ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

35 / 60
ブラールの襲撃後、ヴァージニア達は……? なお話。
グノメ族はなかなかの厄介者ですがさて。


第33話 嵐の後で

 嵐はその夜から翌日まで猛烈に吹き荒れた。

 雷鳴は鳴り止まず、雹は凍てつく雨に変わった。

 風がブーロンの木々を叩きつけ、多くの木々が地面に倒れた。

 四人と一頭は小屋に身を寄せ合い、食べたり休んだり、

 洞窟の入り口を流れる小川の水を飲んだり、交代で見張りをしたりする事しかできなかった。

 夜が再び訪れる頃には、四人は遅れている事を心配していた。

 リーフの腕とプリンの足は見事に回復しつつあり、

 ブラールも同様に早く回復するのではないかと心配していた。

「緑の苔が治る事を学んでいればの話だけど」

 プリンはブーロンの実をかじりながら、四人に念を押した。

「でも、そんな事はないと思うわ。

 ブラールは獲物を殺す事だけが目的だってお母さんが言ってたもの」

 母の名前が出ると、プリンの声は震え、ぐっと唾を飲み込んだ。

「ブラールが来た時、君が一緒にいてくれて本当に良かった。

 でも、君のお母さんや他のキンは、きっと君の事を心配しているよ、プリン」

 リーフは少し間を置いて言った。

「ううん、私が無事だと知ってるわ。きっと昨夜、夢の中で私達に会いに来たのよ。

 そして今、また夜。みんな今、この瞬間にもここにいるかもしれないわ。

 だって、これは夢だもの。もしみんながここにいたら、辛い思いをさせてごめんねと言うわ。

 そして、とても寂しかったとも言うわ」

 四人は黙っていた。

 もしかしたら、キンの霊が囲んでいて、プリンと話したい、触れたいと思いながらも、

 それができないのかもしれないと思うと、不気味だった。

 プリンが、万が一に備えて、

 家族に聞かせたい言葉をわざと声に出して言っているのだと気づくと、悲しくなってきた。

 

 翌朝には風は止み、嵐も去り、代わりに小雨が降り続いていた。

 四人はそろそろ先へ進むべきだと判断した。

 彼らは増水した小川に沿って一列に並び、雨の中を登り始めた。

 頭上のグノメ族や眼下のブラールの音に警戒しながら。

 道は急勾配で滑りやすく、危険だった。

 プリンが先頭に立ち、安全な道を見つけようと懸命に歩いたが、

 プリンの努力も空しく、四人はすぐに擦り傷だらけになってしまった。

 この足取りを1、2時間続けた後、雨は止み、雲の切れ間からかすかな陽光が差し始めた。

「少なくとも、何かはあった」

 その時、プリンが突然、バルダの前で立ち止まり、

 道から飛び降りたので、バルダは飛び上がった。

「どうしましたの?」

「分からん! プリン! 何をしている?」

 プリンは木々の中に姿を消し、枝を折りながら新たな活力と目的意識を持って暴れ回っていた。

「おいで、見て!」

 しばらくして、プリンは優しく四人に呼びかけた。

 四人は嫌々ながら、棘から顔を守りながら、プリンが作った小さな空き地に忍び込んだ。

 そして立ち止まり、じっと見つめた。

 空き地の真ん中には、樹皮で屋根を葺いた小さな丸い石造りの小屋があった。

 低いドアの両側には、錆びた金属の釘が二つ立っており、

 それぞれの釘のてっぺんには、にやりと笑う頭蓋骨が飾ってあった。

 ドア自体には、打ち付けられた金属の形が固定してあった。

 

「変なマークですわね」

「きっとグノメ族が休憩するところだと思うわ」

「何ですの?」

「グノメ族が嵐に遭った時に避難する小屋よ。

 余所者は立ち入り禁止。看板の意味はそういう事よ。でも……」

「でも、ここは随分長い間、放っておかれていたようだ。君が見つけて正解だった」

 バルダはドアまで大股で歩み寄り、ドアを引っ張った。

 ドアはガタガタと開き、四人は中に入った。

 武器が見つかると期待していたのなら、四人は失望した。

 小さな建物は巣で覆われ、蜘蛛や甲虫が蠢いていた。

 それ以外は、数個のマグカップと、ほとんど腐ってしまった織りの敷物、

 そして恐らくかつては食べ物だったのだろうが、

 今は黒い塵と化した山があるだけで、空っぽだった。

「うっ……ウネウネしてる……!」

 ヴァージニアはウネウネしたものが苦手なので、一瞬だけ吐き気を覚えた。

「変ね」

 安堵して再び後退しながらプリンは呟いた。

「お母さんが言ってわ。昔は山中にグノメ族の小屋が点在していて、

 それらは至るところを交差する道で繋いでいたのよ。

 でも、私達が見たのはこれが初めてで、木々がすっかり覆っていたの」

 リーフは、空き地を囲む暗く静かな森を見渡した。

「キン達が去ってから、ブーロンの木々は野生化してしまったわ。

 でも、グノメ族が建物や道を放棄したのは、それだけの理由じゃないはずよ。

 少なくとも、いくつかは守ろうと戦ったはずよ」

 ジャスミンと、ヴァージニアも辺りを見回していた。

「何かが起こったの。私達の知らない何かの変化よ」

「あっ! 何か見つけましたわ!」

 ボロボロの小屋の中、ヴァージニアは奇跡的に槌鉾を見つけた。

 ヴァージニアは迷わず、その槌鉾を装備した。

「こっちも見つけたよ!」

「私はこの薬!」

 リーフとジャスミンが使えそうな薬を見つけたその時、背後で物音がした。

 プリンは不安そうに肩越しに振り返り、ぎょっとした。

 バルダが小さな小屋の屋根から樹皮を剥ぎ始めていた。

 既に大きな3枚の樹皮が、バルダの傍の地面に転がっていた。

「ああ、そんな事しないで!」

 プリンは懇願しながら、急いでバルダのところへ駆け寄った。

「グノメ族は怒るわ! 警告が見えないの?」

「そんな事はどうでもいい」

 バルダは鼻で笑って、4枚目の樹皮を地面に引きずり下ろした。

「奴らはもう敵だと証明した。いずれにせよ、この小屋は森の中に捨て去ったのは明白だ。

 この樹皮は俺達にとって非常に役に立つだろう」

 プリンはバルダを見つめ、リーフ、ジャスミン、ヴァージニアも驚いて眉を上げた。

 バルダは微笑みながら、足で樹皮を軽く叩いた。

「これがブーロンの樹皮だ。どれだけ硬いか分かるか?

 だが、持ち運びには軽く、少し曲がっている。蔓で縛れば、これは素晴らしい盾になる。

 どんな矢も防ぎ、ブーロンの棘からも俺達を守ってくれる盾だ」

 その後、30分、四人は樹皮のシートを蔓でしっかりと縛り、

 後ろから簡単に持ち運べるようにした。

 盾の保護の下で、四人は皆、より安心感を覚えた。

「盾は常に弱い方の手で持たなければならない。そうすれば強い方の手は戦闘に使える。

 最初は疲れるかもしれないが、すぐに慣れるだろう――」

「待って」

 ジャスミンが突然飛び上がり、指を唇に当てたので、バルダは驚いて言葉を切った。

「声が聞こえるわ。そして足音が。行進する足音が」

 ヴァージニア、リーフ、バルダは耳を澄ませ、ついに山の奥から、

 かすかにブンブンと、リズミカルな音が聞こえてきた。

 荒々しい詠唱か歌声のようだった。

「グノメ族よ」

 プリンはすすり泣いた。

 音は近づいてきて、刻一刻と大きくなっていた。

 四人は木々の奥深くまで入り込み、盾を壁のように掲げ、狭い円を描いてしゃがみ込んだ。

 荒々しい歌声と足音は、次第に大きくなっていった。

 しかし、枝が折れる音も、棘のある葉を武器で切り裂く音もせず、

 行進する足音は視界から少し離れた場所を通り過ぎても躊躇わなかった。

「近くに道があるはずだ」

 バルダは息を切らして言った。

 歌声が遠くに消えていくと、四人は隠れ場所からこっそりと出てきて、

 音が聞こえてきた方向へと道を切り開き始めた。

 案の定、ほどなくして四人は頂上へと続く細い道に立っていた。

 木の枝が深く覆いかぶさり、まるでトンネルのようだった。

「グノメ族が少なくとも一本は道を開けておくだろうと分かっていればよかった。

 この道はきっと山の麓から頂上までずっと続いているに違いない!

 もっと早く見つけていれば!」

「あのグノメ族の一団は、嵐が来る前に山の麓にいたに違いない」

「何の用事があったのかしら?」

「きっと悪い用事だろう。山の麓にあるのは影の王国への道だけだからな」

「でも、グノメ族は影の憲兵団の味方じゃないわ」

 プリンは甲高い声で言った。

 行進の足音を聞いて以来初めて、プリンは声を上げた。

「グノメ族は影の憲兵団を憎んでるって、罠を作って苦しめてるって、お母さんがよく話してくれたわ。グノメ族の休憩所の傍にある頭蓋骨は、多分、影の憲兵団の頭蓋骨よ」

「プリン、君のお母さんが恐怖の山に住んでいたのは何年も前の事だよ」

「今やグノメ族は影の大王に従っている身だ」

「そんな……」

 プリンは首を横に振ったが、ここ数日で少しは成長したのかもしれない。

 自分が正しいと言い張って反論したりはしなかった。

 盾をしっかりと握りしめ、四人が山頂を目指して長い登りを始めるのをただついて行った。

 

 日が沈みかけ、寒さが厳しくなってきた頃、ようやく道の終点に着いた。

 登りはきつかったが、何の苦労もなかった。

 グノメ族は一匹たりとも四人の行く手を横切らなかった。

 そして今、最後の曲がり角を用心深く見渡しても、生命の気配も動きも見当たらなかった。

 全てが静まり返っていた。

「どこに隠れているんだ? 覚悟しろ。罠にかかっているかもしれない」

 しかし、道の向こうの開けた場所を渡り始め、

 今や行く手を阻むそびえ立つ岩の崖を見上げている間、

 何も動いておらず、矢も飛んでこなかった。

 ここには木は一本もなかった。

 四人が歩いていた地面は、むき出しの白亜質のもので、

 足跡によって固く詰まっており、捨てられた矢が散乱していた。

 渦巻く雲に隠れた山の頂上は、まだ四人の頭上高くにあった。

 ジャスミンはクリーを肩に呼び寄せ、短剣を抜いた。

 ヴァージニアも身構えた。

「何かの罠よ。あのグノメ族が消えたはずがない。

 それに、着陸時に私達を撃ってきた他の連中もここにいた。どこかで、待っているわ」

 四人の目の前には、暗く不気味な崖がそびえ立っていた。

 最初は、表面に点在する小さな穴以外、何も異常は見えなかった。

 しかし、十分に近づくと、グノメ族が去った場所が見えた。

 崖には、硬い岩を削って作られた狭いドアがあった。

 上は暗く、下は明るく、何も隠れていない。

 実際、大きな方の淡い部分には溝の模様が刻まれ、

 片側には中央に矢のような深い彫刻が施された丸い石のドアノブがあった。

 しかしノブは回らず、いくら引いても押してもドアは開かなかった。

「グノメ族が罠を仕掛けたんだ!」

 バルダは石の上で指を走らせ、あちこちを無駄に押しながら唸った。

「どうして中に入ろうとするの? きっとここはグノメ族の砦よ。

 グノメ族が食事をし、眠り、そして宝物を隠している場所よ」

「その通りだ」

 バルダは眉をひそめ、まだ石を触りながら言った。

「装飾はドアの下部、明るい部分にしかありませんわ。探しましょう」

 ヴァージニアは崖のすぐ近くまで移動し、

 ドアの上部にある一見何もないように見える空間をじっと見つめた。

 暗く凸凹した岩が目の前をぼやけていたが、自然ではない痕跡があった。

「ヴァージニア、危険だ」

 リーフがマントと服を脇に引いてデルトラのベルトを覗き込むと、

 ルビーの鮮やかな赤がくすんだピンクに変わっているのがすぐに分かった。

 危険が迫っている兆候だ。

 ヴァージニアはかがみ込み、足元の白い埃をかき集め、暗い岩に塗りつけた。

 それから、埃を払い落とした。

 刻まれた文字に絡まった埃のおかげで、文字は、はっきりと見えた。

 

 矢を一本ひろっておいで

 鍵穴に入れてまわすだけ

 扉はおすんだひくんじゃないよ

 

「この韻文は子供っぽいわね。幼い頃に父さんから教わった韻文を思い出すわ。

 それに、言葉を目に見えるようにするのは難しくなかった。グノメ族はそんなに賢くないのよ」

「奴らは不注意かもな」

 バルダは地面から矢を拾い上げながら言った。

「矢がドアの鍵なら、放っておくべきじゃない。それに、門の上で矢の番を探すなんて……」

 バルダは矢の先をドアノブの彫刻に突き刺した。

 矢は鍵が錠前に滑り込むように、簡単に所定の位置に収まった。

 バルダが予想した通り、彫刻の底には鍵穴があった。

 矢の柄をしっかりと握り、かすかに、しかし確かなカチッという音がするまで回した。

「鍵が開いてる。入っていいか?」

 バルダはヴァージニア達の方を向き、剣を抜いた。

「駄目!」

 プリンは最早黙っていられず、懇願した。

「グノメ族は本当は賢いのよ! グノメ族は策略や罠が大好きなの。ここがグノメ族の扉よ。

 使えば死ぬ。間違いないわ!」

「プリン、僕達は要塞に入らなきゃいけない。

 グノメ族がここに何かを隠していて、それを見つけなきゃいけない。

 でも、君が入りたくないなら、君は戻って見張っていてくれ」

「……リーフ……」

「ダメなら、わたくし達が何とかしますわよ」

 プリンが見守る中、リーフは剣を抜き、バルダに頷いた。

 バルダはドアを力強く押し始めた。

 耳障りで軋む音と共に、巨大な石が内側に揺れ始めた。

 その時、リーフはどこか高いところから、くぐもった笑い声が聞こえたような気がした。

 リーフはバルダの腕を掴み、押さえつけた。

「待て!」

 リーフは息を潜めて言った。

 ヴァージニアとジャスミンもその音を聞いていた。

 二人は見上げ、崖の斜面をじっと見つめていた。

「何も見えないわ。でも、誰かの笑い声が聞こえたような気がする」

「俺にはよく分からなかったが、鳥の鳴き声だったのかもしれない」

「でも、グノメ族かもしれませんわ」

 バルダは戸口に手を置いたまま、躊躇いがちに立ち尽くしていた。

 クリーが甲高い声を上げた。

「鳥じゃないわ。誰かが笑っていたのよ。私達に向かって」

 三人はしばらくの間、緊張した沈黙の中で耳を澄ませた。

 しかし、再び山は完全に静まり返り、まるで待ち構えているかのように静まり返った。

 バルダは肩を竦め、剣を強く握りしめ、再び戸口を押した。

 岩の板が内側に移動するにつれて、軋む音は大きくなった。

 戸口と崖の壁の間に狭い隙間が現れた。

 隙間の向こうのどこかから、光がちらついた。

 ジャスミンは隙間から覗き込んだ。

「何も見えないわ。戸口の向こうに小さな部屋があって、そこから通路が続いているの。

 明かりがついているのは通路よ」

「これもグノメ族の罠では?」

 ジャスミンは三人を見回した。

 小さな顔には反抗的な表情が浮かび、手の中の短剣が煌めいていた。

「入った方がいいと思うわ」

「え、どうしてですの?」

「そうしたら、私達を笑っている奴は黙っていればよかったと思うようになるわ」

 ジャスミンは肩をドアに押しつけ、ドアをさらに押し開けた。

 それからリーフの方を向いた。

「来るの?」

 リーフが前に出ると同時に、プリンがリーフの前に飛び出した。

「駄目よ! 駄目よ、リーフ! 来ないで!」

 不意を突かれたリーフはよろめき、足を滑らせ、重く倒れた。

 ヴァージニアはすぐにリーフを支えた後、ドアを見る。

 青白い石の上に高く刻んである溝の線が、揺らめいているように見えた。

 そして、ヴァージニアは突然、その線が何なのかに気づいた。

 その線は言葉だった。

 ヴァージニアは自分が見ているものが信じられず、瞬きをした。

 しかし、それは真実だった。

 文字はあまりにも長く引き伸ばされ、細くなっていたため、

 ヴァージニアはそれが単なる装飾に過ぎない事に気づいていなかった。

 しかし、下から見上げると、その言葉が読み取れた。

 

 死にたいやつは

 

「リーフ、ごめんなさい……」

 プリンは不安そうにリーフとヴァージニアを見ていた。

 バルダは石に手を置いて、三人を見つめていた。

 しかし、ジャスミンは苛立ちながら首を振り、ドアから入ろうとしていた。

「ジャスミン……」

「入ってはいけませんわ、ジャスミン! 罠ですわよ!」

 ヴァージニアは飛び出し、ジャスミンの手首を掴んだ。

 ジャスミンは叫び声を上げ、ドアの向こうにぽっかりと開いた穴に落ちようとした。

 ヴァージニアはギリギリのところでジャスミンの腕を掴んだ。

 穴は深かったが、ヴァージニアは底に白い光が見えた。

 それが骨だと気づき、胃がひっくり返った。

 間違いなく、他の侵入者の骨だ。

 仲間達が扉を開けようとしているのを、グノメ族は岩の覗き穴から見ていたのだろう。

 一人は、この致命的な犠牲者があと四人増えると思い込み、大声で笑っていた。

 ヴァージニアは怒りに歯を食いしばった。

「ぐっ……げ、限界になりそうですわよ……。リーフ、わたくしを引っ張って……!」

「俺を忘れたのか、ヴァージニア!」

「バルダさんも……!」

 リーフとバルダはジャスミンの腕を掴んでいるヴァージニアを引っ張り、

 安全な場所へと揺り動かしていた。

 

「一体どうすればいいですの……? あの扉に、死にたいやつはって書いてましたけど……」

「決まっている。扉の文字と逆の事をすればいいんだ」

「逆の事?」

「安全に入るためには、扉を押すんじゃなくて、引くんだ」

 

 四人はドアをカチッと閉まるまで引いた。

 それから四人は再び矢で鍵を開け、再び引いた。

 案の定、巨大な石は内側に引いたのと同じくらい簡単に外側に軋んだ。

 

「思った通りだ。穴は普段は蓋がしてあるけど、扉を押すと蓋が外れるんだ」

「奇妙な仕掛けだな。リーフ、君と俺が待たなかったら……」

「間違いなく、命はなかったでしょうね」

「ええ。グノメ族は賢いと言ったわ。グノメ族は賢くて、余所者を嫌い、残酷な悪戯が大好きよ。

 本当に、本当に用心深くなきゃ。

 もしまだ見ているなら、策略が失敗したと分かって、また何か企むわ」

 今回は誰もプリンに反論しなかった。

 命に係わる罠にかかった以上、プリンを信用せざるを得なかった。

 四人はドアに入り、盾で目の前の地面を叩いて安全を確認し何か動く音がないか耳を澄ませた。

 しかし、辺りは静まり返っていた。

 前方には、入り口から見ていた長いトンネルがあった。

 揺らめく松明の光に顔を曇らせながら、四人はトンネルを這い進み始めた。

 まっすぐ立っていられるのはジャスミンとプリンだけだったが、

 それでも頭を下げなければならなかった。

 すぐにトンネルは急に曲がり、そしてほぼ同時にまた曲がった。

 そして、四人と一頭は三つに分かれる場所に着いた。

 一つは左へ、一つは右へ、そして一つはまっすぐ前へ続いていた。

「どこに行けばいいんですの?」

「どの道が一番安全かなんて分からない。でも、まっすぐ前へ続く道を選んだ方がいいと思う。

 天井が高いから。他の二つを選べば、這って行かなきゃいけない」

 四人は進み続けた。

 それでも辺りは静まり返っていた。

 四人はすぐ先で、トンネルが再び急に右へ曲がっているのを見た。

「もしかしたら、グノメ族は私達が穴の中にいると思っているのかもしれないわね」

 角を曲がって薄暗い光の中へと進みながら、ジャスミンは低い声で言った。

「そうかもしれませんわね」

「でも、期待はできない、と俺は思うのだが……む」

「どうしましたの、バルダさん?」

 バルダは言葉を止め、急に立ち止まった。

 前方に人影がいくつかあり、四人の行く手を阻んでいた。

 バルダとリーフは剣、ヴァージニアはメイスを構えた。

 返ってきた光から、相手も武装している事が分かった。

 彼らの姿から、盾も持っていた。

「グノメ族よ、俺達は戦うために来たのではない。ただ、俺達の言う事を聞いてくれ。

 もし君達も武器を捨てるのなら、俺達も武器を捨てる」

 返事はなく、鋼鉄の煌めき以外、動きはなかった。

「怖がらせちゃいけないわ」

 ジャスミンは囁き、ヴァージニア達はゆっくりと再び前進し始めた。

 人影もまた動き、四人と歩調を合わせながら近づいてきた。

「どうして返事をしないんだ? 戦う気か? そうだとしたら準備はできているし、喜んでやる」

 バルダは歩調を速めた。

 ヴァージニア、リーフ、ジャスミンがバルダの後を追った。

 後ろでよろよろと歩きながら、プリンはすすり泣きを漏らした。

 間もなく、人影は四人のすぐ傍まで迫ってきた。

 まだ影のようだったが、大きく迫っていた。

 予想していたよりもずっと大きい。

 しかも四人もいる、とリーフは考え、剣を握りしめた。

 

「やるしかないんですの……?」

 リーフとヴァージニアは盾を掲げた。

 敵の一人も同じように掲げた。

「……バルダ、ヴァージニア、鏡だ! このトンネルは行き止まりだ!」

 背後からカチッという音が聞こえ、リーフの全身に悪寒が走った。

 リーフはくるりと振り返り、プリンに躓きながらプリンを押しのけ、

 プリンの背後にあるトンネルの天井から滑り出している金属製の扉に近づこうとした。

 しかし、遅すぎた。

 リーフがそこに辿り着いた時には、金属製のドアは既に閉ざされていた。

 四人は、空気の抜けた独房に閉じ込められていたのだ。

 墓のように脱出不可能な独房に……。




この世界にはたくさんの罠と危険な怪物がたくさんいる。
そんな世界に修道女が飛ばされたら、脱出したいという気持ちが湧きますよね。
次回はついに、グノメ族と直接遭遇します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。