後はこれを更新するだけなので、楽ですね。
四人は時間を忘れていた。
昼なのか夜なのかも分からなかった。
しかし実際には、洞窟に入ってからちょうど三日と五分後に、
扉の窓からシューという音が聞こえた。
鉄格子の隙間から覗いていたのは、最早苦痛に屈む事なく、まっすぐに立っている人物だった。
顔は毅然として決意に満ちていたが、リーフは窓に置かれた指が震えているのに気づいた。
「もう大丈夫だよ。でも、ジョーカーはまだキミ達を信じていないみたい。
ボクをトーラの街に連れて行くと約束するなら、助けるよ」
デインはヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンを牢獄から解放し、
四人を沈黙のうちにその先の暗い通路へと導く事を恐れていたのかもしれない。
いや、罪悪感と恥じらいを感じていたのかもしれない。
新たなトンネルに入り、外界へと続く小さな扉へと足を踏み入れた時、
デインは震えていたかもしれない。
それでも、デインはやり遂げた。
そしてついに、黒いビロードのテントに散りばめられた宝石のように輝く星々の下、
外の空気の中に立った時、彼は安堵のため息をついた。
「もう大丈夫だ。みんな、食べたり飲んだりしている。
寝る時間になるまで、誰も監視室に来ない。その頃には、ボク達はここから出られるかもね」
彼らは言葉を交わす間もなく、岩の上をよじ登り始めた。
緩い石の上で滑り、落ちないようにゴツゴツした茂みに掴まりながら。
要塞からかなり離れ、再び平地に戻った時、四人はようやく立ち止まり、話をした。
「トーラはここから川下へ何日もかかるところだ。行く時は十分注意しないと。
トル川には盗賊がうろついていて、オルが大勢で見回りをしている」
「なあ、デイン。トーラの何がそんなに特別なんだ? どうしてそこへ行きたいんだ?」
デインはリーフをじっと見つめた。
驚き、当惑、信じられない思い、そして最後に怒り。
デインの顔には様々な表情が浮かび、デインはゆっくりと立ち上がった。
「理由はよく分かっているだろう」
リーフを上から下まで見ながら、デインは言った。
「それでもボクを信用しないのか?」
デインは激しく首を左右に振った。
「キミのために民を裏切った。父のような存在だったジョーカーを裏切った!
それだけで証明するには不十分なのか?」
「静かにしろ。信用の問題じゃない。トーラの事はほとんど知らない」
「何も知らないわ」
「わたくしも」
「初めて会った時にあなたが名前を言うまで、聞いた事もなかったのよ」
「でも……」
デインは震える息を深く吸い込み、指の関節が白くなるまで両手を合わせた。
「わたくし達を騙しましたのね。行くって言ったでしょ?」
「何も言わなかった。君はトーラが目的地だとほのめかした。
俺達はただ、君の間違いを正さなかっただけだ」
デインは呻き声をあげ、両手で顔を埋めた。
辺りは暗く、デインは素早く動いたが、リーフは涙で光る黒い瞳が見えたような気がした。
リーフは罪悪感に苛まれ、慎重にデインの肩に手を置いた。
「川沿いにずっと海岸まで行く。もしトーラが川沿いかその近くなら、僕達が案内するよ」
両手で顔を覆ったまま、デインはゆっくりと首を左右に振った。
「初めてキミの事を聞いた時から――男と少年と修道女と、黒い鳥を連れた野育ちの少女。
キミ達が行くところ、影の大王の悪は正される。キミこそが大事だと考え始めた」
デインはかすれ、くぐもった声で言った。
「そしてジョーカーがキミが西へ向かっているという知らせを持ってきた時、ボクは確信した」
ジョーカーはすすり泣きをこらえた。
「そしてキミに出会った。運命だと思った。でも、全ては間違いだった。またしても間違いだ。
ああ、ボクは何も上手くできない! どうすればいいんだ?」
「何が困ってるのかちゃんと教えて。泣き叫んでも何もならないわ」
デインは顔を上げた。
ジャスミンの静けさはどんなに優しい同情も及ばないほど、デインを我に返らせたようだった。
デインは手の甲で目をこすり、涙を拭った。
「理由は言えないけど、トーラに行かなくちゃいけない。でも、ジョーカーがそれを禁じている。
最初は――盗賊が家族の農場を焼き、
瀕死の状態だったボクを見つけた時――力を取り戻さなければならないと言った。
それから、弓は使えるようになったものの、安全に旅をするにはもっと訓練が必要だと言った。
その後、ほんの少しの間だけボクの助けが必要だと言ったから、断る事はできなかった。
そしてついに、ボクが焦り始めると、トーラはボクや仲間の誰にとっても危険になりすぎた。
自分達がもっと強くなるまでは、とジョーカーは言った」
デインは言葉を止め、まるで気持ちを整理するかのように首を振った。
「奇遇ですわね。わたくしも、影の大王に操られた友達を助けに行くところですわ」
「……影の大王?」
デインはヴァージニアを一瞬だけ睨みつけた後、話を続けた。
「今、訪れれば確実に捕らえられ、レジスタンス全体にとって危険だと言っていた。
トーラには影の憲兵団がうようよしていて、スパイも集まっている。何故なら……」
声が途切れ、デインは唾を飲み込んだ。
「トーラはずっと王家に忠実だったからだ」
「そう!」
デインの目は鋭く、興奮していた。
リーフの脳裏で記憶が蘇った。
彼の父親のジャードが鍛冶場で真っ赤に焼けた鉄を打ちながら、
西の大都市トーラについて語っていた記憶だ。
ジャードはトーラは美しく、文化があり、強力な魔法を持つ場所だと言っていた。
賑やかなデルとその宮殿からは遠く離れているが、
王家への忠誠心は揺るぎないものだと言っていた。
リーフは、ジャードがずっと昔、宮殿の図書館で見た絵について語っていた事を思い出した。
それは大勢の人々が描かれた絵だった。
皆、背が高く、すらりとしており、
長く滑らかな顔立ち、つり上がった眉、黒い瞳、そして輝く黒髪をしていた。
色とりどりのローブを纏い、深い袖は地面まで届いていた。
両手を胸に当てていた。
彼らは皆、頂上から緑色の炎が空高く噴き出す巨大な岩に顔を向けていた。
岩の脇には謙虚に頭を下げ、粗末な作業服を着てデルトラのベルトを締めた大男が立っていた。
美しい黒髪の女が大男の腕に手を置き、隣に立っていた。
「アディンはトーラ族の女を愛し、トーラ族の女もまた、アディンを愛していた」
リーフはゆっくりと言った。
「アディンが国王と宣言されると、女はアディンと共にデルへと赴き、アディンを伴侶とした。
出発の日、トーラ族はアディンと、彼の後を継ぐ全ての者達に忠誠を誓った。
他の部族も同じ事をしたが、その中で最も偉大なトーラ族は、
街の中心にそびえる燃え盛る岩に誓いを刻み、決して解けない呪文をかけたのだ」
リーフはヴァージニア、バルダとジャスミンの目を見つめ、三人の間に同じ考えが浮かんだ。
王位継承者を隠すのに、トーラ以上に完璧な場所はどこだろうか、とリーフは思った。
「デルからトーラまでは遠い」
バルダは、デインに意味を悟られないよう言葉を選びながら声に出して言った。
「危険な旅路だ。だが、そこに着けば……」
リーフの目が静かに答えた。
そこに着けば、エンドン国王はきっと助けを得られるはずだった。
トーラは、エンドン国王とシャーン王妃、そして赤ん坊を守るためなら、
どんな事でも、どんな危険も冒しても、あらゆる手を尽くしただろう。
そして彼らには、それを実行できるだけの魔力があった。
影の大王がどんな脅威を与えようとも、どんな破壊を引き起こしようとも。
「それなら、トーラの事を知ってるのか!」
デインは顔を輝かせながら叫んだ。
「今とは違う。僕は大昔の物語しか知らない。
僕が生まれる前から、西からデルに伝わった知らせはない」
「そうだ。ジョーカーもトーラの魔法には手を出さない。
かつて、トーラ族は魔法に頼って生きてきたが、それは叶わなかったと。
トーラ族は自らの足で立ち、知恵と勇気と力で影の大王と戦わなければならないと」
「それだけじゃ足りないって分かってますわよね?」
「デイン、君の言う通りだ。敵の力は魔法で得たものだ」
「多分、ワソを操ったのもその魔法のせいですわ」
「並大抵の力では、どんなに強い意志を持っていても、
影の大王の悪事をいくらかは帳消しにできるかもしれないが、完全に打ち負かす事はできない」
ジャスミンは一人ずつ話者を見ながら、話を聞いていた。
そして今、ジャスミンが口を開いた。
「並大抵の力では影の大王を倒せないかもしれないわ。
でも、普通に考えたら、ここからどう進むべきかは分かるわ。
明らかに、私達は敵が厳重に監視している領域へと足を踏み入れようとしている。
噂に聞いていたあの集団――男と少年と修道女、黒い鳥を連れた野育ちの少女――を、
多くの目が注視しているでしょうね」
ジャスミンは苦笑いを浮かべながら、最後の言葉を言った。
リーフは口を挟もうとしたが、手を上げて止めた。
「気づかれないようにするには、私達は別れきゃいけないわ。
クリーと私が目立っているから、別の道を進まなきゃ」
ジャスミンは鞄を背負った。
クリーは飛んでジャスミンの腕に止まった。
フィリは怯えた声で言った。
「待って、ジャスミン!」
「ボク達を置いて行かないで!」
ジャスミンはバルダの方を向いた。
「私が正しいでしょ? ちゃんと伝えて!」
バルダは躊躇ったが、悲しげな顔つきは、
ジャスミンの言い分が正しい事を分かっている事を示していた。
そして、ジャスミンは軽やかに頷いた。
「それで決まりね。全てが上手くいったら、川の端の海岸で会いましょう」
「……そうですわね、ジャスミン」
ジャスミンは別れの挨拶に片手を挙げ、暗闇の中へと足早に去っていった。
リーフは叫び声を上げてジャスミンを追いかけた。
しかし、ジャスミンは呼びかけに応じず、リーフはジャスミンを捕まえる事ができなかった。
すぐにジャスミンは木々の間の揺らめく影となり、そして姿を消した。
「行っちゃいましたわね、ジャスミン」
ヴァージニア、バルダ、リーフ、そしてデインは、
川岸に生い茂る木々の間を這いながら、川を辿っていた。
ジャスミンが去ってから何日も経っていたが、
リーフはジャスミンの気配を絶えず探していたものの、今のところ何も見つかっていない。
フィリの柔らかな話し声や、頭上でクリーの鳴き声も聞こえず、
ジャスミンなしで旅をするのは奇妙で退屈だった。
デインは、いざという時にはいつも頼りになるが、ジャスミンの代わりはできない。
ヴァージニアなら奇跡が使えるため、まだマシだが……。
リーフは自分とバルダが、迫りくる危険を察知するために、
ジャスミンの鋭い目と聴覚にどれほど頼っていたかを自覚し、不安になった。
危険は山ほどあったからだ。
盗賊に不意を突かれ、木から飛び降りてきたため、
ヴァージニア達は二度、命からがら戦わなければならなかった。
海賊船が通り過ぎる際に、四度、間一髪で身を隠した。
あらゆる雑多な部品を継ぎ接ぎにしれた、大きくて傷んだ木造船で、
中には布切れを粗雑に縫い合わせた帆のものもあった。
帆を揚げたり、粗末な板の上で眠ったり、長い櫂を漕いだりする悪党達は、
彼らの船の素材と同じくらい雑多だった。
彼らは体格も色も形も様々だったが、皆、野蛮で飢えたような表情をしていた。
服はぼろぼろで汚れ、髪は乱れていたが、
ベルトに下げたナイフ、剣、斧は太陽の光に鋭く輝いていた。
それぞれのマストの頂上には、ロープで縛られたり、
革の吊り紐で支えられたりした人影が一人、揺れていた。
その高い場所から、手や帽子、あるいは木の葉の枝で遮られた鋭い目が、
川岸と前方の水面をじっと見つめていた。
「ジャスミンを信じなさい。ジャスミンなら勇敢ですから、大丈夫ですわ」
「……そうだね」
ヴァージニアは、リーフを勇気づけた。
盗賊達は他の船が略奪するための、守られていない村を探していた。
この地、山々や水源となる小川から遠く離れた場所で、
川の流れは緩やかに、狭く、曲がりくねっていた。
黒っぽく油っぽく、不気味な泡が点在していた。
死と腐敗の臭いが霧のように漂っていた。
腐りかけた木材、ぼろ布、その他様々なゴミが流れに浮かんでいた。
さらに不気味な浮遊物もあった。
時折、死体が水面直下を漂い、その周りの水は渦を巻き、泡立ち、
身をよじる川の生き物達が目に見えないところで食事をしていた。
「もしかしたら、この辺にオルがいるかもしれない」
「オルはどこにでもいるんでしょう?」
デインはヴァージニアの言葉に頷いた。
ある晩、リーフ、バルダ、デイン、ヴァージニアが夜のために休んでいた時、
真っ白な二羽の美しい水鳥が葦の中を岸まで歩いてきた。
優雅な首を曲げて、まるで餌をねだっているかのようだった。
しかし、リーフが投げる食べ残しには耳を貸さず、ただじっと見つめていた。
そして、彼らが飛び立とうと翼を広げた時、
リーフはそれぞれの側面にある黒い斑点を見て、それが何なのかに気づいた。
(あの水鳥はオルだ)
しかし、男と二人の少年と修道女は、水鳥に変身したオルにとって何の興味も持たなかった。
水鳥に変身したオルは、探し出して倒すよう命じられた男、少年、修道女、少女、
そして黒い鳥を探し求めて、先へ進んでいた。
リーフは胃がむかむかするのを感じながら、仰向けに寝そべり、月の輝きを見つめていた。
三日後には満月になるのに、今も月は大きく輝き、暗闇を照らしていた。
茂みはどれも明るく見え、木々は全て見渡せる。
隠れる場所などなかった。
ジャスミンの言う通りだった。
彼女とクリーの存在こそが、ヴァージニア達を際立たせていた。
だが、もしオルがクリーを傍らに置き、ジャスミン一人だけを見つけたら、襲わないだろうか。
今、真の危険に晒されているのはジャスミンなのだ。
(どうか無事でいてください、ジャスミン!)
ヴァージニアはジャスミンの無事を祈った。
もし全員がこの試練を乗り越えれば、二度と仲間はバラバラにはならないと心に誓った。
慎重さは確かに素晴らしい。
だが、もっと重要な事があった。
翌朝、ヴァージニア達はトルに流れ込む別の川に架かる橋に辿り着いた。
橋は船が下を通れるように高くアーチを描いており、
修繕は進んでいたものの、渡るのには十分安全そうだった。
対岸には、二つの川に挟まれた角にひっそりと佇む小さな村があった。
そこは人影もまばらだった。
「ここがはばひろ川だと思う」
デインは橋を渡りながら、ゆっくりと流れる水を見下ろしながら言った。
「リスメアへ行く途中で、少しは見えたはずだ」
「ああ、そうだ」
バーダは険しい笑みを浮かべて答えた。
「そして、感じたんだ。望んでいた以上に。つまり、ここで終わりか」
四人は橋の端に辿り着き、村に向かって歩き始めた。
村を恐ろしい災害が襲った事が、今になってはっきりと分かった。
多くの家が焼け落ち、窓ガラスは割れ、瓦礫と割れたガラスが狭い通りに散乱していた。
「一体誰がこんな事をしたんですの?」
「十中八九盗賊だろうな」
前方に地面から柱が突き出ていた。
そこに着くと、かつては看板が立っていたのが分かった。
看板は今、端が折れ、勇敢な文字もぼやけて地面に転がっていた。
「ジョーカーがこの場所について話すのを聞いた事がある。
人々は勇敢で善良な心を持っていると言っていた。
安全のために、彼らに仲間になってほしいと思っていた。
だが、彼らは盗賊に村を明け渡さなかった。最後の息をかけてでも守ると彼らは言ったのだ」
「どうやらそうしたようだな」
バルダの声は怒りに満ちていた。
リーフとヴァージニアが背を向けようとした時、
板の上端に沿って、厚手の黄色い編み毛の切れ端が剥き出しの地面に落ちているのが見えた。
彼はそれを拾おうとしゃがみ込んだが、それが規則正しく並んでいるのを見て手を引っ込めた。
「バルダ! ジャスミンがここに来たぞ!」
「えっ! 本当ですの?」
「もしかしたら、ジャスミンはまだここにいるかもしれない。
ジャスミンが残してくれたかもしれない!
ほら、ジャスミンは名前の最初の文字を書いた。そしてクリーのために鳥の絵も。
他の印は、ジャスミンがどこに隠れているのかを示しているに違いない」
バルダは地面の図形を見つめた。
「円は建物の一部かもしれない。でも、3は何だろう?」
「ドアの数字かもしれない!」
リーフは立ち上がり、新たな活力に満ち溢れて辺りを見回した。
デインに付き従い、三人は村の探検を始めた。
それは気が滅入る作業で、リーフの興奮はすぐに冷めてしまった。
明らかに、かつては賑やかで繁栄した小さな町だった。
今や、至るところに暴力と流血の痕跡が残っていた。
酒場、集会場、あらゆる家屋、あらゆる店が略奪され、価値あるものは全て奪われていた。
侵入者の中には、居間、寝室、廊下の壁に勝ち誇ったように名前を殴り書きした者もいた。
「ナック」という名前が、血痕のような跡に二度も、何度も現れた。
しかし、他にも名前があった。
「フィン」も一つ、「ミルン」も一つ。
リーフは憎しみの眼差しで、その落書きを見つめた。
「ナック、フィン、ミルン、君達の名前は覚えておこう。
君達はオルでも影の憲兵団でもない。影の大王のしもべでもない。
君達は自分の行動を自由に選べるけど、同胞を餌食にする事を選んだ。
盗み、破壊し、殺す事を選んだ。いつか君達に会える事を願っている。
その時、君達に報いを与えよう」
「こ、この世界の脅威は、怪物だけじゃないんですのね……」
あまりに凄惨な光景に、ヴァージニアは口を左手で押さえた。
ヴァージニアはデルトラの世界に来てから、てっきり脅威が怪物しかいないのかと思っていた。
盗賊も、デルトラの世界にある脅威の一つだったのだ。
四人は重い気持ちで捜索を終えた。
円形の中庭があり、円形の窓枠もいくつかあった。
しかし、数字は全くなく、ジャスミンの姿もなかった。
リーフは最後の家の前に立ち止まった。
その家の扉には新月が彫ってあった。
「満月の月は円だ。もしかしてジャスミンは……?」
そこでリーフは言葉を切った。
ジャスミンのメッセージの真の意味にようやく気づいたのだ。
自分の遅さに苛立ち、首を振った。
「時間の無駄でしたわね」
「ああ。ジャスミンはとっくにいなくなっている。
標識は、ジャスミンが出会う場所のどこにいるかではなく、
いつここにいたかを教えてくれている。
丸は満月だ。それからマイナス記号と数字の3。
ジャスミンは昨日、ここにいたんだ。満月の3日前だ!」
「ああ……それから?」
突然、バルダは警戒した様子を見せ、指を唇に当てて耳を澄ませた。
ヴァージニアとリーフも耳を澄ませると、思いもよらない音が聞こえてきた。
たくさんの小さな鈴がチリンチリンと鳴り響き、次第に大きくなっていた。
そして、さらに驚くべき事に、誰かが陽気に歌っている声が響いていた。
「むかし むかし そのむかし まぬけな オルがいたんだぜ ホイ
まぬけといっても そこはオル しょうたいバレれば おそろしい~♪」
太った老馬が引くみすぼらしい隊商が、はばひろ川沿いの道を村へとゆっくりと進んでいた。
リーフは最初、運転席に二人の人影が座っていると思った。
しかし、隊商が近づくにつれ、それが間違いだった事に気づいた。
そこにいたのは一人だけだった。
金髪で褐色の肌に大柄な男が、甲高く、なかなか意外な歌を歌っていたのだ。
リーフは衝動的に前に進んだ。
「ちょっとお待ちなさい。オルかもしれませんわよ……?」
ヴァージニアの言葉にリーフは頷き、その場に留まった。
しかし、隊商が廃墟となった町の看板に近づくにつれ、男の歌がかすれ、
その広い顔に浮かぶ悲しみを見て、リーフはもうこれ以上待つ気にはなれなかった。
男は四人が影から現れるのを見て、口をあんぐりと下げた。
「ああ。これはまずい」
男は隊商から降り、辺りを見回し、荒廃した光景を目に焼き付けた。
「でも、驚いてはいませんよ。
何年も毎年、巡回でここに来ているんですが、
そのたびにまさにこれを見つけるんじゃないかと不安だったんです。
私は彼らに警告したんです。『諦めろ、友よ。先へ進め! 命は尊い!』と言ったんです。
でも、彼らは無謀にも進んだ……」
男は大きな手で目をこすった。
「巡回って言ってるじゃないですか。どんな巡回ですか?」
「ええ、私は行商人のルーカスでございます」
ルーカスという男は荷馬車の色褪せた文字を指差した。
「やあ、ルーカス。ボクを知らないのか?」
デインがそう言うと、ルーカスの顔がほころび、ニヤリと笑った。
「坊や! あそこで君を見かけましたが、この仲間に知られたくないかと思いましたよ」
「彼らは友達です。トーラへ行くのを手伝ってくれているんです、ルーカス。
ついにそこへ行けるんです」
デインがそう言うと、ルーカスのニヤリと笑っていた顔が消えた。
「これは悪い知らせです。どうして安全な場所に留まらないんですか?
この地域は旅人に優しくないんですよ」
「なのに毎日旅をしているじゃないか」
ルーカスは大きく肩を竦め、リーフはじっと見つめた。
彼は武器を持たず、老馬を除けば全く一人きりのようだった。
確かに大柄だったが、その愛想の良い、無表情な顔は戦士の顔には全く見えなかった。
「ルーカスにはスカールという双子の兄弟がいるんだ」
「スカールに会いたいですか?」
「いや、いや。邪魔するなんて考えられない」
ヴァージニア、リーフ、バルダが何か言う前にデインは叫んだ。
「でも、帰る前に、旅の必需品を買っておきたいんだ、ルーカス」
「お役に立てて光栄です」
ルーカスはキャラバンの後部へと大股で歩み寄り、ドアを勢いよく開けた。
そこは小さな店のように整っており、衣類や日用品が所狭しと並んでいた。
いずれにせよ、兄弟はここに隠れているはずがない、とリーフは思った。
(一体何を買えばいいんですの?)
ヴァージニアは、デインが不要な小さな鍋を買うのを見ていた。
すると、ルーカスはデインの方を向いた。
「それで、あなたは何をお望みですか?」
リーフは金貨を差し出し、キャラメルの小さな袋がたくさん入った籠を指差した。
ルーカスは眉を上げたが、金貨を受け取ると、2袋をリーフに投げた。
ヴァージニアは金貨5枚で聖印を買ったので、次はバルダの番だった。
リーフとヴァージニアが驚いた事に、
バルダは鈍い金色と茶色の葉の模様が刺繍された幅広の布ベルトを指差した。
「もしそれが予算の範囲内なら、ください」
「お目が高いですね」
ルーカスはベルトをフックから外しながら言った。
「それから、デインの友人であるあなたには、銀貨3枚だけ」
ルーカスはバルダのウエストを目で測った。
「でも、少しきついと思うかもしれない」
「これは俺のものじゃない。贈り物だ」
バルダはお金を数えながら言った。
ルーカスは頷き、ベルトを渡した。
「そうですね。旅が全く実りがなかったわけではありません。それはそれで良かった。
ですが、この場所は私を悲しくさせます。それは許せない。もうここには留まりません」
ドアを閉めようと背を向けると、ルーカスは独り言を言い始めた。
奇妙な人物だ、とリーフは思った。
少し気が狂っているようにも見える。
ルーカスが話しているこの兄弟はどうやらルーカスの空想の中にしか存在しないようだからだ。
もしかしたらスカールが死んで、それがルーカスの正気を失わせたのかもしれない。
ルーカスはドアの閂をかけ終え、キャラバンの前へと歩み寄った。
運転席に上がろうとステップに足を踏み入れると、デインの方を振り返った。
「トーラの事は今は諦めてください、デインの坊や。一緒に来てください」
ルーカスは友好的な手を差し出した。
「シートには君のためのスペースがあります。
もうすぐ君の友人達と会って、荷物を届ける予定です。君も一緒に要塞に戻れるでしょう」
「ルーカス、お申し出に心から感謝します。しかし、お受けできません」
デインは首を横に振った。
ルーカスは残念そうな顔をしたが、肩を竦めて登り切った。
無事に運転席に戻ると、屈んで下を探った。
カチャカチャという音がして、ようやく小さな瓶を取り出し、それをデインに渡した。
「お礼を申し上げます。旅の足しになりますように」
デインがどもりながら感謝の言葉を述べると、リーフは不思議そうに瓶を見た。
見慣れたラベルを見て、少し驚いた。
ルーカスはリーフが見ているのに気づき、鼻の横に指を当てた。
「一言も」
ルーカスは馬に向かってカチッと音を立てた。
キャラバンはガタガタと進み、ゆっくりと方向転換して来た道を向き直った。
ヴァージニア、リーフ、バルダ、デインは別れの挨拶に手を挙げた。
ルーカスはにっこりと笑って手を振った。
それからルーカスはチリンチリンと鳴る手綱を振り、キャラバンは軋みながら出発した。
「ルーカスは女王蜂の蜂蜜を売っているんですの?」
「でも、品薄だと思っていたんだ」
「レジスタンスにしか売っていないんだ」
デインは瓶を見下ろしながら言った。
「しかも、蜂蜜の値段のほんの一部しかつけない。分からないのか?
ルーカスはただの行商人じゃない。女王蜂の息子なんだ」
ヴァージニアとリーフは息を呑んだ。
「でも、兄弟の話は一体何だったんだ? ルーカスは一人だったんだぞ!」
バルダが問い詰めると、デインの顔に、かすかな影が差したようだった。
「ルーカスは決して一人じゃない。スカールはいつもルーカスと一緒だ。
だが、スカールは会いたくない奴だ。一度しか会った事がないが、二度と会いたくない」
三人が見つめ合う中、デインはキャラバンの方を振り返った。
「スカールはルーカスか、自分の親しい人が脅かされた時にだけ姿を現す。
大抵はルーカスの中にいる」
バルダは苛立たしげに首を振った。
「中には誰もいなかった! キャラバンには売り物しか積んでなかった」
「キャラバンの中にはいなかった。ルーカス自身の中にいた」
「えっ、幽霊じゃなくて……?」
リーフとヴァージニアは首筋の毛が逆立つのを感じた。
二人は道の先をじっと見つめた。
キャラバンは細かい埃にほとんど隠れていた。
しかし、馬の手綱の鈴の音が聞こえてきた。
そして、鈴の音に混じって歌声が聞こえてきた。
しかし今回は、リーフは声が一つではなく二つあったと断言できた。
元々のタイトルは「ジャスミンとのしばしの別れ」でしたが、
タイトルが硬すぎるので児童書らしくないと思って、アニメ版っぽく変更しました。
というよりパソコンのバックアップでトラブルが起きたからです。
ヴァージニアもこの世界で色んな脅威を知るそうです。
デルトラの世界の脅威は怪物だけじゃないのです。