は霞んで見えた。
ジョーカーはただ、罰を与え、傷つけたいという欲望だけを感じていた。
まるで血が沸き立ち、怒りがエネルギーへと変わり、全身を駆け巡り手足が震えるようだった。
ジョーカーが再び背が高く、睨みつけるように迫ってくると、
ジャスミンは笑いながら後ろに下がった。
観客は耳をつんざくような叫び声を上げた。
(みんな興奮してるわ)
ジャスミンは後ずさりした――踵が硬い木にぶつかった。
彼女は驚いて後ろを振り返ると壁があり、その上には赤い顔が叫び声を上げているのが見えた。
その時になって初めて、ジャスミンは自分がいかに騙されていたか、
怒りがいかに自分を愚かにしていたかを悟った。
ジョーカーは少しずつジャスミンを競技場の端へと押しやった。
ジャスミンは競技場を囲む低い壁に背を向けており、ジョーカーはジャスミンに迫っていた。
彼女は跳ね上がり、跳ね上がり、そして後ろに下がり、
静寂の森で何度も木の枝に着地したように、壁の頂上に確かな足取りで着地した。
背後では群衆が叫び声を上げていた。
しかしジョーカーはすぐ近くにいた。
身を乗り出し、ジョーカーの手はジャスミンの足首に伸びていた。
巨大な蜘蛛のような、太く貪欲な蔓のような手だった。
純粋な本能がジャスミンを跳び上がらせ、ジョーカーに向かって飛び出した。
ほんの一瞬、ジョーカーの曲がった肩がジャスミンの木の枝のように見えた。
それからジャスミンは足を後ろに突き上げ、再び宙に舞い上がり、ジョーカーを前に倒した。
ジャスミンはジョーカーの叫び声を聞き、壁に激突する音を聞きながら、
空中で方向転換し、ジョーカーの遥か後ろの砂地に軽やかに着地した。
彼女は逃げ出そうと着地した。
ジャスミンの唯一の思考は逃げる事だった。
しかし、自由を求めて飛び込んだジャスミンの行動は、それ以上の事をもたらした。
ジョーカーは壁際に崩れ落ち、動かなかった。
群衆は立ち上がり、ジャスミンの名を叫んだ。
ジャスミンは驚きと共に、ゆっくりと戦いが終わった事に気づいた。
彼女は優勝したのだ。
「さて、また一年が終わったわね! 最後の決勝戦は本当にスリリングだったわね!」
授賞式の後、マザー・ブライトリーは、
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンを宿屋へ急がせながら笑った。
「最初は少し遅かったかもしれないけど、そこからが楽しいわ!」
マザー・ブライトリーはジャスミンの肩を愛情を込めて軽く叩いた。
「あなたは人気の優勝者よ、愛しい人。素早さが力に勝つ事ほど、観客が喜ぶものはないわ」
ジャスミンは黙っていた。
金のメダルが首に重くかかり、腕には金貨の入った袋が重くのしかかっていた。
そして、ジャスミンの心はそれらよりも重かった。
あの闘技場でのほんの短い間、自分がどうなってしまったのかを考えると、吐き気がした。
他人を傷つけ、罰する事に喜びを感じる獣。
戦いの陶酔の中で全てを忘れる愚か者。
ジャスミンは忌まわしいグロックのように凶暴だった。
あの悪臭を放ち、怒鳴り散らす群衆のように、暴力に酔いしれていた。
もしジャスミンの自惚れが、まさにそうなるところだったように、
破滅の原因になっていたとしたら、それは当然の報いだっただろう。
リーフ、バルダ、ヴァージニアはジャスミンの頭越しに顔を見合わせた。
(うーん、やっぱりジャスミンって自然的ですわね)
しかし、マザー・ブライトリーは、ジャスミンが誇り高くないはずがないと想像できなかった。
「正直に言うと、ジョーカーが倒したあいつを見て、私はとても嬉しかったの。
傲慢で、睨みつけるような男で、きっと不愉快な過去があったに違いないわ。
あのアップルドリンクに薬を盛ったのも、きっとあいつよ。
目が覚めるとすぐに、金貨100枚も待たずに、こっそり逃げ出したのよ。
きっと、罪悪感があるのね」
「グロックとネリダは目覚めたの?」
「いいえ、二人はまだ赤ん坊のように眠っているわ。明日までここを出発できない。
でも、ジョアンナとオーエンはもう出発したわ。
ジョアンナは酷く足を引きずっていて、オーエンは頭に酷いコブがあったわ。
もうお金を手に入れたから、リスメアに用はないみたい」
リーフも必要以上に長く滞在する気はなく、バルダとヴァージニアも同意していた。
「残念ながら、俺達も急いで出発しなければなりません、マザー・ブライトリー」
宿屋に入ると、バルダは機転を利かせて言った。
「出発前にいくつか物資を買わなければなりません。お勧めの……?」
「ええ、必要なものは全部あるわ! 旅の必需品なら何でも売ってるわ」
そして、その通りになった。
クリーとフィリを部屋から連れ出すとすぐに、
四人はマザー・ブライトリーと共に倉庫へと向かった。
倉庫には鞄、寝袋、水筒、ロープ、火打ち石、乾燥食品、
その他多数の便利な品々が天井まで積み上げられていた。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンが予想していた通り、どれも非常に高価だった。
しかし、四人には使える金がたっぷりあり、これまでの勝利者達と同じように、
町を歩き回らなくて済むなら喜んで多めに払った。
30分も経たないうちに必要なものは全て揃った。
そして、マザー・ブライトリーの強い勧めで、誰もいない食堂で最後の食事をとった。
(うーん、何だか気まずいなぁ……)
リーフは食事を楽しむ事ができなかった。
全てが本来あるべき姿ではないという不快感に苛まれていた。
まるで誰かが監視しているかのように、肌がチクチクと痛んだ。
しかし、誰が四人を監視しているというのだろうか。
ネリダとグロックはまだ眠っていた。
ジョアンナ、オーエン、ジョーカーは既に去っていた。
リーフはその感情を軽く受け流し、自分は愚かだと自分に言い聞かせた。
加筆修正が大変でした。
次回、ヴァージニアの「悪い予感」が……?