しかし、6つ目の魔境「魔物の洞窟」の怪物と遭遇し……?
「借りはしっかり返しましたわよ」
リーフ達の後ろからヴァージニアの声が聞こえる。
ヴァージニアはネズミの街でワソに大蛇リアの生贄として連れ去られたが、リーフ達が助けた。
だから今度は、盗賊に捕らえられたリーフ達を、クリーの案内でヴァージニアが助けたのだ。
「ありがとう……でも、今は嬉しい気分じゃないんだ。僕達を……」
「何ですって!? グルーの生贄に!?」
「静かにしてと言ったのは君だろう」
ヴァージニアは思わず感情的になって、自分が隠密行動している事をすっかり忘れてしまった。
しかし、周りは夜なので、幸いにも誰も気付かなかったようだ。
「それにしても、グルーはどんな怪物ですの?」
様々な音が響いた。
ミルンがどうしようもない恐怖に嗚咽する音。
石が元の位置に戻る時の、上から聞こえるかすかな笑い声。
水滴が滴る音が、果てしなく曲がりくねった空間にこだまする。
そして、もっと酷い音がする。
何か巨大なものが、ねばねばと、こっそりと滑り、かき混ぜる音。
リーフは目を開けた。
これから何を見るかは分かっていた。
不気味な青みがかった光。
屋根から垂れ下がり、滴る巨大な石の槍。
床からそびえ立つ、太くゴツゴツした柱。
ねじれた柱は、まるで水が固まったかのように、波立ち、溝を刻んでいる。
きらめく、隆起した壁からは、乳白色の液体が流れ出ている。
そこは、六つ目の魔境、魔物の洞窟だ。
リーフは肩の痛みに顔をしかめながら振り返った。
ヴァージニア、バルダ、ジャスミンは茫然と辺りを見回し、直立して這っていた。
ミルンは足元の水の中で、体をよじり、転げ回っていた。
滑る音はますます大きくなった。
「来る! グルーが来る!」
ミルンはすすり泣いた。
ジャスミンはブーツから短剣をひったくると、くるりと振り回し、最初はあちこちを向いた。
「どこから来るのか分からない! 私達の周りじゅうから来ているみたい。どっちから?」
怪物のような肉が滑る音が至るところで響いていた。
そして彼らはそれを見た。
巨大な、ナメクジのような怪物が、
病的なほど青白く、こちらに向かってじわじわと近づいてくる。
這い進む広大な通路を埋め尽くし、膨れ上がった体は恐ろしく波打ち、
小さな目が恐ろしい頭のてっぺんにある茎の先で揺れ動いていた。
「わ、わたくし、何をしてたんですの……?」
ウネウネした怪物の身体を間近で見たヴァージニアは、
自分の大切なものが抜け落ちてしまったような感覚を抱いた。
ついさっきまでリーフ達を助けようとした事も、
リーフ達が盗賊に襲われた事も、オルが変身していたバルダを倒した事も。
恐怖が、ヴァージニアの意識を支配し、五感を麻痺させる。
グルーの姿が、心臓を直接掴まれたかのように響き渡り、
ヴァージニアは全身の力が抜けていくのを感じた。
「まさか、ヴァージニアは記憶を失ったのか?」
「うわぁぁぁぁ!」
恐怖に呻きながら、ミルンはよろめきながら立ち上がった。
グルーは頭を擡げ、前に突進した。
棘の先端を持つ尻尾が激しく動き、血のように赤い口が大きく口を開けた。
背中にまだら模様の縞模様が浮かび上がった。
胸の奥深くで、ゴボゴボと、吸い込まれるような音が響き始めた。
そして、突然、喉から細い白い糸が噴き出し、ミルンを狙った。
叫び声を上げながら、ミルンは腕を振り回して避けた。
糸のほとんどはミルンには届かなかったが、数本が片方の手と肩に流れ込み、
それらを鋼鉄のロープのように絡み合わせた。
ミルンはよろめいて倒れ、手を自由にしようともがきながら、水中で転がり、足を蹴った。
「起きて!」
ジャスミンは叫び、手を差し伸べながらミルンに向かって飛びかかった。
グルーはのたうち回り、後ろ足で立ち上がった。
背中の縞模様は邪悪な光のように輝き、頭の柄は動き、傾き、
冷たく虚ろな目がジャスミンを見つめていた。
ジャスミンは追い返そうと斬りつけた。
血のように赤い顎が開いた。
ゴボゴボという重苦しい音が再び鳴り始めた。
ジャスミンはなおもミルンに手を伸ばした。
ミルンはそれでも叫び、どうしようもないパニックに身をよじった。
「ジャスミン、駄目だ! 助けられない!」
バルダはジャスミンの腰を掴み、ジャスミンを後ろに揺らした。
その時、グルーが再び襲いかかった。
白い糸が、グルーの喉から流れ落ち、ミルンの頭と首を硬直する白い糸で覆った。
ミルンは半ば目が見えなくなり、恐怖に狂い、もがきながら立ち上がると、
水しぶきを上げながら逃げ出した。
片腕は曲がり、青く照らされた洞窟の深淵に突き落とされた。
「……そんな……」
グルーは立ち止まり、眼柄を揺らした。
四人が凍りついていると、グルーは苦もなく巨大な体を回し、
まるで油でできたかのように軽々と二本の柱の間の狭い隙間をすり抜け、ミルンを追いかけた。
「今がチャンスよ。早く! ここは新鮮な空気が流れてるわ。空気があれば、出口はある!」
「短剣を貸してくれ!」
リーフは息を呑み、刺繍のベルトを引き抜いた。
ジャスミンは言葉もなく、その武器をリーフの手に押し込んだ。
リーフは鋭い先端をベルトの布地に突き刺し、刺繍を引き裂いた。
デルトラのベルトがリーフの手の中に滑り込んだ。
ほんの一瞬、彼はそれを見つめた。
それはとても美しく、とても貴重だった。
しかし、ルビーは青白く、エメラルドは鈍い色をしていた。
「……リーフ!」
リーフはベルトを腰にしっかりと巻き付けた。
彼はそれを握りしめ、慣れ親しんだ重みと温かさに力を込めた。
もしかしたら、今となっては、それは決して完成しないかもしれない。
しかし、完成したままでも、それは力を持っていた。
トパーズはリーフの指を通して、明るく豊かな金色に輝いていた。
トパーズ、その威力、満月に向かいて増す。
精神を強め、心の目を洗い清める石なり。
「ここは満月……だと思いますわ……」
月は高く上空にあり、荒れ狂う海と岩山に遮られていたが、それでもその力は石に届いていた。
リーフは混乱と恐怖の霧が晴れていくにつれ、心が澄み渡り、研ぎ澄まされるのを感じた。
「こっちだ!」
リーフは叫び、ミルンが去った場所から離れる通路を指差した。
「だが、ゆっくりと、慎重に。
グルーの感覚は鈍いけど、蜘蛛が巣の中でもがく虫を感知するように、
魔物の洞窟の中で動きを感知する。
だからこそ、留まって攻撃するんじゃなくて、ミルンを追いかけたんだ」
本能が「逃げろ」と告げているのに、ゆっくりと動くのは苦痛だった。
四人は通路から通路へと、曲がりくねりながらゆっくりと進んだ。
ヴァージニアも含めた一行は手と顔を濡らし、
ひび割れや隙間、出口を知らせてくれる涼しい息吹をもっと感じようとした。
ついに、四人はもうこれ以上歩けなくなった。
ゴツゴツと水滴が滴る二つの壁の間の狭い空間に身を寄せた。
そこで四人は息を切らし、震えながら休んだ。
片方の壁は背中に強く押し付けられ、もう片方は顔から片手の幅ほどの近さだった。
ミルンの叫び声と水しぶきの音が空中に響き、反響した。
彼はまだ走り続け、迷路のどこかに迷い込んでいた。
そして、グルーの恐ろしい音は止まらなかった。
「動きが遅いわね。どうして捕まえられるっていうの?」
ジャスミンは耳を澄ませながら囁いた。
「ただ追いかけて、待つしかないんだ。
たとえ間違えずに、どこかの角で顔を突き合わせても、遅かれ早かれ休まなければならない」
「……」
バルダの声は奇妙に聞こえた。
リーフはちらりとバルダを見た。
バルダは目の前の壁を見つめ、慎重に手を上げ、光り輝く石にゆっくりと形をなぞった。
骨ばった腕、五本の指、頭蓋骨、その口は静かな叫び声を上げていた。
「ここに休憩のために立ち止まった者がいる。だが、長く立ち止まりすぎた」
バルダは首を捻り、肩越しに振り返った。
乳白色の雫がバルダの背中の壁をゆっくりと、絶え間なく流れ落ちていた。
既にそれらは、バルダの肩に溜まり、細かい石の皮膜となっていた。
「見つかりましたわ!」
恐怖の叫び声を上げ、ヴァージニア、リーフ、ジャスミンは身を乗り出した。
乾きかけていた石が割れて背中や肩から滑り落ち、足元の水面に飛び散った。
三人は隠れ場所からそっと顔を出し、振り返ると、壁に自分達の姿が刻まれていた。
「俺達が閉じ込められるまで、どれくらいの時間がかかったんだ?
一時間くらいだろうか? もっと短かったかもしれない。眠っていたら……」
三人は再び動き始めた。
そして今、三人は壁や柱、支柱に刻んだ歪んだ形、瘤や隆起を、ありのままに理解した。
見渡す限り死者の骨が転がっていた。
爪を立てた手、大の字になった脚、恐怖に叫びを上げているような頭蓋骨。
ヴァージニアは何とか耐えたが、リーフは全身が震えているのを感じた。
目を覚ましたら壁の石に閉じ込められているという恐怖を想像した。
グルーがゆっくりとこちらに向かってくる中、もがき……そんな姿を想像した。
「休んではいけない。眠ってはいけない」
四人はできるだけ身動きを取らないように、顔を壁に向け、両手を前に突き出し、這い進んだ。
しばらくすると、リーフの思考は彷徨う靄となった。
水、白い壁、果てしない動き、言葉のもや。
(休むな、眠るな……)
リーフは頭を前に倒し、ハッと目を覚ました。
まばたきをして混乱し、夢の中を歩いていた事に気づいた。
どれくらいの時間が経ったのか、全く分からなかった。
「ミルン?」
リーフはぼんやりと、ミルンの叫び声と水しぶきが止まっている事に気づいた。
もしかしたら、ずっと前に止まっていたのかもしれない。
そしてもし、ミルンが走るのをやめたなら、あの怪物はどこにいるのだろうか。
額に汗がにじみ出る中、リーフは反響音に耳を澄ませ、
ついに滴る水に混じる、柔らかくも恐ろしい音を聞き取った。
それは先程聞いた、ベタベタと滑る音ではなく、
首筋の毛が逆立つような、静かな溜息のような、吸い込まれるような音だった。
「ヴァージニア、バルダ、ジャスミン……」
リーフは言うが、三人は返事をしなかった。
三人は動いたが、目は凝視され、ぼんやりとしていた。
リーフと同じように、彼らは夢を見ているような状態だった。
「……」
リーフは息を吸って、もう一度口を開いた。
その時、突然、まるで炎が指先から顔まで駆け抜けたかのようだった。
ベルトが熱くなっていた。
リーフは驚きと信じられない思いで立ち止まった。
丸い石柱がリーフの傍らに立っていた。
リーフは慎重にそこへ近づいた。
ベルトはさらに熱くなり、指の下で燃えるように熱くなった。
間違いなく、六つ目の宝石が隠されているのだ。
ヴァージニア、バルダ、ジャスミンは角を曲がり、視界から消えようとしていた。
リーフは呼びかけながら、無謀にも水しぶきを上げ、三人を止めようとした。
(しまった!)
そしてリーフは凍りついた。
目の前にグルーがいたからだ。
膨れ上がった体は波打ってうねり、頭部は見えなかった。
そして、うねる肉の山から、あの柔らかくも恐ろしい音が響いた。
ヴァージニアは慌てて目を背けるが、同時に音は止まった。
体は動きを止め、頭をもたげて四人の方を向いた。
大きく口を開けた口からは血が滴っていた。
グルーは、これまで貪り食っていたミルンの残骸から、新たな騒動へと這い進み始めた。
棘のある尾が上向きに反り返り、背中の縞模様が光り始めた。
そして、喉から白い糸がシューシューと音を立てながら、突進してきた。
「ミルンは食べられたんですの……? 本当に、生贄に……」
ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは後ろに身を投げ出し、
水に落ち、再び這い上がっては飛び去った。
グルーは先へ進み、少し速くなった。
四人は丸い石柱に辿り着いた。
リーフはそれを掴んだ。
腰のベルトが燃えていた。
「ヴァージニア、バルダ、ジャスミン、宝石はここにある、石の中に!」
バルダ、ジャスミン、ヴァージニアは信じられないといった様子で振り返った。
リーフは激しく頷いた。
「僕達は騙されていた。宝石はずっとここにあったんだ」
「リーフ、逃げなきゃ!」
ジャスミンはリーフの腕を引っ張りながら促した。
彼女の目は、腫れ上がり、恐ろしいグルーの胸の奥底で泡立つ音に向けられていた。
「駄目だ! 今ここを離れたら、二度と見つけられない!」
リーフは柱にしがみつきながら叫んだ。
「ここにいたら死ぬわ! リーフ!」
ジャスミンは悲鳴を上げるが、バルダはジャスミンの肩を掴んだ。
バルダの顔は険しく、硬直していた。
「ジャスミンと俺がグルーを引き離す。リーフはヴァージニアを守ってくれ。
それから宝石を手に入れて、脱出方法を見つけるんだ。ジャスミン! 短剣を!」
「駄目だ! 一緒にいなきゃ!」
ジャスミンが武器を渡すと、リーフは叫んだ。
しかし、バルダは既にジャスミンを引き離していた。
ジャスミンはジャケットの中を手探りしていた。
そしてようやく、黄色い毛糸の玉を取り出した。
バルダの手を振り払い、ジャスミンはリーフの傍らへ飛び戻り、走りながら毛糸の跡を引いた。
「水が出会う場所で見つけたの。しっかり持って! これがあなたへの綱になるのよ」
ジャスミンは毛糸の端をリーフの手に押し付けた。
ヴァージニアはリーフの後ろに隠れていた。
「気をつけろ!」
バルダが怒鳴ると、ヴァージニアとリーフは石の後ろに隠れた。
ジャスミンは飛び退いた。
またもや白い糸が飛び散り、四人に向かって飛びかかり、四人のすぐ手前で水に落ちた。
ジャスミンは振り返り、水しぶきを上げながらバルダの元へ走り戻り、毛糸の跡を残した。
二人は肩を並べて水の中を歩き続け、洞窟を進んだ。
それからは、水の音、屋根から滴る水音、そしてゆっくりと、ゆっくりと、
グルーが忍び足で滑っていく音だけが聞こえた。
リーフとヴァージニアは息を止めてしゃがみ込んだ。
グルーが二人の横を通り過ぎると、肉厚な茎の先端で小さな目が揺れていた。
怪物の体は縮み、そして恐ろしく膨らみ、石をすり抜けていった。
今、リーフは怪物の皮膚が短く細い毛で覆われているのを見た。
毛はまっすぐに伸び、震え、王国の水のあらゆる波紋、あらゆる飛沫、
あらゆる小さな動きに生きているようだった。
一度でも間違えれば、それは自分の身に降りかかるだろう。
ヴァージニアはこれ以上グルーの姿を見ないように目を閉じた。
グルーは這い進んだ。
リーフの体のあらゆる筋肉が痙攣し、動きたくてうずいた。
しかしリーフはヴァージニアを守りながら身を硬く保ち、
バルダとジャスミンとの繋がりである細い黄色の糸をしっかりと握りしめていた。
グルーはウネウネしていると判断して、ヴァージニアには最大限の恐怖を与えました。
ヴァージニアはグルーの感覚の鋭さではなく、ウネウネしているから怖がったのです。
次回で魔物の洞窟編は、おしまいです。